- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167784010
作品紹介・あらすじ
落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった十歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から二人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く第138回直木賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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物語の始まりから、漂う、不安定さ、不穏さ、嫌悪感。
血縁の繋がりで、家族の欠損を補おうとし、何よりも信じすぎる不可思議。
海で家族を失った少女と彼女を引き取り育てる男性。彼女の結婚から時間を遡ってふたりの関係性を濃密に厭世的に語られる。ふたりに関わった人達の視点も織り交ぜながら。
小説の雰囲気は、すごく好きなのです。
なのですが、BLが受け入れられないおじさま達がいる様に、近親系は苦手です -
……川端康成の小説に『眠れる美女』という作品がある。薬で眠らされた全裸の少女と添い寝するという、退廃的な遊戯に耽る老人の話だ。老人は複数の少女を相手にするが、ある少女と寝た時に、ふと、あることを思い出す。……
『私の男』という扇情的なタイトル。〈私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた〉と冒頭から退廃的な空気を匂わせる。10頁もいかないうちに、語り手・花が「私の男」と呼ぶ男が、婚約者ではなく養父のことであると判明し、物語は加速度的に背徳の色を濃くしてゆく。追いうちをかけるように明かされる、過去の殺人と近親相姦の事実。そして物語は、この父娘の罪と転落の歴史を、語り手を変えながら少しずつ遡って行く。
ここまででも十分に暗澹たる内容であるが、章を追うごとに次々と衝撃の事実が明らかになり、物語はほとんど絶望的になっていく。そして終盤のどんでん返し。ここにいたって、この父娘の悲劇性は、真のテーマは、近親相姦という特殊な問題ではなく、人間存在の根幹に関わる普遍的な問題らしいと気づかされる。
……『眠れる美女』の老人は、少女の体臭に「これは、母の匂いだ」と思い至る。十代の少女の裸体を前に、還暦を過ぎた老人は、在りし日の母の姿を思い起こす。……
花の養父・淳悟の内面は、最初はほとんど描かれない。物語の終盤になって、初めて彼の魂の叫びが洩らされる。求めても得られないものを求めずにはいられない幼児の叫び。それは、鏡と鏡を合わせたように、花に反射して増幅し、共鳴する。親子の役割が逆転する。
ほんとうの問題は、性的倒錯というより、母性剥奪にあるのではないだろうか。物語の中でしばしば、海が象徴的に描写される。生命を生んで育む海。一方で、荒れた時には、あらゆるものを呑みこんで奪いつくす海。海は羊水、即ち子宮であり、「母」の隠喩なのかもしれない。抜け殻のように座りながら一心に海を見つめる花も、死ぬときは必ず海に還るのだと言う淳悟も、求めても得られなかった母性に対する憧憬を、無意識に海に求めているのかもしれない。
孤独な魂には、善意の人々の言葉も届かない。養父の「生きろ!」という叫びも、自分だけ置いていかれたという恨みしか呼び起こさない。老人の命がけの説得も、空ろな心には響かない。事の深刻さも理解できないまま、善悪の彼岸をやすやすと超えてしまう。そうして、母に見放された孤児たちは、偽りの幸福に溺れながら、閉じたループを描いて、いつまでもさまよい続ける。
淳悟が去って、残された花はつぶやく。
〈わたしは、これから、いったい誰からなにを奪って生きていけばいいのか〉。
遺憾ながら、心理学のセオリーに従うかぎり、答えはひとつしかない。自分の子供から奪うのである。淳悟の母が淳悟から、淳悟が花から、順に奪ってきたように。
健康な母性を花に期待できるだろうか。明るく輝く南国の海を「バカみたい」としか評せない花に? 淳悟の攻撃性が花に受け継がれてしまったことは、第一章の最後、花が小町に暴力をふるうシーンとして描写されている。花の子供もまた、求めても得られないものを求めてあがく空洞になるのだろうか。負の連鎖をとめることは不可能なのだろうか…。
とにかく最初から最後まで呑まれっぱなしだった。私の中ではベスト100に入る傑作だ。 -
