シャド-81 (ハヤカワ文庫 NV ネ 4-1)

  • 早川書房
3.97
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感想 : 82
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  • Amazon.co.jp ・本 (501ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150411800

作品紹介・あらすじ

ロサンゼルスからハワイに向かう747ジャンボ旅客機が無線で驚くべき通告を受けた。たった今、この旅客機が乗っ取られたというのだ。犯人は最新鋭戦闘爆撃機のパイロット。だがその機は旅客機の死角に入り、決して姿を見せなかった。犯人は二百余名の人命と引き換えに巨額の金塊を要求、地上にいる仲間と連携し、政府や軍、FBIを翻弄する。斬新な犯人像と、周到にして大胆な計画-冒険小説に新たな地平を切り拓いた名作。

感想・レビュー・書評

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  • これは会心の一作!
    海外エンタメ小説の名作といわれるだけあって、文句なしに面白かった!

    ベトナム戦争下、出動命令が下された、戦争や自身の在り方に疑問を持つ戦闘機パイロットのグラント。同じころ中国で造船所を営むフォンの元には、ハロルド・デントナ―と名乗るミステリ作家が現れ、船を一隻注文するのだが……

    裏表紙にある内容紹介で、二人の目的というのはすでにネタバレされているのですが、それでもこの二人が大胆不敵な犯罪計画の準備を進めていく様子は面白い。それを支えるのは、作中のリアリティにあると思います。

    グラント、デントナ―、それぞれの行動は一見荒唐無稽と思われるものの、詳細な部分や情報もしっかりと描かれており、物語に迫真性を持たせます。その迫真性と詳細さが、中盤から描かれる大胆不敵かつ、壮大なスケールの犯罪にも説得性と緊張感を与える。

    ますます話は荒唐無稽になりながらも、それを絵空事と感じさせない緊迫感が続き、気づけば物語のとりこになってしまう。ホワイトハウス、国防総省、FBI、マスコミ、それぞれを翻弄し手玉に取りながら、計画が華麗に遂行されていく様子はとにかく痛快。
    一方で犯人がどのように目的を達するのか、終盤まで見えてこない部分であったり、意外な展開もありド派手なエンタメとしてだけでなく、ミステリとしても十二分に面白い。

    完全犯罪ものだと、天童真の『大誘拐』、岡島二人の『99%の誘拐』(どっちも誘拐ものだ)や、映画だと『オーシャンズ11』『グランド・イリュージョン』あたりが思い浮かぶ。

    こうした作品って犯罪の経過だけでなく犯人側である登場人物も魅力的だと思う。この作品も犯人側の視点の面白さはもちろん(犯人と政治家のやり取りは痛快の一言!)、犯人と交渉にあたる人たちの緊迫感や、彼らのプロフェショナルな部分も、作品の魅力と言えそう。

    作者のルシアン・ハイネムはかなり多彩な人だったらしく、6各語を操る新聞記者でありパイロットの資格も持っていたそう。飛行機や戦闘機に関する知識。軍やベトナム戦争に関するところのリアリティ。そして戦争や権力者に対する皮肉な視点というのは、こうした経歴も関係しているのだと思われる。
    そのいずれもが、物語に有機的に結びつき一切の無駄なく、エンタメに仕上げられているのが、本当に見事という他ない。これ一作しか作品は発表していないそうで、それが惜しまれます。

    解説によるとこの『シャドー81』がいきなり新潮社から文庫で出版され、それがヒットしたことで海外作品の文庫出版が一気に盛んになったそう。そんな出版社の犯罪戦略すら変えてしまう、それだけの力を持つこともうなずける、40年前以上の作品とは思えない、今でも色あせない名作でした。

  • 傑作冒険小説の誉が高い,ということのようだが,噂に違わぬ面白さ.ほぼ一気読み.

    ボーイング747がハイジャックされるのだが,その方法が奇想天外である.しかし,緻密に計画されており「そりゃないわ」という感は一切ない.

    ページを繰る手が止まりません.

    日本で高評価を得たのとは異なり,残念ながらアメリカでは一切話題にならなかったようで,そのため,作者はこの本1冊のみを出版し,その8年後には早逝してしまう.そう思いながら読む謝辞は泣けてくる.

  • 準備までは長いが途中から加速度的に面白くなる。
    あまり小説は読まないけど、夜更かししてまで読んだのは初めて。

  • 青空のなかに、ほどほどの大きさのジェット機とその下に影のように張り付いた小さな戦闘機……このカバー絵がカッコイイ。

    垂直離着陸でかつ長時間飛行も可能、かつ攻撃能力やレーター設備も充実した開発中の戦闘攻撃機を使って、右肩上がりの資本主義の象徴ともいえるボーイング747ジャンボジェットの真後ろから攻撃態勢を取り、身代金を要求する……この大胆不敵な作戦の行く末が、この本の見どころ。

    作者の航空機運航の描写は結構マニアック。
    緊張感の中での、管制官、犯人、747機長のやりとりはプロとして起立している、半面、政治家たち、将軍たち、ファーストクラスの乗客やマスコミたちの様子が、より滑稽に映る。

