人間の条件 (ちくま学芸文庫 ア-7-1)

  • 筑摩書房
3.86
  • (105)
  • (90)
  • (131)
  • (7)
  • (2)
本棚登録 : 2749
感想 : 118
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480081568

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 少しだけ読むのは難解だが、通読すれば、得るものが多い。

    労働と仕事と活動。それぞれの言葉をこれでもかというぐらい腑分けし、精緻にその語の深奥から展開していく。

    普段、私は言葉に無自覚であることを本書で思い知った。

    アレントは、古典とりわけプラトンなどのギリシャ哲学や、ラテン語などの語源的な意味と、語彙をめぐる歴史的な変遷に照らし合わせながら、言葉の意味を現代に照射している。

    読後は、悟ったような清々しさはないが、それがアレントの言いたかったことだろう。つまり、何かを抽象化、それが生命尊重であれ、語った瞬間にこぼれ落ちるものがある、ということ。

    カント、マルクスをはじめとする哲学者への眼差しも如実知見だと言いたい。あがめるのでもなく、けなすのでもない。真の批評だ。

    余りに本の折り目が多すぎて、ここには書けない。
    重要箇所を重点的に読み返してみて、目から鱗の連続だ。

    「人間が生まれてきたのは、死ぬためではなく、始めるためである」

  • 何度くり返し読んでも新しい発見がある本です。それだけ難解ともいえますが。「公的領域と私的領域」で古代ギリシア・共和制ローマに政治の理念型を見いだしている点、activityの最後の章actionで言論speechへの言及が多い点から、議論と説得、つまり公共性の先駆的理論家、というのが通説になっています。ですが、アーレントは過去に郷愁をいだくような人とは思えませんし、現実を鋭く見つめる研究者です。語られた言葉は、その瞬間に生きた精神を失い、人間世界の不死性にかかわるには、記録された死んだ文字だという記述があります。信条を異にする人を説得するのは容易ではありません。『人間の条件』は、お話し合いで解決しましょうという言論の公共性ではなく、個人の行為が、死んだ文字に、語られている瞬間の息吹を吹き込み、人間集団を刺激し、集団内で新たな活動が生じていくことが、人間社会の存続につながっていくと考えていたのではないでしょうか。

  • 本書で示されるアレントの問題意識は多岐にわたっている。特に印象深かったのは、消費社会化、大衆社会化につれて「仕事」による製作物が単なる消耗品として使い捨てられるようになり、同時に「活動」も大衆社会化の中で衰退した結果、「労働」ばかりが幅を利かせるようになったというくだりだった。
    http://d.hatena.ne.jp/hachiro86/20070209#p1

  • 内容にも納得やし、自分の経験と結びつけて考えられる話も多い。人の前に現れないとと思う。なるほどな、の段階にはいけたので、その上での意見は?

  • アーレントの軽快な文章構成のおかげでスラスラ読み進められるが、一つの言葉に対して特有の意味をもたせる彼女のスタイルに慣れるまでが大変。

    本著で考察される労働、仕事、活動という三つの題目が西洋の歴史のなかで、どのようにして各時代を渡ってきたのか、その経緯をアーレントは入念に考察する。
    古代ギリシャを筆頭に言語の起源を辿ることで、その「言葉」そのものの語源、根本に立ち返りながら、意味の変遷過程を見据え、現代性を再考し、今一度冷静に捉え直す。
    プラトンやソクラテスによってテオリアが活動の上位に置かれ、それ以降の西洋史を大きく支配することに至るが、近代において生産消費の活動そのものがその上位の位置を奪うに至る。
    デカルト的懐疑も、その内省という終わりのない精神的活動を促進させる原動力ではあったが
    そうしてアルキメデスの点を見出したことこそが、近代特有の有用性、つまり自然そのものを理解する以上に、その生成「過程」を対象に向ける契機へとつながっていく。

  • 私的領域よりも公的領域に、そして労働や仕事よりも活動に、人間としての善き生を思い描くアーレントの議論は、ポリス的な生き方(公的領域で人々が交わる)を理想化しすぎでは?という不満はある。

    でも、読むといろんな疑問がわいてきて、つまりそれだけいろんな閃きの可能性に満ちていて、興奮ずくめの読書だった。とくに活動についての第5章は、§24の誕生と始まり、§33の許し、§34の約束など、人間への希望を感じさせる発想がたくさんあって感動した。

    むずかしくて分からない箇所も多かったけど、何度も読み返して食らいつきたい。

    【疑問リスト】

    Q. 公的領域における「現れ」だけがリアリティのすべてなの?
    ・他人によって見られ、聞かれること=「現れ」が世界と自分自身にリアリティを与える、というふうに言ってしまうと、たとえばレイプ被害者や自死遺族などのように、誰にも言えないし言いたくもない、自分自身思い出したくもないような経験をした人たちの、辛い過去や傷つきにはリアリティがない、と見放すことになってしまわないか?

