雪の鉄樹 (光文社文庫 と 22-2)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 175
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334772734

感想・レビュー・書評

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  • 前半は、ただひたすらに耐える男雅雪の過去が分からず、重苦しい不安を抱えながら読み進める。
    すぐに自分を悪者にして、謝ることで物事を対処する雅雪にもやもやするが、そんな雅雪に優しくも厳しい言葉をくれる人が周りにいてくれるのが救いだ。
    過去の出来事が語られ始めてからは、物語が動き始め、どんどん引き込まれていく。
    個人的には、簡単に感想がまとめられない、色々な思いが胸の中に溢れる作品だった。

  • 初めて遠田さんの作品を読みました。
    読書は、通勤電車、昼休みだけと決めているが、仕事中まで雅雪のことがチラついて、続きが気になって仕方なかった。
    雅雪は何をしてしまったのか?なぜ遼平の親が関わっているのか最後まで分からず、一気に読み切ってしまった。
    遠田さんの作品に出会い、これからたくさん読めることが嬉しくてなりません。

  • 初めて読む作家の作品でしたので、その厚さに少し身構えてしまいましたが、あっという間に世界に引きずり込まれました。

    重苦しい話です。
    主人公の雅雪は、血のつながりのない中学生の少年の保護者のような存在だ。
    実際にはその少年・遼平は祖母と住んでいるわけだし、なぜ反抗期で手に負えない他人の子の面倒を見るのか。
    それも、なじられても何をされても、黙って受け入れるだけだ。
    そこに心の交流はあるのだろうか、と、読んでいて不思議だった。

    徐々に明らかになる二人の背景。
    どうも遼平は何かの事件の被害者で、雅雪は加害者側の人間らしい。
    雅雪が遼平をかばうほど、遼平は雅雪に反発していく。
    でもそれって、「本気でかまって」っていう遼平の叫びなんじゃないの?

    雅雪の家には祖父と父がいる。
    女たらしの祖父と父は、雅雪のことを可愛がってはくれなかった。
    家族の愛情を知らずに育った雅雪が、家族を失った少年の面倒を見る。
    その歪な関係がなぜ始まったのか。

    親の愛情を知らない雅雪、親のいない遼平の他に、過剰に親から期待をかけられた郁也と、親から無視され続けた舞子。
    そしてもう一人、親の愛情を欲して欲して、でもついに与えられることのなかった男がもう一人。

    事件の真相が明らかになるにつれ、雅雪の贖罪は自己満足なのではないかと思えてくる。
    事件は決して雅雪のせいで起こったものではない。
    何なら、雅雪も被害者だったと言っていい。
    それでも、甘やかせるだけ遼平を甘やかせる雅雪の行為は、誰のためにもなってはいないではないか。

    雅雪が初めて遼平に向き合って本音を語った時、本当の気持ちがわかった時、誰が雅雪の行為を自己満足と糾弾することができるだろう。

    ”おまえの面倒を見るのは嬉しくて面白かった。おまえのおかげで、俺はずっと幸せだった。”

    ”俺は自分が子供時代に経験できなかったことを、おまえの世話をすることで経験できた。おまえのおかげで、俺は子ども時代をやり直すことができた”

    雅雪も、遼平も、郁也も、舞子も、そうして彼も哀しい子どもだった。
    けれど雅雪は遼平を育てることで自分を育て直し、遼平は雅雪に育てられてここまで大きくなった。
    それは互いにとって幸せでもあり、苦しいことだった。
    そしてこの先、雅雪は自分の幸せをつかみ、遼平は雅雪を故郷として世界に踏み出していくのだろう。

    後半の怒涛の展開に涙ぐみながら読んでいたけど、最後の一行でもう駄目だった。
    涙があふれて止まらなかった。

    ”はじめて人前で泣いた。犬でよかった、阿呆でよかった、と思った。”

  • 図書館に予約して4ヶ月。ようやく順番が回ってきました。遠田潤子さん2作目。イッキ読みさせる文章力もだけど、構成がスゴイ!最後は泣けて泣けて。主人公の雅雪の生き方には賛否両論あるだろうけれど、とにかく泣けました。
    2018.2

  • 遠田潤子さんの本は2冊目だが…。凄い本を読んでしまった、という感想。
    明らかにされない事実が気になって、物語にどんどん惹き込まれていく。雅雪がここまで傷つけられる理由が知りたくて読書を中断できず、気が付くと夜が明けていた。
    ただ、理由が分かってからは、原田同様に私も、雅雪の行動に歯がゆさを感じて、ずっと怒りながら読んでいた。何故そこまで彼が贖罪しなければならないのか。
    彼の行動が遼平をより傷つけ、立ち直らせなくしているのではないのか…。
    しかし、最後まで読んで納得する。
    雅雪がもし、普通の家庭で育っていたら…。
    心に響く1冊。しかし、読み返したくはない。

