- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101005010
感想・レビュー・書評
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ハイカラな世界、大正デモクラシーをベルエポックの様に思ったりもしたけど、グローバル化を称する現代社会と本質は幾分違わない気もした。
概念としては美しくとも、実態は空虚に思った。
きっと、ナオミや譲治のような人は実在したのだろう。遊び人の慶應生も。
登場人物の高貴なフリした浅ましさや卑しさは今も昼のアマン東京と六本木ヒルズ、夜のエーライフに見れる。
谷崎潤一郎の性的エゴイズム、イケてると思って人の汚い部分を美しく表現する気持ち悪さが凄い。
表面的な美しさを追求する芸術が「昼」のようであるのに対し、この作品は人の「陰」をくどくどと綴った「夜」に思い出す文章の繋ぎだった。
ボードレールみがある。
この生活の乱れを美しいと思う感じ、名前はついているのかな。
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私が人生で初めて遭遇した『小悪魔(魔性の女?)』といえばこのナオミ。親が持っていた文学全集の中でも、ひときわ異彩な話で、夢中で読んだ思い出。当時はなぜこの男は懲りないんだろう、バカだなぁとシンプルな感想を持ったが、子供心ながら本全体から漂うエロチックさ・背徳感はヒシヒシと感じていた。15歳の原石美少女ナオミを自分好みの女性に育てようと引き取る28歳の男の話。今読み返すと、ちょっと男の気持ちも理解できる。とはいえ、なかなかの変態な世界観やな。それを美しく文学的に昇華させている谷崎潤一郎は凄いな。
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途中であんまりにもむせ返って読むのが辛くなったけれど、それは私がこの登場人物たちに頼まれても居ないのに勝手に同情なんぞをしてしまった所為で、単純に「痴人物語」として読めばこれほど耽美で奇矯で哀れな話もないな、と一笑に伏せるわけです。
なにも「純愛」だなんて謳ってないんだもの、最初から「痴人の愛」って言ってるのに。ついつい道を踏み外されると目を伏せたくなったりして、だめね。
なんせ主人公の男が女にすっかり参っちゃってるもんだから、えらく奸黠だ巨魁だなんだって言い立てられてるけど実際彼女の手口を見ているとそんなに大物にも見えないんだよね。途中から本当に外見が美しいのかすら怪しんでみちゃったよ。時代背景を無視して、且つあら筋だけ見ちゃえば本当どこにでも居る悲しい30近い童貞男のよくある女狂いっていうだけの話で。良く「悪女の代名詞」みたいに言われてるけど、私にはナオミの素質なんて世界中の女が持ってるよ!って思えて、自分達で増長させていて泣き付くあたりは男性達にばかばかしさすら感じた。なのでラストの終わり方は反って気持ちが良かったです。うんうん、あれなら愛だよ!許す!
こんなもやっとする話をここまでぞくぞくさせる性倒錯に満ちた艶麗な文学作品に仕立て上げた事に寧ろ感動。フェティシズムって人の神経を過敏にも鈍感にもするのね、とかSMも悪女も一日にして成らずだなあ、とか考えてときめきました。 -
いつもながらトンチンカンなことを書くが、これは(少なくとも私の基準での)「愛」の物語ではないと思った。むしろここまで赤裸々につづられる譲治のナオミへの執心は「依存」なのではないか。文字通り、ナオミを求める心が思い余って彼女なしでは過ごせなくなり、彼女のことばかり考えてしまう……そんな(特に後半部分で縷々とつづられる)記述に私自身も同じ「依存」で苦しんだことを思い出す。その「依存」は病なのかもしれない。だが、ならばどう治せばいいのか。この作品では譲治は結局ナオミに屈服し、狂気に陥ることを選んでしまったのだが
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登場人物にはあまり共感できず、むしろ「こんな人、嫌だな〜」と思ってしまうのだが、そんな一言で捨て置けない、どこか他人事とは思えない不思議な魅力がある。
後半には思わず目を背けたくなる場面が多いが、夢中になって読んでしまった。恐らく、自分の中にある、気づかないほど小さな「陶酔に対する憧れ」のようなものがクローズアップされて、それに対する好奇心が湧き上がってきたのだろう。
『痴人の愛』といい、『春琴抄』といい、谷崎潤一郎の作品は自分の中の知られざる一面をあぶり出してくる。恐ろしいことだ…。
1つ気になることは、『痴人の愛』というタイトルについて。ナオミは幾人の男に対し、果たして「愛」を持っていたのだろうか??
