息吹 (ハヤカワ文庫SF SFチ 4-2)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150124151

作品紹介・あらすじ

AIの未来を描く中篇「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」他、全9篇を収録。『あなたの人生の物語』に続く第2作品集

感想・レビュー・書評

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  • 祝文庫化~

    『息吹』(早川書房) - 著者:テッド・チャン 翻訳:大森 望 - 冬木 糸一による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS(2019/12/27)
    https://allreviews.jp/review/3985

    もしもイソップ童話のなかにSFが書かれていたら?──テッド・チャン『息吹』池田純一書評 | WIRED.jp(2020.02.01)
    https://wired.jp/2020/02/01/exhalation-ikeda-review/

    「息吹」書評 AIの世界で人間の本質問うSF|好書好日(2020.02.22)
    https://book.asahi.com/article/1315348

    テッド・チャン『息吹』ついに発売! 翻訳・大森望氏によるあとがきを公開します|Hayakawa Books & Magazines(β)
    https://www.hayakawabooks.com/n/n15666c94bb73

    息吹 テッド・チャン(著/文) - 早川書房 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784150124151

  • 2019年12月早川書房刊。訳者あとがきに加筆して、2023年8月ハヤカワSF文庫化。商人と錬金術師の門、息吹、予期される未来、ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル、デイシー式全自動ナニー、偽りのない事実,偽りのない気持ち、大いなる沈黙、オムファロス、不安は自由のめまい、の9つのSF短編。一読したところでは、偽りのない事実,偽りのない気持ち、オムファロスが楽しめた。アイデアは買うが、その展開が淡々としていることもあって薄いベールがかかったような世界観に共感は少ない。あまりエキサイティングではなく、寝てしまう(笑)。2回、3回と読むと馴染むのかも。

  • #読書記録 2023.8

    #息吹
    #テッド・チャン

    宇宙船やタイムリープが飛び交ういわゆるSFでなく、現在と地続きのちょっと未来、本当にこんなことあるかも、という物語。
    ペット型AIの成長との関わりや、人生全てを動画でライフログ化が可能になった時代の話等が印象に残る。

    そうかと思えば量子論の分岐世界と交信できる機器が発明された世界の話で脳をフル回転させられたり。いずれの物語も、そのとき人が取る行動が中核にあって、考えさせられるものばかりだった。

    今存在するテクノロジーが進歩してこうなったら、貴方はどうする?と突きつけられる。リアルに想像できる近未来なので、その岐路に立つ自分を容易に想像できて、倫理観や情緒を揺さぶられるよ。

  • 短編集「あなたの人生の物語」を大いに楽しめたものからすると、この第二短編集には期待値爆上げ。ただ、寡作の作家だし、これを読み終わったらテッド・チャンの新たな作品は読めないんだなと思うと、読みたいけどなんだかもったいない、後にとっておきたい、という貧乏性の気質がムクムクと顔を出し、ついに単行本は手に取らず。が、たまたま本屋で文庫版を発見し、思わず購入。だいたい期待値が高いと、肩透かしを食うことが多いのですが…読んだタイミングも良かったのかな、めちゃくちゃ楽しめました。

    全9篇。うち既読は「商人と錬金術師の門」「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」「息吹」の3篇。前の2篇は初読も再読もすーごい面白かったのですが、「息吹」だけは初読でヒットせず。再読となった今回は「あれ、めちゃくちゃ面白くないか?」と評価を改めることに。
    残り6篇のうち、「偽りのない事実、偽りのない気持ち」「不安は自由のめまい」は設定からユニークで、思索に耽ることができました。特に後者は個人的にめっちゃヒット。

    ◉商人と錬金術師の門
    「この世にはもとに戻せないものが4つある。口から出た言葉、放たれた矢、過ぎた人生、失った機会だ」
    この作品に限らず、著者の作品からは「過去は変えられない」「運命は決まっている」という強い主張を感じます。が、それはそれとして、じゃあ何をしても無駄なのか、というと決してそうではない。その問いに対するひとつの回答を本作は示してくれているような気がします。

    ◉ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
    初読の時は物語として面白かった覚えがあるのですが、子育てをして、我が子の成長を日に日に感じるようになった今回は感じ方が違いました。なんだか登場人物の言動を自分ごととして捉えるように…。物語は尻切れに終わっている感があるのかもしれませんが、私はこれで良いと思います。アナとデレクの関係も含め、これでいい。