直木賞受賞作なので読んでみました。とても面白く桜庭さんの実力の確かさを感じますが、内容的には結構すごい事だと思います。そう、嫌悪感を感じてもおかしくない内容なのに文章の美しさに捕らわれてしまう。いっきに読んでしまいます。
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上映時間も何も見ずに
その中で時間帯の合う映画を見た。「白紙で」
それがこの映画だった。
もちろん桜庭一樹の作品とも直木賞作品とも
何も分からずー
今でも鮮烈にそれぞれの場面が鮮烈に浮かぶ
とにかく怖かった、暗かった。
登場人物も限られた中
雪深い
氷の世界、
ただただ逃げていく場面
息ができなかった、どうなる
主人公「男」を信じられなかった
どうなる?どうなる?息もつかず場面に釘付け
苦しかった、悲しかった
映画館をでて、ずっと後も残ってる
「あれはなんだったのだろう?」
深い深い愛
こんな二人の出会い方でなければよかったかもしれない。
彼女に「花に」
まともな「何がまともかは別にして」結婚生活はできない。
そして今ならわかる。、
人間、追い詰められると怖い。
本当は
映画と比較するためにも
もう一度
この作品を読むといいけど、前の記憶は忘れてる、
好き嫌いは別にして秀逸だろう。
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狂気すら感じる歪んだ愛と性。読み終えてから、第一章を読み返すと、あまりにも息苦しい。
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愛し合う父娘が養父養子でよかった、でなければこの物語がとたんに読めなくなってしまう。と思いながら読んでいたら…えっ…
禁断の愛を貫くためには邪魔者を殺さなければならなかったんだろうと思ったものの、やはり普通の感覚の人間ではないと思った
人を殺してすぐに押し入れに隠す...そこまでは百歩譲って理解してもそのままセックスできるか?絶対できない
現在から過去へ遡っていく展開が過去になにが起こったのか気になり読む手が止まらなくなった
愛とは..考えさせられる物語だった -
淳悟と花の歪んだ愛の形を遡っていく。
歪んだ?本当にゆがんでいるのか?わからないけど
これも真実の愛の形では?
最初は何か気持ち悪くて⭐︎2だなと思っていたが、読み進めるうちに2人の愛の深さに共感はできないが感動させられた。
忘れられない一冊になった。 -
これから結婚式を挙げる花と、淳悟という男の関係は、冒頭からなにか異様なものを感じさせます。読んでいくと花と淳悟の過去の出来事を、それぞれ登場人物の視点から追うことができます。
お互いを惹き付ける力と求める力が凄まじすぎて、世でいうところの「愛」から、かなりはみ出た愛し方をしています。でも描写が美しいので、嫌悪感なく、むしろ世界観にうっとりとしてしまいました。好き嫌いは分かれそうですが…私はとても楽しめました。 -
冒頭から惹きつけられる作品。
町田そのこさんは、私の男を最初から最後まで一言一句すべてタイプしたらしい。
その気持ちも分かるぐらい一言一句無駄な表現がない作品。読み終わったあと呆気にとられる。
あの頃は暗くじめっと作品が好きだったんだなあ。
近親系が駄目ですか。...
あの頃は暗くじめっと作品が好きだったんだなあ。
近親系が駄目ですか。
私も得意ではありませんが姉と弟っていう線だったらありかもしれない。
特に小説や映画ならば。
ちょっと、ばたついてまして、ブグログへ向かう時間がなくて。
はい、この小説の雰囲気は好きです。が、流石に...
ちょっと、ばたついてまして、ブグログへ向かう時間がなくて。
はい、この小説の雰囲気は好きです。が、流石に、本当の父娘となると、依存し合うのは充分に小説的なのですが、そこまでやっちゃうと、どーも。
実際、離れて暮らしていたからという設定としても、無理かなって。
まさか父と息子なら大丈夫だったとかでは、ないです。m(_ _)m
そりゃあそうだろうなあ。
私が姉と弟ならばと考えたのは、自分に兄弟が(姉が)いないと...
そりゃあそうだろうなあ。
私が姉と弟ならばと考えたのは、自分に兄弟が(姉が)いないという状況からの夢想に近い者だと思います。
姉を持つ友人からはその存在は女性と認めることさえできず、むしろ敵対関係になりがちな対象らしいですね。
年頃の女性が男親に嫌悪感を持ちがちなのは近親相関を防ぐための自然の摂理だと聞いたことがありますが、まさにそういう事なのでしょうか。