これが痴人を取り巻く愛の形だとするのなら、何と哀しいものだろう。 -
現代ではそんなに奇異な設定ではないんだろうけど、これが大正時代の日本の話だからすごく倒錯してる感じがして、面白かったし、どうなっちゃうのか気になって、さくさく読めてしまいました!
ひと昔(ひと昔どころか、古代)から、こういうタイプの恋愛模様があるということは変わらないんだなあ…と思いました。
恋は盲目というか、もう過去の教訓から学ぶ、学ばないの問題じゃないですね…。
もう一度落ちてしまったら抗えないんじゃないかな…。行き着く先が天国でも地獄でもコントロール不能なんだと思います。
ある意味譲治さんみたいな「イケてない」系の人がここまでナオミへ全振りできるのは素敵なことだと思う。
たぶんナオミに出会わなかったら、平凡な人生だったんだろうけど、「ナオミに溺れた人生」というテーマができたし。
何か1つのことにエネルギーを燃焼できる人生って羨ましい。
その矛先が譲治さんも自分で言ってるように側から見たら馬鹿馬鹿しく思われるかもしれないけど。
女から見たらナオミってすごい嫌なやつって思うけれど、(実際譲治さんも中身は全く褒めてない)愛されてない相手に自分を捧げられるということって、めちゃくちゃ尊いことなんじゃないかな…
男性から見たらナオミという女はどう映るんでしょうか…?魅力的?それゆえ恐怖?なんでしょうか?
ナオミは絶対友だちに欲しくないって思うけど、
「今、私が目の前の男を翻弄してる」って思う時の気持ちよさみたいなのはすごく分かる…気がします。
自分がナオミになって読めば、男の目線のくすぐったさが快感になるだろうし、
譲治さんになって読めば、「もうどうにでもしてくれ」っていう一種の快感を得られる。
もう2人ともハッピーならもうそれでいいじゃん…。人様の恋愛について外野がどうこう言うのはナンセンスなんだなあ…。
あと全編に染み渡る滑稽さもこの作品の魅力だと思います!
倒錯した恋愛=危なげとかシリアス系な雰囲気よりも、
ナオミと譲治さんのキャラ的なものもあって、「何やってんだか」って笑っちゃってもいいような雰囲気。だからさくさく読めるんだなあ。とっても面白かったです! -
ナオミが魔性の女の子であることをとことん感じさせた。男性の弱い部分は今でも共通するところが多い。
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ただ、ひたすらにただれた肉欲の愚かさを見せつけられる。それでも離れられないのは、男性としての何がそうさせるのだろうか。
私にもナオミや譲治のような一面を人に見られていると思うと、少し落ち着かない。
女性をこんなに美しく妖艶に記すのは、さすがの谷崎潤一郎だと感じた。 -
こんな男に愛されたらたまったもんじゃないけど、このおかげかせいなのか、更に魅力を増して惹きつけるものを備えて成長していくことはある意味財産。
譲二のような強烈な、裏切らない(裏切ることができなくなった)愛を存分に与えてくる人がいることで自信と余裕を持つものと思って途中までは読んでいたけど、読み終えたときにはそうは思えなくなって。本当に天性のものだったんじゃないかと思えてきました。
二人がお友達という関係になってからのナオミの悪戯な蠱惑的な行為がお気に入りです。 -
自分で自分の首を絞めているとはいえ、首根っこを握られているとはいえ、最後は惚れた方の負けですね。途中、いいところまで離れられたけど、再来を許したらもう最後です。拒否したいようなまた逢いたいような気になったら、痴人の愛を読み直しましょう。負けないように。