貝と羊の中国人 (新潮新書 169)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106101694

感想・レビュー・書評

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  • 【版元】
    判型 新潮新書
    頁数 256ページ
    ISBN 978-4-10-610169-4
    C-CODE 0222
    整理番号 169
    定価 778円

    金もうけと共産主義が矛盾しない不思議な国。気鋭の学者が放つ画期的中国論。
    財、貨、賭、買……。義、美、善、養……。貝のつく漢字と羊のつく漢字から、中国人の深層が垣間見える。多神教的で有形の財貨を好んだ殷人の貝の文化。一神教的で無形の主義を重んじた周人の羊の文化。「ホンネ」と「タテマエ」を巧みに使い分ける中国人の祖型は、三千年前の殷周革命にあった。漢字、語法、流民、人口、英雄、領土、国名など、あらゆる角度から、斬新かつ大胆な切り口で、中国と中国人の本質に迫る。
    http://www.shinchosha.co.jp/sp/book/610169/


    【目次】
    はじめに [003-006]
    目次 [007-010]

    第一章 貝の文化 羊の文化 011
    漢字の字源と国民性
    二種類の祖先
    八百万の神と至高の神
    孔子が象徴する中国文化の深層
    「貝」と「羊」の使い分け 

    第二章 流浪のノウハウ 027
    「泊まる」と「住む」の区別
    太平天国の残党と旧会津藩士
    流民が作った国
    流民の存在感
    日本にはいないタイプの英雄
    華僑・華人と在外日本人・日系人
    新華僑と中国の戦略 

    第三章 中国人の頭の中 048
    病院前の葬儀店
    お茶はひとりでに入らない
    ODAと希望小学校の違い
    ニーハオ・トイレと銭湯は同じか
    「彼は嬉しい」と言えるか
    和魂洋才と中体西用
    遠く離れていても「この子」
    無私物の範囲
    「小諸なる古城のほとり」は砂漠?
    大づかみ式合理主義
    「外向性」に富む中国語 

    第四章 人口から見た中国史 077
    文明と人口
    幸運だった日本人
    始まりは戦国時代
    中華帝国の誕生
    六千万人の壁
    歴史は繰り返す
    「命の値段」の暴落
    一人を批判したため三億人増えた
    人口増減と王朝の寿命
    中華人民共和国の予想寿命
    政治的文明

    第五章 ヒーローと社会階級 105
    英雄の条件とヒーローの条件
    初代皇帝の出自
    周辺出身型ヒーローとエリート英雄
    中国三千年の黒幕
    坊主めくりができぬ国
    一階級による文明の独占
    オトコのいろいろ
    曹操が悪役に転落した理由
    『三国志』の真の勝者
    人間粗製濫造神話
    ヒーローつぶし
    悪役の必要性

    第六章 地政学から見た中国 149
    村長の愚痴
    万里の長城というくびき
    千年に三度だけ
    東西分類と南北分類
    中国旅行はタイムマシン
    シルクロードから海へ
    黄河文明と長江文明
    北は力、南は思想
    首都は国土の片隅にある
    中華帝国のアキレス腱
    愛国心と緯度
    東アジアの国際関係
    現代中国人の領土意識
    万里の長城は復活するか

    第七章 黄帝と神武天皇 186
    自然国家と人工国家
    英語名では「普通の国」
    漢人、唐人、中国人
    地域名称「支那」の発見
    支那とジパング
    戦争と「支那人」
    「中国」の普及は戦時中から
    フビライ以来の伝統
    神武・黄帝・檀君
    加上説とナショナリズム
    「交流」はなかった
    競合的協力者の不在
    幻の日中連合軍
    真の「交流」はこれから

    終章 中国社会の多面性 224
    意外な類似性
    戦前の日本社会と比べると
    ホンネとタテマエの使い分け
    東京は北京のとなり
    抗日戦争六十周年の裏側 

    おわりに(二〇〇六年五月 加藤徹) [239-244]
    年表 [245-255]

  • 自分は中高時代の歴史の授業で、第二次世界大戦の辺りの教え方にだいぶ違和感を抱いていた。

    そこにはもちろん、あの戦争に関する「全て日本が悪うございました」という姿勢に対する情けなさや怒りもあったけれども、かといって、2chなどにある過激な反中的言説にも共感できかねた。

    あまりに勧善懲悪的すぎるじゃないか、世の中そんなにシンプルではないんじゃないか、もとをただせば、そういう種類の違和感だったからだ。

    こうした違和感の大本はたぶん三国志から得たのだと思う。
    というのも、三国志という歴史を眺めてみると、歴史というのは嫌でも政治的にならざるをえない側面というか、それを余儀なくされる面があるんだとも思ったからだ。
    魏と蜀いずれが正統かという問題は、結局のところ政治的なテーマとならざるをえない。
    連合国と枢軸国、いずれが正義かといった問題も、その勝敗の影響を免れない(言わずもがな、その行為を正当化するわけではございませんよ。連合国を正義とし、枢軸国を悪とする見方をもってしても、原爆投下は非難されるべきでしょう)。

