- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488018429
作品紹介・あらすじ
宇宙船を警備する人工知性紅葉の葛藤と、宇宙空間で物体がワープする際に生じる、空白の七十四秒間の事件を描いた第八回創元SF短編賞受賞作「七十四秒の旋律と孤独」をはじめ、人類が滅亡したあとの宇宙で、ヒトの遺した教えと掟に従って宇宙を観測し続けるロボットたちの日々を綴る連作〈マフ クロニクル〉の全六編を収録。永遠の時を生きる美しいロボットたちと、創造主である人間をめぐる鮮烈なデビュー作品集。
感想・レビュー・書評
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人間が日常的に宇宙を航海するようになった未来、「空間めくり」というワープ航法が一般的になっていた。当初ワープは一瞬のことと思われていたが、じつはその間には74秒の空白時間があり、人間はその時間を知覚することはできず静止してしまうことが明らかになった。そしてその空白時間を狙って、空白時間でも活動可能な「マ・フ」と呼ばれるロボットをけしかける宇宙海賊が横行した。その対抗策として、各宇宙船にもマ・フが警備用に配備されることとなった。
本作では冒頭にこの世界観を説明するような短編が一つ収録されており、そのあとからは「マ・フ・クロニクル」という長編が始まる。人間たちが滅んだ未来、マ・フたちは残された命令に従って宇宙の探索を続けており、主人公となるマ・フのナサニエルたちはとある惑星での観測任務にあたっていた。彼らは人間が残したアーカイブに則り、惑星の生態系への不干渉や特別なものを生み出さないことを原則に長いこと観測だけを続けていた。しかし、ある時生きた人間を発見したことにより、彼らの生活は一変することとなる。
マ・フはロボットではあるが、画一的な思考を持つものではなく、各マ・フは個別に思考し個体差がある。はじめは特別なものを生み出さないために個体差を排除しようとするマ・フたちだが、人間との交流から個体差が大きくなり、自我が確立していく。
長いこと観測者であったマ・フたちには人間がどう見えるのか、自我を獲得したマ・フたちはそれぞれどういう道を歩むのか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
叙情的で極上の語り部による神話を聴いているよう。SFというと敷居が高いと思う人にも、すんなりと読んでもらえることができるはず。
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SF。AI。連作短編集。
表題作と「一万年の午後」は既読。
一作一作は小粒な印象だが、一冊を通してみると、各話が綺麗に繋がり、主人公の成長・変化もハッキリと感じることができ、完成度が高い。
解説の"大きな物語が螺旋状につながる"という表現が非常に的確。
最終話の「巡礼の終わりに」が一番好き。なぜか既視感があったが、面白かったので問題なし。
作品全体の落ち着いた雰囲気も好印象。良作。 -
ロボットSFと言えば、アシモフの「われはロボット」が一番に思いつく。しかし、本作品はロボットSFというよりもAI-SF(人口知性SF)と言った方がしっくりくる。そのため、時と共に個体差が出て来るのは当然で、またそれが面白くて、全体の流れを作っていく。
「七十四秒の旋律と孤独」は、舞台が宇宙で活劇要素もあり、航宙面でも興味深い点があり、あっという間に読み終わってしまったというのが率直な感想。さすが賞を貰うだけのことはある。
「マ・フ クロニクル」連作の「一万年後の午後」は、既に「GENESIS 創元日本SFアンソロジー 第1巻」の表題にも選ばれる作品。こちらの作品にも「七十四」と同じインパクトを受けたし、2年前に読んだ時の素晴らしさは今でもなお心に残っていた。衝撃のラストでも私にとっては十分なのだが、その後編が、しかも4作品もあるというのは興奮以外の何物でもない。じっくりじっくり読みましたよ。多分、今回で完結だと思うが、今回とは別の星に降り立ったマ・フ(Machine Human)の世界も見てみたい気もする。人間の弱さが見え隠れして、私、人間としてはちょっといろんな面で抵抗したい気もするが、それが人間の人間たる所以。まあ、設定を含めて後編に着手するかは作者にお任せしよう。
作者はどうやらシルクハットがお好きな様だが、初めて見た時にはこの人は危ない人では?とちょっと引いた。まあ、天才だからしょうがないかな。猫もお好きということで、本作品の中にも猫が重要な場面でちょくちょく出て来るのも印象的。 -
SFが好きならオススメです。
簡単に言えばワープするときに、人間は一瞬なのだが、人工知能を搭載したロボットたちには74秒間自由に動くことができるという。
その時間差を利用して貨物船を襲うロボットたちがいて、、、。
他にも、未来の人工知能にほとんど不死身の身体を手に入れ、何万年も生きることができるマフと呼ばれる存在の物語。
人間の愚かさ、人工知能と共に生きるということは?未来の不思議で深い、そして余韻のある物語りでした。 -
人工知性が紡ぎだす物語。最後の短編「巡礼の終わりに」を除き人口知性(マ・フ)の視点で展開されるのだが、人類は脇役です。人口知性にはやっぱり引き付けられる魅力を感じてしまいました。しかし、果てしない時間を生き続けるというのはどんな感じなのだろうか。想像するとため息がでます。そんな果てしない時間のなかで変わることがなかった人口知性も「人間」の登場がきっかけで、あっけなく変わる。人生も同じかもね。とにかく、この物語は、グッときました。お勧めです。
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ヒトがワープを開発した時、人工知性であるマ・フだけがワープ中の高次元で74秒の時間を認識することが出来た。それにより略奪しようとするモノと守るモノが生まれた。
最初の短編が一番SFらしくまとまっている。その後は中編をつなぎ合わせている印象。74秒の空白は最後の方で出てくるが、全く別の出来事が主軸であり、これはこれで引き込まれるストーリーであった。 -
すばらしい
久しぶりに4点つけたよ。物語がおもしろいかと問われると、実はそうでもなかったりする。
ワクワクした点はいくつもある。ヒトつまり人類が自己修復機能によりどのように進化し、どこで袋小路に突き当たってしまったのかが明確だという点。人類が進化したにもかかわらず、クラーク流の生存本能なり闘争本能が全く衰えていないと表現される点。人類とマ·フつまり人類が創作したロボットとの戦いが明確には記されず、読者の想像に委ねられている点。
そして、一番のワクワク感は、ロボットたちの視点で2万年のクロニクルが語られることだ。しかも、ロボットたちは三原則の縛りが極めて緩く、個性があり、思考ができる。
さらには、永遠の命が両者ともに失われるエンディングでは、それぞれの新しい命の紡ぎ方が示される。ロボットの紡ぎ方はとても夢があるとともに、ぜひともその行く末を知りたいと思わせる。
(続編出ないかなぁ)
野生動物との触れ合い部分は、芋虫も樹木も猫もあまりピンとくるものがなかったんだけど、74秒といい芋虫といい、エンディングにうまくつながる感じはするな。問題は冒頭の表題作のオチが私には全く響かなかったことかな。猫嫌いだからかな。 -
久々のSF。表題作はいわばジャブ的なもので、ちょっとした短編を書いてみましたくらいのものだったんだけど、そこからの「マフ クロニクル」は読みごたえたっぷりの良作でした。表題作をきちんと伏線としていれつつ、物語は入れ子というか螺旋構造に・・・という。
同じ時を繰り返し生きるロボットの生活に「創造主」であるヒトが加わったことで一万年ぶりに物語が動き出す。「特別」を忌避しつつも徐々に個が形成されていくロボットたち。まあなんとなく「こうなるのでは」という悲しみもあったんですが、それもまた面白かったです。
この作品が今年一番面白かったといっても過言ではないかもしれない。