- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150310196
感想・レビュー・書評
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メディケアという医療分子とWatchMeというメディアによって、人が病気を克服した世界
平均化され、完璧に近づいていく人間同士が描くハーモニーはいったいどんなものなのか
人間らしさ、個性とはなんなのか
考えさせる作品だったと思う
ただ、残念だったのが、この世界に入りこむには少し難しかったということ
最近、本を大量に読んでないせいもあるけども、世界観が少し特殊すぎて最初は少し耐え忍ぶ部分が出てくるかも
ただ、それを超えると この世界のなんともいえない寒々しさ、奇妙さに引かれていくのではないかと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
悪意がない世界。
病気で死なない世界。
安全で安心な平和な世界。
そんな世界が成り立つとき、人は空っぽであることが条件になる。
人間がonly oneを求めないこと。
タイトルや真っ白なカバーは、その美しさの裏に、完璧な表面の下にある虚しさが覗くようで好きだ。
この本のようなテーマは個人的に、深く考えるのを躊躇ってしまう。
多分結論がどうしようもなく人間を否定するしかないような気がするから。
だからこそ自分がたどり着けなかった結論に、なんらかの形を与えてくれたこの本に出会えてよかったと思う。 -
伊藤計劃が円城塔と親交が深かったってのはなんとなくわかる気するな。。。思考回路が似てそう。
大災禍以降、大人たちが住みよい理想の社会を追及していった結果、人類は病気では死なない、全てがコントロールされた世界が実現し…
均一化し、個性のない人間たち。それに反発し、拒食によって自らの命を断とうとした3人の少女。
ミァハひとりをのぞき、生き残ってしまったキアンとトァン。
満たされていることに平和でいることに反発するとか厨二病か、と思いつつ読んでいましたがどうもこれはアンチテーゼが込められている気がする。無菌化された潔癖な社会の脆さや、「意識」の定義など色々衝撃を受ける内容でした。
2009年、34歳という若さで亡くなった伊藤計劃、もし彼が生きていたら3.11をどう受け止め、どんな作品を生み出していたんだろうか。病床で彼が遺していった作品だと思うとかなしい。
核も怖いが南海トラフも怖い、そんな残暑にて。 -
衝撃体験。脳みそがひっくりかえるくらいおもしろかった。これ読んでるあいだは寝ても覚めても伊藤さん。これがSFというものか、そうなのか。
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久々に衝撃を受ける本に出会った。“完全”な世界を求める人間の努力が行き着く先は、意識の喪失だという論理的帰結。その過程は非常に興味深かった。理想と現実について考える機会になった。
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まさかこんな風に考えられるなんて思いもしなかった。『虐殺器官』といい、前から抱えてた疑問にひょろりと道筋を見せてくれた伊藤計劃のことを思うと、全くなんとも心の底から残念でならない。
伊藤計劃の文は、どことなくあっさりしていて、でも淡白というわけでもなく、必要十分を満たしていると感じる。
伊藤計劃が限界まで追い求めた答えを、俺も追い続けたい。 -
【読了】伊藤計劃「ハーモニー」 今月20冊目。
月初にデビュー作である「虐殺器官」を読んで、すごく気に入ったのだけども、すぐに「ハーモニー」を読むのももったいない感じがして、月末に締めとして読んでみることに。
作品世界は前作の虐殺器官の後の世界。といっても時間軸で繋がっているだけで、キャラクターなどは全くつながっていないので、虐殺器官を読んでいなくても楽しめる。でも虐殺器官を読んでおいた方が理解度が高まる箇所があるので、素直に虐殺器官を読んでからをおすすめしたい。
さて物語は医療分子の発達によって「病気」というものが無くなった世界。体内を常にモニタリングされて、問題があればすぐに対処できてしまう世界。全ての個人情報がフルオープンになっている世界。
この状況設定が非常にうまく描写されていて、荒唐無稽な感じもなく、実にリアルにこの世界が感じられる。とはいえ、SF色は前作の方が色濃かったというか、ガジェット感が強かったのが前作。今作は社会システムの方に目を向けたという感じか。
ちょっとSNSに置き換えて読んで考えてみると面白かったりするので、SNSの在り方、関わり方に悩んでいる人とかも読んでみると面白いかもしれない。
惜しいなと思うところはクロージングだろうか。虐殺器官でも感じたのだけど、終盤のクライマックス、エンディングの展開が割と淡々としているというか。まぁエンディングは淡々としていて物語的には正解なんだけども、トァンの「意識」の葛藤みたいなものが終盤にもうちょっと劇的に書かれてもいいんじゃないかなと。でも好みの問題かもしれない。 -
この人の本の新作がもう出ないんだと思うと本当に悲しい。
読みやすい・恰好いい・面白い。
ラノベとかで奇をてらって失敗してる本はあるけど
この本の場合、HTMLタグによくにたタグが入ってくるのも
説明なしで世界観を理解するのに役立ってる。
すごくいい。
気になるところだってある。
・主人公の父親への思いがよくわからない
・っていうか、登場人物の考え方はわかるが、お互いへの思いがよくわからないところがある
でもそれを差し引いても本当に面白い。
この人の本は全部一人称で書いてあるけれど、それが本の中に入り込んで考えるということを促進している。
漫画家さんで、同人あがりの人が活躍するようになって久しいけれど、この人は小説家のそれだとおもう。
この人がもし、長生きしたら、いいSFやミステリを書いてくれたんだろうな、って思う一方で、ああでもこの輝いてる作品しかないまま逝ってしまったなんて、なんて贅沢だろうとも思う。 -
久々に買って良かったと思えるホンに出会えた。他の伊藤計劃の作品も読んでみよう。健康重視社会へのアンチテーゼと読み取ったが如何に。
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凄い本を読んでしまったなと。
体に埋め込まれた通信端末「WatchMe」により健康状態を常に完璧に保つことに成功した未来のお話。
その世界では「健康な生存」がすべてにおいて優先され、ほとんどの病気を防ぐことが出来ます。死ぬとしたら老衰か自殺しかありません。
また、隣人には常に優しく、誰もが助け合って生きていく優しい世界。
そんな世界を「押しきかせだ!」と嫌悪する主人公トァン。
前半がチョットだけ分かりづらいんですが、トァンが学生時代、一緒に世界を憎んで、餓死しようと試みた旧友と再会するところから、一気に盛り上がります。
目の前で自殺する旧友。そのとき同時に自殺を図る数千人の人々。
『ハーモニー』を読んで、以前なんかの記事で"現代における思想の主流は「エコ」だ"っていうのを読んだことを思い出しました。
確かに誰もが「エコ」は正しいと感じていると思うし、また目立った反論も無い気がします。
否定しようがないという点で、『ハーモニー』の中の優しい世界って、この「エコ思想」の発展系なのかなぁって気がしました。
何となく「エコ」って、気持ち悪い部分もあるなぁって思ってしまっていたんですが、その感覚の一端を文章にしてもらえた思いです。
単純にお話としても、ドンドンとスケールが広がっていく様は読みながらドキドキしっぱなしでした。
前作にあたる『虐殺器官』は読みづらいところもあったのですが、『ハーモニー』は流れに乗ってしまえば読みやすく、小説としても思想書としても一級品だったと思います。
惜しむらくは作者であられる伊藤さんが若くして亡くなっているため、ほかの作品がもう読めないこと。
もっとたくさん読んでみたかったです。