空気人形 [DVD]

監督 : 是枝裕和 
出演 : ぺ・ドゥナ  ARATA  板尾創路  オダギリジョー  高橋昌也 
  • バンダイビジュアル
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感想 : 415
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4934569636034

感想・レビュー・書評

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  •  中年男が偏愛するラブドールがある日突然、心をもって動き出した。彼女はレンタルビデオ屋でバイトして一人の若者との距離を近づけていくが。。。

     空気人形役のペ・ドゥナが本当に人形みたいだ! 配役や音楽が見事なまでにマッチしてる。空気を入れるシーンがまさにそうだが、ファンタジックでエロチックで感動的でという普段は一緒に感じることのない三つの感覚を濃厚に味わうことができる。
     確かに人はどこか空っぽで、誰かに替えがきく代用品だ。のぞみや登場人物達の一つ一つの言葉は多くの人の強い共感を得られるはずだ。

     「そして父になる」で盛り上がってるところにこの映画の話題なんか出したらきっと変な奴と思われてしまうだろう。でもこの映画は日本映画史に残る名作なんだと叫びたい。

  • ペ・ドゥナがよかったなー。可愛くて、エロい。胸が綺麗。
    初めて街へ出た様子、そこから色んなことを覚えて行く様子。恋をする様子。言葉少なに演技しているのがステキ。
    ダッチワイフのメグミが心を持ってしまい、自分は所詮誰かの代用品でしかなくて、自分の中は空っぽの空気しか入ってないということに悩む。
    でも、人間も人形と一緒で誰かの代用品でしかなくて、空っぽ。
    一番最初のシーンと最後が衝撃でしたねー。
    綺麗で、切なくて、悲しくて。消化しきれない部分もある、そんな話でした。

  • セックスドールが心を持ったことで始まる物語。

    どうせシャレオツ素敵映画でしょ、と見くびっていたので、
    見くびり→衝撃の度合いで行けば、「プラダを着た悪魔」以来。
    これはなかなかどうして、すごい映画でした。

    文字通り、人形と見紛わんばかりの完璧な肢体を曝すペ・ドゥナは、
    心を持つことと引き換えに、
    性欲処理の道具である、中身は空気で空っぽである、何かの代用品である、
    など、自我についての根源的な苦悩を抱える。

    だが、それは何も彼女に特異的なものではないことを示すように、
    中身が空っぽな人物達が脇で細かく描写されていく。
    そして、様々な出会いによって彼女の自我が徐々に確立されていくが、
    事態は思いもよらぬ方向へ発展していってしまう。

    映画史上、最も美しいと評されるラブシーンは、
    エロティシズムの変態性を実に艶っぽく、それでいてただの助平ではない
    領域にまで引き上げて、描いている。お見事の一言に尽きる。

    ペ・ドゥナは言わずもがな、美しく可愛らしいが、
    彼女の存在そのものを肯定し得るARATAの演技が素晴らしい。
    岩松了は相変わらずいやらしいいい演技をする。

    作中登場する以下の詩が、本作の全てを物語る。
    少し長いが引用する。

    ***

    「生命は」吉野弘

    生命は
    自分自身で完結できないように
    つくられているらしい
    花も
    めしべとおしべが揃っているだけでは
    不充分で
    虫や風が訪れて
    めしべとおしべを仲立ちする

    生命はすべて
    そのなかに欠如を抱き
    それを他者から満たしてもらうのだ

    世界は多分
    他者の総和
    しかし
    互いに
    欠如を満たすなどとは
    知りもせず
    知らされもせず
    ばらまかれている者同士
    無関心でいられる間柄
    ときに
    うとましく思えることさも許されている間柄
    そのように
    世界がゆるやかに構成されているのは
    なぜ?

    花が咲いている
    すぐ近くまで
    虻の姿をした他者が
    光りをまとって飛んできている

    私も あるとき
    誰かのための虻だったろう

    あなたも あるとき
    私のための風だったかもしれない

    ***

    正直、是枝作品で唸るのは悔しいが、すごい作品だと思います。

  • 主人公の空気人形が突如として心を持って自由に動けるようになり、他の人たちと一緒の暮らしをする──という設定にリアリティを持たせる方向で努力しなかったところがこの映画が成功したところだろう。「彼女は他の人からはどのように見えているのか」とか「なぜ身分証明もないのにバイトできるのか」ということは、いちいち説明する必要もない。これは言ってみれば「オズの魔法使い」のような話なのだから、それでいいのである。でも、並みの監督だったら、そこをもっともらしく説明しようとしただろう。よく思い切ってこういう話に出来たと思う。
    もちろん、これは業田良家の原作もひじょうに素晴らしいわけだが、それをここまで映像に出来たと感心した。また空気人形の物語を中心にしながらも、脇役たちが抱えるそれぞれのストーリーがしっかり構想されているから、物語も厚くなっています。
    もちろん言い忘れてはならないのは配役。ペ・ドゥナの起用はもちろん「これ以外にない」という選択だと思うのだけれども、板尾創路がまた気持ち悪い中年男をやり、一見、かっこいいけど、実はどうしようもないダメ男をARATAが演じる、このあたりが実によいですね。ビデオ屋さんの店長の岩松了もまたいいなぁ。
    韓国映画もいいけど、やっぱり日本映画もまだまだいいものがたくさんあるなぁ! うれしいです!

