ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。登場人物豊富で重厚長大なストーリーだが、メインはやはり二人の天才の人生の物語だ。
    上巻はクメールルージュの革命までで終わったが、時代は一気に経過し2023年に。ソリヤは自らがルールを作りゲームの王国をつくるために、国のトップになることを目指していた。そこにはルールが全く機能しない腐敗したカンボジアで育ての親を殺された経験が根底にあった。一方のムイタックは脳科学の研究をする教授になっていた・・・。そして二人は最後にゲームで再会し結末を迎える。
    脳波でゲームをコントロールするのは将来本当に実現するかも?そしてゲームで勝つためには特定の脳波が必要で、そこには特定の妄想・記憶が必要で、それにより物語が生まれていく・・。

  • 面白かった。ソリヤの義父が捕まった場面、拷問による自白は正確性に欠けるが、正確さや法の秩序も関係なくただ"共産党員"を一人でも多く捕まえるゲームになってるんだな。ソリヤは正しいルールを設定して、ゲームの内容を変えようとしたかった。ムイタックが自身の人生をゲームに仕込んだのは、やはり"理解してもらえない"孤独をみなに知ってもらいたかったのか。「ブラクションゲーム」ってつまり小説のことじゃないのかな。小説を読んでるときに起きる脳と感情の動き。読むことを"楽しむ"が読解の中心にあるというか。なんてことをつらつらと考えていた。実際は難しいところもあって理解が半端なんだけれど、それでも貪るように読んだ。どこに連れて行かれるのかわからない感覚は久しぶりだ。

  • ソリヤやムイタック、ティウンといった主だった人々が、いきなりけっこうな年齢で出てくる。年代も俺が今読んでいる2021年よりも、ちょっとだけ未来になっている。ポルポト政権がどうなっていくのか、ソリヤは、ムイタックの運命は?なんて漠然と予想していただけに、豪快なまでの肩透かしだ。

    カンボジアの近現代史を背景にした、革命に翻弄される子どもたちや、まわりの人々といった展開から一転したんだよね。こちらで描かれているのは、むしろ近未来のカンボジアでの政権中枢に近づいた人をめぐるスキャンダルだ。不正に出会うと性的に反応するジャーナリストとか、ソリヤの養女、父親に古物商に売られた少年たちの物語があらわれてきて、だんだんひとつの物語となっていく。こちらはSFサスペンスという面持ちかな。この下巻だけでも、物語は成立しているんだけど、それでは深みがなくなってしまう。下巻で展開するサスペンスに、そこに至る背景を理解してこそ、ここまで物語に引き込んでくれたのだろう。

    SF小説のつもりで手に取って、少し読み進んで「?」となり、買ってから1年くらい放っておいた。ふと思い立って読み始め、カンボジアの近現代史にひきこまれたと思ったら、今度はSFにかわっていた。

    最後まで、愉しませてくれる小説だった。この著者の本を、また読んでみたいと思ったな。

  • 上巻から続くエピソードが絡み合い、難解な内容が続く。面白さがイマイチ分からなかった。一度で理解するのは無理かも。

  • 感想は上下あわせてのものです。
    ポルポト政権下前後のカンボジアで生まれ育っているとある少年少女のお話。。。明るく楽しいお話になりえないのがそれだけで察せられる。そのあたりの話はふんわりとしか知らなかったけど、これはひどい。共産思想ってなんか政権とっちゃうとこんなんばっかな。どこもかしこも。まあそれは置いといて。
    そんな絶望しか感じられない上巻が終わって下巻でムイタックたちの反撃が・・・とはならず。舞台はそこから半世紀。まあそうだよな。ポルポト政権がその後どうなったのかは史実としてあるわけなんだし。
    でもこう、思ってたよりガラッと変わりましたね。急に近未来SFになったような戸惑いがありました。
    おもしろかったんですが、悪人がとくに裁きをうけるでもなく終わってしまったのと(それはそれでリアルなのかもしれませんが)、上巻読み始めたときから「この二人が最後に幸せになりましたみたいな終わり方は絶対ないんだろうなあ」というのがなんとなく予想通りで・・・

