ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在 (PHP新書)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569843100

作品紹介・あらすじ

収容者数100万人といわれ、米国務省がいま世界的な人権問題として警鐘を鳴らすウイグル人の強制収容。中国はなぜ彼らを恐れるのか?

感想・レビュー・書評

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  • 中国は巨大な国家であり、世界の至る所に経済の力で影響を及ぼしている。かつて日本が高度成長期に飛躍的に経済が拡大し、何度かの好景気を経ながら世界のトップを覗った頃を更に上回るスピードで経済が巨大化していく。13億人を抱えユーラシア大陸の東に広大な土地を持つ中国。近年では一帯一路構想の元、世界規模で更に影響力を伸ばして行こうとしている。更に中国側から日本を上半分に見た「逆さ地図」を見てわかる様に、広大な太平洋を目指す上では、日本が邪魔な位置に見える。特に台湾や沖縄は日本本土を避けて太平洋へ抜ける上での最良の立地となる。船舶が沖縄で燃料補給しながら更に西の東南アジアや東の太平洋に埋蔵される海底資源を採りに行けることは中国にとっては大きな利点だ。最早、眼前には浮かんでいる日本の姿を飛び越え、アメリカを意識して軍事力強化を図っている。
    その様な中国の光が当たるオモテ側の発展とは逆に影に当たる問題、それがウイグル族やチベット族などの自治区の問題である。既に世界中を駆け巡るニュースでも、多くの書籍でも、これら中国の一部になっている民族浄化の国家戦略は世界中から多くの批判を受けている。新疆ウイグル自治区に存在する強制収容所紛いの施設に放り込まれた住人が、リンチや共産党国家思想を無理やり叩き込まれ、進行するイスラムや自分達の言葉さえ禁じられた世界だ。
    かつて太平洋戦争に負けて、戦勝国アメリカが日本を長期に渡り間接統治(実質直接統治の状態だが)をしていた。もしその際に日本語を喋っただけで牢屋にぶち込まれ、君が代を口ずさむことも、おばあちゃんから教わった日本の民謡すらも全て禁じられ、英語以外の会話を禁じられたとする。勿論、お正月も七五三もお盆も伝統的な日本の行事は禁止、ハロウィンやクリスマスなどキリスト教的な行事以外はできず、日本食を作ることさえ禁じられたら。今、ウイグル自治区は正にその様な状態にある。徹底的な共産党教育が行われ、幼い頃から中国共産党として生きていく事を強いられる。そして年老いた真のウイグルを知る世代がやがていなくなる頃には、顔はまだ堀の深いウイグル人の面影をかろうじて残しながらも(漢民族との交配が国家的に進められる)いつかはウイグル人そのもの、文化、歴史は地球上から消し去られる。これが中国が行なっている民族浄化の実態なのだろう。様々な書籍でその壮絶な経験が語られ、世界中が批判している内容全てが偽りとも思えず、またかつてのナチスドイツがユダヤ人に対して実施してきた歴史もあるから、共産党が絶対的な権力を持ち、領土拡大に熱心な中国の姿を見ているとほぼ間違いないことだと思われる。
    筆者は日本人はこの問題に対しての意識が低く、どこか遠い世界の出来事として関わり合いを持とうとしないことを危惧する。そして日本人としてできることは何か、1人のジャーナリスト以前の人として提案をしている。先ずはこういった書籍を見て実態を知ること、そして虐げられる民族のために何ができるかを考え始める必要がある。
    中国が真の世界の覇者になれるとすれば、こうした非人道的な手を使わずとも、あらゆる民族の人権を尊重した形で共に発展していける様なやり方を知らなければならない。こうした力による押さえつけや、暴力的な進め方は、益々世界から中国批判の壁を強固にするだけであり、いつかは反撃を喰らうであろう。だからいつまで経っても覇者にはなれず、火種ばかりを抱えた危うい国家から抜け出すことは出来ない。
    習近平が毛沢東や胡錦濤に続く偉大な指導者になるには、それくらいの手腕がないと永続的な中国発展は訪れず、いずれは類を見ない超高齢社会として経済力は徐々に低下し、世界から見捨てられる様な気がしてならない。

  • 中国政府のウイグル支配により、ウイグル人たちは再教育施設送りに怯え、表現の自由を規制され、宗教をとりあげられている。
    東トルキスタンの国が元は一つの民族だったのに、中国政府の一帯一路圧力により、ウイグル人をテロ組織と認めてしまうような状態。外構政治のやり方が極悪非道すぎる。

