ふたりの証拠 [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 今度は固有名詞がつけられて、3人称で語られる一見普通の小説になっている悪童のその後。人生を狂わされた人々が次々に登場してくるが、やはり子どもが痛ましい。マチアスが自殺してしまうのはなぜなのか、マチアスの母をリュカは殺したのか、ミステリーのような、しかも回収されない謎が続く。一続きの物語ではないということか?

  • いい本だったなぁ。前作と比べるとこちらの方が人々の心の動きが感じられて感情移入しやすい。ずっと語り部だった双子すら名前も出ていなかったことに気がつく。そういえば「僕ら」とずっと語っていたが、語っていたのはどちらだったんだろう。一心同体のような、同じものを見て同じことを考えていたのだとしたらどちらだったとしてもいいのだろうか。なんとなく私が話を聞いて慣れ親しんだのは今回の話の中心、リュカだったのではと思った。戦争が残したものはまだずっと感じられるのだが、人間らしい暮らしの暖かみがある。不具の子マティアス彼がもたらした影響は大きい。孤独も歪もずっとある。戦争をひきずって、未だ傷つけられて、みんなどこかおかしい。でも不思議と絶望は感じない。ちゃんとあちこちに愛の気配が漂っている。
    年月を経て街は変わって平和になっていったのに、その経過に切なくなった。辿々しく街を訪れるクラウスの視点に同情する。まだ謎もある。三作目を早く読みたい。

  • 表現手法は所謂「普通の小説」に似たものになっている。悪童日記の1人称視点での語りに惹かれて本書を読んだ場合、期待していたものとは違う作品だと感じるかもしれない。しかし、感情表現や修飾がなく簡潔に進んでいく語り口から、悪童日記の続編であると感じると同時に、作中の世界が持つ独特の重苦しさ、残酷さ、美しさをまた味わうことができる。

    ネタバレになるため詳しくは書かないが、作品の冒頭から読後まで常に”疑念”を抱かせる内容である。マーダーミステリーのような、暗い謎がいつ明かされるのかという緊張感と期待感を持ちながらも、謎のまま明かさないでくれと願いながら読んでいた。物語が進めば進むほどに、出てくるのは絶望であり、特にマイノリティーとされる人々の生きること、他人と関わることの難しさ、そして世の中の残酷さであった。それは、最後の謎が解き明かされる?時まで変わらない。

    作品のもう1つの主題は「愛」である。様々な愛の形が生まれ、失われていく過程が、真っ直ぐに、叙情的な表現なしに描かれる。本作の世界は、1つの愛が永遠に続くほど、優しいものではないのだろう。
    ただ、現代社会よりも隣人愛や家族以外への愛は多く育まれているような気がして、果たして今の社会は昔と比してどのくらい残酷なのだろうか、という気持ちにもなった。

  • 『悪童日記』の続編。別れ別れになった双子の一方のその後。
    戦争と退廃の街、想像を超えるようなエピソードが続く。いくつかの死と殺人があるが、その理由は語られず、少年は常に淡々としている。
    強い、と思う。強いというのは大声で主張することでもなく、光をまとおうとすることでもない。強い人は静かだ。
    とても印象に残ったシーンを書き出しておこう。
    『リュカは見つめる。女と男が、肩を寄せ合い、目を閉じて、秋の朝の湿った冷気の中、忘れられた小さな町の全き静寂の中にいる光景を――。』

  • 素晴らしい。素晴らしい。

  • 「悪童日記」三部作の第二作にあたります。
    私は、初めて、読んだ時、眠られませんでした。
    美しい世界観です。
    触れてみて欲しいと思います。

  • 前作『悪童日記』の「僕ら」の1人であるリュカの視点で綴られる物語。前作は演劇のように短い章立てが乱立し、目まぐるしいテンポで描かれていた。登場人物達も司祭や靴屋など、役割だけで呼ばれ個人名というものは登場しなかった。
    今作では一転して、一般的な小説の様式で、よくあるように登場人物達は名を持っている。
    主人公であるリュカも、悪童日記のような超越性は若干落ち着き、一般的な世の苦悩に絡め取られ始めている様子が見える。
    視点の持ち主が「僕ら」から「リュカ」になった結果、世界は俗な見え方となり、それはリュカがまた成長とともに同様になっているのを表している。
    そして物語は、この二作の持つ空想性の秘密を明かす事実を提示して終わる。

  • 引き続き、アゴタ・クリストフの続編『ふたりの証拠』を聞く。前作と地続きというか、前作の最後に描かれた別れの直後から物語が始まる。小さな町に残った双子の片割れがリュカという名前だったことがはじめて明かされる。前作はぼくらの秘密の作文のテイで書かれていたため、ぼくらはつねに一人称だったが、本作ではリュカも「彼」であり、より客観性の高い記述となっている。とはいえ、前作のぼくらも感情表現は排除して事実だけを記述する突き放した姿勢で貫かれていたので、違和感はほとんどない。

    オーディブルはアゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』の続き。相手の状況を一顧だにせず自分の都合だけを一方的に押しつけるリュカの無敵の人ぶりが恐ろしい。閉店後だろうが深夜だろうがまったく構わず相手が出るまで呼び鈴を鳴らし続けるのもそうだし、クララがどれだけ拒んでも気にするそぶりさえ見せずに平然とストーカー行為を続け、相手が根負けするまで押し通すその我の強さというか、相手に対する共感力の圧倒的な欠如が、感情表現を排した即物的な記述とあいまって、リュカの渇ききった心の砂漠の果てしなさを強烈に印象づける。

