- Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122024137
感想・レビュー・書評
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要は、近代化が進む日本において、昔の方が良かったみたいな話で、昨今だと、「老害」みたいに揶揄されかねない。が、その老害っぷりの緻密な文章が彼の表現力の高さを表している。
西洋のライトが日本家屋にもどんどん導入され出して、夜ですら部屋の暗がりは無くなった時代を谷崎は生きていた。そこから更に近代化/西洋化が進んだ現代において、我々は確かに夜でも日中と同じように仕事したり、家事したりできている。我々はその利便性を謳歌している。
だが、同時に失ったものがありそうだ。
覚束ない蝋燭の灯りのもとでの漆器の蒔絵の美しさや、障子からうっすら溢れる日光の美しさなど、柔らかく優しい翳りを持った美。それは全てを明らかにする潔い西洋的な美しさとは異なる。現代に生きる我々もそういう翳りのある美しさを大事にすべきではないかと思う。「老害」という言葉を使って、何でもかんでも古いものを切り捨てるのではなく、ちゃんと良いものは良いとすること。そういう強さを保つべきだと感じる。
「恋愛および色情」の章が一番良かった。
色気は英語で表現しづらい。それは色気は夜、翳りに結びつくもので、それを表現できる言葉を持ち合わせていないのである。
恋愛が芸術においての主題であった西洋と比べ、茶道では恋愛のテーマは禁じていた。テーマとしてはもともとあったが、隠していたり、ひっそりと楽しむようなものとしていた。それが西洋化に連れて、明るみに出てきたと。
艶やかで、色気のある女性、見られるというより暗がりで触れる女性の美しさ。そういった翳りと女が密接に繋がっていた。その美しさは今でも多くの人が共感できるだろう。
90年前ほどに書かれたものだが、彼の価値観に触れて、近いものを感じるものも多い。人とあまり話したくなくなってきて、居留守を使ったり、大阪から奈良に各停列車に乗って、悠久の時を楽しむことをオススメしていたり、共感できる部分もあり、彼の有名な文豪と時を超えて、繋がれるというのは大変に素晴らしい経験だった。また、どうも昨今は言語化やわかりやすさみたいなのが過剰に持ち上げられているように思う。言語化できないもの、暗がり、翳りのようなものを大切にしようと思った。そこにこそ、我々の忘れてはいけないものが在るように思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
谷崎潤一郎御大は、小説も勿論お勧めですが、こちらも是非…というのが、陰翳礼讃。
光と影、陰翳の中の艶とエロス…ものを見て、ぼんやり感じていた事を言葉にしてくれてあります。 ぽってりとした漆黒の艶に浮かぶ金蒔絵の艶っぽさや水を吸った赤楽など日本古来のモノに秘めたるエロス、その向こうに透ける人々の感性、建築や物の見方、などなど、日本文化を紐解くにも大きなヒントになる良き一冊ではないでしょうか? -
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開始:2023/6/7
終了:2023/6/11
感想
いつの間にか喪われた黒。文明の光は物怪を追払い人間の領分を広げた。しかしアイデンティティも失った。今からでも取り戻せるだろうか。 -
緑とか木とか畳とかなんかそういう匂いがしてきそう
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視点と考察の深さが読んでいてなるほどと思わされて面白過ぎる。
始:今日、普請道楽の人が準日本風の家屋を建てて住まおうとすると、電気や瓦斯や水道等の取附け方に苦心を払い、何とかしてそれらの施設が日本座敷と調和するように工夫を凝らす風があるのは、自分で家を建てた経験のない者でも、待合料理屋旅館等の座敷へ這入ってみれば常に気が付くことであろう。
終:まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。 -
日本の装飾や芸術、日用品などの良さは陰翳の中でこそ生きるということが書かれている。確かにお寺や神社、城などにある装飾品などを思い出すと、なるほどと腹落ちする。
この本が書かれた時代でその状況だから、今はもっと進んでしまってるんだろう。この先、例えば50年後くらいに今の文化を振り返って、良かったところを見つけられるのだろうか。 -
東洋は、光るものよりも沈んだ翳りのあるものを好む。
浅く冴えたものよりも濁りを帯びた光
漆器の椀
蓋を取って口に持っていくまでの間、暗い奥深い底の方に容器の色と殆ど違わない液体が音もなく澱んでいるのを眺めた瞬間の気持ちである。
口に含む前にぼんやり味わいを感じる -
タイトルの通り陰影を礼賛する内容。陰影を用いる日本文化を手放しで持ち上げるのではなく、抑制のきいた文章で淡々と語られていく内容に妙に引き込まれる。写真もよかった。手元のおいておき、いつでも読み返せるようにしておきたい本だと思う。
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陰翳礼讃(いんえいらいさん)
今から89年前の雑誌に載った話!古ぅ!でも今読んでも面白いってどんだけすごいの(笑)陰翳(光の当たらない影の部分)の美しさについての評論エッセイみたいな感じでした。読んでて、芸人の小藪が書いたみたいって思った(笑)鋭くて、そこにこだわる?!ってびっくりで、でも納得!そして面白い。昔の言い回しとか言葉は難しかったけど、海外の文化や技術が押し流されてきて、さみしい・もったいないっていう気持ちになるのは、想像できたし共感できた。(調べたら、この本でいう西洋とか海外って、ドイツイギリスフランスのことらしい)弟に勧められて読みました⚽️♪
memo
同じ白いのでも、西洋紙と和紙ではちがう。
奉書や唐紙の肌は、柔らかい初雪の面のように
ふっくらと光線を中へ吸い取る。
そうして手触りがしなやかであり、
折ってもたたんでも音を立てない。
それは木の葉に触れているのと同じように
物静かで、しっとりとしている。
沈んだ翳りのあるものを好む
涼を納(い)れる最上の法
イルミネーションや電飾で月見をフイにした
気骨(きぼね)
(自分の信念を守って、どんな障害にも屈服しない強い意気)
人倫五常の道
西洋
女性崇拝の精神、自分以上に仰ぎ見て膝まづく心
崇高、悠久、厳粛、清浄なもの、聖母マリア
なぜ日本では
女性に優しくすることが、武士らしいことと
一致しないで、惰弱(だじゃく)に流れると
されなければならなかったのか
【個人的にココめっちゃ気になる笑
続きなかったのが残念(moon streaming tears)】
古人の万化に瞑合する、天地の悠久を悟る、
神仙合一の境に遊ぶ、というのが山登りの趣味
ときどき自分を日常生活の連鎖から
切り離す必要がある
そんな目的のために旅に出るときは… -
古来、日本における照明は蝋燭であり、蝋燭が照らすことで生じる陰翳と調和する形で建築や文化、白粉などの化粧は発達した。それが電気に取って代わられので、今ではいくつもの不調和が生じていると谷崎は言う。
これはかなり面白い視点だと思います