- Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150309886
作品紹介・あらすじ
西暦201X年、謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉圭伍と矢来華奈子は、ミクロネシアの島国パラオへと向かう。そこで二人が目にしたのは、肌が赤く爛れ、目の周りに黒斑をもつリゾート客たちの無残な姿だった。圭伍らの懸命な治療にもかかわらず次々に息絶えていく罹患者たち。感染源も不明なまま、事態は世界的なパンデミックへと拡大、人類の運命を大きく変えていく-すべての発端を描くシリーズ第2巻。
感想・レビュー・書評
-
天冥の標の第2巻で、年代的には1番早い時代が描かれる。2015年に、後に「冥王斑」と呼ばれる謎の疫病がパラオから発生する。そして世界に拡散していく。これは10年以上前に書かれた作品だが、新型コロナウイルスが大流行する現在の状況をそのまま写し出している。パンデックミック、手遅れになる患者たち、そして患者への偏見、差別など、これまでに見たような事態が描かれており、読むのがしんどくなる。
人類はなんとか押さえ込みに「成功」するのだが、それは冥王斑からの回復者に犠牲を強いるものだった。そして彼等の中からカリスマが誕生する。そして彼らは、自らを<救世群>と呼ぶことになる。彼らとの仲介者である<リエゾン・ドクター>も生まれる。第1巻に登場したフェオドールやダダーの由来も描かれる。あと羊もだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
〉これほどまでに異常な状況下では、自分たち個々の思考やモチベーションなど維持したいとも思わなかった。患者は何千人という数なのだ。その生死は疫学的推計によりすでに決まっているようなものだ。必要以上に努力したところで、回復率を1パーセントでも押し上げることはできはしない。──医師が1個の部品になることが必要なレベルの、これは途方もない事態であり、圭伍もそれを受け入れていた。
謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉圭伍と矢来華奈子はミクロネシアのリゾートアイランドへ向かう。
そこで目にしたのは、肌が赤くただれ目の周りに黒斑をもつリゾート客たちが、そこかしこに倒れ伏す惨状。
冥王斑と名付けられることになるその病気は、致死率95%、空気感染し、回復後も感染能を保持する──つまり一度感染したら死ぬまで隔離が必要となるという恐ろしい物だった。
やがてパンデミックへ拡大していくなかで、人類は防疫という武器をもって必死の戦いを続ける…という話。
私のオールタイムベスト作品のひとつ。今こそ全世界の人に読んでほしい、パンデミック物の金字塔、天冥の標Ⅱ救世群です。
世界中で次々に起こるアウトブレイクに立ち向かう人々の姿が緊張感あふれる筆致で語られます。人類が英知を結集するような熱い展開が好きなんです。
そして並行して、感染後に生き残った「回復者」たちの続く隔離生活と、彼らの受ける苛烈な差別が描かれます。
「どうか、人間を恨むことのないように」
「無理です」
このやりとりが今後800年に及ぶ恨みの物語への端緒に…。
今こそ読んでほしいので今こそ再読。
現実世界でのCOVID-19に関連した差別は、なんと医療関係者に向けられているという報道もありますが…。防疫とは、パンデミックとは、ウイルスと戦うとはどういうことか。今の世界を理解する手掛かりになる小説です。
書店では特別全面帯で「防疫は、差別ではない」と黒地白文字のインパクト大で展開されています。大長編の第2話なのですが大丈夫。独立した一冊ですので気軽に手に取ってください。 -
コロナ禍でカミュやデフォーの『ペスト』や、小松左京の『復活の日』が大きく注目されたけど、この『天冥の標』の2巻もパンデミックを扱った作品ということで、注目されていた覚えがあります。
出版はおよそ10年前の2010年ですが、読んでみるとコロナ禍を予見したような場面の多さに驚きました。それでいて物語としても抜群に読み応えがある。
201X年、ミクロネシアの島国パラオで発生した謎の伝染病。その症状は凄まじく罹患者のほとんどが死に絶えてしまう。そして謎の病は世界中に波及していき……
シリーズ2作目となる作品ですが、舞台も時代も大きく変わります。前巻は2803年の植民星が舞台。この2巻目の舞台は2010年代の地球。物語のつながりもキーワードがわずかに共通している程度で、ほぼ単独作といっても差し支えない。コロナ禍だからこそ、この2巻から読んでみるのも、全然アリに思える。
1章で描かれるのは謎の伝染病の最前線で戦う医師たちの姿。その努力もむなしく患者は次々と命を落としていくものの、何とか生きようとする少女と懸命な医師たちの姿、そして病気の凶悪さによる緊張感や緊迫感がしっかりと描かれていて、最初から引き込まれます。
そして伝染病は世界に波及。また生存者は症状が治まっても、他者への感染のリスクがあることがわかり、パラオ島で病気を発症し、一人生き延びた千茅は隔離されることになる。
千茅を襲うのは孤独とネット上での誹謗中傷。両親を喪い、友人たちといた日常も帰ってこない。その切々とした感情は心に迫るし、コロナでの入院や自宅療養、そして感染者への差別も当たり前となってしまった現代では、より彼女の心情は想像しやすいのではないか、と思います。そんな彼女に訪れる唯一の救いは、読んでいるこちらも救われた気になる。
