- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488011024
感想・レビュー・書評
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冷戦下の実話を元にしたフィクション。
ソ連を内部から文化的に攻略しようと、CIAはソ連国内で発禁となっていたボリス・パステルナーク著の『ドクトル・ジバゴ』を密かに出版し広めようと画策する。一方、ロシア移民の娘であるイリーナは、タイピストとして雇われたCIAでスパイになるための訓練を受け、『ドクトル・ジバゴ』作戦に抜擢される。
自分の作品がCIAの作戦の武器になっているとは知らず、当局から監視され迫害されるボリスとその愛人であるオリガを中心としたソ連のストーリーと、ワシントンで働くタイピストたちの日常のオフィスワークが交互に描かれる。
CIAがそれだけ注目した、肝心の『ドクトル・ジバゴ』のロシア革命批判の内容はあまり語られず、登場するスパイたちの活動もおとなしい描写で、それよりも東西のそれぞれの国で圧政や差別に苦しむ女性たちとその家族を描いた物語であることがわかってくる。
訳者あとがきを読むまで実話が元になっているとは知らず、どうしてこんなもどかしくわかりにくい展開なのかと苦しんだが、作者が事実を曲げない程度に独自のストーリーを挟み込んでいたことが読後にわかった。
特に、ボリスの最大の理解者であった故に収容所で過酷な体験をした愛人オリガの苦悩と、ロシア移民の娘として白い目で見られながらCIAで働くイリーナ、そのサポート役のサラの内面が作者の筆によって丁寧に書かれており、スパイ小説だと思って読むと(自分のように)かえって醍醐味が半減するかもしれない。
また、訳者が『コードネーム・ヴェリティ』『ローズ・アンダーファイア』といった、大戦中の女性スパイや女性兵士の小説を訳した人だと知った。女性同士の友情は共通する部分であるが、『ローズ・アンダーファイア』のドイツ収容所シーンは本書のソ連収容所よりも壮絶だったことを思い出した。詳細をみるコメント1件をすべて表示-
yayasukoさん訳者です。ご感想をありがとうございましたほかの訳書も読んでくださって嬉しいです。訳者です。ご感想をありがとうございましたほかの訳書も読んでくださって嬉しいです。2020/08/14
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実際にあった対ソ情報活動を題材としたスパイもの。
ブクログ読者さんの書評から知りました。
女性が主人公で、ソ連側のことも記載があります。
ソ連の収容施設の描写は読むのが辛い部分もありました。 -
読み進める内に、どんどんハマっていくのが分かって、最後は〝アナタのその気持ち分かってますよ!〟と見透かされたような、見事な終わり方。
『ドクトル•ジバコ』という一冊の本の出版を巡り、国を超えた人々が、命運を賭ける。
実際にあった出来事がベースになっているのだけど、現実がドラマだな……。
以下、少々ネタバレ含む。
構成としては、東、西パートが交互に展開される。
ロシア(東)パートでは、作者ボリスとその愛人オリガを中心に描かれる。
オリガの収容所暮らしが壮絶過ぎて、なーんか、ボリスがお気楽に見えてしまうんだよなー……。
『ドクトル•ジバコ』によって巻き起こされる巨大な渦についても、オリガを追ってきたからこそ、功績だ!と言って喜びきれず、複雑だった。
そして、この作品をより面白くしているのは、アメリカ(西)パート。
CIAのタイピストとして面接を受ける女性達、その本当の仕事は……という仕掛けがとても良い。
印象の残らないイリーナと、私を見て!なサリー。
二人の活躍にハラハラさせられる。
王道ヒロインはイリーナなんだろうけど、私はサリーの、乱して乱されない存在感が好きだなぁ。
そんな交互の展開の中で、一つは章題に工夫がされていて、オリガやイリーナの役割の変遷が追っていけるようになっているのが、良かった。
もう一つは、CIAタイピストの面々が「モブキャラ」として、イリーナやサリーの真実を噂する幕間で、ミステリー色が強まって良い。
満足ー。 -
爽快なスパイ小説ではない。本の力で意識を変えるという趣旨には共感したいのだが、諸刃の剣でもある。それはそれとして、最も憤りを感じたのは、そのプロパガンダを仕掛ける側と仕掛けられる側に共通する男尊女卑の根強さ。思想はどうあれどこまでも男社会。同じ穴の狢に見える。闘う女性たちのひりひりした痛みが後に残る。
