壁 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121024

感想・レビュー・書評

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  • 名前や身体など自分を証明するものを失い、社会との双方向の関係を断たれた人達の話です。“社会的な自分”と“本質的な自分”の対比を通して実存を考えることになります。社会との関わりを拒絶し、匿名で生きることを選んだ人(ホームレス)のことを思い出しました。厭世か達観か。

    第一部 S・カルマ氏の犯罪
    第二部 バベルの塔の狸
    第三部 赤い繭(赤い繭・洪水・魔法のチョーク・事業)

  • きっと、これはこれを意味しているんだろう…
    そう思って読み進めるも、どこかで違うような気がしてくる。安部公房のお話はそこが良い。
    正解を見つけようと挑む人もいれば、なんとなく読んで終わる人もいること自体は他の小説と変わらないけれど、「読みといてくれ」という著者のメッセージをこの人からは感じない。(私の読解力不足で気にならないだけかもしれない。それほど大抵の作品は最後に行くにつれ、何かと関連しているものの完全には一致しないように感じる)
    だから自由に読めるし、この感覚は絶対に本を読むことでしか手に入らない。それが六作も入っている。最高。

    壁や荒野の中で、或いは外で、或いは両方で、この人の作品を読んでいる時は自由になれる。(精神的に)
    自由だけれど、ほんの少しばかり疲れる。(体力的に)

  • まだまだ自分にとっては難しかったなあ……
    夢で出てくるような摩訶不思議な設定にゆらゆらしながら読んでた
    これが理解できる人間になってみたい。

  • 初めての安部公房。
    「既視感」のある小説だった。
    シュールレアリスムの世界である。
    またあらためて読み直したい。

  • 幻想小説なのか、ディストピア小説なのか。

    「理性」が問われていた時代。人々が活字を欲し、娯楽を欲し、小説を欲していた時代の小説。
    理性或いは論理が暴力的に主人公に襲いかかる。全く了解不能の論理によって主人公たちは窮地に陥り、そして絶望へ至る。
    この物語を通してどういう体験があったかをはっきりと言語化するには自分の読書力が不足している。
    しかし、物語として奇妙でおもしろい。


    p.126『両極という概念・・・(中略)北極と南極との関係がそのいい例です・・(中略)みなさんの部屋もそれに対する極としての世界の果を発見することによって、はじめて真の世界の果たりうるというわけなのであります。』(pp.127)
    『この両極という新しい性質の附加にもかかわらず、世界の果てへの出発が壁の凝視にはじまることには変わりないということ、そして旅行くものはその道程を壁の中に発見しなければならぬということ・・』(p.128)
    『考えるは休むに似たし』(p.141)

  • 凄いラストでした...。
    安部公房がディズニー作品が好きと解説で知り、不思議の国のアリスのような展開でワクワクした後に、不穏な空気が。
    それは、生きている人間が常に影のように付く"道徳"の話。
    思えば始めから人道的な道徳についての内容に思います。
    人間が無くなれば、主人公のぼくが無くした影のように殆ど"道徳"が無くなる。
    我々生きている者には常に"影"があり"道徳"があり、やがて生きていく上での「壁」となる。

    奪う側が正義だ

    この言葉が、この本の本質のように思えました。

  • 名前を失くすということがどういうことか。まあたしかに困るでしょう。しかし、そんな状態に陥っても自分の味方になってくれる人がいる。そんなところにロマンスも感じさせる作品でした。学者裁判が気味が悪くていい。
    『バベルの塔の狸』なんかは映像化したら面白そうですね。微笑が無表情だというお話はなるほどと思わされました。
    第三部では『魔法のチョーク』、『事業』が好き。

  • この作品の言おうとしていることのどれくらいを理解できたのだろうか。
    日常の慣習、常識などの見方が180度変わってします。
    随所に出てくる哲学的なものの見方。
    人間というものは、小さいのか大きいのか、
    果たして無なのか。
    謎が深まるばかりだった。

  • こんな奇妙で面白い文章を書く人がいたのかと今頃驚いた。
    春樹と似てるか、と思ったりもするけど、春樹よりまだ読み応えは柔らかく軽い、
    奇怪だけど、ブラックまで落ち込むわけでもなく
    皮肉も含むけどそれを見つけるころには物語は次のステージにするっと移行していく

    そして科学的思考をもった登場人物はきっと作者の脳内のそのままの投影なんだろうな、と読んでいて感じる。
    科学と活字、文と理、空想と具象はどこかでにじむようにつながっていくのかという感触。

    私の好きなタイプの文章だった。
    こういうものを現代文学のなかでも海外小説に見つけたりするけれど
    逆をいうと日本文学にはもうないのかもな、と思ってしまった。

  • 学生の時以来の再読。話の展開をすっかり忘れてしまっていたので(苦笑)、ある意味新鮮な気持ちで読めた。
    現実の世界と自然につながる、一続きな幻想の世界のイメージに飲み込まれる。「そんなことありえないだろう」と思うようなことが起きるのに、それが本当に起こらないか、と問われると起こりえないとは断言できないと思わされてしまう。それは話の端々に飛び出す、現実世界を鋭く切り取ったような言葉や表現の力だと思った。

    二部のバベルの塔の狸の話が好みだった。
    本人も気づかない間に、人は誰しもひっそりと“とらぬ狸”を生み出してるのかも知れない。

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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