戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか (光文社新書 426)
- 光文社 (2009年10月16日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334035297
感想・レビュー・書評
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勝利へのプロセスは偶然や運に大きく関係している。
新古典派経済学は、市場は消費者と企業家を主体としている。
それぞれを完全合理的に①物理的な効用を最大化をねらう。
消費者は、自らの労働力を供給し、財を需要する。
企業家は、利益を最大化するために労働力を需要し、財を生産する。
これを基本とし、競争戦略≒ブルーオーシャン戦略が生まれた。
しかし、市場の働きにより、商品の最適化が必ず行われるわけなく例外もある。
理由は、人間は完全合理でなく限定合理的である。心理的バイアスがかかる。という2つのことにある。
それで、行動経済学の研究が進み、心理面での消費者の特性が検討された。
②いま持っている商品に満足していれば、
後発の優れたものがたとえ安くても購入に至らないことがある。
③取引コストが多すぎると、人間は効率的な状態に留まろうとする。
1から3までを統合したCubic Grand Strategyが今は必要。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1.戦略の不条理とは?
ポパー(科学哲学者)によれば、我々の世界は多次元的世界であり、次の三つから成っている。
①知性的世界・・・知識・観念
②心理的世界・・・感情・欲望
③物理的世界・・・物体・肉体
人間の行動が、三つの世界の内一つか二つの世界で合理的であっても、
他の世界で不合理であったために敗者となってしまう現象。
これが「戦略の不条理」というものらしい。
勝者となるためには、三つの世界を考慮した「立体的大戦略」を組み立てる必要がある、ということだ。
※戦略の不条理、立体的大戦略(Cubic Grand Strategy)は、著書独自の用語らしい。
※戦略:筆者によれば、生き残るための知恵
2.立体的大戦略とは?
三つの世界、各々の損得勘定の合計がプラスとなるような戦略である。
ただし、戦略は状況に応じて柔軟に変化させる必要がある。
戦略の展開は、知性的世界→心理的世界→物理的世界、の順で行う。
何故なら、多次元的世界は、最上位に知性的世界、その下に心理的世界、土台が物理的世界、
という形で成り立っているからである。
低次の世界の戦略は、より高次の世界の戦略と整合性を取る必要がある、ということだろうか。
※戦略の展開方法は、下記のように違っているが「整合性」という考えでまとめてみた。
・軍事戦略→知性的世界と心理的世界の戦略だけで勝利するのがベスト
・経営戦略→より低次の世界へのアプローチを成功させておくことは必須
※「孫子の兵法」は、立体的大戦略に基づいている。
3.物理的世界の戦略とは?
(1)軍事面
クラウゼヴィッツ(軍人)の戦略論[強者の戦略]を例に説明している。
敵より上回る戦力を集中させて勝つという事だ。
攻撃対象は【戦力】だろうか。
(2)経営面
新古典派経済学を例に説明している。
資源を集中して、より安くより高品質な製品を製造・販売するという事らしい。
競争対象は【製品】だろうか。
4.心理的世界の戦略とは?
(1)軍事面
リデル・ハート(軍人・歴史家)の戦略論[弱者の戦略]を中心に説明している。
できるだけ戦闘を回避し、心理状態を利用した手段で、兵力の均衡に持ち込むという事らしい。
攻撃対象は【戦意】だろうか。
※体系だっていなかったが、興味深かったのでメモをしておく。
○敵の物理的側面への攻撃だけではなく心理的側面への攻撃を併用すれば、敵のバランスは崩れる。
○攪乱行動
・敵の配備を混乱させる
・敵の兵力を分断する
・敵の補給を危機に陥れる
・敵の足場固めの為の路線を驚異に晒す
○重要なアプローチ
・最小予期線への攻撃・・・敵が心理的に最も予期していない攻撃を展開する
・最小抵抗線への攻撃・・・物理的に敵の抵抗が最も弱い箇所を攻撃する
(2)経営面
行動経済学の「プロスペクト理論」を例に説明している。
プロスペクト理論によれば、人間の心理が満足状態にあれば行動を起こし辛く(リスク回避的)、
不満足状態にあれば行動を起こし易く(リスク選好的)なる。
だから、消費者の心理を不満足状態にして購買意欲を高めるという事らしい。
競争対象は【満足】だろうか。
5.知性的世界の戦略とは?