    • ひとしさん
      ごめんなさい!
      知ってましたσ(^_^;)
      でも、ちえさんが読みたいリストにしていてくれたの、なんか嬉しいです(o^^o)
      ごめんなさい!
      知ってましたσ(^_^;)
      でも、ちえさんが読みたいリストにしていてくれたの、なんか嬉しいです(o^^o)
      2018/05/14
    • ひとしさん
      残念ながら顔は知りませんね(笑)機会があればいくらでもお見せするんですが(笑)
      私もちえさんに似たようなこと考えることあるんですよね。
      ...
      残念ながら顔は知りませんね(笑)機会があればいくらでもお見せするんですが(笑)
      私もちえさんに似たようなこと考えることあるんですよね。
      読んでる本があまりに面白い時、読んでる途中で死ぬわけにはいかないなとか。また、読みたい本があるのに死ぬわけにはいかないとか思ってみたり。
      ちえさんは軽く言ったことかもしれませんが、ちょっとびっくりしました(笑)
      2018/05/14
    • ひとしさん
      いえいえ!
      ちえさんが笑えるようになって良かったです。
      辛いけれど、お父さんとしては、娘には笑顔でいて欲しいと思います。
      頑張ってくだ...
      いえいえ!
      ちえさんが笑えるようになって良かったです。
      辛いけれど、お父さんとしては、娘には笑顔でいて欲しいと思います。
      頑張ってください!
      2018/05/14
  • タイトルと表紙から冬の話を想像して、その季節になってから読もうと思いつつも頁を開いてみたら、どうやら冬の話ではなくて、主人公の名前に「雪」の字が入っているだけのよう。冬になるのを待たずに急遽読むことにしたら、圧巻。

    主人公は庭師の青年・雅雪。親方である祖父と二人暮らしだが、あくまで親方と弟子の関係で、祖父には情というものがない。祖父と父がしょっちゅう女を連れ込んでいたゆえに、近所では「たらしの家」と蔑まれている。しかしこの家にすでに父の姿はない。雅雪は、両親を失って祖母と二人暮らしの少年・遼平の面倒をみている。なのに遼平の祖母はとことん雅雪を憎み、一生許さないと言う。

    こんな特殊な状況がなぜ生まれたのか、現在と過去を行きつ戻りつしながら徐々に明かされていきます。非常に重くて辛いけれど、圧倒される約450頁。ラスト50頁はしばしば目が潤みます。この著者の本、もっと読みたい。

  • 主人公は、少年に献身的に尽くす、彼の祖母に耐えがたい屈辱的な扱いを受けながらも。
    過去に何かあったようだが、読者にはまだ知らされない。
    その謎を知るために読み進まなければならない。
    14年前の出来事が綴られ、現在に投射される。
    頁を繰る手が重く、息苦しい。緊張感を持ちながら、著者の構成の巧みさに読み続けてしまう。
    何かの贖罪のためのようで、次第に明らかになる真相。
    やがて、終局。最後に救いがあり、ホッと安堵を覚え、読者もともに解放される。
    映画『幸せの黄色いハンカチ』が連想されてしまった。

  • 息苦しい、主人公の雅雪が何らかの理由で両親のいない少年遼平の面倒を見ている、ただその祖母からは邪険に扱われ、自分の庭師の家系でも不穏な影がある。

    読んでいて楽しい展開ではないし
    そのなぜという謎に求心力があるわけでもない
    なのに読む事を止める事ができない。

    そして全てを読み終わった後
    外出先で
    滂沱の涙を流してしまった。

    良かった、良かった。過去が全て清算されるわけではないけれど、今はそれでいいよね。と

    雅雪が単なる贖罪のために
    遼平の世話をしていたわけではなかったという事が
    分かった時この作品が傑作
    なんだと確信した。

  • なんと息がつまりそうな日々を送っているのか、何故そう生きなければならないのか?いったい何の贖罪なのか?何もわからないまま話の半分が過ぎる。それが早く知りたくて、また、主人公の雅雪が救われるのか?早く楽になってくれ、と願いながらどんどん読み進んでしまう。現在のわずか5日間と過去の14年間が行ったり来たりして、緊張がとぎれないまま話が進む。読んでいて息苦しいほど…
    すごい勢いでラストに突入するが、ああ本当に良かった、もう泣いていいよ、と言わずにいられない。
    庭、植物への愛情がとても美しく表現されていると感じた。
    素晴らしい本に出会えてよかった。

  • 本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン2017の第1位ということで読んでみた。なるほど。これはすごいわ。
    ヒトは誰もが誰かに認められたくて、愛されたくて、ずっとそれを求めて生きているのだな。それが与えられないまま生きてきたヒト同士が巡り合ったときに必ずしもプラスになるとは限らない、この悲劇。
    祖母と暮らす少年と、庭師の男。2人の関係の謎。少しずつしかわからないもどかしさに読む手が逸る。
    圧巻のラスト、この形をよしとするか否か。少年の祖母の気持ちを思うと心震えながらもどこかで醒めた声も聞こえる、自分の中で。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

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