    ベトナム戦争を描くと結構重い題材となるところ、場面ごとに古いアメリカのホームドラマをパロっているような「オチャラケ」要素が盛り込まれているところも、万人受けの理由ともいえる(ありえない~ってツッコミもまた楽しい)。

    ベトナム戦争は、1973年にアメリカ軍の撤退、1975年に南ベトナムのサイゴンが陥落し終結した。
    この本は1977年に刊行され、従来のミステリーとはひと味違う「冒険小説」として世に認められる1作となった。

  • 『#シャドー81』

    ほぼ日書評 Day368

    文庫本とはいえ500頁の長編のため、流石に一気読みとは行かなかったが、久しぶりに続きがどうなるのか気になって仕方のない一冊だった。
    1970年台の本のため、犯人追尾や探索に今日と比べると色々と技術的な制約は多いとはいえ、よくもこれだけの仕掛けやトリックを考えつくな、しかもそれがわざとらしくなく、きわめて自然に展開されるのだ。

    ミステリものはネタバレ厳禁なので、Amazonの紹介文を貼っておく。

    ロサンゼルスからハワイに向かう747ジャンボ旅客機が無線で驚くべき通告を受けた。たった今、この旅客機が乗っ取られたというのだ。犯人は最新鋭戦闘爆撃機のパイロット。だがその機は旅客機の死角に入り、決して姿を見せなかった。犯人は二百余名の人命と引き換えに巨額の金塊を要求、地上にいる仲間と連携し、政府や軍、FBIを翻弄する。斬新な犯人像と、周到にして大胆な計画―冒険小説に新たな地平を切り拓いた名作。

    https://amzn.to/2QqaJHZ

  • コールサイン「シャドー81」が表紙にあるような形でロサンゼルス発のボーイング747型機をハイジャックする話だけど、肝心なストーリーが裏表紙でも分かる。これがなければナと思ったのは私だけだろうか。と言う冒頭からの愚痴はさておく。

    発刊されたのがベトナム戦争がパリで締結されてすぐ、著者はフリーの新聞記者で、現場に強く、その上パイロットの資格があり、航空機にはもちろん詳しい。面白くないわけがない。
    第1回の「週刊文春、ベストミステリー10」で内外を含んで1位だったそうだ。読んで面白ければ1位も2位もないけれど、推理作家協会の作家の方々が文句ない賛辞を贈っている。
    でしょうでしょう。戦争・冒険・金塊強奪・逃走劇・犯人像・航空関係者の敵味方を越えて生まれる連帯感・アメリカ大統領・国防長官・ペンタゴン・陸海軍長官・地区警察官の右往左往。新鋭爆撃戦闘機と古すぎる双発水陸重用航空機。もうこの言葉だけでも、わくわく要素はMAXで、それが最後まで続く。

    まず、ベトナムに投入された最新鋭のTX75E戦闘爆撃機、垂直に離着陸でき翼をたたんで格納できる。爆弾はもとより、空対空、地対空ミサイルを搭載、ロケット弾も機関砲爆弾搭載。、これはどこにも知られたくない秘密兵器・火災兵器だった。
    これには最エリートしか乗れない。

    これが爆撃され行方不明になる。と言うのが幕開き。

    そして、香港を舞台に細心緻密に計画されたハイジャック劇の前哨戦が始まる。金塊強奪用の船は古い貨物船を改造、中に漁船を格納、ボムボートも。ほかにも必要物資と、航海用の様々な計器と使途不明のもろもろ。

    犯人は201人を人質に旅客機の背後、死角に入る。
    管制塔主任と機長は貴重犯人が伝える指示に従いつつ打開策を講じるが、人質の保護の前にはなすすべもない、犯人は目的は別として紳士的で指示に無駄がない。

    犯人たちは2000万ドルの金塊の在り処も、補助に使う双発ジェットの倉庫も調べ済みだった

    燃料の限界が近づき、終盤を迎える。

    どうして最新鋭の爆撃機が墜落と同時に爆発せよという指令があったとしても、木っ端微塵に吹っ飛んでいたか。

    次のぺージをめくらずにはいられない。


    最初に、姿を隠して用具をどうやって入出港書類が必要なふ船、電子機器まで調達したか。
    貨物船に漁船を格納し、なおゴムボートや電子機器まで整備し、大西洋を目指したか。
    船に乗っている犯人一味のグラントが時間待ちの間に過ごす愉快で奇妙な時間
    地上で囚人護送車でダイナマイトを巻いたサンタの支持で、護送中の警官に銀行・宝石店・為替交換手などを襲う。警官も嬉々として山野の指示通り動き出す心理。


    一方離陸間もなく意外な方法でハイジャックされた機内コックピットの冷静沈着な対応。
    乗っていた次期大統領候補のこっけいな自己PR。
    機内の様子も飛楽ながらいささか滑稽。


    公に出来ない事情を持つベトナム戦争。かさむ軍事費。過激な解決案に対する大統領の苦慮。
    中にちりばめたてた作者のユーモアも光る。長時間の緊張のうちにウォーキートーキを使って話している間に生まれる連帯感が、時に怒号のやり取りが、相手の心に響いたり、面白要素一杯で、少し長いが一気に読めた。
    解説で「ジャッカルの目」「鷹は舞い降りた」などにつづく作品だと、読みながらもうこれこそおおいに気分転換の本、愉快な気分になった。
    映画化されない事情も、そろそろ解禁してもいい頃かな。