    Q. アーレントは「喜び」についてどんな考えを持っていたのだろう?
    ・アーレントは「私的なもの」を生命ゆえの必然性や必要の領域として描いているが、「私的なもの」の典型である家は、必然(生命への従属)だけでなく喜び(生命への愛)もあるのでは?
    ・自然と人間の物質代謝を支える労働ではなく、自然の循環過程に抗して世界を作り上げる仕事=制作の方により高い価値を置いたアーレントは、書く人ではあったかもしれないが、「喜んでオムレツを作る人」ではなかったのかもしれないと思った。労働のくりかえしにだって喜びはある、と個人的には思う。

    Q. 書かれたものだけがすべてなの?
    ・活動、言論、思考は物になる(=書かれる)ことで初めてリアリティを得るという考えは、たしかにその通りだなと思ういっぽうで、書くことを特権視する西洋の知的伝統そのまんまだとも思った。また人間のあり方をめぐって、ギリシャ語やラテン語の語源にさかのぼって考えようとするなど、アーレントの議論にはエリート主義の傾向がひそんでいるように感じられた。
    ・書かれた歴史の後ろで人知れず世を去っていった数多の無名の人たちの、書かれることのなかった生のリアリティは?
    ・歴史的資料として残らなかった口承は?

    【目次】

    プロローグ

    第一章 人間の条件
    1 〈活動的生活〉と人間の条件
    2 〈活動的生活〉という用語
    3 永遠対不死

    第二章 公的領域と私的領域
    4 人間──社会的または政治的動物
    5 ポリスと家族
    6 社会的なるものの勃興
    7 公的領域──共通なるもの
    8 私的領域──財産
    9 社会的なるものと私的なるもの
    10 人間的活動力の場所

    第三章 労働
    11 「わが肉体の労働とわが手の仕事」
    12 世界の物的性格
    13 労働と生命
    14 労働と繁殖力
    15 財産の私的性格と富
    16 仕事の道具と労働の分業
    17 消費者社会

    第四章 仕事
    18 世界の耐久性
    19 物化
    20 手段性と〈労働する動物〉
    21 手段性と〈工作人〉
    22 交換市場
    23 世界の永続性と芸術作品

    第五章 活動
    24 言論と活動における行為者の暴露
    25 関係の網の目と演じられる物語
    26 人間事象のもろさ
    27 ギリシア人の解決
    28 権力と出現の空間
    29 〈工作人〉と出現の空間
    30 労働運動
    31 活動の伝統的代替物としての製作
    32 活動の過程的性格
    33 不可逆性と許しの力
    34 不可予言性と約束の力

    第六章 〈活動的生活〉と近代
    35 世界疎外
    36 アルキメデスの点の発見
    37 宇宙科学対自然科学
    38 デカルト的懐疑の勃興
    39 内省と共通感覚の喪失
    40 思考と近代的世界観
    41 観照と活動の転倒
    42 〈活動的生活〉内部の転倒と〈工作人〉の勝利
    43 〈工作人〉の敗北と幸福の原理
    44 最高善としての生命
    45 〈労働する動物〉の勝利

    謝辞

    訳者解説
    文庫版解説(阿部齊)

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737709

  • 買ってから2年くらい熟成させてから、一気に読んだ(読めた)。久しぶりに読み応えがある本だった。

    アレントは労働の意味が大きく変わった現代における人間の条件や自由のあり方について論考しているわけだが、このまま2020年代も当てはまる話であるなあと感じた。

  • 小川の推薦本であるが難解である。それは、ものごとをはじめから説明するのではなく、マルクス、アダム・スミス、アリストテレス、デカルトなど多くの哲学者の思想を利用て、物事分析していることである。
     したがって、ある程度の哲学的な基礎知識がないとなかなか理解がすすまない。
     単行本では300ページ程度であったが、文庫本では500ページを超えているということは、結構ハンディではないというような気がする。

全118件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

1906-75年。ドイツに生まれ、アメリカで活躍した哲学者・政治思想家。主な著書に、本書(1958年)のほか、『全体主義の起源』(1951年)、『革命について』(1963年)など。

「2023年 『人間の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ハンナ・アレントの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×