歩兵の本領 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062739894

感想・レビュー・書評

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  • 時は1970年代だろうか、まだベトナム戦争の頃。片身は狭かったが、自衛隊に身を寄せる何とも癖の強い男たち。おもしろおかしく、そして、時に泣かせてくれるストーリーは秀逸。

  • 単行本で出版されたとき、買いそびれてた本。
    う~ん。もっと、硬い本かと思ってた。

    幻冬舎アウトロー文庫で員数合わせの話は読んだことある。本書の話はチョット違ってたけど。
    70年代の自衛隊。理由のない虐めや暴力が横行するんだけど、浅田先生の文章力と設定で読まされてしまう。地連の街頭スカウトが職場だろうと借金だろうとヤクザだろうとアパートの借家契約だろうと話をつけてしまう。
    (引用)普段戦闘服を着ている自衛官が、返送して街へ出、これぞと思う若者に声をかけていたのだと、米山はそのとき初めて知った。
    (引用)「落ちこぼれはいない。なぜかわかるか」「(略)優秀な兵隊をつくるんじゃなくて、クズのいない部隊を作ろうとするんだ」

    戦後の矛盾の塊のような軍隊ではない軍隊だけど、色々なモノを飲み込んで存在してたんだなと感慨した。時代は違って、今はこんなんじゃないと解説にある。

    除隊の話もエッセイで読んだことある。自衛隊の同期に頼まれて自衛官を前にして公演をした話も読んだ。それでも読み応えあった。

    70年代は僕は小学生。友人の家には自衛隊のお兄さんが下宿してしていたし、小学校の帰りには東の空に咲く落下傘を見ていたので、自衛隊に対する世間の冷たい目なんて馬鹿な話と思っていたんだけどね。

  • 1970年代の自衛隊に入りたての若者たちを描いた短編集。浅田次郎らしい語り口で裏切らないラスト。

  • 70年代、給料も安くバブルで職業的うまみもなく常に定員割れ、入隊するのは一癖も二癖もあるような連中ばかりだった頃の自衛隊を活写した短編集。
    理不尽な上官からの横暴、規則に恨み辛みも積もるが、そこに特異な人情があることを知っていく。甘くも優しくもないのに、不思議な連帯だ。
    さすがは浅田次郎、塩梅のうまさが絶妙でした。

  • 1970年頃の自衛隊を舞台にした短編集。戦争の記憶を引きずる川原准尉の話(若鷲の歌)内務が悪い小村二士が半長靴を失くして戸惑う話(小村二等兵の憂鬱)和田士長と渡辺一士の諍いの話(バトル・ライン)青年援護会の借金に喘ぐ赤間一士の話(門前金融)これから自衛隊に入営する米山の話(入営)佐々木二士と今野二士の初外出の話(シンデレラ・リバティー)自衛隊の連帯に怯え、脱柵を計る高津二士とバディの佐藤二士の顛末を描いた(脱柵者)元旦の不審番となった赤間一士の話(越年歩哨)満期除隊をする二士と坂崎一曹の話(歩兵の本領)。全編に自衛隊の組織の中の人間として絆が強く描かれている。

  • 団塊世代が若かりし日の自衛隊の物語。当時は、ゲバ棒をもった革命家気取りの馬鹿学生が、自衛隊を目の敵にして、マスコミもそれに同調するような世相だったそうだ。しかも時は、高度成長期。一般企業ではどんどん給料も上がっていく中、3K+薄給の自衛隊に入る若者たちには、さまざまな事情があった(なので、この若者たちは世間をシャバと呼ぶ)。一言では言い尽くせない個々人が抱える事情。これを軸に何本かの物語がこの本を形成する。なんとも形容しがたいオリのようなものが心に残る物語であった。

  • 自衛隊へ勧誘されて入隊した若者の経験を描く。1970年代の自衛隊の様子が描かれる。まだ旧軍体験者が少数だが残っていた時代だ。作者も自衛隊の経験者だと解説にあった。

  • 短編集、大戦後の左翼日本社会で防人となった自衛隊員の青春物語、泣ける、近代日本史好きおすすめ、読んで損なし

  • 目次
    ・若鷲の歌
    ・小村二等兵の憂鬱
    ・バトル・ライン
    ・門前金融
    ・入営
    ・シンデレラ・リバティー
    ・脱柵者
    ・越年歩哨
    ・歩兵の本領

    1970年頃の自衛官たちの物語。
    ゲバ棒を持った大学生も、ラブ&ピースのTシャツを着た若者も、それなりに就職していい暮らしをしているときに、それぞれの事情で自衛隊に入らざるを得なかった若き自衛官たち。
    理不尽なしごきやいじめに涙を流し、戦争に行くことのない軍隊生活を嗤う。

    自由がなくて、安月給で、慢性的人員不足のせいで、やらねばならないことだけはいくらでもある。

    けれど自衛隊にいるのは彼ら若者たちだけではない。
    もう何年もこの生活を続けている先輩兵。
    旧陸軍の生き残りの古兵。

    著者はきっと、自衛官だったときは自衛隊を好きではなかったのではないだろうか。
    痛いし、苦しいし、理不尽だし。

    青春の苦しさだけではなく、生きていかねばならない大人の苦さ。
    それに気づいた時、作者のまなざしは優しいものになったのではないのかな。

    存在の是非ではなく、現実にそこにある存在として、生き延びるための術がある。
    自衛隊には落第生がいないのだとか。
    ひとりの落第生のために全滅することもあるから。
    “だから軍隊というのはどこの国でもそうだけど、優秀な兵隊を作るんじゃなくて、クズのいない部隊を作ろうとするんだ”
    なるほど。それは気付かなかった。
    けれど行き過ぎたそれが、往々にして全体主義になっちゃうんだよね。

    「若鷲の歌」に出てくる川原准尉。
    昭和20年8月15日の日付が入った、自分の位牌を持つ。
    「日輪の遺産」に出てくる真柴少佐のモデルなのかと思ったり。

    “川原准尉の小さな体は、少年飛行兵のまま成長を止めたのだと思った。その夜、私はこの世で最も気の毒な、最も救いがたい、どんな念仏にも祈りの言葉にも成仏することのできない幽霊を、この目で見た。それは、勝手に戦をして、勝手に負けて、その理不尽なツケを私たちの世代にそっくり押しかぶせた軍人のなれの果てには違いなかった”

    こーゆー書きぶりが、ほんと、上手いんだよな。

  • 名誉も誇りもない、そして戦闘を前提としていない、世界一奇妙な軍隊・自衛隊。世間が高度成長で浮かれ、就職の心配など無用の時代に、志願して自衛官になった若者たちがいた。軍人としての立場を全うし、男子の本懐を遂げようと生きる彼らを活写した、著者自らの体験を綴る涙と笑いの青春グラフィティ。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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