明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち (世界傑作童話シリーズ)

  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834083859

作品紹介・あらすじ

ナチスドイツから逃れるユダヤの少年、カストロ政権下のキューバを出てアメリカに向かう少女、内戦下のシリアからヨーロッパをめざす少年。故郷を追われて旅立つ3人の物語が、時代や国を超えて同時進行で語られる。彼らの運命はやがて思わぬところで結びつくことに……。命の危険にさらされ恐怖と闘いながらも、明日への希望を見失わず成長していく子どもたちの姿を描く。歴史的事実を踏まえたフィクション作品。

感想・レビュー・書評

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  • 1938年、ドイツ ベルリン。半年間強制収容所に入れられていた父が国外退去を条件に釈放されたので、12歳のヨーゼフは母親と妹とともに客船セントルイス号に乗り込みキューバへ向かう。ところが、キューバ沖に停泊したもののいつまで経っても上陸許可が出ない。乗客たちは次第に不満を募らせていく。
    1994年、キューバ ハバナ。父が、市民の暴動に加わって警察に追われる身となったために、11歳のイサベルは、祖父、両親、隣の家族とともに、手作りのボートでアメリカへの脱出を試みる。ところがまもなくエンジンが止まり、巨大なタンカーが近づいてきた。
    2015年、シリア アレッポ。12歳の少年マフムードは、ミサイルにより自宅を破壊され、両親、弟、赤ちゃんの妹とともにトルコ経由でドイツに行こうと考える。ところが道中武装した兵士に車に乗り込まれ、その後銃撃に遭い、車と荷物を捨てなくてはならなくなった。

    3人の少年少女を中心に、難民となった家族の苦難に満ちた旅を、史実を基に描いたオムニバス。





    *******ここからはネタバレ*******

    ユダヤ人を乗せたセントルイス号の話は有名らしいですが、私は知りませんでした。ナチスの人たちが、仕事とはいえユダヤ人をもてなしていたなんて、ヨーゼフが驚いたのもうなずけます。
    ヨーゼフたちが行きたかったキューバから、その60年後に大量の移民が出てくるなんて、当時は想像できなかったのでしょうね。

    大量の難民を出したドイツが、最後には難民を受け入れ、そのホストファミリーは、もとユダヤ人難民だったということが、このオムニバスの「接点」なのでしょうが、これは表紙裏のカバーで種明かししてほしくはなかったところです(個人的感想)。

    この作品の原題は「refugee」。原題はそのものを表していますが、そのままだと日本の子どもたちは手に取りにくいかもしれませんね。

    日本語訳が非常にわかりやすいので、高学年から読めると思います。

  • 『明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち』(福音館書店) - 著者:アラン・グラッツ 翻訳:さくまゆみこ - 安田 菜津紀による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    https://allreviews.jp/review/4270

    HIRASAWA Tomoko illustration
    http://studio-dessin.com/

    明日をさがす旅|福音館書店
    https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=5968

  • 1939年、ナチスの迫害を逃れるためユダヤ人の少年ヨーゼフはキューバ行きの客船に乗り込む。1994年キューバの少女イサベルは生活苦と抑圧から逃れるため、隣人の手製のボートでフロリダを目指す。2015年シリアの少年マフムードは戦争難民となり、ゴムボートに乗ってヨーロッパを目指す。
    時代も場所も違う三人が家族とともに生きる場所を求めて船に乗り込む。
    三人の物語が交互に出てくる。個人的にこういう形式が大好き(『楽園への道』とか『すべての見えない光』とか名作も多い)だし、アラン・グラッツは『貸出禁止の本をすくえ!』が良かったので、大いに期待して読み始めた。
    三人が新しい土地で暮らし始め、徐々に関係が見えてくるという物語かと思ったが、そうではなく、たどり着くまでの旅路の話がメインだった。三人が直接かかわりあうことはなく、物語の最後のほうにちょっとつながりが出てくるだけ。そういう意味では期待とはずいぶん違っていたのだが、「難民」の過酷な現実がリアルにが伝わってくる。

    私たちは、日ごろ意識はしないが様々なものから守られて暮らしている。働けば給与がもらえるし、病気になれば病院へ行ける。収入がなければ社会保障が受けられる。学校に行って教育が受けられる。しかし難民になるということは、それらすべてを手放すだけでなく、最低限の食べ物すら手に入れられず、眠る場所もなく、常に命の危険にさらされることを意味する。それがわかっていて、それでも国を出たい、ということは、生半可な状況ではないということは想像できるが、私たちはその人の立場に立ってみるということをしない。だから平気でいられる。
    2015年、つまり現代のシリアの少年マフムード一家は赤ん坊もいるのにゴムボートでトルコからヨーロッパに渡ろうとする。ゴムボートは明らかに定員オーバー、ライフジャケットは使い物にならない。途中でボートが壊れ、海に投げ出される。希望は、たった一つ。ドイツが難民を受け入れてくれること。
    この少年が自分だったら?荒れた海で死にかけ、収容所に入れられて犯罪者のような扱いを受け、入ろうとした国はフェンスで囲われている。何ひとつ罪を犯したわけでもないのに。ただ生まれた場所と時代がひどかっただけなのに。
    アメリカに向かったイサベル一家も、ユダヤ人のヨーゼフ一家も、安住の地に簡単にはたどりつけない。