(1)軍事面
ロンメル(軍人)の戦略を中心に説明している。
イメージ・固定観念などの概念を確立し、始めから優位に立つという事らしい。
例えば、ロンメルがドイツ軍は強いという固定観念を作ろうとしていた事がそうだ。
攻撃対象は【観念】だろうか。
(2)経営面
新制度派経済学の「取引コスト理論」を例に説明している。
取引コストとは、物を買ったり買い換えたりする時に発生する様々な労力(調査・交渉・監視等)
のことで、これが大きければ現状で我慢しようとする。
だから、情報技術を使用して取引コストを小さくするという事らしい。
競争対象は【情報】だろうか。
※知識、技術も知性的世界に含まれる。
6.まとめ
最初に結論を述べ、次に概略に入り、それを詳細に展開しているため流れはわかりやすい。
ただし、以前の内容を引き継いで説明しているため、主旨をまとめるのが難しい。
特に、知性的世界はわかりづらい。この中に含まれる知識・技術の戦略とは、どのようなものだろうか。
正しく理解したかどうかも不明である。
クラウゼヴィッツやリデル・ハートの戦略の位置付けは、大変参考になる。
戦略に興味があるなら、これだけでも読む価値があろう。
※本書の内容は、経営よりも軍事的色彩が強い。 -
人間が持つ世界観をモデル化すると、物理的世界、心理的世界、知性的世界の3層からなる多元的世界となる。
1つの世界では合理的に行動しても、別の世界ではその行動が不適格な行動となる(この現象を「戦略の不条理」と呼ぶ)のは、3つの世界を視野に入れた戦略を描いていないからである。 -
孫子によると最初から型にはめないで、常に自然体で対応すべきだというのが基本的な考え。人間の心は知性的世界と結びついており、人間の合理性やすべて反省的思考は知性的世界と人間の心理的世界との相互作用の結果。
ポーターの競争戦略:
1.低コスト構造のもとに製品価格を下げて競争を勝ち抜くコストリーダーシップ戦略
2.他社との競合を避け、棲み分けるために製品を差別化する差別化戦略。 -
合理的って・・・。
物事は様々な方向からみなければいけないっていうけど、大きく3方向にわけてみれる。①物理②精神③価値
この3方向からみてそれぞれ合理的じゃないと失敗する。
戦略を立てても、実行段階でエラーが見つかったら、即新しい戦略をたてよう。上昇フロー。
レファレンスポイント、キュービックグランドストラテジー -
リファレンス・ポイント
キュービック・グランド・ストラテジー
ポパー
物理的世界、心理的世界、知性的世界
ト、2010.5.7 -
どうして企業は失敗するのか。または全盛を極めた企業が凋落するのか。
その理由は「戦略が物理的戦略にしかなっていないため」という視点から、「物理的戦略」「心理的戦略」「知的戦略」3つを同時に考え、推進していくことの重要性を説く。
「戦略」発祥の戦争史とビジネスをつなげている部分はいまひとつピンと来なかったが、ブルーオーシャン戦略までもが物理的戦略でしかないとするくだりの納得度はあった。
2010-1冊目 -
クラウゼヴィッツをもう一度読み直したくなる一冊。軍事戦略論は軍事に限らず、意思決定と組織論、今のビジネスにも得るものは大きいと思う。
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知識の整理という点では非常に分かりやすく面白かったが、新しい発見的なものはあまりない。
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レビューは後ほど。
利益の追求より「哲学」が必要だ、と感じた。
農業経営に応用できるか?
ガンバレ!農業経営学者!