ドーン (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (498ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062155106

感想・レビュー・書評

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  • 分人主義、おもしろい、非常にしっくりきた。複数の人格を有する個人が、それを明示的にする時代。だれも自分の中の多重性を感じ、その折り合いと共存している、普遍的なテーマに、躍動的な物語として表現されている。
    著者に感じていた「取材してます感」を払拭するようなシナリオの幅に純粋に楽しみました。同テーマの小説もあるとのこと、さっそく読んでみたい。

  • 個人individualを個々の人、場所に応じて分化した、分人主義divisualismの行き渡る、2033年のアメリカ。

    宇宙船「ドーン」に乗り、初めて火星に降り立った勇敢なクルーたちだったが…。

    途中登場人物の名前に混乱しかけ、内容の停滞に
    ページを繰るスピードが落ちたものの、総じて興味深く読めた。

    「いいかね、アストー。人間は、社会に有益だから生きていて良いんじゃない。生きているから、何か社会に有益なことをするんだ。」

    そして、主人公である医師でクルーの明日人が、
    悩みの果てに辿り着く、その場所があそこでよかった。

  • 舞台が近未来なので、私がいかにも好きそうですが
    ウィキ小説とか、考察がけっこうおもしろかった。
    これは好き嫌い分かれる話だと思いますが
    私は好きです。

  • 平野啓一郎は、この作品を通じて、それまで温めてきた「分人主義」という思想を伝え、生きること、愛することについて、メッセージを投げかけたのだと思う。

    分人主義は、簡単に言うと、「個人」は接する人に応じて多くの分人(ディヴ)を持つということで、「分人」はそれぞれの性格や接し方に紐付くものと考えることができる。ちなみに、それは対面に限らず、メディアを通しても形成される。

    物語の舞台を「分人」の生成が過度に抑制される、宇宙飛行(火星への到達)と米国の大統領選挙に紐付けたのは、分人主義を語る上で、非常に効果的に機能していると感じました。

    ちなみに、物語の中で印象に残っているのは、主人公がSNSやブログを通じて、「ディヴィジュアルをデザイン」しようとした過程で、それにより、自暴自棄になりかけていた主人公が、少しずつ再生していくところ。
    それは多分、「複雑に入り組んだディヴの中で何を一番大切にすべきか」という課題を、我々にも投げかけているものだと思う。これは一見、セカイ系みたいに聞こえるけど、そんなことではなくて、様々な利害関係を乗り越え、自分が正しく生きるためのディヴを探すということだと考えている。そんなディヴを自分は持っているだろうか?

    そして、こうしてレビューを書いていることや、SNSやFacebookでコメントを公開することも、メディアを通じた自分の「ディヴ」をデザインしていることになる。

    「分人主義」というものが、現象学やそうしたものに置き換わるとは思わないけれど、そんな抽象的な議論よりは、「分人」を通じた人間関係をいかに作るか、という平野啓一郎の思想の方が、現代、そして近未来では、よっぽど説得力があるのではないか。

    いずれにせよ、それらを網羅するプラットフォームとしての、作品の完成度は高く、最後は感動的ですらある。所々に出てくる技術的小ネタも個人的に笑えて◎でした。

  • 表紙に惹かれて購入し、宇宙船内での話かと思えばそうではなく、政治絡みでした。
    ディヴィジュアルと興味深い概念も登場して、そこが魅力的でした。
    でも、話が交差するので最初は少し読みにくい気も。

  • 不思議な魅力の作品。なんといっていいやら。

    うまくはないと思うんだよね。むしろ、一文が長くて、ごちゃごちゃしていて悪文のことが多い。
    近未来のこの作品だけの用語やらがやまほど出てくるけど、なんともわかりにくくて、置いて行かれちゃう。

    きっと、筆者の中ではすっきり整合性をもって首尾一貫した世界と主張をもって書かれているんだろうけど、読み手にきちんと伝えようという気持ちはあんまりないんだろうな。

    だもんで、すごく読みにくい。
    だけど、引き込まれるんだよねー。
    読みたい気持ちでよんでいるのに、悪文がじゃまをするー! 
    ごちゃごちゃしていて、読み飛ばしたい衝動にかられるー。
    それでも、とにかく最後まで読まずにいられないのは、この本のどこかに必ず救いがあるっていう気がするから。
    それに早く至りたくて読み続けてしまった。

    世界の大問題は誰が解決するのだろう。
    そのことを考えると、個人の無力感に虚無的になってしまうけれど、どれだけ文明が進んで、世の中が変わっても、人と人とのかかわりから全ては始まる。

  • 登場人物が多くて図式にして読み進む。許し許されるって簡単そうだけど難しい。

  • 舞台は近未来の世界。人間が喪失感を埋め合わせるむずかしさは現在と共有されています。
    強固な物語世界の構築には成功した作品だと思いますが、登場する人物たちの内面がリアルな人間とはとても思えず、そのたびに物語との距離を感じずにはいられませんでした。身体性といえばいいのか、生々しさが希薄な小説です。この小説世界の人物間では当たり前の「ディヴィジュアル」という価値観は一見クールですが、誰にでもできる考えとは思えない。リスク回避者も出てきてよかった。思想実験的側面が強すぎて拒絶感を覚えました。「他人の顔見て態度を変える」ことを頭の中でこねくり回して理論武装したような気持ち悪さも感じました。
    それでも、平野作品に特有の、小説として固有の世界観構築は、他作家と比して群を抜いています。

  • これまでに過去,現在をテーマに小説を執筆されてこられた,平野啓一郎さんの「未来」をテーマにされた小説です。
    「過去」や「現在」と異なり,不確かな「未来」をテーマにされた小説ですので,平野さんの大胆な想像で創られた世界観などを楽しみにして読みました。
    テーマは,現在から未来における,「個」の在り方と,過酷な状況下における「愛」が大きなところかなと個人的には理解しています。小説を通じて,個人的にもいろいろ考えさせられることが多くありました。
    過去を扱った「日蝕」「葬送」や,現在を舞台にした「顔のない裸体たち」などとは違う内容で,思索を深める一作だと考えています。

  • すごく肉厚な物語だった。

    人類初の友人火星探査プロジェクトの飛行士(主人公)たちの宇宙船内での数々のトラブル、それが想像もしていなかったものだけどよく考えたらありえるというかまぁ深刻な課題で。

    一方、アメリカで定着してるディヴィジュアル(分人)という概念や東アフリカ戦争と企業倫理という現代にもある問題(舞台設定は2037年)がとても緻密に描かれている。

    概念的であるはずのものがここまで具体化した世界というのは私個人としては理想的であると思った。

    さまざまなディヴィジュアルを抱えつつも、どうしてもインディヴィジュアルとして逃れられない性質の問題も真正面から捉えていて、それが内面のみの葛藤だったらどういうロジックでももっていけそうなんだけど、そういう方向に持っていかずに一人一票を有する「大統領選挙」という現実を通して描かれていたことに物語としての迫力を感じた。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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