どれくらいの愛情 (文春文庫 し 48-1)

著者 :
  • 文藝春秋
3.44
  • (58)
  • (159)
  • (191)
  • (53)
  • (8)
本棚登録 : 1623
感想 : 160
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167772017

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 表題作「どれくらいの愛情」を含む4作品が収録された小説。
    人生や愛や生死などの人間にとって根源的なテーマに挑み続ける白石一文。本書は彼の集大成とも言える作品だ。

    彼は主張する。絶望の中にこそ真実の愛があると。そして、絶望に悲嘆せず自らの愛を貫くことができる人のみが真実の愛を掴むに値するのだと。

    「真実の絶望こそが、人間に真実の愛を与え得る」

    究極の愛の追求がここにあり、著者の堂々とした主張は読者に付けいる隙を許さずに納得へと導いていく。

    付き合ってるとか別れたとか、結婚してる、浮気してる、離婚したとか、そういうもの全て取っ払って愛って何なのかという人類の永遠の難題を追求している。
    白石さんの作品が巷に溢れる甘ったるい恋愛小説と異なる点は、徹底して人間の弱さや愚かさを描いた上で、彼なりの主張を読者にぶつけてくることだ。何の装飾もせずに語られる彼自身の思想に私たちは直面することになる。正解のない問いにしっかりと決着をつける彼の潔さが稚拙な言葉で言わせていただくならば「カッコいい」のだ。

    本書内容に移る。
    「20年後の私へ」で登場する安西。男前ってこういう人のこと言うんだろうな。
    妻の裏切りの事実を庇い、父の闘病中にも周囲には辛い顔一つ見せずに振る舞う。そして、相手のことを真剣に考えることのできる性格。素晴らしいな。見習いたいな。白石さんは愛情たっぷりの物語を短編集の初っ端に持ってきた。そして、その他の物語ではずるく弱い存在である人間の愛を描く。この小説の構成が愛の複雑性にまさしく適しているのだろう。

    「どれくらいの愛情」での、正平と木津先生のやりとりはこの小説の見せ場だった。晶との別れの真実を知った正平は木津先生を強く攻める。しかし、木津先生は言う。強い意志さえ持てば自らの運命を変えることができるのだと。

    結局は自分にかかっているんだ。
    どう思いどう行動するのか。それを決めるのは周りではなく自分だ。真実の愛を壊すことは誰にもできない。
    白石さんには現実世界の愛の探求を今後も続けていってほしい。空想世界との融合の既視化は村上春樹に任せて。

  • 大人な恋愛の短編集。今の年齢(30歳)読んでいて正解。若かったら分からない気がする。
    それぞれの話で違う立場の男女が、色んな愛し方をしている。すべてがキレイという一言では済ませられないけど、見習いたい部分を発見できる作品でした。

  • 2010年10月21日読了。

  • 妻夫木聡やら、柄本明やら、芸能人の固有名詞が出てくる。
    そして、登場人物は美男美女であることが多い。

    でも、なんというか、宿業のようなものを感じさせる物語で、
    いずれも短編ではあるのだけれども、大変読み応えがある。

    白石作品はいままで評価してこなかったけれども、
    これはいい。というか、わかりやすい。

  • 2010/08/30-
    愛情の深さにちょっときゅんとした。30代ならではって感じ。私にはまだ早いけど、ちょっと憧れる。いつまでも、こんな感じでいたい。ところどころに名言が含まれていて、そこがとてもいい。

  • これは良かった!!!!


    うん。


    これは良かった!!!!!

  • 「20年後の私へ」がよかった。

  • 4編中3編が不倫の話という、非常に白石一文らしい短編集。
    短編集のタイトルにもなっている、『どれくらいの愛情』がけっこうじんわりきてよい。そして唯一不倫じゃなくて爽やか。
    出会いも別れも必然、そんな恋愛をしてみたいものです。

  • 4つの話から成る短編集。"愛"がテーマ。
    最近は割と若い作家の書いた本を読むことが多かったせいか、
    落ち着いた深みのある文章と内容が印象に残ってゆく。

    いっちばん深い、絶対表層には出てこないような、
    口に出したりしたら陳腐になっちゃうような、究極の愛!みたいな、
    ラスボスのような愛の形をじんわりやんわり感じさせてくれる。
    本当の気持ちなんてそう簡単に伝わるもんじゃないんだよね。
    コトバだけで伝えるなんてムリ。カラダを重ねてもムリ。
    真っ暗闇を手探りで長時間ずっとずっとさがすようなことじゃなきゃ
    深いLOVEは伝わらんのよね。