  • 「嘘と正典」で虜になった小川哲作品をもう少し、と思い手に取った。上巻は、カンボジアがポル・ポト支配の闇へと落ちていく過程で、田舎の村にあって聡明で風変わりな少年として育つムイタック、養父母を殺され育ての父とは国籍の違いで引き裂かれ、国のなかで高い地位を得て理想の国家を作ろうと邁進するソリヤの視点ですすめられる。ふたりは一瞬の邂逅で、ムイタックの兄ティウンも含めてゲームをし、はじめて総力を尽くして勝負のできる相手を得たと深い喜びを得るが、のちにソリヤも関わる形でムイタックの故郷ロベーブレソンの住民のほとんどが虐殺されたことで、たもとをわかつことに。「泥」と呼ばれる村民が殺し屋13人を向こうにまわして、土を武器に戦うところは、SFというより南米のマジックリアリズムのような趣を感じ。下巻はいっきに半世紀近くの時が経ち、ムイタックやソリヤの次世代の人物もあらわれ。脳波の測定から記憶の改ざんの示唆などが含まれるゲームが登場し、物語で大きな役割を果たしていく。大学教授として脳波の研究につとめるムイタック。野党の議長となり政権まであと一歩のところまできたソリヤ。事業を起こし富豪となったティウン。ムイタックの村の友人の息子とソリヤの養女が、ムイタックの研究室に入り、ゲームをつくりあげていき、そこにムイタックの研究ももりこまれ、それをソリヤが手にすることで…。究極的にはふたりとも、あの一瞬の邂逅を生涯大切に思っていて、最高の理解者とともにゲームをすることをのぞんでいた、その結果はおそらく次の世に持ち越され…と。これだけの群像劇とそう来たかという発想の飛躍、重苦しい血と統制のはびこる圧政の描写、ルールがルールとして守られる美しいゲームの王国を作ろうとしたソリヤの理想。大きなスケールと力でぐいぐいと引き込まれた。

  • 上巻の終わりは1978年、ソリヤとムイタックの決別で幕を閉じましたが、下巻では一気に2023年に飛び、野党第一党の党首となったソリヤが演説を行うシーンから始まります。上巻と違って下巻では時系列が入り組んでいますが、おおむね2022年以降の近未来が描かれており、カンボジアを「ゲームの王国」に生まれ変わらせるべく権力の頂点を目指すソリヤと、村の大虐殺から生き残って大学教授となり、開発した対戦型ゲーム「チャンドゥク」で世界を変えようとするムイタックを中心に描かれています。
    時系列の構成だけでなく、下巻では物語の色合いが上巻と比べて大きく変わっています。下巻は完全に「ゲーム」を軸としたSFの世界で、ポル・ポトっていう強烈な時代背景に乗っかっていた上巻に比べると、正直迫力不足の感は否めないかなあと思いました。相変わらず国家警察や殺し屋といった分かりやすいヒール役も出てくるし、すっとぼけた精神科医のシーンなんかも笑えるんだけど、何しろ上巻が凄すぎたので期待値が高くなりすぎたかも。でもまあ、ゲームと人生を巡るリアスメイとムイタックのやり取りは面白かったですし、上巻のちょっと不思議な出来事が下巻の伏線になっている点なんかも興味深く、もろもろを含めた全体としての満足度は高いです。直木賞候補作になった『嘘と正典』もなかなか良かったので、次の作品も楽しみになりました。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年『ユートロニカのこちら側』で、「ハヤカワSFコンテスト大賞」を受賞し、デビュー。17年『ゲームの王国』で、「山本周五郎賞」「日本SF大賞」を受賞。22年『君のクイズ』で、「日本推理作家協会賞」長編および連作短編集部門を受賞。23年『地図と拳』で、「直木賞」を受賞する。

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