となり町戦争 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087461053

感想・レビュー・書評

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  • 知らない間に戦争に加担している

  • 実態のないものを見せられてる感じ。
    香西さんとの疑似結婚生活はリアルだった。

  • 町の広報誌をふと見ると「9/1から、隣の町との戦争が始まります」と書かれていた。9月を過ぎた後も戦争の気配はなかったが、広報誌には「死亡(うち戦死者)」という記載が。そこへ、偵察役への就任に関する通知が届く…。

    タイトルから何となくああ言うのかな?と思わせられるのは、筒井康隆や小松左京を読んできたからだと思う。気配がなく、夜間のみに行われ、一般市民には被害が出ないようにするという、夜間工事のような戦争。時々差し込まれる、役所的な書類フォーマットなど、なるほど、面白いことを考えるものだなあと感心した。

    一方で、テーマ的にも熱くなる部分がほしいところであるが、それを架空のような掴めない話を掴みに行くようにしたいのか、突然襲い来るパニックのようなものにしたいのかがわからぬまま、どんどん進んでいき、気がついたら終戦を迎える。

    役所の書類や決済のバカバカしさ、町興しをパロディにしているというところは評価できる点ではあるし、縦書きの中に差し込まれる横書きのシュール感なども成功しているものの、読者はテーマ的にも、ハラハラする何かが欲しいのではないかと思う。そこを曖昧なままにしてしまったせいで、比較的評価が低くなってしまったことは否めない。

    個人的にはまあまあ楽しめたし、そういうネタとして一部は使わせてもらおうかと思ったところがある。そこまでたどり着けない人も少なくないだろうという作品だ。

    個人的に、本編は★4か★3か悩むところであったが、最後に別章として、大して面白くないエピソードを付け、無理やり伏線を拾おうとしたのでマイナス。本編で評価が低かったからと、蛇に足を描くような真似はしないほうが良い。

    レビューを書くに当たり、映画化とか舞台化というのを目にしたが、この作品で面白いのは公文書のパロディによる温度差なので、そこを取っ払ったら龍に目を欠くといったところである。

  • 町の広報誌でとなり町との戦争が始まることを知る。開戦日にとなり町との境を車で通ってみるが普段と変わらない。銃撃音もしなければ何かが破壊された様子もない。職場でも誰も話題にしていない。結局まだ始まっていないのかもなと思っていると、広報誌のすみには「死亡23人(うち戦死者12人)」の文字が。

    なぜ戦争をしているのか?
    どこで戦争が行われているのか?
    本当に戦争をしているのか?
    主人公が抱く疑問を同じように考えているうちに物語に引き込まれる。

    この話にはわかりやすい悲しみや怒りというのはほとんど出てこない。読み心地を例えるならば、水面下で何かがうごめいているような感覚だけがずっとある、という感じ。
    とはいえ、抽象的な世界に読者が放り出されるようなことはなく、文章はとても読みやすい。

    戦争というものが中々見えてこないのに、主人公目線の世界はあくまで具体的に描かれているという構成が、文学ならではの表現で素晴らしいと感じた。

  • 「三崎 亜記」の『となり町戦争』を読みました。

    第17回小説すばる新人賞受賞作ですし、映画化もされているので、ご存知の方も多い作品だと思います。

    隣の町と戦争をするという奇抜な設定の中で、フツーのサラリーマンである主人公が、戦時中という実感のないまま、流れに任せて戦争に巻き込まれて行く姿が淡々と描かれており、なかなか興味深く読めました。

    -----story-------------
    ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。
    僕は町役場から敵地偵察を任ぜられた。
    だが音も光も気配も感じられず、戦時下の実感を持てないまま。
    それでも戦争は着実に進んでいた―。
    -----------------------

    実感のない戦争に巻き込まれ、次第に戦争がリアルに忍び寄る不気味さが恐ろしいですねぇ。

    静かに、でも確実に戦争が身近に迫ってくる展開は、、、
    いきなりガツーンとくるよりも効果的ですね。

    でも、本当にリアルな戦争を感じる前に終戦。
    戦時中の行動を振り返ると、直接的に戦闘には関わっていないものの、間接的に戦争に加担し、そのために多くの人が命を失ったことに、あとから気付くという展開。

    自分は無関係だ!と思っている事象について、無意識のうちに何らかの影響を与えているってことは多々あると思います。
    改めて、そのことに気付かされる物語でした。

    文庫化の際、追加された別章での「西川」チーフの言葉、、、

    『あなたは、わからないふりをして、現実を見ないようにしているだけではないですか?めぐり巡って、あなたは誰かの死に手を貸しているかもしれませんよ。要は、それを自覚しているか、していないかの差だけです』

    この台詞が、本作品の全てを物語っているような気がしましたね。

    そうそう、なんだか「筒井康隆」作品の匂いを感じる作品でした。
    機会があれば映画も観てみたいですね。

  • 今までに体験したことのない読後感だった。
    服のボタンを掛け違えたような、何かおかしな感じ。


    『となり町戦争』 三崎亜紀 (集英社文庫)


    舞坂町に住む「僕」は、ある日、町の広報誌「広報まいさか」で、となり町との戦争が始まることを知る。
    しかし、開戦日が過ぎても町の様子はいつもと変わらず、人々は普段通りに生活していて、とても戦争中とは思えなかった。
    ただ、戦死者だけが静かに増え続けていることを「広報まいさか」で知るのみである。

    そんなある日、「僕」に町役場から「偵察業務任命書」が届く。
    偵察業務の遂行のため、「僕」と役場の戦争推進室の「香西さん」は、業務上の結婚をし、スパイとしてとなり町へ潜入する。