ウイルスの発生源を探す旅では、このシリーズの今後に関わってきそうなものが見えてくるものの、まだまだ謎の部分が多く、これは次巻以降に期待。そして感染が広がり生存者が増えてくる中で社会全体が、ウイルスへの恐怖と感染者・生存者への嫌悪を示すように……そして物語が向かう先は……
社会全体がパニック状態になっていく様子は、今のコロナ禍とつながっているところも非常に多い。感染者への差別もそうですが、ウイルス対策をした店や製品がアピールポイントになるといった記述が個人的に妙に印象的だった。
感染者差別や都市の封鎖、店の休業は想像しやすいけど、ウイルス対策がアピールポイントになる、という細かいところも取り上げて、しかもそれが今現実になっていると思うと、小説家の想像力の怖さすらも感じます。
ただ小川一水さんでも感染者どころか、医療従事者まで差別の対象になる未来まではこの小説の中では描けなかったみたいです。こんなところだけ、人間の行動や思考はフィクションを超えてしまう……
それはともかく、コロナ禍前に書かれたとは思えないリアリティと壮大なスケール感が物語全体にあるので、クライマックスで描かれる大量の感染者予備軍の人たちが検査の列に並んでいる姿であったり、生存者たちを待ち受ける過酷な運命も、一概に非現実的とは受け止められなかった。それがまた怖くもある。
「健康と安全を守るため」
その聞こえのいい言葉は、簡単に他者を切り捨てる理由に転嫁される。『天冥の標』2巻で描かれた物語は、ウイルスという目に見えない敵の前に、懸命に戦い生きる人たちの姿をとらえつつも、一方で人間はいかに浅はかで愚かで、そして無力で臆病なのかを改めて痛感させられました。二巻の副題である「救世群」の言葉の意味の皮肉さもまた胸に突き刺さる。
単独作としてはもちろん見事な出来でしたが、少しだけ示された“ダガー”のことや、病気の感染源の正体などシリーズ作としても、まだまだ謎の部分が多く今後の展開も楽しみ。1巻と2巻で物語の雰囲気がガラリと変わったので、続く3巻ではどんな世界観で、どんな物語が展開されるか大いに期待できそうです。 -
プラクティスの起源。
ただ、1巻と2巻で同じ言葉で呼ばれる存在になっていった過程を知るには、物語はまだ語ってはくれないです。
前半は冥王斑の脅威に、後半は千茅の決意と覚悟に圧倒される2巻。
2010年代の地球と2803のメニーメニーシープを繋げていくのでしょう、この先は。
物語の水面下で存在してゆくであろうダダー。狂言回しの彼?が活動を開始したのも、ここから。
データの世界で存在し続ける彼が、全ての観察者になるのか。
上がったテンションおさまらない。
さて3巻だ。
追記。
千茅と圭伍、イサリとカドム。この二者の関係性が似ていると感じます。互いに惹かれ合うけれど、結ばれることはない二者。結ばれることはなかった、か。
互いの境遇や、周囲の状況が影響しての結果だけど、感応している関係。
異端に寄り添おうとする圭伍とカドムに、印象を重ねてしまうのか。 -
SFというよりは現代の話であり,新型肺炎と騒ぎ始めたときに読み始めたので、報道と小説とが微妙に混ざってなんとも緊張感が増した
現場の医療と疫学の乖離はたまに感じるけど、こうしたアウトブレークの時ほど強く感じる
普段結構なこという感染症医で児玉達みたいに前線にいくのはどれほどいるんだろうかとは思うが・・
一巻でぎっしり詰まっていた要素が一個づつ紐解きながら語られていくのかなと思うと続きが気になる -
間違って別の本を読み始めたのかと思って、表紙の題名を確認したのは私だけじゃないはず。はるか未来のメニー・メニー・シープの話から一転、現代の地球を舞台とした、冥王斑のルーツを遡るパンデミックものになる。スターターだと思っていた冥王斑が、ここまで物語のキーになっているとは思いもよらなかった。しかし、一冊読み終えてもその正体は明かされていない。次巻に続くのか、それとも?いずれにせよ、どうやって数百年後の未来へ話が続いていくのか興味深い。フェオドールは早くも登場したが、コダマ、、、カドム、、、?
-
ああ、胸が痛い。大変な傑作で、まだまだ途中で、大変な痛みを内包しているから。
-
1巻とは全く違った筋書き、しかも時空まで違う何たるスケール。どうやって一本に繋がるのか今の時点では予想が付かないです。重大なヒントになるかと思われる“断章二”は、残念ながら私の読解力では太刀打ちできません。羊つながりなのよね~?この巻で主人公たる千茅の決意とか行動力って生まれつき備わっていたものなのか、逆境においてそうならざるを得なかったのか、どうなんでしょう。
-
小川一水の超大作、天冥の標の第二巻。
一巻から時代は遡り、一巻では割とあっさりめだったイメージの冥王斑が発見された頃のお話。ロボットのフェオドールについても少し明らかに。
致死率が高く、奇跡的に生き延びて症状が出なくなっても保菌し続ける性質と高い感染力により引き起こされる様々な問題。
時代が現代に近いということで、仮に似たような性質の病気が実際に流行ればほぼ同じような展開になるのではと考えさせられる。
なぜ人間は恨むべきものでないものを恨むのか。
ちなみにこれを読んでる途中でノロウィルスに罹り、感染源と潜伏期間と発症のプロセスが身に沁みております。