芸術学とも芸術論とも、個別の美術とも無縁の、学問構築の試み。
「美」の所在を探求するために自然科学を応用し、最終的に数理計算に近い処理を可能にしようという姿勢は斬新です。
論理の展開も分りやすく、依拠する先行論に関する言及も分りやすいのですが、まったく、同意できません。先んじて反論を封じようとする手口が少々あざといのには目をつむるとしても、ほとんど不毛なのではないか、少なくとも、自然科学の手法によって美学を再定義するということは、あまりに楽観的すぎるではないか、と、そんな疑問が残ります。

2011年6月22日

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カテゴリ その他

「近代」という概念は西洋、キリスト教文化圏に起源を持ちますが、日本は明治以降、とりあえず「近代化」を推し進めて来ました。政治経済といった問題とは別に、その流れの中には思想面での混乱や問題点も多く出てきたようです。あの戦争(特に太平洋戦争)の背景に。本書の中で最も印象的だった一節。藤田正勝氏は次のように言います。(以下、省略しながら引用します)
「『近代の超克』という言葉は」「実質的な内容を付与されなかったかもしれない。その意味で空虚な言葉であったと言うことができる」「しかし」「記録を読んだものにそれぞれの意味を込める『容れ物』を用意した点で大きな役割を果たした」
これ以上何も言うことはないです。

2011年6月13日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 歴史

(後日追加)

2011年6月11日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 宗教

作家の手による歴史書、ということもあって、読みやすい本です。
ややイスラーム社会やその歴史に肩入れし過ぎている感はありますが、現状(イスラームが強い偏見にさらされている状態)を考えると、著者自身が言うように、「バランス」を取るためにはこのくらいのほうが良いのかもしれません。
主に科学や技術の歴史を、イスラームの影響という観点から見直した一冊。歴史観の変更を迫られるような箇所が多々あります。刺激的。

2011年6月2日

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カテゴリ イスラーム

センセーショナルなタイトル、挑発的な内容にも関わらず、冷静、鋭利、そして論理的です。一見すると、よくある(本当に、何でこんなにあるのかと思うほど出回っている)ユダヤ陰謀関係の本にみえますが、全然、違います。
《ネイション》概念の精密な分析と概念規定に始まり、《ユダヤ》《イスラエル》といった通用の用語やその背景の事実の神話の解体、そして再定義へと論は進みます。画期的で衝撃的。著者はイスラエルの「西洋史」の教授。ユダヤ問題は氏の「専門外」とのことですが、かえってその客観性がこれだけのものを生みだしたのでしょう。いうなれば学術的な内部告発の一冊です。必読!

2011年6月2日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 宗教

イランという地に生まれ育ち、後にアメリカに渡った筆者による、濃密の上に濃密な回想記。イスラーム、イラン、アメリカ、そして、民主主義や、近代、といった問題を当事者から再分析し、検討を加えています。アメリカに主導される西洋/キリスト教的世界観を否定し、かといって、イランの現体制を支持するという立場でもない。ダバシの叙述は冷静で、しかし、恐ろしいほどの怒りに満ちた(これは矛盾ではないですよ)内容でした。ハンチントンの“文明の衝突”や、フクヤマの“歴史の終焉”が、いかに暴論であるか、改めてよくわかります。先に挙げた『「近代の超克」とは何か』とも通じますが、アジアを「周縁」とみなすあり方が、どれだけ強固な虚構であり、また、それが機能しているのかが確認できる一冊です。

2011年5月30日

読書状況 読み終わった
カテゴリ イスラーム

(後日追加)

2011年5月30日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 歴史

(後日追加)

2011年5月30日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 歴史

(後日追加)

2011年5月30日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 歴史

岩波書店「イスラーム原典叢書」の第一冊であり、『ムハンマド伝』全四巻の第一巻。あまり読む機会のないこうした本がまとまってシリーズとして刊行されるのは嬉しいです。
タイトル通り、ムハンマドがいかにして預言者として歩んで行ったかが叙事詩のような物語として描かれます。
砂漠の民、その習俗、会話の機智(これが面白い)が魅力的でした。
イスラームに関してはまだまだ勉強を始めたばかりで、すんなりとは理解できない部分も多いのですが、ちょうど良いタイミングでこの本を手にすることができました。

2011年5月25日

読書状況 読み終わった
カテゴリ イスラーム

この種の本としては考えうる限り最高の一冊だと思います。
ギリシア(主にプラトンとアリストテレス)の倫理・正義観と、ヘブライ(旧約聖書)の倫理・神観を分りやすく、丁寧に、しかも決して妥協せずに教えてくれます。
正確で丁寧な、しかも膨大な出典、現代の研究成果、哲学史を踏まえた解釈、詳細な注、どこをとってもまさに見本のような密度。たいへんに勉強になりました。本来、★を付けるのも畏れ多いほどですが、ここは★6つ、つけたいくらいです。