  • 20年前は平和だったんだね…
    平和は簡単に失われる…

    そして、国際社会から注目されるか否かも、大国の思惑に左右される…
    弱者は苦しいね…

  • タイトル通り、「ウイグル人に何が起きているのか」について、中国政府に人種・文化ごと迫害されている現在について、実地取材や、今は中国の一部・新疆ウイグル自治区となってしまっているその土地の歴史について分かりやすくまとめてくれている。
    文章も読みやすく、多くの事項を小項目で少しずつまとめてくれているので分かりやすい。

    実地取材の様子では、執筆当時の2019年から20年前に著者が両親を連れてウイグルの地域を旅行した時の現地の様子と比較して、現在のウイグル自治区の様子が写真資料付きで描かれており、その差がとても分かりやすい。
    なぜウイグル人に対してこのような施策を習近平や中国政府が取っているのか、その理由も事実からの推測ではあるが解説してくれており、歴史書としてもわかりやすい。
    また一部当事者のウイグル人の方々の証言も掲載されており、実際にどのようなことがあったのか?を(証言集に比べれば)ライトに書かれており、日本にいても同胞や中国人にスパイとして監視されているかもしれない恐怖・家族が強制収容所に入れられてしまうなどの恐怖が常に付き纏い生きた心地がしない様子も、分かりやすく伝えてくれている。

    新疆ウイグル自治区は一時期とはいえ東トルキスタンという一つの国として独立した実績がある。
    そんな大きな一つの民族の文化や暮らし・人権が迫害されており、それが世界的に止めることも批判することもできない…
    中国とソ連(当時)の間で国家のやり取りの材料にされていた感もあるので余計やるせない…
    ウイグル人にノーベル平和賞を!は、来年以降も願い続ける悲願であるかもしれない…実現するのはいつだろう。
    ウイグル問題を包括的に知りたい!という方には、新書としては入門書にとても適していると思う。
    ただ、強制収容所での様子など、凄惨な実態をもっと詳しく知りたい場合には、いくつか発行されているウイグル人の方々の証言集や証言書籍をあたるのが良いかと。
    それらと合わせて読むのがおすすめ!と思いました。

    章ごとの目次を備忘録がてら載せます。


    序章 カシュガル探訪ー21世紀で最も残酷な監獄社会
    第一章 「再教育施設」の悪夢ー犯罪者にされる人々
    第二章 民族迫害の起源
    第三章 世界の大変局時代における鍵ー米中そして日本
    あとがきにかえてー日本にとってのウイグル問題
    参考資料一覧

  • 産経新聞の記者の福島さんによる2019年発行のウィグル問題の解説書。自身での中国で見聞したことや、他の欧米のジャーナリズムの取材を基に要領良くウィグルの問題を扱っている。特に20世紀以降のウィグル独立運動が、覇権国家や中国共産党内の政争とどのように関わってきたかについてはよくまとまっている。
     一方、現在のウイグル人の置かれている「この世の地獄のような惨状」に関しては、ウイグル人の手記などもっと生々しいレポートや書籍があるので、そちらを参照しないとこの本からは伝わってこない。
     日本はG7の中で唯一ウイグル人などの人権問題などについて非難声明をだしていない国だったが今年4月に衆議院において国会決議がなさている。208回国会決議1号。しかし、その後のアクションがなされているようには思われない。包括的にどのように人権を守っていくのか見守りたい。

  • 新疆ウイグル自治区でウイグル人が置かれている状況を解説した本。概ね中国による弾圧の実態を説明しているが、概説的にウイグル人の歴史も説明しているので、ウイグル人ってなに?という場合でも安心。紙幅の関係でその部分が駆け足なのはやむを得ない。

  • 現在のウイグルの状況、歴史的経緯、これからのこと、を丁寧に記述している。情報源について、インタビューについても、歴史の部分についても、あやふやな部分はしっかり明示しているあたりさすがであり、単なる中国批判・ウイグル同情論ではない。
    最後の、我々に提示された3つのアプローチまで含め、ウイグル問題の素人がウイグル問題に首を突っ込むにあたり、非常に有意義な本。

