いえ

著者 :
  • 祥伝社
3.76
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636180

感想・レビュー・書評

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  • 傑の妹、若緒の恋人で、親友の大河が交通事故を起こし、若緒が足に障害を負う。そのことで、傑の家族はぎくしゃくし始め、傑自身も恋人と距離を置いてしまう。仕事でも人間関係でうまくいかず、あれこれと思い悩む傑。

    傑視点でずっとひとり語りが続くので、鬱々とした愚痴につき合わされる気分で、正直しんどかった。
    そして、何も起こらない。事件は何も。
    ただ、時間の経過と共に、それぞれがそれぞれのなかでの落としどころを見つけていく感じ。生きるというのはそういうことなのだと。
    それが見つけられない人が出てくると、ミステリとかホラーとかいう類いの小説になるわけだ。

  •  荒川沿いの町、江戸川区平井を舞台にしたヒューマンドラマ。

         * * * * *

     主人公は三上傑。スーパーのハートマートに勤める25歳。描かれるのは、仕事でもプライベートでも屈託を抱える傑の8ヶ月間。

     と、概要だけで馴染んた名称が2つもあり、読むのが楽しくなってきます。

     のっけから「喫茶羽鳥」です。ファンにはおなじみ、昭和の名残り漂うお店です。
     カフェでなく喫茶店です。だからピーナッツの小袋がピッタリきます。この感覚がいい。

     三上家のご近所もまたいい。
     まずは「筧ハイツ」。なんと「江藤瞬一」君も登場します。それも結構重要な役どころでの登場です。
     おまけに三上家の隣家には「郡唯樹」君が住んでいるのです。

     「面倒な兄」。そんなことありませんよ。
     妹の脚に残る障害。
     仲違いする両親。
     難航する妹の就活。
     すべての責任は親友と妹を結んだ自分にあると思ってしまうのはしかたないことでしょう。

     気に病むな。そう思って、傑にエールを送りながら読み進めてしまう作品でした。


     『ひと』『まち』でもそうでしたが、自分ではどうしようもない出来事と向き合う主人公に対して、温かい目線でもって描くのが、小野寺さんは本当にうまいと思います。読んでいても希望の灯が感じられて安心できるところが、小野寺作品の魅力です。

     さらに本作では、主人公には実にステキな彼女までいて、ひどいことには絶対ならないんだろうなと予想できたので、小心な自分には大好きな作品になりました。

     「筧ハイツ」を中心にした「江戸川区平井」が舞台の一連の作品は大好きなシリーズです。どんどん書き足していってほしいと願っています。

  • 昔ながらの美味しくて飽きのこない"中華そば"みたいな小説。

  • 前作、前々作に登場した人物や場所がてでくるのは、やっぱり気持ちよくわくわくする。
    『人に謝る、ちゃんと』って意外と難しいんだよな〜と感じていた。言葉が出ないとか。
    でも、最後の怒涛の謝罪シーン、すごくよかった。
    ある意味勢いも大事だよなと。
    家があって、家族があって。やっぱり大切だなと感じた。
    今、学生時代の友達に謝ることは思いつかない。
    ただ、学生時代に仲が良かった仲間と疎遠になっているのは確か。連絡を取ってみよう。と改めて思った。

    荒川の河川敷いきてぇー!!

  • スーパーの社員として働いて3年目の主人公の妹が主人公の友人と恋人関係になってドライブしていた時に事故に遭ってしまい、主人公の妹の左足が不自由になってしまった。

    その左足の不自由のせいで就活が、なかなか思うようにいかない、また主人公の友人とギクシャクした、主人公の友人と付き合わなかったら事故は起きなかったのにと付き合いを許したのを後悔する親との関係がギクシャクした、主人公が働く職場で人間関係のトラブルが起こるなど、悪循環
    だった毎日が少しずつ登場人物の努力次第で良い
    方向に変わっていく物語だった。

    たった7・8ヶ月間の出来事の物語だったが、そのような短期間でも、悪循環だった生活が良い方向に変わっていくのだなと学んだ。

  • 「ひと」「まち」に続く物語。主人公はまったく別の人だが、平井という町にどんどん知り合いが増えていくかんじ。
    「ひと」「まち」のように、大きな事件や問題が起きるわけじゃなく(若緒の事故は大きな出来事だけど)、日常が淡々とつづられている。でも、その日常の気持ちの動きが丁寧に書かれていて、表現もとてもおもしろくて、「ひと」「まち」と同じく一気読み。傑の職場でのパートさんとのいざこざなんて、わかる、わかると思いながら読んでいた。
    「3歳違いの兄妹。特に仲がいい兄妹ではない。悪くないだけ。普通」だと言っているけど、仲いいでしょ、普通に。兄、傑は妹のことを気にかけ、妹の恋人で妹の事故の後遺症の原因である親友の大河と距離を置いてしまうくらい。それに初っ端兄妹で「喫茶羽鳥」だよ。普通兄妹で近所の喫茶店行く??
    読後感はとても良かった。私も明日からがんばろうって思える。
    「まち」の主人公、江藤くんも消防士試験に受かり、頑張っている姿がうれしい。