2011年5月25日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 宗教

プロテスタントの各宗派とは異なり、カトリックの神学に関する書籍は驚くほど少ないのが実情です。
宗派の成り立ちから考えると、たしかに自ら理論を語り続けなければならず、また、独自にそれぞれの理論を展開しなければならないプロテスタントのほうに文献が多いのは当然ともいえますけれども。
これは上智大学の神学部、文学部の先生方が中心となって編集した、
カトリック神学の現状ほとんど唯一の概説書。
哲学史、宗教論から文化論まで幅広く一貫して章だてされているため、読みやすさも抜群でした。

2011年4月17日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 宗教

きわめてシリアスな内容の本です。
一神教(ユダヤ教・キリスト教・イスラーム)を極力そのインサイダーの側から叙述し、「宗教学」ではなく、「公共哲学」としての位置づけを測ろうとする試みのようです。
論文と討論からなる構成で、特に討論のパートがたいへんに参考になりました。かゆいところに手が届く、というと軽くなってしまいますが、信じるということ、しかも「何を」「いかに」「なぜ」という問題は外部(信徒でない立場)からはなかなか掴みにくい内容です。こんにちのように、ニュース等で「宗教」は紛争や社会問題としての側面から語られがちであるため、どうしても読者側に偏見が生じてしまいかねません。信仰の場、歴史、価値観などを総体として把握しきることは不可能にしても(あまりにも広く大きすぎるので)こうした形で概観できたのは大きな経験でした。
一度に限らず、今後複数回読み返すと思われます。

2011年4月7日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 宗教

イラン/ペルシアに興味を持つきっかけとなったのが、「ルバイヤート」との出会いでした。
これはタイトルにある通り、複数の訳を「集成」したもの。
詩の翻訳というものが原理的にきわめて困難であることはよく知られていますが、一つの詩に対して複数の訳(しかも訳者個人の)を並べてみるというのは画期的な発想ですよね。本文そのもののニュアンスは当然、日本語に移された時点で失われるわけですが、それを補って余りある「翻訳詩」としての良さを感じることができます。
ちなみに、いつかペルシア語そのもので「ルバイヤート」を読めるようになりたい、というのがひそかな野望。

2011年4月7日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 古典

ここ最近、特に興味をひかれつつあるイラン(ペルシアを含む)文化と、音楽。私の興味の焦点に完全に一致する一冊でした。驚くべきことに、譜例だけでなくCDまで付属しています。こと、音楽というのは言葉では伝えにくい内容なので、これは嬉しい配慮でした。
西洋音楽に慣れている耳には一瞬、「不思議な音」、もっと言えば「変な音」に聞こえますが、数回聞いてみると気持ちよくなってくるから不思議です。
『音楽史を変えた五つの発明』に「記譜」、「平均律」、「録音」が取り上げられていましたが、その影響の大きさもここで改めて実感しました。

2011年4月7日

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カテゴリ 音楽

岩波書店からは既に「ギリシア悲劇全集」が二度、刊行されていますが、これはその「喜劇」編。まだ完結はしていませんが、むしろ刊行はすこし遅れてくれたほうが読む側としては楽です。
まとまって刊行されるということなので購読中。こういう機会がないとなかなか古典作品というのは読めないので。そういう意味ではこの「別巻」がとても頼りになりました。解説が丁寧で、門外漢の私でもなんとなく、古代ギリシアの感覚がわかりかけてきます。
肝心の喜劇そのものですが、私としては筋立ての面白さより、ところどころに見えるフレーズに目が行きます。カッコいい言葉、意味深長な言い回し、なじみはないものの、決まり文句らしい表現など、ちょっと「詩的表現」が好きな方にはお勧めです。

2011年4月7日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 古典

一神教にまつわる問題を日々あれこれ考えているうちに手に取った一冊。
文芸理論の大家として知っていたこの著者が宗教について何を語っているのか……と、思ったら、無神論に対する批判、そして、その内容がほぼ「ドーキンス」に対する批判になっていて驚きました。
文芸理論家VS生物学者 ただし競技は「《神》問題」。
これが面白くないわけないですね。
実際、ものすごく面白いです。