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舞台は、東西冷戦下のワシントン及びモスクワ近郊。主人公は才能溢れる女性三人、CIA諜報員のイリーナ、オナジク諜報員のサリー、そして作家ボリス・パステルナークの愛人オリガ。愛人関係あり、反体制活動への厳しい取り締まりあり、地獄の矯正収容所生活あり、社会的タブーの同性愛あり、運び屋(ツバメ)による映画紛いの諜報活動ありと盛り沢山な内容だが、本書の根底に流れているのは、身勝手な男達(男社会)に翻弄される女性の憤りだ。その意味で、女性作家ならではの尖った作品といえる。
物語は、ソ連国内で発禁となったが国外で出版されて話題を集めた小説「ドクトル・ジバゴ」に目を着けたCIAが、対ソプロパガンダに利用した「ドクトル・ジバゴ」作戦を中心に展開する。
東西の出来事が交互に描かれているのだが、両ストーリーが交わることはないし、同性愛、作家と愛人の歪な生活、矯正収容所など盛り過ぎていて全体が纏まりに欠ける。力作な割には今一だった。 -
スカッとするスパイ小説だと何故か誤解して読んでいた。
西側の終盤が物足りなく感じられた。
フィクションとはいえ、史実や時代背景からは仕方ないのかも知れないけど。 -
『あの本は読まれているか』このタイトルは読みたいとい気持ちを掻き立てる素晴らしいタイトルだと思う。「あの本」ってなんだ?「本」とスパイってどう関係するんだ?いろいろな疑問が沸き上がる。そのことが、読む者の期待を押し上げていく。
あの本は『ドクトル・ジバゴ』であり、CIAの「ドクトル・ジバゴ作戦」をもとに公開さた資料で黒塗りされていた部分をフィクションで補い、想像を膨らませていった物語である。CIAの作戦というとエスピオナージュ物の派手なスパイ合戦を思い浮かべがちであるが、想像と全く異なり、スパイ的な要素はかなり抑えられて書かれている。むしろ『ドクトル・ジバゴ』の執筆過程と公開過程がその周辺の人物とともに丁寧に描かれている作品といった方が良いだろう。地味に思えるかもしれないが、しかし、これがとてつもなく面白い。物語の語り手の視点が次々と変わることにより主客逆転が次々と発生していくが、このことが時代を上手く切り取っているように思う。当時のソビエトの閉塞感やアメリカにおける差別事情などが書かれていて、その中で人々が何を感じていたのか、一人称を重層的に重ねることにより立体的に描き出せているのではないだろうか?
あの本が、パステルナークの影が色濃く出ている『ドクトル・ジバゴ』であるがゆえに、パステルナークとオリガの物語が、読んでいるうちに不思議と『ドクトル・ジバゴ』と重なってくる。まるでデビッド・リーンの映画の「ラーラのテーマ」聞こえてくるようだ。 -
原題は The Secrets We Kept。
原題も翻訳タイトルもどっちも秀逸。
冷戦時代のアメリカとソ連が舞台。CIAが、言論統制をしくソ連を文学の力でソ連市民に現状を知らしめる活動の物語。
(現状の認識違いって、今のロシアも一緒だ。ロシアは相変わらず閉じた国)
西のCIAと、東の『ドクトル・ジバゴ』。
語り手が章ごとに変わるので最初は少し混乱したが、すぐ引き込まれた。
登場人物たちがみな魅力的。特にイリーナとサリー。よく頑張った。
『ドクトル・ジバゴ』、未読だったが読みたくなった。映画も観たい。
いやー、面白い小説だった。傑作。 -
読むのに一苦労しました。登場人物がわかりにくかったりして見出しの名前の確認しながら読みました。ただ読み終わってからは、読んでよかったと思いました。
今も昔もロシアや中国はきっとこんな感じなんだろうなと。表現の自由が制限されて言いたいことが言えない。この本のように、特に昔はもっと酷かったんだろうなと思いました。フィクションとしてますが、実際にあったんだろうな〜と考えさられる内容で良い学びを得ることができました。 -
独ソ時代に禁書となった「ドクトルジバゴ」を巡るスパイ小説。その内面をCIAのタイピストたちと一緒に読んでいく。2つの筋から物語は進み、ドクトルジバゴの作者、ボリスたち目線の「東」と図らずもCIAの秘密スパイtなったタイピスト、イリーナたちの「西」目線。エンタメとしての面白さはあらすじからでも分かるのだが、個人的には彼女たちの差別的な扱いが読んでいて辛かった。また「東」ではボリスが愛人とのことについて書いた「ドクトルジバゴ」もちょっと奥さんのことを思うと厳しい感じがした。