雪の鉄樹 (光文社文庫 と 22-2)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 175
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334772734

感想・レビュー・書評

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  • 清々しさと温かさを含む読後感だった。
    まず主人公の雅雪に同情してしまう。
    自分の恋人が犯した罪を背負い、周りに起こる衝突や災いを自分のせいだと捉える自責感と、庭師という職人気質の性格に、何もそこまで背負い込まなくても、と思ってしまう。
    優しく接してくれる人達と事件の背景を知る文枝さん。
    どんな過去があったのが気になり、どんどんと読み進めてしまう。
    過去の全貌が明らかになった後も、いや、明らかにされたからこそ、皆の幸福を望みたくなる。

    そして最後には、、、

    こんなに次を読みたくなる、本を開きたくなる小説はなかなか思い出せない。

  • 評価は4

    内容(BOOKデーターベース)
    祖父と父が日々女を連れ込む、通称・たらしの家で育った庭師の雅雪は、二十歳の頃から十三年間、両親のいない少年・遼平の面倒を見続けている。遼平の祖母から屈辱的な扱いを受けつつも、その傍に居るのは、ある事件の贖罪のためだった。雅雪の隠してきた過去に気づいた遼平は、雅雪を怨むようになるが…。愛と憎しみの連鎖の果てに、人間の再生を描く衝撃作。

    イヤイヤ。雅雪もいくら犯人との関係がそうであってもここまで人として酷い扱いを受けるいわれはないわ。祖母の仕打ちにはいくら被害者家族とは言っても許されないところがある。懺悔の描写が多すぎて若干中だるみは否めない。
    しかし反省しすぎ。

  • それでも前をむこうと、雅雪を理解しようと葛藤する遼平の内心を思うだけで、胸が詰まる。
    中学生という多感な時期であるだけに尚更。
    ついには、気持ちの落としどころをみつけて、彼なりに終止符を打った。物語終盤の一連の行動には震えた。彼の未来があかるいことを、願わずにはいられなかった。

  • とてもよいお話だった。映像化してほしい。雪雅と少年の関係性がとてつもなく素敵。

  • 遠田潤子さん初読みです。出先で気まぐれに購入した小説でしたが、出会えて良かったです。素晴らしい長編でした。不幸な主人公雅雪が何故そのような境遇にいるのかがなかなか語られず、苦しい読書でした。理由が分かってからも繰り返す不遇に、神様どうか彼を助けてください…と最後は祈りながら読んでいた気がします。ギリギリと締め付けられるような緊張感が読後ふわっと開放されるような、すっかり嵌り込んでしまえる作品でした。とても面白かったです。

  • 祖父と父が日々、女を家に連れ込む、近所から「たらしの家」と呼ばれる家で育った庭師の雅雪。
    母には幼少期に捨てられ、父には関心を払ってもらえず、祖父には人間らしい感情がない。
    毎日の食事はひとり自分の机で、誰にも愛されず、子供らしい感情すら持てず、自分がそれを渇望していることにすら気づかず大人になった。
    彼が二十歳の頃から両親のいない少年・遼平の面倒を見続けている訳とは。
    彼の献身と償いの日々、そしてその原因となる14年前の出来事とが交互に語られる。
    読むにつれ謎は深まるが、確実に破滅に向かっていることだけが感じられる。後悔と憎しみと愛。いろいろな感情がそれも、圧倒的に負の感情が勝って押し寄せる。読むのが辛いけど、目を離せない。
    ものすごい質量と密度のある塊を飲み込んでしまったような、大音量の音楽をずっと聞かされているような、そんな何かに圧倒される感じ。雅雪と遼平の人生に救いと希望があったことで読むほうも救われた思い。最高に面白かった。
    すごい作家さんだと思う。

  • ヘヴィだし、主人公へ周りの人が言う言葉はごもっともで主人公が必ずしも正しいとは思えないけど、最後に2人が一緒に食卓を囲むことができて良かったと思うし、遼平が、この子は本当に偉いと思うけど、自分で前を向いて進もうとした姿がとても良かった。

    決して明るくはないが登場人物の幸せを願わずにはいられない作品でした。

    2017.3.5

  • 主人公は33歳の若き庭師。かつて恋人が犯した殺人事件の巻き添えとなり両親を失った少年を懸命に育てている。その渾身の償いは一向に理解されることなく、寧ろ凄絶さを極めていく。そして、まもなく服役を終える恋人…。

    恋人と再会は果たせるのか?その7日間の話なれど、回想の中で、事件の真相・主人公の祖父・父親との確執・庭師として生きる情熱・会食不能症の精神疾患の深刻さ・作庭や釣忍の情景の美しさなど、ふんだんに盛り込まれた濃密な小説。

    過剰とも言える愛憎劇が巧みな構成により展開され、果たして主人公の魂が救済されるのか…その思いに牽引され、ひたすらページを繰ってしまう、ぶっ飛びエンタメ小説。

  • 重い話だが、最後まで一気に読ませる。素晴らしい構成と筆力に感服。

    全身に重い火傷の痕がある造園業で働く青年「雅雪」は、贖罪のため少年「遼平」の世話をする

    雅雪が生まれ育ったのは「たらしの家」と呼ばれる女たらしの祖父、父がいる家。孫に全く愛情も関心も持てない祖父。造園の才能が無いと父親に言われて以来、息子を無視する雅雪の父。

    常に女が連れ込まれている家で育ち、人と一緒に食事ができなくなってしまった孤独な雅雪は常識も愛情も知らずに育つ。造園の才能を持ち、庭にひたすら向き合って生きてきた。

    そんな彼に出来た友達「郁也」と彼の双子の妹「舞子」。ネグレクトされて育った同士、舞子とは気持ちが通じ合い恋人同士になるが大きな悲劇が起こる。

    心優しい細木老や原田「仕事人」にも助けられ、真実に向き合うことで雅雪はやっと卑屈な思いから解放される。

    そもそも雅雪自身は何も悪いことをしていない。それなのに一生を掛けて償おうとする気持ちが切なく痛い。

    生き残った人々が幸せになって欲しいと切に思う。

  • 雅雪、郁哉、舞子、そして遼平。みんな哀れすぎて、また雅雪の祖父や父親、郁哉と舞子の母に対する苛立ちと憎しみが強すぎて、読んでいて辛い気分になってしまいました。

    ページをめくる指も重く、読むのにとても時間がかかりました。あまり辛い気持ちになるので、何度も読むのを止めようと思いました。けれど「なぜ雅雪はそこまで献身的になれるのだろう?」という疑問が読中ずっとつきまとって頭から離れず、読むのを止めることができませんでした。

    その真相に関しては、間接的に関わりがあったとはいえ、そこまで自責として受け取れる話でもなかったため納得できず… けれど雅雪の真面目な性格を考えれば彼ならあり得ると理解はできます。このギャップが同情を誘うのかもしれません。

    辛い境遇の中でも、幼い遼平と接することに悦びを感じていたことを語る場面は涙を誘われて困りました(読んでいたのが電車の中だったので)。

    そしてなにより、ラストで舞子と一緒に朝ご飯を食べるという普通ならなんということのない場面。けれど本作では、これがとりわけ感動させられました。「あの雅雪が二人で飯食っとる」と思うだけで、いい年したおっさんが部屋で一人号泣する事態になるほど(苦笑)

    読中は辛い気持ちを引きずりましたが、前向きな気持ちになれるラストシーンに少しだけポジティブな気持ちになりました。すごい作家さんがいたものですねぇ。他の作風がどんななのか分かりませんが、とりあえず心が元気になったらw 他の作品も読んでみたいと思います。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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