ちなみに、私がこの戦いの審判だったとしたら、こちらに旗を挙げます。

2011年4月6日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 宗教

面白い本ではあります。タイトルも秀逸。
ただ、いくつかの論点を「ごっちゃ」にしている印象が否めません。
T・イーグルトンの「宗教とは何か」をきっかけにして、それほど話題なら読まねば、と、手に取った次第。
私は基本的に「科学の子」なので、進化論やその他の科学的な理論、事実に関してはドーキンス氏の言うことに賛成です。(まああたりまえですが。)しかし、そこから一足飛びに「神がいる」=「進化論を否定する」という立場を作り出しているのは、どうもいただけません。あまりフェアじゃない、というのが感想です。正直に言って。
おそらく、宗教学や神学に関する素養が欠けているか、あえて挑発しているかのどちらかでしょう。
(無神論者って、面白いですね。というのが個人的な感想です。)

2011年4月6日

読書状況 読み終わった
カテゴリ 宗教

記譜法、オペラ、平均律、ピアノ、そして録音。
著者が選び出したのはこの5つ。
(個人的には「オペラ」は「?」ですが、単に私がオペラに興味がないからかもしれません。)
通史ではなく、こうして対象を絞りこみ、その上で音楽史が語られると、見落としてきたものがたくさん見つかります。言われるまで、ホールが巨大化して、楽器は大きな音が出せるように進歩したが「歌手はそのままである」という単純な事実にさえ気付いていませんでした。
なるほど!

2011年4月6日

読書状況 読み終わった [2011年4月6日]
カテゴリ 音楽

プロコフィエフが好きです。
普通の作曲家が100人がかりで100年考えても出てこないような、あの独特の響きがなんともいえません。どうやって思いつくのか?
その答えを発見しました。 引用します。
  タニュエフは(略)和音が少し粗雑過ぎると指摘した。
  「ほとんどⅠとⅣとⅤだね」と彼は言って笑った。(略)
  悩みの種が播かれ、長い期間にわたる生育がはじまった。
この時、まだ彼は10歳から11歳です。幼少の頃から作曲が得意だったとはいえ、幼少期に受けた指摘の、なんと大きかったことか。
批判をものともせず、この後ひたすら独自の道を突き進む彼。
素敵ですね。カッコいい。

(なお、私が一番好きな作品はピアノ協奏曲2番です。念のため。)

2011年4月6日

読書状況 読み終わった [2011年4月6日]
カテゴリ 音楽

上巻の項参照。
それでも言い足りないのでさらに付け加えると
⑥図書館の女の子が食べるアイスがおいしそうだ。
⑦銀座線で外苑前を通るたびに気になって仕方がない。
⑧文庫版の最初の装丁と地図のほうが良かった。
⑨この作品を「嫌い」と言った人とは読書の趣味は合わないだろう。
⑩個人的に村上春樹の最高作品だと信じている。
以上です。

2011年4月2日

読書状況 読み終わった [2011年4月2日]
カテゴリ 近代文学

通読するのが既に片手に収まらない回数です。
多くの方が既に語りつくしていると思うので、
力いっぱい個人的な感想だけ列挙します。
①このさき100年残る文学的傑作だと思う。
②SFとしてもファンタジーとしてもサスペンスとしても読める。
③何回読んでも、博士と会う時に「助かれば!」と祈ってしまう。
④読んでない人は読書界のモグリである。
⑤むしろ、これから読める人は羨ましい。
以上です。

2011年4月2日

読書状況 読み終わった [2011年4月2日]
カテゴリ 近代文学

ヒクマ存在論という耳慣れない言葉と、
帯の惹句にあった《花ガ存在スルから存在ガ花スルへ》という響きにやられました。これが詩ではなく哲学概念であるところが凄い。
著者のアッ・タバーターバーイー師(慣例的にそう呼びます)は
おそらく我々が「賢者」といったときに思い描くような人物なのではないかと推察されます。(別の本に載っていた顔写真を見るとまさにそんな風貌をしておりました。)
語り口(もちろん訳の力が大きいですが)も賢者そのもので、
この馴染みのない概念をかなり丁寧に教えてくれます。
いまさらながらにイスラーム、特にシーア派の観念の独特さ、
当然、それにみあった深遠さに興味が湧きます。
西洋哲学の文脈とは異なった意味で用いられる、
「存在」「範疇」「分割」といった用語の解説からはじまりますので、
なんとか読みとおすことができました。

2011年4月2日

読書状況 読み終わった [2011年2月2日]
カテゴリ イスラーム

ひそかにペルシア語を学習中の私。
一般的な参考書ではまずお目にかかれない量(200)
のことわざや警句が収められています。
解説、類似表現に加えて例文も豊富なところが素敵です。
さすが大学書林。おそるべし。
ことわざというのはだいたいどこでも似たようなものですが、
日本ではあまり聞かない例をひとつだけ。
《大きな石を取ることは、それを投げない証拠なり》
なるほど!

2011年4月2日

読書状況 読み終わった [2011年4月2日]
カテゴリ 語学
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