    「鷹は舞い降りた」は読んでない、そのうち。

  • ベトナム戦争末期を舞台に、最新鋭戦闘爆撃機によるジャンボ旅客機のハイジャックと、奇想天外な身代金回収方法。

  • ずいぶん積読状態だったのをようやく読了した。きっかけは定かではないが、月村了衛氏セレクトの海外傑作ミステリうんぬん~の中にあったのを気に留めて購入したよな気がする。

    文句ナシの面白さ、大傑作であった。今の時勢で読めたこと、自分の個人的趣向、さまざまな事項が絡み合って今読み終えたことは正に僥倖であった。

    1970年代ベトナム戦争末期を背景にしており、初版は1975年、なんと今から40年以上前の作品である。帯にあるように、戦闘爆撃機によるハイジャックがメインストーリー。序盤はミッションの準備段階、ここが冗長に感じられなくもないが、ここを省いてしまっては中盤からラストが安っぽくなってしまう。傑作と称される作品群の共通項と思える。

    そして中盤以降ハイジャックの実行となるわけだが、実行犯グラント中尉をはじめ、747機長、空港管制官、マスコミ、謎の協力者などなどの人称でストーリーが進むグランドホテル形式である。このハイジャック、どのようにして身代金の金塊を手に入れるのか?ラスト近くになっていくと、この完璧な計画が如何にして破綻するのか?魅力的ハイジャッカーの運命は?と、読者の予想は覆され翻弄され、協力者の正体で愕然とさえした。

    最終的にはハイジャックは見事成功し、身代金を奪取し、誰も殺めることなく犯人達はミッションを成功させての終幕であった。ある意味清々しいエンディングであったが、時代背景を読み込むと別の意味が見えるのかもしれない。

    ルシアン・ネイハム氏がいかにして、このハイジャックの手法を考えたのか?興味はつきない。残念なことにこれほどの傑作ながら、日本以外では全く売れなかったらしい。そして氏もすでに逝っている。TX75なるコードで主役でもある戦闘爆撃機が描写されているが、ⅤTOLで燃料満載で8時間以上の飛行が可能という化物機を1975年当時において克明に作り上げている。氏はパイロットでもあったらしい、その創造力のなせる技が本作の成功であり、自分の趣向を撃ち抜いたところであった。

    2018年現在「F35ライトニング」なる戦闘爆撃機が実在する。ステルス機能に優れたVTOL機である。表紙にあるように747を追尾する機体はF35で脳内再生された。40年以上前にネイハム氏はこの機体を想像しえたのだろうか?そして読了後にあらためて感じたことであるが、ハイジャックミッションを成功させた犯人達のアリバイ工作が完璧であり、仲違いによる破滅を予見させながらも最終的には無事に完結させて、伏線も完璧に回収されている。先の読めない展開にアリバイ、協力者のまさかの正体、冒険活劇としてもミステリとしても見事に完成されていた。

    ハイジャック犯は捕えられることなく死することなくピカレスクロマンとして成立している。然しながら当時の世相を鑑みるに、ベトナムの泥沼化による政治の腐敗、平和の希求、帰還兵の処遇など、ハイジャッカーグラント中尉は全て撃ち抜き撃破している。この年代にこの論理を掲げることは、フィクションでありつつも作者の冒険であったのではないか?ここにピカレスクは反転し、正義のヒーローとなる構図をも見せてくれている。

    ルシアン・ネイハム氏はまさにこの1作だけで、世界に名だたる作家となった。夭逝が残念であってならない。

  • ベトナム戦争末期。作戦実行中のTX75Eが姿を消しロサンゼルス発ホノルル行きのPGA81便が何者かにハイジャックされる。綿密な下準備を進めた犯人。
    その行動は綿密で丁寧な描写過ぎて初め「どうこれが繋がって行くのか?」と読んでいて不安になった(爆)
    そしてハイジャックに行動が移されると物事がパタパタと繋がり「あぁ!」って魘される、この面白さ。
    冒険小説であり、群像劇であり犯罪小説。
    その要所・面白さをピンポイントで押さえてる感じがした。
    犯人の動機は戦争末期の国に対する皮肉も。
    誰か知り合い読んでる人いないかな?
    この本について話したいな。って本気で思った。
    誰かと話したい気分にさせられる本だった。

  • 『わくわくする冒険小説』で検索してヒットしたのがこの小説。

    戦闘機の調達からアメリカへの輸送までのハイジャックを起こす前の段階からして、スケールが大きく大胆不敵でワクワク。
    ハイジャックをいざ実行に起こしてからは少し間延びするものの、サンタクロースが好き勝手やるのがまた面白い。
    グラントがサンタクロースと合流してからは、お決まりのちょっとした仲間割れを経て、またもや大胆なアリバイづくり。

    こんなうまくいくの!?っていうところはあるけれど、映画を観ているようで楽しかった。

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