    ◉息吹
    たぶんどちらも人類が登場しないからだと思いますが、読了後真っ先に頭に浮かんだ作品は、ティプトリーの「愛はさだめ、さだめは死」。
    物理法則上、種族の滅亡が証明されてしまう物語。種の滅亡が物理法則で証明されるという設定もさることながら(ここでも運命の残酷さを感じます)、作中、主人公らが利用する貯蔵槽がかつては彼らと同じような世界だったのでは?と思ったことから、彼らの世界に対するものすごい皮肉を感じたのですが、これは正しい読み方だったのかな。いずれにせよ、読後、じっくりと心に染み渡ってくる作品でした。

    ◉偽りのない事実、偽りのない気持ち
    高度なテクノロジーが完全な記憶を提供する未来社会。記憶を忘却したり、都合よく改変することで過去の自分と折り合いをつけている人間にとって、その未来社会はどのような影響を与えるのか。個人的にはオチがちょっと微妙でしたが、素敵な言い回しも多く、印象に残っている作品。
    「最初は憤怒していた侮辱が、過去を映すバックミラーの中で、だんだん赦せるものに見えてくる。」

    ◉不安は自由のめまい
    多世界解釈。分岐した世界の自分と交信できるプリズムなる装置が開発された社会。あの時あの選択をしなかったら、今頃私はどうなっているのだろう…分岐した世界の自分を知ることはとても興味深いことでしょう。だけども、その結果心に残るものは安心?それとも妬みや嫉み?結局自分の人生は変えられない現実が待ち構えている。
    どんなガジェットが開発されたとしても結局扱う個人の良心次第、といった感じか?個人的に本書で一番よかった。オチがとても綺麗。いいですね。私はこういう後味のよい作品が大好きなのです。

    うーん、「あなたの人生の物語」を再読してみよう。新たな発見がありそうだ。

  • 『あなたの人生の物語』のテッド・チャンによる 17年ぶりの短編集。映画化もされた世界的な有名作家なのに専業ではなくものすごい寡作ぶりで、そのぶん一編一編が奥深く、消化するのに時間もエネルギーもかかる。
    収録は全 9本、ネビュラ賞やヒューゴー賞など名だたる賞を獲得した珠玉の作品ぞろい。

    この人の頭の中はどうなってるんだと思うようなぶっ飛んだ設定の上で、さらに話が想像もつかない方向に発展していくので、一度読んだだけではなかなか理解が難しい。
    毛色の違う作品ばかりだが、「避けられない運命、受け入れ難い真実を知ったとき人はどうするか」というテーマは一貫している。

    「息吹」
    舞台が地球でもなく主人公が人間でもない幻想的な世界の中で、自己の存在と世界の真実について、文字通り身を切りながら考察する彼。「息吹」というタイトルからは息こそが生命そのものというギリシア哲学のプシュケーを連想させる。

    「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
    技術書かと思わせるようなタイトルで、本書中もっとも長い150ページ超の中篇。求職中の元飼育係に持ちかけられた仕事は、仮想ペットの訓練。ゲームは一時ブームになるもあえなくサービス終了、だが彼女はその後も私的に自分のペットの育成を続ける。

    「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
    網膜プロジェクターを埋め込んでライフログを録ることが一般的になった世界。曖昧で主観的だった人の記憶が、デジタルデータで厳密に検証されるようになると何が起こるか。口伝社会だったアフリカの部族にヨーロッパ人が紙と文字を持ち込んだ逸話が交錯して語られる。

    「オムファロス」
    約8千年前にこの世が創造されたという証拠が存在する世界で、それでもこの宇宙は人間のために作られたものではないという天文学における発見が人々の信仰を揺さぶる。

    「不安は自由のめまい」
    分岐した並行世界と限定的に交信することができる装置「プリズム」が発明された。死んだ子の歳を数えるがごとくのめり込む人々と、それにつけ込んで金儲けをする人々が織りなす人間模様。

  • 科学・思想の理論に対する幅広い見識基づいたハードSFでありながらも、詩的で精緻な文学表現がよかった。
    『息吹』、『偽りのない事実、偽りのない気持ち』、『オムファロス』が好みだった。

