遥かに届くきみの聲 (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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本棚登録 : 278
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575523676

作品紹介・あらすじ

かつて天才子役と謳われた小宮透は、子役だった過去を隠して高校生活を送っている。しかし偶然にも、同級生の沢本遥は子役時代の透が朗読に励んでいたことを知っていた。遥は自分が所属する朗読部へ入部するようしつこく勧誘するが、透は拒み続ける。なぜなら、今の透には決して人前で声を出せない理由があった――。

感想・レビュー・書評

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  • 深く傷つき感情を殺してしまった少年の魂の再生の物語だ。その背景・道具立てとして朗読という世界が使われている。朗読については、大森美香のドラマ「この声を君に」くらいしか知らなかったが、本作でその奥深さを垣間見た。ドラマでは役者が演技力の限りを尽くした声だけの演技を見せてくれていた。そこでは音が実際に聞こえる。しかし、本作は小説だ。音は読み手の想像の中にしかない。にもかかわらず、朗読シーンは、いずれも登場人物たちのキャラクタを纏った朗読として、まるで声が聞こえてくるようであった。それも、物語の解釈と朗読の戦略という「競技」としての朗読をベースとした声が聞こえてくる。こういった物語に出会えるから読書は楽しい。透と遥かのその後の物語をぜひとも読んでみたいものだ。

  • いや、そんな部活があるなんて寡聞にして未知。お恥ずかしい。
    朗読部。読んで字のごとく、文章を朗読する部活。
    でもその朗読ってのが、予想以上に奥が深いものだったんだな、いや、驚きました。

    子どもが小さいとき、毎晩毎晩絵本を読まされていた身にとって、声を出して本を読むことって身近なことではある。ほぼ絵だけの絵本からお話絵本になり、結構長い物語を何日もかけて読み聞かせていく。
    地の文と会話文、主人公の心の声、それぞれに工夫を凝らして読んでいく。子どもの反応が楽しくて、結構好きだった、読み聞かせ。

    でも、ここで描かれるのは、そういう楽しいだけの「読み聞かせ」ではなく、何十分も続き、そして競いあう「朗読」の技。
    一編の物語を、一つの文章を、そして一つの言葉を、これほどまでに深く読み解いて、自分の解釈を加えて、そして声に出して、誰かに届けること。それはもう、ものすごく激しい戦いでもあるのだ。

    学校によっては独自の部活ではなく、演劇部とのかけもちも多いだろう。けれど、身体を使う表現を伴う演劇とは違って、とにかく声だけの勝負なのだから、そりゃ深いわ。

    主人公の透くんが、なぜ家を出て一人暮らしを選んだか。彼を朗読部に誘い込んだ遥の、彼への固執。
    部内の先輩たちとの関係。
    文科系部活特有の静かな熱が心地よい。
    どこまでも自分自身と向き合い自分の中に答えを探していく彼らの戦い方が素敵すぎて。

    声に出して読みたい青春小説誕生!!

  • 何かで紹介されていた本。
    だけど、あまり読まれてないっぽい?
    評価も、今んとこまあまあって感じ?

    いやいや!めっちゃ面白かったですよー!
    と、声を?文字を?大にして言ってみる。

    主人公の小宮透は、かつて子役として朗読コンクールでも何度も優勝する才能の持ち主だった、のに。
    今では、人前に出ることも億劫になっている。
    そんな彼が、強引に高校の朗読部に勧誘されるのだけど……というお話。

    確かに、小宮透や沢本遥の人物設定は、ややドラマ的すぎるし。ベタっちゃあ、ベタなんですよね。
    反対に、他の朗読部メンバーがあんまりスポット当てられなくて、そういう意味では変化が薄い。

    ただ、この小説の「朗読」に対する描写は、それだけで充分な魅力を持っていると思います。
    発声、抑揚、リズム、間……そういう技巧的な部分をうまく描くことも難しいと思うのですが、前提となるテキストの読み込みがイイ!
    解釈と演出が、ちゃんと物語になっていて、朗読部分を読むのが、とても楽しかったなー。
    名作がバンバン登場するので、解釈する側も勇気いったと思うんですが……。

    合唱系の漫画や小説は読んだことがあったのだけど、朗読もイイなー、やってみたいなーと思わされたのでした。

  • 朗読部という部活があるのを初めて知りました。 朗読は、ただ単に本を読むことではないこと、作品の意味を教科書通りただ解釈するのではなく、そその解釈を尊重しながら、こに個々の読み手の解釈や想いも入ってくること・・・。 新しい世界を知ることができました。 朗読部で取り上げられた絵本や古典文学にも興味を持ちました。