  • 3.8/257
    『中国共産党に忠実で、清く正しい人々。ゴミ一つ落ちておらず、スリもいない完璧な町。だが、この地のウイグル人たちをよく観察してみると、何かがおかしい。若い男性は相対的に少なく、老人たちに笑顔が見られない。観光客に接する女性たちの表情は妙に硬い。いまSF小説の世界にも似た暗黒社会が、日本と海を隔てた隣国の果てにあることを誰が想像しただろうか。さらに共産党による弾圧の魔手は、いまや在日ウイグル人にまで及んでいるという。現地ルポとウイグル人へのインタビューから浮かび上がる「21世紀最悪の監獄社会」の異様な全貌。「一帯一路」という大国の欲望に翻弄された弱小民族の悲哀が浮かび上がる。』
    (「PHP研究所」サイトより)

    冒頭
    『 羊の代わりに警官が増えた
    カシュガル(新疆ウイグル自治区カシュガル市)を最初に訪れたのはいつだったか。2019年5月9日、あらためて思い返してみると、成都経由の四川航空でカシュガル空港に初めて降り立ったときからすでに20年近くたっていた。』


    『ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在』
    著者:福島 香織
    出版社 ‏: ‎PHP研究所
    新書 ‏: ‎256ページ
    発売日 ‏: ‎2019/6/19
    ISBN:9784569843100


    目次 
    序章 カシュガル探訪――21世紀で最も残酷な監獄社会
      羊の代わりに警官が増えた
      ホテルの出入口でX線と金属探知ゲートのチェック
      コンビニ以上に多い「便民警務ステーション」
      宗教施設に国旗が掲げられている
      「社会秩序を乱す悪を徹底排除しよう」の大音量
      よそよそしいテーマパーク
      防刃チョッキ姿の警官が乗り込む
      「中国西部のディズニーランド」は廃墟のよう
      貧困扶助のプロセスで進む農家の中国化
      なぜモスクの写真を撮ってはいけないか
      美しい町は巨大な監獄である
    第一章 「再教育施設」の悪夢――犯罪者にされる人々 
      テロリストと間違われる
      100万人以上のウイグル人が強制収容されている!
      生還者の証言――再教育施設は現代の”ラーゲリ”
      袋を被せられ、手足を縛られて連行
      「ウイグル人に生まれてすみません」
      報復のための虐待死?
      きっかけは2014年の”爆破テロ事件”
      党員や宗教関係者から一般ウイグル庶民がターゲットに
      泣く子も黙る「3大酷吏」の一人・陳全国
      チベット弾圧の辣腕を習近平が高く評価
      身柄を拘束できる「脱過激化条例」を施行
      伝統、文化、習俗、歴史の全否定
      パスポート回収と海外留学生の呼び戻し
      恐ろしい「社会信用システム」
      ウイグル人であるだけでマイナス10ポイント
      監視アプリのダウンロードを強制する
      違う通勤路を通るだけで警官から理由を問われる
      強制健康診断による血液・DNA・虹彩・指紋の採取
      ウイグル人はテロリスト・犯罪者予備軍という前提
      数万人の群衆から約60人を割り出す
      私生活に入り込む監視員
      中高年には観察記録をつける
      臓器移植ビジネスの生贄
      「死刑囚遺体・臓器を利用するための暫定的規定」の施行
      ムスリム民族の臓器は「清い臓器」
      病院ではなく処刑場に
      「心臓はまだ止まっていなかった」
      遺体はほとんど戻ってこない
      核実験の犠牲に――『死のシルクロード』
      ”再教育施設”を突撃取材した英米メディア
      日本の大手メディアの記者は消極的だった
      国家への信頼の違い
      在日ウイグル人の苦しみ――日本にいても魔の手が
      留学生に降り掛かる迫害と圧力
      「このなかに私を見張っている人がいる」
      「目に見えない」迫害
      親から引き離され中国人化される子供たち
      農場の家畜のように押し込まれる
      狙われる知識人・著名人
      新疆地域での「両面人狩り」
      資産の没収が目的か
      新疆ウイグル自治区における「文化大革命」
      「社会治安は明らかに好転した」
      中国版パノプティコンの初期段階
     「家畜の安寧」に抵抗する
    第二章 民族迫害の起源 
      ウイグルの起源
      パミール以東の中央アジアの政治的独立は喪失された
      「新疆」の誕生とイスラム化の波
      民族主義運動が発生
      戦局打開のためソ連軍に介入を要請
      カメレオン盛世才
      ソ連に”売られた”東トルキスタン
      中華人民共和国に組み込まれる
      「自治区」という幻
      5・29事件の勃発
      文革時代のウイグル
      改革開放で始まった貧富の差
      胡耀邦の民族融和政策の挫折
      東西冷戦崩壊後の新疆ウイグル自治区
      新疆3大”テロ”事件
      グルジャ事件――打ち壊し騒乱か平和的デモか
      7・5事件の真相をめぐって
      差別や搾取、格差拡大への不満が高じた庶民の怒りの爆発
      豊富な天然資源や希少鉱物が利権の温床に
      出稼ぎに行かされるウイグル人たち
      いちばんの被害者は女性たち
      わざと胡錦濤に知らせなかった?
      少数民族優遇政策という虚構
      1人っ子政策時代よりも厳しい産児制限に
      失敗に終わったウイグル懐柔政策
      高圧的な民族政策へ
    第三章 世界の大変局時代における鍵――米中そして日本
     「テロとの戦い」の標的にされたウイグル組織
      文化大革命に対する抵抗
      ウイグル人迫害、圧政を”テロとの戦い”と正当化する
      「信仰は弾圧されるほど原理主義的に」
      普通のウイグル人をテロに走らせる
      米中新冷戦のカードとなったウイグル人の人権問題
      ”一帯一路”は中国監視社会の雛型である
      見ないふりをするイスラム国家
      ますます高まるカザフスタンの中国依存
      進む「中国・アラブ圏港互聯」構想
      ウイグル人にノーベル平和賞を
     「ウイグルの母」ラビア・カーディルの逮捕
      国際世論を発信する力が日本の立ち位置を確立する
    あとがきにかえて――日本にとってのウイグル問題