  • 『商人と錬金術師の門』『息吹』『偽りのない事実、偽りのない気持ち』が良かった。
    SF的なテクノロジーが人に与える影響がリアル。

  • 総評として、テーマが現代的かつ倫理をテーマとした話が多かった。そして最終的に「道徳的に正しい」決着をする話が多い。そういう意味においてはSFを読まない人でも安心して読み進められると思う。しかし、それ故に射程が短く思いもよらない場所に連れて行ってくれるパワーが不足していると思った。
    以下各話を100点満点でレビューする。

    「商人と錬金術師の門」(60点)
    仕掛けが多い割りに話が単調。

    「息吹」(70点)
    設定は面白いけどストーリーがない。

    「予期される未来」(30点)
    そうだね、としか言い様がない……。

    「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(65点)
    やたらページが多いが、オチが微妙。倫理についても踏み込みが甘い。

    「デイシー式全自動ナニー」(65点)
    ドラえもんとか読んできた身としてはそもそも機械が人間を育てることに否定的な立場ではないので、コンセプトを面白いと思えない。

    「偽りのない事実、偽りのない気持ち」(95点)
    これはめちゃくちゃ面白い! 人間個人の人生が全て記録されたらどうなる? というアイデアを基に二つの物語が交互に語られ、テーマとしっかり結びついたオチに繋がる。

    「大いなる沈黙」(85点)
    オウムの一人称で語られる味のある掌編。着眼点が良い。

    「オムファロス」(70点)
    既定路線でしかない。異世界を導入することによって異化されるものがない。

    「不安は自由のめまい」(90点)
    もし自分が別の選択を取ったら……というIFはありがちなアイデアだが、パラレルワールドとコンタクトできる装置を売る仕事や、その装置の中毒になった人をカウンセリングする仕事など、上乗せされるアイデアが面白い。紋切り型の「過去を振り返るな今を生きろ」にもなっていないし、深みのある物語になっている。

  • 三年前に刊行されたときに評判になって、手にとって見てすぐにテッド・チャンの世界の虜になり、SFという分野の食わず嫌いに気がついたきっかけの本が文庫になったのでさっそく入手。「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」がいちばん好きで、他も何度でも読み返したい作品ばかりなのでありがたい。
    ちょうどChatGPTなどの生成AIの話題が旬なので、機械にできることと人間にしかできないことの違いはなんぞ?と改めて考えながら読みたい。

  • 『あなたの人生の物語』から18年ぶり2冊目の短篇集。


    相変わらずどれも完成度が高く、世界設定や近未来的なガジェットは明らかになるたびワクワクさせてくれるだけでなく、私たちの現在を鋭く照射して思考を促してくる。
    だが、前作に比べて幻想的なモチーフがグッと減り、倫理的な問題を扱う傾向が強くなった。そのためなのか、前作では割り切ってばっさりとバッドエンドを書く作品もあったが今作はどれも道義的な決着がつくところが教訓じみていて、個人的な好みと少しズレたなぁと思った。
    読んでるあいだは夢中で楽しめたけど、良くも悪くもたとえ話が上手な科学ノンフィクションの読後感。
    以下各篇感想。

    ◆商人と錬金術師の門
    千夜一夜風の枠と語りを使ってタイムリープを描くというフォーマットがめちゃくちゃ好み。この枠組みを共有してSFアンソロジーを編んだら面白そう。「不安は自由のめまい」もそうだけど、異なる時空間や並行世界の自分と会って情報を交換することになんの忌避感も持ってないのが新鮮。もしかしてタイムパラドックスってSF界ではもう古いの?

    ◆息吹
    機械生命の一人称小説、っていうのがもえもえ。ロボ視点とかクローン視点ってそれだけで好きになっちゃうな。機械生命のカルチャーが面白いので解剖学の話になる前の部分が倍くらいほしい。でもブラックジャックみたいに自分の脳を解剖して感心しているところなどとても可愛い。結末も、エントロピーを食い尽くすしかない生命というものを見つめながらも性善説に基づいたメッセージがピュアだ。

    ◆予期される未来
    決定論と自由意志をテーマにしたショートショートだが、そのために必要なガジェットがおもちゃみたいなボタンひとつというのがスマートでさすがだなぁ。実際こんなのあったら流行りそう、プッシュ耐久生配信とかやられそう。

