- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163908120
作品紹介・あらすじ
親戚にも家族にも疎まれながら死んでいった在日一世の父。だが、通夜には、人目もはばからず棺にすがりつく老人、目を泣きはらした美しい女性など、子どもたちの知らない人びとが父の死を悼んでいた……。父の遺品の中から出てきた一冊のノート。そこには家族も知らなかった父の半生が記されていた。ノートから浮かび上がる父の真実の姿とは。そして子供たちに伝えたかったこととは?深沢潮さんは、2013年『ハンサラン 愛する人びと』で単行本デビュー。在日朝鮮人をテーマにした作品を次々に発表し話題を呼んでいます。本作は、日本海を泳いで渡ってきた(!)深沢さんの父親のエピソードを元に書き上げられました。深沢さんは、幼心になぜ戸籍にある父親の誕生日と、実際の父親の年齢が違うのか、たまに家族と食事を共にする身なりのいい韓国人は誰なのか不思議に思っていたと言います。その疑問に父親は答えることはありませんでしたが、ここ数年ポツリポツリと自分の過去について娘に語るようになりました。その一つ一つのエピソードは驚きに満ちていて、父は娘の想像を遥かに超える人生を送っていたことが明らかになりました。父親の話を知られざる過去の話を聞くことで、初めて父を理解できた気がする、と深沢さんは語っています。祖国を逃げ出し、日本では偽名で暮らすことを余儀なくされ、しかも常にKCIAの監視を受けていたそう。そのような境遇にありながら、一代で財を成した男の半生に、胸を打たれずにはいられません。家族とは何か? 在日とは何か? デビュー以来追い続けてきたテーマが結実した一世一代の勝負作です!
感想・レビュー・書評
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在日コリアン一世の父親の一生を、その没後に娘が追跡して行く物語。
なんか乗れませんでした。理由は二つ。
主人公の父親が魅力が無いのです。家族への愛情は有りながらもそれをに出さず、政治(民主化運動)の世界に没入し、家族を顧みていない。一方で亡くなった同志の家族には優しさ表に出して接している。
も一つは韓国の近世史に対する私の知識不足。物語の中でも説明がないので、なぜそこまで父親が民主化運動にのめり込むのかその背景が判らないのです。
著者の実体験に基づくフィクションの様です。それなら父親像をもう少し変えて、子供の知らないところで家族への愛情と政治活動との間で悩んでいた父親というような設定にしておけば、随分印象が違ったように思います。
ちなみに韓国近代史は読了後に勉強しました。1987年までは独裁や軍政が続いてたんですね。何故なのだろう?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
梨愛の老父が亡くなった。
朝鮮に生まれ、朝鮮人の誇りを持ちながらも、日本に移り住んでからは日本名を名乗って暮らし、頑固で、家族に理解されないままに生きた男だった。
父親の激動の生涯を死後に知る娘と息子の現代のフェーズと、若き父が朝鮮から密航して日本へと向かう過去のフェーズが交互に描かれる。
読んでいて、隣国であり外交問題でもよくニュースにあがる韓国、朝鮮半島の戦後の歴史を自分がまったく知らなかったことに驚いた。
南北の対立とか、朝鮮特需とか、学校で通り一遍は学んだはずだけれども、こんなに辛く、凄まじい時代があったのかと改めて愕然とする。
現代の、韓流ドラマやK-POP、ソウルの繁華街といったイメージからはまるで想起できない暗く重い歴史に、そしてその歴史に日本も関わっていたということや、それらの歴史を日本サイドの見方ですら学校で詳しく学んだ覚えがないということに、現在の日韓関係の溝のはじまりを知ったような気がした。
自分の世代では、在日、とか、朝鮮、という言葉がかつて抱いていた負の意味も歴史も徐々によくわからなくなっているけれど、そうなるまでにどれだけの衝突や慟哭があったのか。
そして今もなお、複雑な思いを抱えて生きている人がどれだけいるのか。
雄鶏のように生きようとした一人の男の生涯を通して、日韓の歴史に触れる、そんな一冊だった。 -
祖国を想い、活動に身を投じる気持ちの根元は、自らのアイデンティティーへの希求に他ならなかったのだろう。偽名で生きざるを得なかった悔しさはどれほどのものだろうか。
僕は今までまったく何も知らず、知ろうともしなかった。それに、ここに書かれていることだけで知った気になるのも違うとは思う。でも、だからといってことさらに探って知る必要はなく、その事実が目の前にあった時に、なるほどそういう立場もあるのだな、と理解できる分別と見識を持ち合わせていたいな、と感じた。
作中に、信頼できる日本人がまるで登場しないのが悲しかったな。 -
どんな話かは、だいたい聞いていたから、重そうだなと思い、なかなか本を開く気に慣れなかったんだけどさ。でも、読み始めたら、ほぼいっきに読み終えてしまった。小説を読むとは代理体験をすること、と聞いたことがある。ひとりの、近いけれど遠い、そして重くつらくもある人生をかいまみたような気がする。
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フィクションという形はとっているが、史実をもとにして書かれているので、ぼんやりとしか知らなかった朝鮮半島の戦後から最近まで歴史がよくわかった。恥ずかしいけど、金大中拉致事件ってこういう背景で起こったなんて全然知らなかった。読めてすごく良かったと思う。
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在日韓国人の方々の日本や祖国への思いや、韓国民主化に日本がどのような距離感にあったのか知ることができてよかった。
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第二次大戦後の混乱の中で、命からがら船で日本に渡りなんとか定住した在日一世。その娘たちが、父親が亡くなってからその手記を読み、一世たちの長い苦悩を知る物語。
半島激動の時代。日本の統治に続くソ連とアメリカの占領、南北の分断、朝鮮戦争に軍事クーデター、金大中の誘拐。通称名の使用に代表される在日の苦悩、朝鮮総連と民団の相克、日本で民主化運動を支援することの難しさ。帰れない故郷への思い。日韓どちらにいても苦しい立場に置かれる在日の日常が描き出される。助け合って戦後を生き抜いてきた一世たちの知られざる人生を知り、改めて自らのルーツに目を向ける二世たちの言葉と二層で語られる。
世代もあるだろうが、妻への思いを素直に言葉にできないこの父親の姿が、在日の苦労を脇に置いてもなおちょっと痛々しくて、理解されないと誤解していた妻の哀しみに胸が詰まった。
過去をやり直すことはできないけれど、未来に向けて、隣国としての誠実な姿勢と思いを持ち続けなければと改めて思った。