- Amazon.co.jp ・本 (498ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062155106
作品紹介・あらすじ
2033年、人類で初めて火星に降り立った宇宙飛行士・佐野明日人。しかし、宇宙船「DAWN」の中ではある事件が起きていた。世界的英雄となった明日人を巻き込む人類史を揺るがす秘密とは?愛はやり直せる。
感想・レビュー・書評
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(2024/01/13 4h)
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読んでいるというより、読まされた感じ・・・。
「‘‘目標’’は常に‘‘目的’’の先になければならない!」はいいなと思った。
他の作品に期待! -
有人火星探査といういかにもSF的なモチーフだが、さにあらず。
その未来では、米国大統領選は白熱し、米国介入型の戦争も続いている。
確かに私たちの現在の地続きにある未来だ。
メディア、監視社会などなど未来から現代を見つめる物語である。
この小説のメインテーマである「個人 individual」と「分人 dividual」。
本来分かつことができぬはずの個人は、TPOによって分人を使い分ける。
キャラという表層ではなく、その人との関係のみに生まれる深層部分(ディヴ)がある。
この興味深い発想とともに描かれる未来。
人間に希望を見出す意味で、今読まれるべき、骨太な純文学/エンタテイメントだ。 -
「恥とは確かに、生き延びようとする人間のための感覚で、どうしても、この世界で生きたいと願うなら、捨て去ることの出来ないものだった。受け容れられたいと微塵も願わない人間が、どうして恥に苦しむだろうか?それは、恐らく悲しみに似ていた。生きよと命じ、生きる道筋を指し示しているにも拘らず、切迫するほどに、生きること自体を断念させようとする声とつい取り違えてしまう、一種の苦痛だった。」
消化しきれない大作。めちゃくちゃ面白い。あまりにも多くのことが起こりすぎて、多くの人が語りすぎて、拾い切る事ができない感情の束の中で、個人はどこまで自分を分化してもなお自分でいられるのか考えさせられる作品だった。 -
自分が恋人や家族、会社など社会の様相で見せる別々の「分人」が存在するといった「分人主義」が提唱された近未来が舞台だ。主人公は人類で初めて火星に飛び立った日本人宇宙飛行士で、大統領選が迫るアメリカで、自らのさまざまな「分人」のはざまで葛藤する登場人物たちの様子は、SNSが発達し、個人の情報量が細分化されている現代の行く末を予兆しているようだった。
主人公が抱える「隠したい過ち」を直視し、世間に公表することで「善き分人」を取り戻そうとする過程は、日ごろ、「よく思われたい」と行動する自分自身を見透かされているようにも感じる。
こう書いているととても難しそうに見えるかもしれない。でも、冒険小説とも恋愛小説とも社会小説とも読める作品は、幅広く薦めたい魅力もあると思う。 -
読み通すのがちょっとしんどい。時間、空間があっちこっち飛び回るし、横文字の名前ばっかりだし。。。
ディヴの概念はとっても面白い。自分の生顏って一体なんなのかしら 何て考えちゃう。
物語的に色々な方向に手を出しすぎて収拾付かずといった感じがする。それぞれの話が大き過ぎて細部まで作り込むには倍の枚数が必要じゃないかしら??
明日人が死なずに済んだことと、今日ちゃんと和解出来た事とで 読後感は爽やかでした。 -
平野さんの書く小説は、まさに現代にふさわしい小説だと思う。
この「ドーン」は勿論、「決壊」でも現代、あるいは近未来における科学的な発展に伴う弊害に焦点を当てつつ、人間(人類?)が抱える普遍的な問題を描いている。こういった文学の中で社会への問題提起がなされるべきだ、とは思わないし、必ずしも必要なものだとは思わないけど、未来を予見するような平野さんの小説はこの現代社会にあって書かれるべくして書かれた、という感じがする。確かに普遍的な問題を描いていることで、既に語り尽くされた感のある物語と言えなくもないけど、これは今読まれてこその価値がある作品のような気がする。
今作中では、「個人」=「individual」に対する「分人」=「dividual」という概念が描かれている。「分人」というのは、「個人」が使い分ける人格のようなもので、例えば一人の人間が家族の前、友人の前、上司の前等で、普通それぞれに対して適切な態度を使い分ける、その一つ一つを「分人」と呼び、「個人」は「分人」の集合であると述べられている(さらにこの考え方を「分人主義」=「dividualism」とも呼ぶ)。
個人的に、火星探査船「ドーン」をテーマにした同人(!?)小説がネット上で書かれ、読まれ、という展開に笑った。すごくリアル。 -
ある集まりで遊ぶときの自分のポジションはどうあるべきだったか、なんてことを集まりごとで思い出してから遊びにいくだとか、友達と上司に接する自分は当然のごとく違うだとか、無意識のうちに多くのディヴィジュアルを僕(人)は持っているものだと改めて気づかされた。 20数年後を想像した描写はそれだけでとても楽しく読むことが出来たし、それだけじゃない、思想とか意義とか何つうかそういう思念的なものがふんだんに混ぜ合わされていて読み応え抜群だった。とても楽しく読むことが出来た。(登場人物がカタカナでしかも多いってのはちょっと苦しかったけど)
決壊を受けてのドーンという印象を強く持った。
自叙伝をつづって、主人公が今後より魅力的に活動するにはどうしたら良いかというアプローチの方法で人生を解いていた場面。
最後に読者に提唱してくれた、どう生きるべきかというダイエットの話が好きだった。
ジョージオーウェルの1984年にしろ、未来に希望は無いのだろうか---。
読書する時間と同じくらい物語について考えた作品だった。ここ最近読んだ中では一番良かった。
(2009.8.25) -
SF小説かと思いきや、アメリカ大統領選の話になり、とにかく舞台のスケールがとんでもなく大きいんだけど、それを俯瞰して描かれていたので、すごくすごく高いところで(宇宙の彼方で)読んでいるような気になった。
アメリカが抱える問題点、そして一番重きを置かれていたのは『ディヴィジュアル』、火星に行って帰ってくるのに2年もかかるとは知らなかったし、文人主義における夫婦の在り方‥盛りだくさん!
もう大人だけど、読み終わって大人になった気がした。一方だけを見るのではなくて、色んな角度から物事を見て、客観的に考えてどう振る舞えばいいのかを考えるのが、大人のあるべき姿なのだろう。