- Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101288079
作品紹介・あらすじ
とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは-。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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1.著者;帚木氏は小説家。大学仏文科を卒業後、TBS勤務。2年後に退職し、医学部で学んだ。その後、精神科医に転身する一方で、執筆活動。「三たびの海峡」で吉川英治文学新人賞、「閉鎖病棟」で山本周五郎賞など、多数受賞。帚木氏は現役の精神科医であり、第一回医療小説大賞を受賞(医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰)。
2.本書;現役精神科医が、患者の視点から病院内部を赤裸々に描いた人間味ほとばしる物語。閉鎖病棟とは、精神科病院で、出入口が常時施錠され、自由に出入り出来ない病棟。ここを舞台に、患者が個別の事情を抱えながら、懸命に生きる姿を描く。死刑を免れた秀丸、性的虐待を受けて不登校になった島崎、・・・。「感涙を誘う結末が絶賛を浴びた」と評価された。24項の構成。山本周五郎賞受賞。
3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
(1)『1項』から「(女医)堕ろす場合は相手の人かお母さんと一緒に来なさい」。「(母親と女教師)学校で何があったの?誰かが意地悪するの?」。「(母親)学級費も一体何に使ったの」 『20項』から「(島崎)こぼれる涙をふきもせず、義父との関係を告白しました」。「(チュウ)大抵の事には驚かない私も、背筋が凍る思いがしました」 『14項』から「(チュウ)島崎さんが重宗に辱めを受けた」 『24項』から「(島崎)医院に住まわせてもらって、昼はそこで働いているの。夜は医師会の看護学校」
●感想⇒読書嗜好からすれば、この類の本は苦手です。案の定、最初から中学生が望まぬ妊娠し、中絶するという内容です。最近マスコミでもこうした事件がよく報道されます。一言でいえば、義父は非道極まる人間です。女性の人格を無視した行為には反吐が出ます。相談相手たるべき母親は、子供に寄添うどころか、無視と非難「学級費も一体何に使ったの」。義父は言うまでもなく糾弾されるべきですが、母親こそ再婚相手よりも子供を大切に考え、普段からもっと関心を持つべきでしょう。彼女は、その後も患者から辱めを受け、精神的にはボロボロになりました。それでも、立直る姿に感動です。一般的な事しか言えませんが、子供達が悲惨な被害者とならないように、周囲の大人達が気を配る社会になる事を節に願います。さらには、被害者が、誰にも相談出来ない状況に追い込まれるのだけは避けたいものです。社会全体の課題だと思うのです。
(2)『10項』から「(秀丸)男ば作っておやじを死なせたのもあんた[母親]。死んだおやじの年金ば貰うてぬくぬくとしとるのもあんた」 『20項』から「戦争に傷ついて帰ってきた父親を裏切って、絶望させ、六歳も年下の、子持ちの男と暮らすという母親の生き方を、私[秀丸]が許せなかった」
●感想⇒「父親を裏切って、絶望させ、六歳も年下の、子持ちの男と暮らすという母親の生き方」は、いかなる事情があっても許しがたい行為です。夫が戦争に行って生死をさ迷っている中で、不倫にうつつをぬかすなど言語道断。人の道を外れた行為に弁解の余地はありません。結婚には、❝愛する人と人生を共に歩み、子供が出来れば、育てて社会に送り出す❞という義務があるのです。結婚してから、他の人を好きになったり、配偶者を一生を共にする人ではないと思う事もあるかも知れません。しかし、物事には順序があります。好きな人のもとにに行きたいのなら、離婚が先です。そして、子供がいれば、わが子の将来の幸せを考える事も重要です。
(3)『21項』から「(医師)人の幸せなど簡単に他人が決められるものでもありませんよ。本人が進みたい方向に進めるというのが幸福でしょう。現在の塚本さんが決めた道というのは、退院して自分で生活したいという事ですから、それを応援してやるのが幸せに通じると思いますよ」。「(主任)これまで本当に兄さんの幸せについて考えた事がありますか」
●感想⇒「人の幸せ・・・本人が進みたい方向に進めるというのが幸福」。人間は人生の節目(進学・就職・結婚・・・)でどの道に行くか選択しなければなりません。その際は、取分け親は、あれこれと自分の考えを押付けがちです。ぐっと我慢して進路については、人生の先輩として、アドバイスに留めるべきです。本人が助けを求める事がなければ、自分で決めさせる事が良いと思います。失敗しても、勉強代と考え、救いの手を差し伸べる事が良いでしょう。一度だけの人生なのですから、悔いのない方向に進むとよいですね。「応援してやるのが幸せに通じる」は、至言です。
4.まとめ;本書を読んだ動機は、山本周五郎賞受賞作のベストセラーであり、普段あまり関与しない世界を見たい、という事でした。精神病患者という言葉は差別用語に聞こえます。しかし、この本を読めば、そんな偏見を持ってはいけないと痛感します。島崎さんを凌辱した、重信(札付きの強盗殺人者)を殺害するという方法は良くないと思いつつ、「島崎さんがあんな風に元気に立ち直ったのは秀丸さんのお陰」を読むと、心のどこかで拍手する自分がいます。最後の文章「秀丸さん、決して死んじゃいかんよ、チュウさんは青い空を見上げて心の中で叫んだ」には不覚にも涙腺が緩みました。解説の「帚木作品は例外なく、弱い立場にある者やハンディを背負った者に対して、温かい眼差しを注ぐ」に納得です。(以上)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者の作品、ブクログ登録は2冊目になります。
本作を読んだのは2011年になります。
著者、帚木蓬生さん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。
---引用開始
帚木 蓬生(ははきぎ ほうせい、1947年 -)は、日本の小説家、精神科医。
ペンネームは、『源氏物語』五十四帖の巻名「帚木(ははきぎ)」と「蓬生(よもぎう)」から。本名は森山 成彬(もりやま なりあきら)。
---引用終了
で、本作の内容は、次のとおり。
---引用開始
とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは-。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。
---引用終了
●2023年4月24日、追記。
登場人物は、
・秀丸さん
・チュウさん
・昭八ちゃん
・敬吾さん
・島崎さん -
閉鎖病棟
1.閉鎖病棟より
「患者は、もうどんな人間にもなれない。
だれそれは何なにという具合に、かつてはみんな何かではあった。
病院に入れられたとたんに、患者という別次元の人間になっていしまう。」
2.購読動機
山本周五郎賞の作品を読み、「人間らしさ」を感じ、そのテーマの心地よさを覚えたからです。
「光媒の花」もそうでした。
3.読み終えて
精神が通常と変化して支障をきたした人々の物語です。
時期は戦後から40年間くらいでしょうか?