    だが、どこかでネジがイカれてしまったのはリュカだけではない。実の父親との近親相姦によって生まれた我が子を手にかけ損なってリュカのもとに身を寄せることになったヤスミーム。妊娠してることを隠そうとおなかをコルセットで締めつけたせいで肩と脚に障害を負ったその子マティアス。国家反逆罪で最愛の夫を絞首刑にされ、
    一夜のうちに白くなった髪の毛を抱えつつ、金曜の夜にだけ訪れる妻子ある精神科医との不倫関係を終わらせられずにいるクララ。党書記の要職にありながら禁じられた同性愛への渇望を抑えきれないペーテル。彼らが狂ってるように見えるとしたら、それはきっと、自分の目が曇っているからだ。人は誰でも、他人には言えない秘密をひとつやふたつは隠し持っている。

    別れ別れになった双子の片割れの名がクラウスだと明かされる。

    オーディブルはアゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』の続き。老衰で小さな町を去る司祭に「ぼくに感謝なんかしないでください。ぼくの内には、どんな愛も、どんな思いやりもありはしないんです」というリュカは、母親のようなクララのもとに毎晩通って肉欲に耽るが、その心は渇ききっている。

    そんなリュカに愛想を尽かしたのか、マティアスを残して突然姿をくらましたヤスミーヌ。「大きな町に行った」とリュカはいうのだけど、あまりに平然としたリュカの様子に、「これって死亡フラグじゃね?」という疑いが頭をもたげてきてゾクゾクする。

    ペテール「きみに兄弟がいるとは知らなかった。兄弟がいるなんて、これまで一度も私に話してくれたことはなかったね。そんなこと、私はほかの誰からも、きみをきみの子供の頃から知ってるヴィクトールからさえ聞いたことがないよ」

    ここでもう一つの、もっと根本的な疑問がいよいよ確信に近づく。クラウスなんて最初からいなかった?「ふたりの証拠」って題名も意味深だし……。

    クララ「ヤスミーヌが出ていったもは、あなたに愛されなかったからね」
    リュカ「ぼくは、彼女が困っていたときに援助したんだ。何も約束はしなかったよ」
    クララ「私にも、あなたは何も約束しなかったわね」

    そして本屋のヴィクトールも本屋兼住宅をリュカに売って小さな町を去る。一度疑い出すと、あれもこれも死亡フラグにしか見え無くなってしまうんだけど……。

    オーディブルはアゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』が今日でおしまい。ヤスミーヌの死亡フラグは無事(?)回収されたが、マティアスのそれは全然聞いてなかったよ!あとヴィクトールは殺されずに故郷の帰ったんだとホッとしたのも束の間、物語はあらぬ方向に歪んで、別の意味で死に至ったのも驚いた。

    LUCASとCLAUSがアナグラムなのは読めばわかるが、ただの二重人格なのだろうか。さんざん著者の巧みな「嘘」に付き合わされた身としては、そんな単純な回答をにわかに信じられないのも無理はない。

    本書の終わりに「K市当局が、D大使館向けに作成した調書」とその「付記」が添付され、客観的事実が「それだけしかない」と知らされたときの、驚きといったら!それまで踏みしめてた大地が音を立てて崩れていくような感じがした。マジすげえな、アゴタ・クリストフ!

  • 『悪童日記』の続編。
    双子のひとりクラウスは国境を越えて隣国へ、一方のリュカは「魔女」と呼ばれた祖母の家に残った。
    本書は後者、リュカの物語だ。

    読みながらときどき脳裏をよぎっていたのは、フランシス・ベイコンの、あの、存在そのものが叫び声をあげているような肖像画だ。
    その叫びはあまりに深い場所から発せられているので、じっさいの叫びとなって声に出るまでには永遠の距離がある。

  • 『悪童日記』の続編です。国境の中と外に分かれた双子はそれぞれ名前を持つようになり、中にいるリュカのその後が描かれます。2人の時はつらい世をたくましく生きぬいたリュカが、ここでは病んだ人々と共にひたすら孤独の中にいます。はたして彼らは本当に2人だったのでしょうか。

  • 「悪童日記」の続編。
    戦争は終わっても、暗く不安定な日々が続く。
    どこまでも重苦しい。

  • 過去の既読本 実物なし

  • 「悪童日記」とはテイストは違えど、読めば読むほど引き込まれる。悪童日記を読んだ方はぜひ読んでほしい一冊。
    ※「悪童日記」を読んでない方は、絶対に読んでから本書を読んでください。

  • 三部作の二作目。本書で筆者が描きたかったのは喪失感だろう。戦争により様々なもの失った人々が登場する。精神の安定を求めてもがく姿が詳細に描かれるが、そこには余り希望はなく、どちらかという絶望だ。特に、生まれながらにして多くのものを失っている不具の子供は悲惨だ。主人公の注ぐ愛情も結局かよわぬままに命尽きてしまう。本当の戦争の惨禍の姿というと言い過ぎだろうか。

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著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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