キネマトグラフィカ

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 695
感想 : 90
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488027858

感想・レビュー・書評

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  • 新聞書評で紹介されいたのが気にかかり手に取る。内容としてはバブル期にとある映画会社に入社した同期6人の若かりしき頃の一コマをリレー形式で描きつつ、2018年、50代になった彼ら/彼女らが振り返る。あらすじにもあるように、「あのころ思い描いていた自分に、今、なれているだろうかーーー。」がテーマ。ある種の諦念が基調となっており、現在30代で、ようやくスタートラインに立てた評者としては、20年後自分がどうなっているかを考えると、彼ら/彼女らのあり様の変化が身につまされる。特に登場人物の一人である北野咲子は作中で女性初の総合職という位置づけであり、否が応でも「ジェンダー」の問題を突きつけられる。この点、男性の評者は、やるせないとしか言えなかった。評者はジェンダー問題の専門家ではないが、あえて乱暴に例えるならば、ジェンダーとは「服のサイズ」に近いのかもしれない。服のサイズは、概ね人々の平均値を基準につくられる。その基準から外れると、オーダーメイドにでもしない限り、なかなか良いものが手に入らない。そしてこれまでの日本では、とりわけ総合職の世界では、「服のサイズ」は男性しかなく、女性はそれこそ無理やりにでも男性に合わせるしか道はない。こうしたものは制度として可視化されていれば改善も可能かもしれないが、多くは慣習という不可視の存在が多くの人を縛り付けている。人はこの慣習に縛られ、逃れようとしても、案外しぶとく絡んでくる。物語の最後にこの事実を突きつけられたところは、もはやどうしようもないとはいえ、少女革命ウテナを引いて「世界を革命する力を!」と内心叫びたかった。それほどまでに思考の惰性はしぶといのである。とまれ、登場人物6人は主人公の内面を分割したのであろうか。男性らの抱えるコンプレックスなどは身に覚えがないとも言えないし、ある人物の25歳で結婚という慣習にしばられたり、あるいは帰国子女として日本の企業社会に違和感を覚えつつ、最後にはその日本的な慣習に従わざるを得なかった最後は、何とも形容しがたいもやもやした感情を抱かずにはいられなかった。それでも、最後にわずかではあるが救いがもたらされるのは良かった。彼ら/彼女らが、これからも活躍することを祈らずにはいられない。

  • 連作短編8編
    映画製作会社に同期入社した男女6人の物語であるが,印象としては咲子の女子総合職の奮闘記.26年前にフィルムリレーをした思い出を蘇らせる形で,名画座の閉館に伴う最終上映に集まる面々.時間が経たないとわからないこともあるが,今までの人生も悪くはなかったとしみじみさせて明日へとつながるような,いい読後感だった.
    そしてたくさんの映画が登場し,とても懐かしかった.

  • 2018 9/5

  • 67年生まれで映画会社に勤めていた経験のある著者の、おそらく自伝的な小説なのだろうか。地方の映画館に、かつての同期だった男女6人が集まるところから物語が始まる。そんな現在から、30年時間が遡り、それぞれの新人時代が章立てで語られていく。そのエピソードをつなぐのは、かつてフィルムだった映画のフィルム缶。地方セールスに配属になった同期が、上映スケジュールに合わせてフィルムを運ぶ“ケヌキ”リレーでつながっていく。フィルムだけでなく、新幹線はひかりで、電話はコレクトコール。電話ボックスに並んだり、ポケベルを鳴らしたり。アイテム的にも世代が見ると懐かしいものが目白押しだ。語り口もうまいが、ベースになっているのは、女性の社会進出の問題、ジレンマ。著者がおそらく経験したであろう感情は、リアルに伝わってくるし、全ての女性が悪者になっていないところが良かった。

  • バブル期に中堅映画会社に入社した同期の物語。
    バブルがはじけた直後に社会に出た私にも重なるところが多々あり、時に懐かしく、また苦い気持ちもよみがえった。
    職種に関わらず、女性が社会に出て働くのは今もやはりしんどい。
    男性だってしんどい。
    この小説に出てくる人達は、理想の自分とかけ離れた今の自分をのみ込んで、それでも前を向いて歩いていこうとしている。
    歳をとって、過去を振り返って、ようやくあの時の自分と向き合える。
    今なら、周囲の人の気持ちや行動も、理解できなくても、ああ、そうかと思える。
    咲子にはまた映画の世界に戻ってほしい。
    きっと無駄なことは何もないはずだから。

  • 映画会社の同期の同窓会的な場面から始まり、昔を振り返る。男性と女性とでは同じ時間を過ごして来ても感じることが違いすぎ。フィルム時代の苦労話は面白かった。

  • なんか今一つ入っていけなかった。
    2018.7.31

  • 【映画好きに悪いらつなんかいるか!、】
    自分には響かなかった。
    もう少し、といっても後20年、働けば何かわかるのかな。

  • 違ったなあ。 映画の話じゃなくて、映画興行の話。

  • 映画会社に平成元年に入社した6人の男女。

    それぞれの事情と葛藤と生き方が
    フィルムリレーで表現される。

    人はいろんな面を持ってるんだなぁと感じるし、
    人は一筋縄ではいかないなぁと改めて思う。

    ないものねだりな感じがするのは
    誰でもそうなのかなぁ。

    いくつになってもその時を思い出せるのは
    同期の良さだなと思う。

    今は今の良さがきっとあるけれど、
    映画がフィルムだったころ、
    きっと今とは違うドラマがたくさんあったのだろう。

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著者プロフィール

1966年、東京都生まれ。映画会社勤務を経て、中国語翻訳者に。『銀色のマーメイド』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年にデビュー。17年、『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出、第6回JBBY賞(文学作品部門)受賞。他の著書に「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ、『風の向こうへ駆け抜けろ』『蒼のファンファーレ』『鐘を鳴らす子供たち』『お誕生会クロニクル』『最高のアフタヌーンティーの作り方』『星影さやかに』などがある。

「2021年 『山亭ミアキス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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