    かといって、歴史教師の立場もやはりよろしくないし、それに2ちゃんねらーの所見はもはや顧みるまでもなかった。
    そうした自分の中の「極端な考え方ではないけれどもかといって居心地のいいわけでもない」状態、このモヤモヤした状態を何よりもスッキリさせてくれたのはこの本だと感じている。

    歴史を政治から解放してくれたわけではないけれども、しかしだいぶその固執からは逃れていると思う。優れた文明論。

  •  人は、父と母の出会いから生まれる。民族の誕生も同じであるという。本書は「殷」と「周」の二つの民族集団がぶつかり合ってできた中国の起源を遡り、文字、語法、流民、人口、英雄、領土、国名など、あらゆる角度から、斬新かつ大胆な切り口で、中国および中国人の本質を迫る。

     中国とは何か?著者はこの大きなテーマを大掴みで論じた。農耕民族の「殷」は庄子の道教を信じ、遊牧民族の「周」は孔子の儒教を信じる。二つの違う民族に、今の「建前」と「本音」の両面を持っている中国を育てられた。これこそ、本のタイトルに言及されている「貝」と「羊」の正確な解釈である。

     不十分な統計によると、世界で、海外にいる人口数あるいは移民数が一番多くの国が中国。それはなぜか。人口基数が多い理由以外、民族文化と繋がってるか?黄河文明と長江文明は現代中国の領土意識へどのぐらい影響があるか。戦争は中国に何をもたらしたか。著者は中国の歴史に基づき、日本と比べ、発展された今の中国および中国人の現状、やり方、考えかたを分析した。特に、反日デモという事件も取り上げ、中国国民の本音である「貝」文化と政府の建前である「羊」文化を論じた。

     異文化の理解はそもそも難しい。外国人が中国の機微を理解するには「冷たい目」と「暖かい心」の両方が必要だろう、と著者が述べた。相手の文化を理解し、お互いに尊重することは大事だと思う。

     近年来、日中両国の関係はなかなか進められない状態だと思われる。なぜというと、相手の文化や考え方を知らないからだと思う。「こんなところが違うか!」、「これは当たり前のことなのに、日本人は理解してくれないか!」、「一部の中国人はそうだが、中国の現状ではない!」本を読んでから初めて知ったのことがたくさんあるのが感じた。それに両国の文化に対する誤解も少くないことも実感した。本書は中国を知りたい日本人の中国理解の土台の一つだけではなく日本文化を触れ始めの中国人の異文化入門書としてもすすめる。

  • 考えさせられた。

  • 漢民族がが二つの文化、貝←農耕民の「殷」と、羊←西域の遊牧民族「周」の衝突によって「漢民族」とする。「貝」=多神教的の文化=実利主義 「羊」=一神教的文化=建前主義。
    日本が発展するためには、どうしても中国とうまく付き合う必要がある。この本音と建て前をうまく使えば良いと思うし、江戸時代までの明らかに中国の国力が上の時代はうまくやってきたと思う。明治、昭和と日本の国力が中国を上回った(と思うのである)時代を経たことで、これがやりにくくなっているような気がするのだ。

  • 中国人の考え方や歴史が少しわかった。

  •  加藤徹『貝と羊の中国人』(新潮新書)は、新しい観点が豊富につまった中国人論。
     民族とは2つの異質な集団がぶつかりあって生まれる例が多いとしたあとで、中国もまた平原の農耕民である「殷」と、西域の遊牧民族である「周」の衝突によって「漢民族」ができたと指摘。そのうえで「貝」=多神教的な「殷」の文化=実利を重んじるホンネ主義 「羊」=一神教的な「周」の文化=義を重んじる建前主義 と整理。金儲けと共産主義の共存する中国の複雑さを、この「貝」と「羊」を使い分けに求める。まさに「一筋縄ではいかない」中国人のしたたかさを、すこーんと腑に落ちるように説明してくれているなぁ。なんか、すっげぇ使えそう。
     他にも、中国語には「泊まる」と「住む」の区別がないとか。「餃子を食べる(我喫餃子)」も「食堂で食べる」(我喫食堂)も文法的には変わらない大まか言語(食堂を食べたりしないのは、文脈判断)だとか。言語と国民性はもちろん密接につながっていることを考えると、中国的な合理主義というのも、なるほどなーと思えてくる。
     著者は本来、「京劇」の専門家とか。歴史うんちくもたーっぷりでたのしい。

  • 中国を大づかみ(大雑把でなく)に捉える優れた本だと思います。中国には言論後の自由がないことを常に思いやるべきという言葉に納得した。

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著者プロフィール

1963年生まれ。明治大学法学部教授。専攻は中国文学。主な著書に『京劇――「政治の国」の俳優群像』(中央公論新社)、『西太后――大清帝国最後の光芒』(中公新書)、『貝と羊の中国人』(新潮新書)、『漢文力』(中公文庫)など。

「2023年 『西太后に侍して 紫禁城の二年間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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