    仮に、超超超仮にだけど、誰かが自分のことすっごい愛してくれてるのに
    それに気づかないでいることもあるのかな。そんなのヤダな。
    その逆はそれもまたヤダな。LOVEずっきゅんだな。



    かなり深い。マリアナ海溝。噛みしめて読みたい作品。

  • 「20年後の私へ」は離婚を経験した女性を通して、
    20年前に書いた自分への作文をふとしたことから読むことになり
    今までの自分を振り返るというストーリー。
    離婚をすると心身共にくたばってしまうけれど、
    それでも働いていかなければならないという現実と闘う女性。
    どんなに辛くても駄目な時があってもこの女性のように
    過去の作文を読むことがあったら、もしかしたらこの当時の気持ちで表れてまたやり直せるかもしれないという希望が満ちていたのが好感が持てました。
    過去の気持ちって大切な思い出と勇気も出るの凄い力だと思いました。

    「たとえ真実を知っても彼は」は出版社に勤める家族円満な男性。
    長年担当していた作家の先生が急遽亡くなると知らされる。
    そこから男性の過去や妻の過去などが徐々に浮き彫りにされていくという
    人間の真実に迫るストーリー。
    この作品はあれよあれよという間に話が展開していき、
    当初の家族中も良く、夫婦中も特に良く書かれていて結婚記念日には
    必ず夫婦二人で記念日で過ごすという理想のような家庭であったのに
    先生が亡くなったことによって予想にもしなかった結末が衝撃的でした。
    夫婦は同じ屋根の下で暮らして仲良くして過ごしていても、
    本当はこんな裏があるかと思うととても怖い感じがしました。
    真実を知るのは大切かもしれないですが、
    その真実に耐えられかどうか私には自信がないと思いました。

    「ダーウィンの法則」は妻子ある男性と恋に落ちてしまった女性を
    通して、本当の愛とは何かと探し求めていくストーリー。
    この男性は幼い過去の経験から人とは少し変わった考え方で、
    妻子がいるのに何故他の人を愛してしまうのかが細かく書かれているのですが、
    あまりにも動物的な感覚の持ち主の人物だと思いました。
    確かに幼少期には寂しい思いをしたかもしれないけれど、
    それがこうじてこんなに超越した考えになるのかと驚きます。
    作品の中にもありましたが、人間というのは愛情がなくなったから
    べたべたしなくなるのではなくて、べたべたしなくなったから愛情が
    なくなってしまう場合が殆どだと・・・
    スキンシップというのは小さな頃や家族、夫婦、恋人などに大切だと思うけれど、
    年月が経てば愛情に厚みが出てくると思うので
    私としてはべたべたしたことが無くなると愛情がなくなってしまったとは
    とても思えない感じです。
    勿論、この男性の特別な持論なので仕方ないですが、
    心を通わせる愛情というのが一番理想ではないかなと思いました。
    タイトルのダーウィンの法則のように種の保存や進化で生きるのではなくて、ヒトという理性もあり一度だけの人生なのだから心豊かに愛情を
    育んでいくのが一番だと思いました。

    「どれくらいの愛情」は5年前に結婚を目前に恋人の晶に裏切られた正平。
    苦しみの最中に舞い込んできた仕事の話に乗ったら思わぬ成功へと収める。
    そんな彼に突然別れてから元恋人からの電話が鳴り、
    再会しながら過去の別れの理由が次第に解き明かされていくストーリー。

    恋人から裏切られたてから、それを拭い去るように仕事をしていたけれど、
    それがかえって良い方向に向いていたのは辛い事から
    逃れられたから少しは不幸中の幸いだったのかと思えたりしました。
    そんな時に突然別れた恋人から電話が来たら驚きますが、
    やっぱり一度好きになった人だから再会はしたくなるものです。
    そして晶が病気になった時にはまるで昔の関係が修復されるかのように
    仲良くてこれは良いなと思ったのですが、
    昔に別れる原因にもなった晶の兄の存在と過去が明らかになって
    これは悲劇的でした。
    このやり場のない気持ちをどこにぶつければ良いのだろうかとも思えました。
    相談役でもある先生も過去の事を知っていて、
    それも驚きで正平もまた二重に考えてしまったと思います。
    けれどこの先生が言っていた言葉がどれも素敵でした。
    目に見えないものを大切にしなくてはいけないなと思いました。

    どの短編でもやはり白石さんは心の中が乏しくて、
    せちがない世の中だからこそ目に見えない心の大切さの事を
    伝えいたいのかと思いました。
    この作品でも福岡、博多の街が舞台になっているので、
    いっそう人々のぬくもりが伝わり心が温まる作品ばかりでした。

全160件中 101 - 110件を表示

著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

白石一文の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×