  • 報道などでたびたび見かけていた中国国家による、ウイグルに対する強権的なふるまい。正直これまでどこか遠いところのイメージが強かったのですが、今はウイグル問題がある意味、世界の試金石になりうるかもしれないとも感じています。

    本の中では著者のウイグルでの取材の体験や、これまでの報道のまとめ、日本にいるウイグル人への取材、そしてウイグルの歴史などが書かれています。

    ハイテク技術も使った住民たちの管理、強制収容、洗脳、拷問……、思い浮かべたのはジョージ・オーウェルの『1984年』だけど、あれはフィクションだからまだ救いがあった分だけマシだったのかもしれないとも思います。
    ビック・ブラザーが現実化した、もしくはそれ以上の悲惨さかもしれない。本の中でウイグルと臓器移植をめぐる疑惑について結構ページが割かれているのだけど、これが本当に真実だとしたらと思うと……。そして今の中国を見ていると、絵空事にも思えない。

    日本に住むウイグル人たちの言葉も信じがたかったけど、おそらく真実なのだろうな、とも思います。親戚や家族までが収容され会えない、もしくは殺されている、ということはもはや普通のこと。
    それでもおおっぴらに助けを求めることもできず、同じ民族内でも、スパイを疑って心を開けない。日本国内にこんな人がいるなんて、にわかに信じられないけど、これも真実なのだろうと感じます。

    中国がウイグルに関心を持つ理由というのは、民族統一のためだけでなく一路一帯構想など地政学的な意味もあるそう。そしてウイグルの支配を容認する国もちらほら見られます。それはいずれも中国のような強権的な国家。
    もしこのまま中国のウイグル人支配と根絶が成功すれば、それはほかの強権国家にとってもモデルケースになるし、より広い範囲で見れば、民主主義のほころびを突き崩すきっかけになるかもしれない。社会的弱者やマイノリティを一顧だにしない強権的な考えが合理的というメッセージにもなりうる。

    だからこそウイグル問題は民主主義と独裁・強権主義という価値観の相剋であり、その価値観の優勢を期せずして図る物差しになっているように感じました。

    米中対立に挟まれる日本。難しいところ、考えるべきところはもちろんあると思うけれど、ウイグル問題をはじめ世界の人権問題を考えることは、民主主義の価値観を持ち続けるための、抵抗なのかもしれないと読み終えて思いました。

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著者プロフィール

ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家。
1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、1991年、産経新聞社に入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降はフリージャーナリストとして月刊誌、週刊誌に寄稿。ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。
著書に、『習近平 最後の戦い』(徳間書店)、『台湾に何が起きているのか』『ウイグル人に何が起きているのか』(以上、PHP新書)、『習近平王朝の危険な野望』(さくら舎)、『孔子を捨てた国』(飛鳥新社)など多数。
ウェブマガジン「福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップス)」を連載中。

「2023年 『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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