それから [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 定職を持たず親からの仕送りで暮らしている代助は親から縁談を勧められるもなかなか気が向かず断り続けていた。代助は友人平岡の妻・三千代にひそかに思いを寄せていたのである。代助はかつて友人平岡に対し自ら斡旋して三千代と平岡2人を結びあわせたが、それは自然に逆らった行為であった。代助は三千代に対しつのる思いを告白しようとするが…。詳細→
    http://takeshi3017.chu.jp/file9/naiyou8110.html


  • 彼は此取り留めのない花やかな色調の反照として、三千代の事を思ひ出さざるを得なかつた。
    さうして其所にわが安住の地を見出した様な気がした。けれども其安住の地は、明らかには、彼の眼に映じて出なかつた。ただ、かれの心の調子全体で、それを認めた丈であつた。従つて彼は三千代の顔や、容子や、言葉や、夫婦の関係や、病気や、身分を一纏にしたものを、わが情調にしつくり合ふ対象として、発見したに過ぎなかつた。


    彼は彼の頭の中に、彼自身に正当な道を歩んだといふ自信があつた。彼は夫で満足であつた。その満足を理解して呉れるものは三千代丈であつた。三千代以外には、父も兄も社会も人間も悉く敵であつた。彼等は赫々たる炎火の裡に、二人を包んで焼き殺さうとしてゐる。代助は無言の儘、三千代と抱き合つて、此焰の風に早く己れを焼き尽すのを、此上もない本望とした。彼は兄には何の答もしなかつた。重い頭を支へて石の様に動かなかつた。


    さうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと焰の息を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼き尽きる迄電車に乗つて行かうと決心した。



  • 漱石先生のファンで、有名なタイトルを時系列に網羅していくチャレンジ中です。
    「それから」読み進めるのがつらいけど、どんどん読むスピードが加速していきました。
    登場人物は全員クソ野郎です。でも全員その辺にいそうな感じの人たちです。世間にいろいろある恋愛のひとつの、1シーンを切り取ったような小説で、そこらじゅうにありそうな話なんですが、そのせいで「お前は俺か!」って思わせる、登場人物みんなの心の機微を絶妙に読者の心に映してくれます。この二人は愛し合っているけど、幸せにならないな、という空気が不気味に漂ってつらくなりました。
    漱石先生は、こんな恋愛は幸せにならないよって諭したいのでは決してなくて、人は変なこともやっちゃうし、かっこつけたがりだけどださいし、真剣に人を好きになっても報われないことが多いし、それまで積み上げたものを失うし、曖昧な感じで生きてうまくいく人もいるし・・・それが人間だよね、とやさしく厳しく語りかけてくれている気がする。

  • 当たり前だけども、表現の幅がとにかく広い。

    世間を自分の家の様に心得ている
    お世辞を置き去りにして出て行った

    …など、自分なら考えも及ばぬ様な言い回し。

    それゆえに、情景と心の動きとがパッと思い浮かんで、お話の中にどっぷりと入り込んで行けるのかと。

    ストーリーは、一言で語ると「友達の奥様と恋に落ちるニートの紆余曲折」になるのだけど、ストーリーそのもののみで語るのは文学作品の楽しみ方の一部でしかないなと感じます。

    代助さんは自分の哲学を拗らせたような男性であるし、こんな人とは付き合うのはどうかな…とは思うけれども、白百合の告白での情熱的な一面にはグッと来てしまった…

  • 精神的世界に生きるか
    物質的世界に生きるか

    「自由に」生きるってどういうことか

    家族・社会に従う生き方とそうでない生き方
    そういった対比でならわかるけど

    美しいと思うことが一緒とか
    そういう価値を分かち合う相手と共に生きることを選ぶ

    でもそういう相手との生活をするために
    労働をしなければならなくなった時
    その相手は変わらず理解できる相手でいてくれるのか
    それとも肉に生きるようになった時点で大切な相手ではなくなってしまうのか

    「それから」というタイトルの通り

    家が絶対的な力を持っていた時代から個人が浮かび上がってきた時の悩みをヒリヒリ感じさせる

  • 青空文庫での再読。
    紙媒体で読んだ時と比べて、若干考えすぎてる感が目について★を一つ落としました。西洋と比較した日本の個人・社会・国を真面目に考えていたんだな、と改めて感じましたわ。
    でも最後のエンディング、彼らは矢張り上手く行かないような気がして。この後に続く「道草」などが頭にチラつくからかもしれないけれど、それこそヨーロッパで生まれた「失楽園」の世界とかをイメージしたものなんでしょうかね。

  • 最後の急展開に驚かされた。赤の描写まで引き込まれて行く感じがたまらなかった。ただこれを味わうにはやはり前半の進むようで進まなかったりたまに少し進んだりする場面が確かに必要だと思った。

  • 今の生活を犠牲にしても望むことなのか
    不義理をしても自分の気持ちを優先させていいのか

    そんな事を考えさせられた。

  •  『三四郎』『それから』『門』と続く夏目漱石前期三部作の二作目。主人公の代助は30歳過ぎて就職も結婚もせず、難しい本を読んで高尚な理屈ばかり並べている“高等遊民”。実家を離れて親の金で暮らしているのに何故か家に使用人がいる。親から何度も見合いを紹介されながら断り続けている。そして実は友人の妻に横恋慕している。要するに、気位ばかり高いニートだ。

     「働いたら負け」という有名なニートの言葉があるが、就職に対する代助の態度もそんな感じだ。初版発行は1909年なので、100年前からそんな人物がいたのかと思うと、日本のニートの歴史は長さに驚かされる。もちろん代助は架空の人物だが、そういう人が全然ありえなかったわけではないのだろう。

     いつまでも結婚せずにいて家族から心配されている点は自分と共通だが、その理由は全然違うし、彼の生き方には共感も羨望も感じない。ただ、かと言って軽蔑する気にもなれないのが不思議なところだ。こういう人が友人にいたら、それなりに面白く付き合えるかもしれない。

  • 出張に持って行ったキンドルである本を読み始めたのだけれど、どうも気分的に乗れず、キンドル内に積ん読していた『それから』に手を伸ばした。

    芸術や文化を追求し、労働はそれを妨げるものにすぎないとして、親のすねをかじりながら生活している代助が、友人・平岡の妻に惚れてしまう。親から勘当され、友人も失いながら恋愛に進むことを選んだ代助だが、生活の糧を得る術を全く持たない自分に気づく。そして、代助の『それから』は破滅に向かうのでは、と思わせて物語は終わる。
    初めは、代助をモラトリアム、あるいは現代でいうニートに近い人物としてとらえて軽い気持ちで読んでいたが、この小説が書かれた時代をふと思い出し、実はテーマは重いのでは、と考えを改めた。『それから』が書かれた1909年は、日清戦争、日露戦争に勝利し、西欧列強に肩を並べようとしていた時代。そう考えると、西欧から始まった芸術や文化を追求した代助は、当時の日本の姿そのものに重なってくる。そして、その代助は破滅を予感させて終わる。漱石は、西欧を意識しすぎることへの警笛を鳴らしたかったのか。そう考えると、俄然この小説の重量が増した。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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