文明が衰亡するとき (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106002212

感想・レビュー・書評

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  • ローマ帝国とヴェネチアをアメリカと日本にたとえて、通商国家が生き延びる方策を検討する。名著

  • 平成が終わろうとしている。日本衰亡を肯定するわけでないが、タイトルが気になり、81年発行の本書を再読した。そもそも本書は、巨大帝国ローマと通商国家ヴェネツィアの衰亡を20世紀のアメリカと対比しているのだが、ヴェネツィア衰亡の原因が昨今の日本に驚くほど当てはまる(特にp147,156あたり)。これは高坂先生も想定していなかったのではなかろうか。
    「その都度目の前の問題に全力で立ち向い、解決して行くことは可能である。それが衰亡論を持った文明の生き方であり、われわれが衰亡論から学ぶものである(p82)」

  • みんな大好き国家衰亡論。著者は、学者としては前原誠司や中西輝政が師事したことでも知られ、1960年代から80年代自民党のブレーンとして活躍した高坂正堯先生。
    ローマ帝国、そしてヴェネツィアの成長と衰退、アメリカ、日本の行く末について説いている。

    ローマ、ヴェネチアについては、国家の浮沈の流れを歯切れよく説いて一気に読める。
    特に、ローマについては民主主義という政体が持つ国家への攻撃性、ヴェネチアについては経済的、地政学的な優位性が時代とともに変動する様をわかりやすく解説している。
    ヴェネチアが、その成長期においては外国との通商を活発に推進し、その後衰退期に入ると進取の気性を失い不動産投資が流行したという対比は、本書の刊行(自動車生産台数で日本が世界トップになった頃)から数年後、日本もまた土地バブルに突入、さらに失われた20年へと突入することも併せて、読んでいて悲しくなってくる。

    そして、アメリカ。
    この本に出てくるのは、アメリカが最も自信を失っていた時期…カーター政権からレーガン政権に代わった直後のアメリカ。
    ベトナム戦争の敗戦を経て、かつてのように圧倒的な力でゴリ押しができなくなったことを踏まえ、推進力を失ったかに見える超大国の力を分析している。
    まぁ、その後のアメリカは冷戦を煽ってソ連を崩壊させたり、中東で戦争したり、ITなど新しい経済を興したりして、あんまり枯れた感じにはならなかった訳ですが、このサイゴンが陥落してから5年後という時代の空気は、そんな感じだったんだろうなぁ、と。

    最後に、日本については、バランスの取れた現実的な路線を提言している。
    36年前の政策決定の場にこういう人が居たんだな、という事実自体が過去に対する印象と認識を改めさせる内容だった。

  • ■書名

    書名:文明が衰亡するとき
    著者:高坂 正堯

    ■概要

    衰退は必然なのか――。マクニール『世界史』に並ぶ歴史の名著!
    なぜ文明は衰亡してしまうのか? 繁栄の中に隠された失敗の本質
    とは? 古代の巨大帝国ローマ、中世の通商国家ヴェネツィア、そ
    して現代の超大国アメリカ……栄華を極めた強国が衰退する過程を
    詳しく検証、その驚くべき共通項を洞察する。人類の栄光と挫折の
    ドラマを描く、日本人必読の史的文明論。【文字拡大改版】
    (From amazon)

    ■気になった点

    ・税金はいかなるシステムでも、ごまかす便法を見つけ出せるもの
     である。

    ・重税と特例措置との濫用がいたちごっこを始めるようになると、
     財政は本物の危機に陥る。だから、税制が複雑になる事は、それだ
     けで十分な危険信号と考えるべきであろう。

  • ローマ、ベネツィア、20世紀後半のアメリカ、衰微する文明を実に程よい距離感で概説している。著者はあまり目的意識を強く持たずに、どちらかというと純粋な知的好奇心に駆られて書いたそうだ。その言葉に従って、あまり目的意識を持たずに読んでみたら、その分色々と考える余裕が持てる気がする。
    字面を追いながら、気づけば今の日本について考えたりもするし、この本が書かれた当時の状況に思いを馳せたりするし、著者の視点に深く敬意を抱くこともある。気ままに思考が揺れていきつつ、それが楽しいと思えるような読書だった。
    「〜せねば」という思考は、すぐに硬直してしまう。やっぱり頭が固いのは良くない。色んな方面にアンテナを張って、感度の高い人間でいたい。

  • 2012年の現在、既成政党が瓦解し日本が再生すると思いきや、逆に危険水域に追い詰められている今こそ、読み返す価値あり。

  • ローマ帝国や通商国家ベネチアはなぜ亡びたのか。

    2千余年前、紀元前1世紀頃のローマ帝国は周辺諸国を植民地化せず、同盟国として内政干渉しない寛大な外交によって、600年にわたって永続的に勢力を広げた。しかしローマが拡大し豊かになると、共和制(民主主義)が腐敗した。共和政治の後を受けた政治エリートが、民衆を愚民化した。官僚制が肥大し、重税を課すようになり、巨額の財政赤字によって帝国が破綻していった。