それぞれの人が、なぜ、どんな背景があり、精神が壊れ、入院せざるをえなかったのか?の描写もあります。
つらく悲しいことは、入院した人の家族がなかなか見舞いにいかない描写です。
身寄りはある、しかし見舞いにこない、それが数十年間に及ぶとなると、人は人に対して何を感じてしまうのか、、、。
後書きにもありますように、著者は精神病の医師です。
そのため、物語のなかで起こる事件やイベント(年一回の病院の出し物発表会)を通じて、私たちがその世界で起こっていることの疑似体験ができます。
その読書体験を通じて、同じ世界にすむ人の物語と理解することが大切と考えます。
#読書好きな人とつながりたい
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作者の人間性を伺い知れるような作品。
人間の枠付けへの拒否、どんな人へも注がれる慈しみの眼差し、そして希望。
「閉鎖病棟」というタイトルは、社会がまだまだ「生きづらさを抱えた人」に対して閉鎖的であるという著者の思いの表れだと。
暗く重い過去を不器用にも潔く生き抜いた者たちが、肩寄せあって陽だまりをつくっていく。厳寒を越えて春を迎える、そんな空気を感じられる小説。 -
精神を病んでしまった事により家族・親類から見放され、病院での生活を余儀なくされる患者たち。
身の回りに精神病患者がいないが、もし身内に発症したとして、今までと同じように声を掛けられるのか…と思う。
開放病棟であっても社会から隔絶されているという意味では閉鎖病棟と同じ。
でも中にいる患者は、確かに心を持つひとりの人間で、世捨て人になったわけではない。外に出たい、家族といたい、人らしく生きていたいはず。
20年余りも共に過ごしてきた友人達が互いの「生きる未来」を支え合う姿に爽やかな気持ちになった。 -
最近特に、精神科に興味がある。精神科医の名越康文先生のyoutubeにハマったのが原因だと思う。
そんなこんなで手に取った閉鎖病棟。現役の精神科医である帚木蓬生さんが朴訥とした語り口で描く、精神科病棟の人々のおはなしである。
帚木蓬生という名前から、何故か瀬戸内寂聴さんみたいな人だと思いこんでた。精神科医と知ってびっくり。閉鎖病棟も説教くさい自己啓発本だと思って数年間読まずに放置してたのは秘密である。恥の多い人生を送ってきました。
読み始めていくと、はじめに地の文に対しての違和感を抱いた。群像劇だからなのかな。登場人物の個性が地の文に全然反映されない感じ、物凄く淡々としてる感じがした。でもそのうちストーリーが面白くなり過ぎて気にならなくなった。
読者にちょっと不親切な群像劇がとても好き。え!この名前…ってなって前のページに戻るの楽しい。ルンルン気分で中間部は読み進めていった。
精神科病棟に対して、漠然と怖くて汚い牢屋みたいなイメージを持っていたし、患者さんは自分にとって相容れない人達だと思っていた。この本を読んでいると、病棟にいる人たちだって、今まで生きてきた歴史があって、様々な感情を抱えて今を生きているんだよ。って優しく諭されてる気がした。
「病院に入れられたとたん、患者という別次元の人間になってしまう。そこではもう以前の職業も人柄も好みも、一切合切が問われない。骸骨と同じだ。
チュウさんは、自分たちが骸骨でないことをみんなに知ってもらいたかった。患者でありながら患者以外のものにもなれることを訴えたかった。」
胸を突かれた。医師である帚木さんは、どのような気持ちでこの言葉を紡いだのだろうと思った。
最後は本当に感動した。上手く言葉にできなくて小学生の感想みたいになってしまった。物語としても素晴らしく面白かった。
帚木さんはどの程度現実の精神科病棟に即して書いたのだろう。私は今、精神科病棟やそこにいる患者さんに対して素敵な偏見を抱いてしまった。実際を見た時、私はどのような気持ちになるのか、今はまだ想像できない。
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ある街の閉鎖病棟の物語。
それぞれ、辛く重い過去があり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも明るく生きようとする患者たち。
互いの良いところを認め合いながら、不自由はあっても助け合いながら暮らしている。
そんな時、殺人事件が起こる。
彼が殺人事件を起こすきっかけは!?
理由を知る患者たちがとった行動とは!?
殺人事件と書いてあった為、推理小説だと思い込んでいた私は、最初から、あれ??あれれ??
全然面白くなってこないぞ??という感じ。
本も半ば過ぎて、あーきっとこれはそういう系ではないのだなと諦めてから(笑)だいぶ受け入れられるようになった。
それぞれ不自由がある患者たちの日常が、ある事件をきっかけに少しずつ変わっていく。
世間からは精神病だと忌み嫌われる彼らだが、中に入ってしまえば、それぞれ患者たちは綺麗な純粋な心を持っている。
彼らの温かい気持ちに心洗われるストーリー。