  • 人前で声が出なくなる透を朗読部に熱心に誘う遥。
    引きずられるように入部してしまうが…。

    絵本や古典作品への深い洞察から挑む朗読。朗読コンクールなるものがあると知らなかった。
    真正面から絵本や古典の解釈を語る作品で、面白かった。

    ヒロインの女の子の行動が突飛に感じられ、もひとつ応援出来なかった。
    あと、乗り気でない男子に女装をさせる、女装を罰ゲームにするというのも(未遂だけど)気になった。子役時代にスタッフがやったことは黒。
    部活メインの群像劇を見てみたい。

  • ボーイ・ミート・ガールの高校生青春物と簡単に言えるが,朗読部というマイナーなクラブ活動の中で過去のトラウマを克服し成長していく姿が爽やかで清々しい.そして,朗読されるたくさんの本の解釈が興味深かった.

  • 天才子役として知られていた主人公の男の子高島みのるが、中学生の朗読大会で散々な結果になり世間から罵倒され、学校でも虐めにあい声が出なくなる。
    芸能界からも去り、高校入学と共にいちから出直すために実家から離れた高校へ通い初める。
    そこで出会った破天荒な女の子遥。
    遥に振り回されるように入部した朗読部でもう一度朗読の楽しさに気づき、さらに仲間ができ、そこから遥のある秘密が…
    と言う綺麗にまとまった話の流れ。
    女の子の設定がややラノベっぽいなぁと思っていたら作者の方はラノベとかを書いてたりする方と知る。
    朗読に対してあまり知識がなかったけど、この本を読んだらちょっと興味が出た。
    ただ読み聞かせるだけでなく、同じ話でも色々な解釈をされて朗読がされるのはとても面白い事だなと思った。

  • 高校の朗読部を舞台にした青春小説。
    主人公は、かつて天才子役と呼ばれていて、朗読コンクールでは○年連続優勝という輝かしい成績だったが、あることがきっかけで人前で声を発することができなくなった。
    周りの仲間と関わりながら、朗読を通して、言葉の解釈、表現などを発信することで、自分たちがどう成長していくのか感動を誘ってくれます。

    読んでいて思ったことは、暗い過去を背負っている主人公、元気なヒロイン、だけど・・・など、どことなく漫画の「四月は君の嘘」の要素に似ているなというのが正直ありました。でも、この作品は言葉を表現することで感動を与えてくれます。

    朗読というと、地味で淡々と読んでいるというイメージが昔あったのですが、Eテレの「おはなしの国」や実際に体験してみると、とても奥深いなと思いました。
    一つの文章でも色んな解釈が生まれ、それを自分を道具にして発信する。単純だけれども難しさが相当にあり、初めて朗読に触れ合う人もガラリと印象が変わるのではないかと思いました。

    なかなか文章だけで朗読の良さを伝えることは難しいかなと思いましたが、それぞれの部員がどのように課題を解釈し、どう表現するのか、苦悩する姿が丁寧に描かれていて、青春してるなと感じました。
    ぜひ音声も聴いてみたいなと思いました。

    自分自身と戦い、自分自身で答えを見つけていく。朗読だけでなく、他の分野でも似たようなことと通じるのではないかと思います。青春小説だけでなく、バーンと背中を押してくれるような前向きにもなれましたし、感動もさせてくれました。

  • 背ラベル:913.6-オ

  • 面白かった。朗読の世界を知らなかったけども、引き込まれた。ただ、「小説の神様」に展開が似ていたから少し気になった。朗読の世界を知れたので僕は満足しています。ただ本を読んでいる世界だと思っていた自分が恥ずかしい。これを機に朗読の世界をもう少し知ろうと思います。

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著者プロフィール

1978年、新潟県生まれ。作家、成蹊大学文学部准教授。専攻は日本近代文学。小説に『遥かに届くきみの聲』(双葉社)、『小説 牡丹灯籠』(二見書房)、著書に『言語と思想の言説――近代文学成立期における山田美妙とその周辺』(笠間書院)、『中高生のための本の読み方――読書案内・ブックトーク・PISA型読解』(ひつじ書房)、共編著に『ライトノベル・フロントライン』全3巻、『小説の生存戦略――ライトノベル・メディア・ジェンダー』(いずれも青弓社)など。

「2023年 『落語と小説の近代 文学で「人情」を描く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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