  • <麦>
    【読書前感想文】小野寺史宣はお酒が好き。特にビールが好きなはず。これまで読んで来た彼の作品には必ずお酒を飲んでいる場面が登場し,そのお酒がビールである確率がかなり高い事をぼくはすまんが知っている。すまぬ。

    【読後感想文】 で,はい,まずは本文53ページにキーワード ”ビール” 登場。これはさりげなく何気なく登場するのでこの僕の様に感性を研ぎ澄ませた読者でないと気づきはしない。けれども僕には分かってしまうのだ。小野寺くん 上手く隠して飲んだいや紛らわしたつもりだろうがまだまだ甘い!僕程の手練れには無駄な努力なのだよ。君のビール好きはとっくにばれている。いや叱ってはいない。僕も人語に落ちないビール好きふだから。ハハと大いに笑う!

    でその後は怒涛のビール飲み小野寺の面目躍如。各種アルコホル飲み放題の宴会でもひたすら小野寺はビールを飲んでいる。(もちろん物語中は小野寺ではなく主人公男子の名前なので勘違いはしないで欲しいねw)

     さてストーリーはちょっとお酒を飲む場面が多いだけのなんて事のない日常生活 を描いた物語。でもなぜか面白いしあろうことか僕は時々涙ぐんだりしながら読んでいる。その具体例について書くとネタバレになりそうなので,僕はこうやって著者と僕のお互いに大好きなビールの話メインで読書感想文を創作する。何気に書いているがこれでも結構考えないとこう上手くは書けない。あ,すまぬ つい自慢的発言になっていた。笑う。

  • 「ひと」から「まち」へ広がった物語が「いえ」へと戻ってきた。
    筧ハイツもおかずの田野倉も江藤君も郡君もでてきてファンにはたまらない。
    自分の大学の友人と付き合っていた妹がデート中の事故で足に障がいを持つ。そこから始まる物語。
    兄、傑二十五歳。いろんなことがうまくいかない。なにもかもぎくしゃくする。職場でもパートさんに総スカンをくう。
    何が悪いということもない。ただただうまくいかない。自分のことを「嫌なやつ」だと自覚している。
    妹のケガがきっかけで父と母の間にもぎくしゃくが生まれる。家族なのに、家族だから。
    壊れてしまいそうな家族。友人関係も、職場関係も、彼女とも、崩壊寸前。どうしたらいい。
    悪い方向へとばかり転がっていく時間。そんな中での転換。気持ちの変化、心が動く。言わずにいたことを伝えていく。母に、駅員さんに、友に。ここからがいい。気持ちいい。
    ひととひとの間には、「言葉」が必要だな、としみじみ思う。言わなくても伝わることもあるけれど、言わなきゃ伝わらないことも多い。
    言えなかった言葉を、いつか、きっと、どこかで。

  • 以前に【ひと】を読み、他のも読んでみようと手に取った。
    この作品にも、前回のメインであるおかずの田野倉が一瞬出てきて、おっ!と思った。
    家族関係、友達関係、職場関係。
    それぞれに問題があって、それでもその問題について逃げずに話し合い、お互いの気持ちを相手に伝える。
    そんな人との向き合い方が丁寧に描かれている。
    誰もが経験しそうな日常生活、そして誰もが経験しそうな悩み。
    近所の人達との関わり合いもほっこりし、安心して読める。
    傑の思い立ったが吉日の行動があまりに潔くてかっこいい。

  • 「ひと」「まち」を読んだのが2、3年前なので、久々のこの作品世界が懐かしく、相変わらず心地良かった。
    特別優れている、とか秀でている、鋭い、とかでは無い、市井の普通の人々の出来事、思いが淡々と描かれているだけなのですが、其々の思い、思い遣りが心に沁みるという愛おしい世界。

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著者プロフィール

一九六八年千葉県生まれ。二〇〇八年『ROCKER』で第三回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞し同作で単行本デビュー。著書に「みつばの郵便屋さん」シリーズ、『ひと』『ミニシアターの六人』『レジデンス』『タクジョ!』『銀座に住むのはまだ早い』『君に光射す』などがある。

「2023年 『片見里荒川コネクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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