    あくまで地域活性化のための行政の事業の一環として、戦争が非常に事務的に行われているのだ。
    あまりにも静かで目に見えない戦争に対して、

    「戦争とは互いに敵対し、殺しあうことではないのか?」

    と「僕」は思う。

    「ぼくには、この町がやっている戦争ってものがまったく見えてこないし、いったい何のために戦っているのかも見当がつかない」

    主人公のこのセリフは、そのまま読者の思いとなって物語は進んでいく。
    しかし、結局最後まで核心部分が描かれることはなく、具体的な戦闘シーンもないまま、目に見えない戦争は終わる。

    “戦争=悪”ということを、子供の頃から叩き込まれている、戦争を知らない私たち。
    その良識に立ったうえで、「銃声が一発も聞こえず、血が一滴も流れない」戦争を作者は描いた。
    これは、作者が「自分が戦争を描けないことを逆手にとった物語」なのだそうだ。

    この発想はすごいな。
    お役所仕事の何たるかを徹底的に描き切っているのもすごい。
    しかしながら、蒔いた種を刈り取っていないようなところも多々あって、不完全燃焼な感じもする。

    公社の査察の時、「闘争心育成樹」のみが持ち去られ、またもとに戻されていたのはなぜなんだろう。
    そもそもなぜ「僕」のところに任命書が届いたのか?

    文庫版だけの書き下ろしサイドストーリーが、最後に収録されている。
    「香西さんの戦死した弟の元彼女」の視点で、本編と連動して、もう一つの「となり町戦争」が描かれる。
    (彼女が“元”なのは、たぶん話を感情的にややこしくしないためではないだろうか。)
    「僕」以外にも、この戦争に疑問を持っている人間がいることにホッとする。
    これはなかなかよかった。

    もっといろんな立場の人間の視点で書かれたのも読んでみたい。
    それほどつかみどころがなく、何だかよく分からない物語なのだ。

    「ほんの少しだけずれているのに何がずれているのかわからない」

    と主人公が言うシーンがある。

    そんな“ずれ”や“わからなさ”が潜む日常。
    だからこその不安とか、気持ち悪さのようなもの。
    それが、この物語の意図するところなんじゃないだろうか。

    戦争と平和が同じカテゴリーに属していて、主任の言うように、殺すのも殺さないのも結局は同じこと、だというのは、常識に囚われている頭には考えさせられるものがあった。
    しかしながら、このとなり町戦争による戦死者は250
    名にものぼっていて、そのあたりがどうもすっきりしない読後感の原因の一つになっているのは間違いない。

    無感情にさらりと描かれた戦争の不気味さが、いつまでも心に残った。

  • 見えないのに、何でこんなに怖いんだろう。
    見えないから怖いのか。戦争だから怖いのか。
    近くであるのは分かってる。でも、現実としてはいまいちよく分からない。その感覚が、実は一番怖いのかもしれないと思った。

  • いわゆる公共事業として、役所がとなり町との戦争を淡々と遂行する世界。いまいち実感が持てないまま、見えない戦争は着実に進んでいる。そこに主人公始め、人々は巻き込まれていく・・・。という話。非常に読みやすくズンズン読み進められます。

    戦争というショッキングなものと、となり町という身近なものを組み合わせたタイトルの妙。
    戦争という大きな動きに実感が持てないまま進んでいく様は、現代の日本の社会問題と私たちの関わり方を表している素晴らしいストーリー、、、と三分の二までは思えるのですが、、、
    最後の方の結の部分で、言い方は悪いですがズッこける思いでした。

    淡々と、しかし確実に話が広がる中、どんどん残りページ数が少なくなっていくにつれ『これはどんなふうに着地させるのか・・?』『いや着地出来るのか・・・?』とドキドキした時間は非常に楽しいものでした。
    それだけに最後は『いや!!!これが戦争なんだねじゃねーよ!!!』という鳩尾がググッとなる一種の笑いみたいな感情になってしまいました。

    ちなみに私は映画版を見た事はありませんが、そちらを見ているとまた感想は違うのかなとも。

  • ある日、突然となり町と戦争が始まった。

    街の会報で知ったというのに、日常が続きます。
    会社の上司は、別の国で戦争体験者、という事で
    度々主人公と会話しています。

    スパイ活動をするように、と任命され
    偽装結婚する事になり…。
    終着地点はどこだろう、と読み進めていましたが
    戦争の掃除というか、後片付けというか。
    そこだけが感じられ、主人公の知らない場所で
    顔見知りがさようならしてみた、という感じで終了。

    主人公と一緒に、わけがわからない状態で
    戦争をしていたんだな、という気持ちだけ
    かかえた状態で終了してしまいました。

  • 浅井りょうさんが雑誌で紹介していたことがきっかけでこの本を読んでみた。
    隣町と戦争をしている話。戦争を地域事業の一環として役所が条例に乗っ取って手続きを進めている。
    主人公は偵察の役として町から任命されたが、実際に戦争をしている様子を見ることはなく、最後まで戦争していることを実感することがなかった。
    しかし、戦死者は確かにいて、主人公を助けるために亡くなった人もいたので、実感することはないが戦争の痛みは感じていた。

    見えないものは存在しない。
    そんな訳がないのに、実感できないものを見ることの難しさについて考えさせられた。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。2004年『となり町戦争』で第17回小説すばる新人賞を受賞しビュー。同作は18万部のヒットとなり直木賞にもノミネートされた。著書に『廃墟建築士』『刻まれない明日』『コロヨシ!!』『決起! コロヨシ!!2』など。

「2021年 『博多さっぱそうらん記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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