    1千年前、11世紀ごろのベネチアは、地中海での海上輸送、香料や羊毛の仲介によって小国ながら、その地理的利点、巧みな二面外交によって経済大国に発展した。新航路発見により香料貿易をオランダに独占されると、羊毛の加工貿易への転換に成功し、通商国家として繁栄した。かつては勤勉倹約なベネチア人であった。国が豊かになり華美な消費と娯楽を楽しむエリートが増えると、冒険を避け、過去の蓄積によって華美な生活を享受しようとした。消極的で結婚しない男子が増え、17世紀になると適齢期の未婚男性は60%にも上昇した。リスクの大きな通商を避け、安定した土地収入に頼るようになると、強国トルコの勃興、周辺国による加工貿易の進展など、環境変化に適応する能力が衰えた。

    この本は30年前に書かれたものである。1980年のアメリカや日本は既に衰亡のきざしがあったということか。2012年のアメリカや日本のほうが、もっとローマやベネチアの衰亡期に近い。変化に対応する能力を失えば、通商国家の宿命として、ベネチア同様、衰亡を辿るだろう。

  • 塩野七生のローマ人の物語と海の都の物語を読んでローマとヴェネチアの歴史には随分と魅せられたのだが、その衰亡について語った名著があると聞いて読んでみた。
    詳細に語られた塩野氏と比べて、高坂氏の著作は両国の衰亡の歴史を大きく俯瞰して解説してくれているので、とても分かりやすかった。

    ローマで言えば、教科書的には蛮族の侵入が直接的な原因としてまずは取り上げられる。
    しかしそれ以外にも多くの社会的要因が上げられており、大衆社会化していったなかでの政治としての弱体化、つまりローマ社会の礎ともなっていた法律・弁論に基づく統制が質的に低下していったことや、経済的要因、つまり成長が止まってしまったのに対して福祉国家としての役割が増大してたために、財政が破綻に追い込まれていたことなど様々な要因が絡み合っているのだという。

    そしてヴェネチアであるが、あのような小国がかくも長きに渡る間、強国として生き抜いたことは、正に歴史上の奇跡ではないかと塩野氏の著作を読んだ時に感じたものだ。
    本書は塩野氏の著作後の上梓らしく、そこかしこで氏の論を引いてきている箇所がある。トルコ台頭によって避けられなかった直接対決や、喜望峰周りのルートが開拓されたことによるインド方面からの香辛料貿易独占が崩れたこと、そこから生じた経済的な苦境がヴェネチア海軍、海運業の船を作り続けるのに打撃を与えたこと、そして社会自体が通商政策で獲得した豊かな生活の中で、変わってしまった周りの環境に追従できなかったことなどを上げている。

    高坂氏はこれら二国の衰亡を解いたあとに、米国の衰亡に関しても一章を割いている。
    30年以上前に本書が書かれた当時、米国は戦後の高度成長期を終えて衰退への道を歩もうとしていると捉えられていた。
    社会的にはベトナム戦争の傷跡を重く引きずり、国内の主要都市にはスラム街が広がり、経済的には日本の台頭で製造業が致命的な痛手を負い始め、福祉国家として疲れた政府は毎期の大統領が短い期間で政治的力を失い、米国の経営者が「企業家」から「管理者」になって活気を失っていったといった具合である。
    この時期はレーガン政権が産まれたばかりであり、彼が目指す小さな政府が米国を蘇らせることができるかはまだ分からない、と章の中では疑問を呈している。

    最後は通商国家としての日本の行末を、これら大国の衰亡と照らし合わせながら論じている。
    日米安全保障条約に頼った国家防衛で成り立つのか、だとか通商国家は国家間の関係ではよほどうまく立ち回らないと嫌われて立ち行かなくなるなどのことである。
    ヴェネチアがあれだけ永い間、通商国家として栄えたのも秀でた外交能力があったからに他ならない。
    最後に、通商国家は常に新しい変化に対応する姿勢を保つ必要が有るという言葉を引いて警告を投げかけている。

    こうして読み終えてみると、30年前に高坂氏が発した日本の将来への危機感は、今まさに我々が目の前にしていることとなってしまっている。
    中国の東アジア進出に伴う国家間バランスの崩れに対応できない日本の防衛戦略、通商国家として成長してきたはずが輸出産業を軒並み疲弊させる国家戦略の拙さ、そして日本のような国こそが重要視しなくてはならない外交能力のレベルの低さ。

    歴史の中には現代の舵取りへの重要な示唆が詰まっているというのは言わずもがなな事。本書を読んで改めてそれを実感したのだが、今の自身の立場では有効な手が打てない歯がゆさだけが残ってしまった。
    政治家の皆様にも、今だからこそ是非一読してもらいたい書である。
    (そう言えば、前原政調会長は高坂氏を師と仰いでいると聞いた覚えがあるのだが、、、)

  • 学長推薦図書。
    ローマ/ヴェネツィア/アメリカ/日本の4部構成。
    個人的には、この中でローマの所が勉強になった。

  • 本を読んでいるうちに沈没しちゃった。「ニッポンよ、お前もか」(ローマからの伝言)。

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