    ドイツも、イサベルを受け入れたアメリカも、現在は難民受け入れを減らしている。日本ははなからほとんど受け入れていない。そこには、自国を守る意識はあっても、他者への思いやりはない。
    難民が出ないように、戦争や経済危機、宗教や人種による差別をなくすことが重要だが、現在すでに存在している難民に対して手を差し伸べることも必要ではないか。
    子どもたちにこうした人が今も世界中にいることを知る機会を与えなければ、決して問題は解決しない。

    三人の物語が交互に、という形式が、読解力のない子供には難しいかもしれないが、読んでほしい。大人にも。

  • 1939年、ドイツからキューバ経由でアメリカを目指すユダヤ人少年ヨーゼフ、1994年、経済が崩壊したキューバからアメリカを目指す少女イサベル、2015年、戦火のシリアからドイツを目指す難民の少年マフムード。3人の子どもたちの過酷な旅をたどる物語。それぞれの登場人物に心を寄せずにはいられない。彼らの辛い運命と立ち向かう勇気。驚愕の結末にしばし茫然としてしまう。

  • 1939年ユダヤ人の少年ヨーゼフ、1994年キューバの少女イザベル。2015年シリアの少年マフムード、時代も国も異なる子ども3人の共通点は、故郷を追われ受け入れ国を目指している「難民」だということ。
    3人の話を並行して語ることで話が頻繁に切り替わり、入り込んでいる気持ちが遮断されるため読み難さはあるものの、それは、いつの時代でも愚行は繰り返され、今、この時にも起きているのだと訴える為のプロットなのだろう。
    そのことを知る意味でも意義のある本だ。
    繰り返される愚行、憎悪。
    その中で誰かを守るため、繰り返される愛の物語が胸を打つ。

  • 「わたしは、生きている間ずっと、物事がよくなるのを待っていた。マニャーナには明るい光がさしてくると思ってな。でも、おかしなことに、世界が変わってくれるのを待っている間は、何も変わらないんだ。わたしが、変えようとしなかったからだ」
    キューバからアメリカに亡命しようとするイサベルのおじいちゃんの言葉に、すべてが集約されている。そして、その言葉は読む側にも突きささってくる。

    シリアのアレッポから逃げてきたマフムードの、見えない存在でいればだれにも気にされずにすむけど、それでは誰にも助けてもらえないというのも、矢のように突きささる言葉。
    日本の入国管理局の非人道行為、なんとかやめさせられないのか……。いろいろつらい。

    3人の視点から描かれて時代も場所も飛び飛びになるので、たしかに読みづらい部分もあるのだけど、最後の著者自身による解説を先に読んでから取りかかるといいかもしれない。

  • すごくよかった。なんもいえねえ。
    っていうくらい。アラン・グラッツさんは「貸し出し禁止の本を救え」もよかったけど、これは…すぐさま娘に勧めた。三人の時代も国も違う亡命者が順に語られていく。それが最後につながるところもいい。これが完全フィクションならうまくまとまっている感じもわかるが、いろんな事実に基づいて書かれていることに驚きだ。読みながら、ああそうだ、だからドイツなんだねと気づく。ナチスのことがあったから、ドイツは難民をたくさん受け入れていると聞いたことがある。日本もこういうところはもっと見習わないといけない気がする。もちろん、やってもいるのだろうけれど。難民も含む外国人の受け入れも……個人的に少し抵抗を感じていたけれど、こだわりを捨てて考えなくてはいけないのだろうな。
    これは来年やまねこ賞投票したい作品。

  • 1939年、ナチスの手を逃れ家族でドイツからキューバを目指すヨーゼフ。1994年、政治的抑圧と貧困でキューバを脱出、アメリカを目指すイザベル。2015年、自宅が爆撃で破壊され、シリアからヨーロッパを目指すマハムード。

    3つの旅がやがて邂逅する。

    衣食住の“住”の大切さがひしひしと伝わる。
    平時であればしっかり守ってくれた両親が、戦乱や非常時の中であるものは迷い、あるものは壊れてしまい、子どもたちが家族を引っ張っていかざるをえない状況になる。
    実際に起きた事柄をベースにした物語。

    国を追われる人々のことを自分事としてとらえるために。

  • 「ナチスドイツから逃れるユダヤの少年、カストロ政権下のキューバを出てアメリカに向かう少女、内戦下のシリアからヨーロッパをめざす少年。故郷を追われて旅立つ3人の物語が、時代や国を超えて同時進行で語られる。彼らの運命はやがて思わぬところで結びつくことに……。命の危険にさらされ恐怖と闘いながらも、明日への希望を見失わず成長していく子どもたちの姿を描く。歴史的事実を踏まえたフィクション作品。」

  • ナチスとキューバのカストロとシリアの内戦と、3つの物語が交代で語られる。
    どれも厳しい現実からの逃避行で、犠牲を伴うつらい話だった。
    ひとつひとつの物語をもう少し長く語ればいいのに。
    続きが気になってページを飛ばして読んだり、前がわからなくなってページを戻したり、
    読みにくかった。

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著者プロフィール

アラン・グラッツ 1972年アメリカ・テネシー州に生まれる。テネシー大学で創作を学ぶ。デビュー作のSamurai Shortstopがアメリカ図書館協会のヤングアダルト部門トップ10に選ばれて以降、作品を発表するたびに高い評価を得る。本作Refugeeは数々の文学賞を受賞し、また1年以上にわたりニューヨークタイムズのベストセラーとなった。

「2019年 『明日をさがす旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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