- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907053123
作品紹介・あらすじ
2014年に著者が自費出版し反響を呼んだ同名冊子を中心に、『働けECD〜わたしの育児混沌記』(ミュージックマガジン)後の5年間の日記と散文で構成。震災直後の不安を抱きながらの生活、育児に対する葛藤、世間的な常識のなかでの生きづらさ、新しい恋愛。ありのままに、淡々と書き続けられた日々は圧倒的な筆致で読む者の心を打つ。稀有な才能を持つ書き手の注目作です。
感想・レビュー・書評
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写真家であり、ラッパーのECDの奥さんの日記と私小説のような短文集。
以前『働けECD〜わたしの育児混沌記』を読んで、面白かったので、その続きのつもりで、軽い気持ちで笑って楽しもうと読みだしたが、見事裏切られ腹にズシンとくる内容だった。
筆者の植本さんがこの日記で、「働けECD」の続き物にしたくなかったと書いているように、自分自身を全面にされけ出した本になっている。「女」全開。「自分」全開。
ただただ、ブラックホールのような、マグマのようなパワーに圧倒される。
最初の頃の日記は育児に翻弄される筆者の、もうどうしようもない育児の悩みがつづられる。保育園の先生にも心配されるようになる。子育て中は、みな似たような体験がある。育児とは本当に大変なもので、孤独なもの。自分自身を追いつめるものである。その点で非常に共感できる。外では涼しい顔しているけど、家の中では散々もがき、必死に育児している。そんな等身大の母親(基本的に世の母親達は、皆自分なりの母親像になれなく、もがいていると思う)として応援がしたくなるし、子育ての親として背中を押してもらえるような元気をもらえる。
ただ、今度の本はそれだけでは終わらない。母親との確執、その関係から自分の子供との関係、距離感へ。段々と精神的に追い込まれ、いつの間にか好きな人ができ不倫しつつ離婚をしたいといいながらECDとは別れられず、漫画家の先生にカウンセリングを受けるに至る。
私小説を読んでいるような、どこに行ってしまうのだろうと、まさに生きながらこの人自体が文学という趣。
母親という目線でみると、理解できない部分が多々あるが、この人の日記(ブログ)は正直にさらけ出されていて、描いてある内容はメランコリックなのだが、ある意味すごい強さがあるなと思う。永遠の10代のような純粋さと鈍感さを併せ持つ。
何はともあれECDが、だらしないゴロツキでもなんでもなく、包容力のある不器用な男として魅力あふれて感じられる。
やはりこの本の裏に流れるテーマはECDなのだと思う。ECDという存在なしに植本さんの心情だけでは、ここまで惹きつけられて読めないのではないだろうか。
そして、今年の初めにECDが亡くなった。
改めてYoutubeでラップを観て、カッコよさに痺れた。
動画で子供たちと映るECD(石田さん)のシャイな笑顔に、入院時のさみしげな目つきに、惹きつけられた。
残った子供たちと一子さんが幸せに生きていけるように。本の題名のように「かなわない」ことが世の中にはたくさんあるけど。
ちなみに、一子さんに日記にでてくる本には、あたりが多い。つげ義春の奥さんの藤原マキ「私の絵日記」が紹介されていたが、つげさんもびっくりの面白さ。一子さんもだけど、アーティストの奥さんはやはり只者ではない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まっすぐな文章。うそ偽りのない。
飾っていない。カッコよく見せようとか、理想のお母さんでいようとか、そんなものは微塵も感じさせない。
だから惹かれる。ぐいぐい来る。
母親だって子どもを可愛く思えない時もある。
妻だって夫以外の人を好きになることもある。
分かっているのは、それがありのままの自分だっていうこと。紛れもない日常がそこにある。
文章がとても素直でかつ上手い。
ところどころ、こちらの心を見透かされたような箇所で、少しだけ息苦しくなる。淡々と、事実だけが羅列してあるだけなのにこんなにも迫ってくるのはなぜなんだろう。
著者もさることながら、夫のECDさんの人間としての魅力がハンパない。根底に流れているのは、すべていいんだよという肯定感。
http://zazamusi.blog103.fc2.com/blog-entry-1363.html -
植本さんのことは全く知らず、多分書評か何かを読んで、読みたい本に入っていたのだと思います。読み始めてすぐに、「イカれてるわ、この人」という思いでしんどくて、なんでこんなに子供を愛せないことを赤裸々に書けるのか?書くことでこんな自分を認めてほしいと発しているのか?とイラつきました。こう言う人は絶対に子供を育ててはいけなくて、親が育てたように自分も育て、子供から嫌われるのに、と思っていたら後半で先生に出会い、自分を少し知ることができて、関係ない人なのに良かった!と思いました。「母には感謝してる」と言う人は母親が嫌いなんですよね。私なんか「母みたいになりたい」くらい好きなんだけど、好きになれない環境だと本当に大人になってからも辛いなぁと改めて感じました。それにしても、なんだかんだ逞しい人。
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色々と言いたいこともあるが(※震災後の混乱していた時期だし仕方ない)植本さんのキャラで帳消し。とにかく正直な人だ。レビューで「わがまま」とか「自分勝手」とさんざんな言われようだけど私にはその評価がピンと来ない。大抵の人間は自分のことを書く時に自己弁護や自己欺瞞が付き物だ。この人にはそういう誤魔化しがないだけ。むしろよくやってると思う。「働けECD」も読んでみたい。
※2021年現在、震災後の福島で生まれ育った子供たちに放射能の影響はなかったことが証明されてきます。それだけは言わせてください。 -
とても正直な人だ、文章だ。
amazonレビューを見れば分かるように、読む人にこれだけの嫌悪感を抱かせるのは、この「正直さ」が恐ろしいからだろう。本当の自分に向き合うのが。
私たちは試されているのだ。 -
小さな文字でびっしりと埋め尽くされた紙面からは、作者の叫び声が聞こえてくるようでした。
『私が』可哀想。『私は』こんなに大変。
『私を助けて!』。。。
『私が』、『私が』の大洪水とあまりに勝手な言い草に嫌気が差して
何度も途中で本を放り出してしまいそうになったのですが
どうにも続きが気になり
結局最後まで読んでしまいました。
日々の出来事をこまごまと書き綴った日記なのに、
とてつもなく人を引き付ける魅力がある。
読んでいると心がザラリとしてくるのに
読み終わるとなぜかすっきりとした気持ちになる、何とも形容しがたい本でした。 -
第2子出産の入院中に読破。
味わったことのある、育児中の孤独と自己嫌悪と罪悪感が
他人事とは思えず、むしろ濃縮されたそれらを否応なしに
追体験させられて、読み進めていくのがしんどかった。
どんどん私まで傷付いていった。憎くなるくらいには。
なのに、読み進めるのを止められない。
読み手にどう思われるかを、全く気にしてない姿に
嫌悪感さえ覚えてしまったのだけど、それはいかに自分が
他者の視線を気にしているかの裏返しであると気付かされたり。
やーーーー、すごい。
他の植本一子の本、買ってしまったもんね。
気になって気になって。