    ◆ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
    ここから育児をテーマにした作品が三作続く。ディジエントはAIBOを連想せずにいられないけど、元々はバーチャルな存在なのでポストペットとかリヴリーのほうが近いのかなぁ。
    タイトル通り、ディジエントというソフトウェアが生まれてから繁栄、衰退し需要が変容していく経過を淡々と描いていく。現実にこの技術があったら性産業に傾くのはもっと早いんじゃないか(というか誕生と同時ではなかろうか)と思うんだけど、問題はディジエントが自我を発達させたあとに自由意志としてその仕事を選ぶならば、というところなのだろう。
    この宙ぶらりんな終わり方が不穏だ。飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』になる未来しか見えない。

    ◆デイシー式全自動ナニー
    20世紀初頭に育児ロボを発明した男とロボに育てられたその息子、そして孫の物語を評伝風に描く。なんでそんなオーバーテクノロジーが実現したのかではなく、家庭生活が破綻した父と息子のドラマのほうにスポットを当てているので本書で一番SF色が薄い。

    ◆偽りのない事実、偽りのない気持ち
    最近Twitterで見た、生まれたときはみんなカメラ記憶能力を持っているけど、言語能力を身につけていくと同時に失われていってしまうという話を思いだした。オリヴァー・サックスも赤ん坊は絶対音感を持っているが言葉を覚えると消えていくと言っていたなぁ。
    リメンの設定はジョン・クロウリーの「雪」という短篇を思い起こさせる。あれは全ての記録にランダムアクセスしかできないというサービスの不完全さが不思議に人間の記憶そのもののように感じられてくる話だったが、リメンにランダム要素はない。こんなの気が狂いそうだけど人はそれにも慣れてしまうのだろう。
    日記をつけない人はエピソード記憶を外面化したくないのだという説に子ども時代から日記がつけられない私は深く頷いたけれど、それもSNSをはじめるまでだ。記録を付けはじめると過去の自分に対して今の自分が正直かどうかが気になる感覚もわかるなぁ。

    ◆大いなる沈黙
    オウムたちからの沈黙のメッセージ。私も地球で一番の知性が人類だなんて絶対間違ってると思うね。ジョージ・R・R・マーティンの『タフの方舟』の「守護者」みたいなの大好きなので、テッド・チャンにも別の知性体が人類に復讐する話書いてほしい。

    ◆オムファロス
    キリスト教と考古学。以前、新国立劇場のアーカイブ配信で見た「骨と十字架」というティヤール・ド・シャルダンを題材にした作品にとても近いテーマ。ただ、こちらでは創世記と矛盾しない発掘品が実際に出土する。ファンダメンタリストの語り手なのかと思っていたら世界自体がパラレルなのだと徐々にわかってきて、頭のなかで景色がぐにゃっと歪む感じがたまらない。
    科学者が世界の根幹を突き崩す発見によって自身のアイデンティティを失いかけるというのは「息吹」と同じプロット。「息吹」の機械生命は異なる宇宙のどこかに同じような生命がいる可能性に救いを見いだすけれど、「オムファロス」の科学者たちは地球を見つけて神の恩寵を失ったように感じる。だが、そこから自由意志という概念を初めて手にする最後の手記はローレン・アイズリーが書いたかのよう。

    ◆不安は自由のめまい
    いいタイトル。魅力的なガジェットを提示するだけじゃなく、そこから派生しうる犯罪やグループカウンセリングを描いているのが面白いしこのままドラマにできそう。プリズム使いたくないけどなぁ(笑)。まず電源オンにした瞬間に並行世界が生まれるっていうのが怖すぎる。
    結末が納得いかないというか、うーんと唸ってしまった。販売員と購入者の経済的格差にスポットを当てる一方で、大枚叩いてプリズムで不安を解消することを善として描いてしまうのか。ヴィネッサという人物が急にこの展開のために用意された薄っぺらいキャラクターになってしまったように感じた。


    SFやミステリーなどのジャンル小説には読みながら物語の設計図をなぞる快楽があるが、テッド・チャン作品はその点でも一級なので「作品ノート」が面白い。一つ読むたびにノートでアイデアの起点とどのように組み立てていったのかを知るのは楽しかった。

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