  • 「空気人形」という設定は奇妙だが、実際<超>がつくほど純粋でリアルな物語。都会の片隅で自分の存在を否定しながらも生きる人たちを捉えるカメラワークが良い。ひとつひとつ丁寧で繊細。役者さんの演技も素晴らしい。

  • “満たされない”という感情を扱った作品でした。

    食欲、性欲、身近な人間関係での満たされない何か。
    そしてそれを代用品で満たしているありふれた日常。

    片方が満たされた恋愛をしていたとしても、
    けれどもう片方は同じものでは満たされない。

    作中ではそれを「空気」を使って表現していたのでおもしろかったです。


    女優さんを人形として魅せるやりかたも、
    そこに官能性をもたせるやりかたも好印象でした。

    でも最後のシーンはとくに「綺麗」と言わせるならもっと
    綺麗な画でもよかったんじゃないかなぁ

    あくまで日常としての共感をうたっていたので
    それはそれでよいと思うけど。


    メイドさんかわいかったです。

  •  ひとはなぜ生きるのか。この問いには、ある転倒が加えられている。街の灯りに照らされて、長くのびた影法師がふたつ。もの静かな青年、ジュンイチの影はそこにあるのに、ノゾミの影は透きとおってしまう。生きることがじぶんを象る人間と、何かのために生みだされた人形の、生命と非生命のあいだ、はからずもさしのばされたふたりの距離感はおごそかにも残酷な解をほのめかし、その一方で観るものを突き放す。

     業田良家による原作「空気人形」に着想を得た是枝は、カメラマンに「夏至」「花様年華」などで知られる名伯楽、リー・ピンビンを起用した。ふいに心を宿し、この世界に生まれ出ずるラブ・ドールに扮したのは、「リンダリンダリンダ」で日本にも知られる韓国人女優ペ・ドゥナだ。異邦人のまなざしと、無垢な人形の捉えた日常はあたかも異界のようで、見なれたはずの街並みを掘り起こし、あたらしく取り出してみせた。

     たがいの空虚が響きあう現代に、ありふれた宿痾とも呼ぶべき孤独をいまいちど手に取り、たしかめようとするのではなく、そっと見つめる。是枝が得手としている奇蹟の不在はこの物語においても引き継がれており、人形の主人でもある中年男性には願望のないまぜになった独白を、かつて代用教員をしていた老人には、語り部として吉野弘の詩を託した。


    「生命はそのなかに欠如を抱き、それを他者から充たしてもらうのだ」

     その欠如と充足とは、うばい合い、あたえ合う、生の秘蹟にほかならない。


     孤独は、ときに甘美な嘘をつく。つながりという口吻は人々を魅了し、卑小な連帯への囲い込みをやめようとしない。ひとはもとより平等でも絶対でもなく、誰しもが個別の時とばあいを生きている。だが、それが不実な慰みと知っていても、ひとは誰かを愛さずにいられない。

     無垢なる魂の物語は、その極点を官能のなかに迎えた。腕に傷を負い、流れ出たものは血ではなく、空気だ。からっぽな人形は愛するものの呼気に充たされてはじめて肉を手に入れ、愛するものを充たそうとして肉を喪う。そのやりとりは哀しくも、滑稽だ。

     ありうべきおとぎ話を引き受けて、我々は現実へと立ち戻らねばならない。空白を乗りこえるものは空白であり、美しいことばの孕むまぼろしではない。人形のため息が風をわたるとき、われらもひとつ、呼吸をかぞえる。

  • 男性と女性でたぶん視点が違いそうな印象。

    主人公は"空気人形"
    俗にいうダッチワイフ。

    この設定が生きたファンタジーですね。


    R15指定なので、
    コドモは見ちゃだめよ、と言う作品なんですが、
    15才はとっくに過ぎましたが、
    精神面でまだまだ未熟なわたしは、R15指定も今まで見たことがなく(精神強くない^^;)、この映画が初めてでした。

    セックスについての定義を
    わかってから見る映画なのかな、とは思いましたね。


    人形視点の物語であり、
    彼女が望まない性描写も結構多い。
    ペ・ドゥナはどういう気持ちでこの役を演じたんだろう
    と、見ながら思いました。


    個人的には、
    板尾の役が大阪弁だったのはものすごくよかった。
    話し方がものすごく自然で、
    その自然さが気味悪さと情けなさを出していてよかった。

  • 予告編を見て気になっていたので鑑賞。

    まず人形役のペ・ドゥナの演技が凄いですね。
    前半はまさに「人形」という感じですが、ストーリーが進むにつれて徐々に人間らしくなっていく様も良かったです。
    (エンドロールで日本人ではない事に気付きましたw)

    ARATAとはどういう風になっていくのかなーと観てたら最後に不意打ち喰らった感じ。

    ストーリーとは関係のない人達がチラチラ出てきましたが、人形が感じているであろう「空気」感を、各々が比喩していて、老人の言うように「同じように中身がからっぽの人間が結構いる」というテーマ(だと感じた)は伝わりやすくて良かったですね。

    是枝裕和作品を他にも観てみたくなりました。

  • 心を持つことは切ないことでした、みたいな謳い文句があって、「ありきたり」なようで、けど、「切ない言葉だな」と思っていたら、やっぱり、切ない物語でした。温かい言葉が投げかけられても、その温かさを、空気人形は実は感じきれなくて、いや、別のもののように感じてしまっていて、おそらく、自分が、「恋をしていた相手」を殺してしまうこととなる。人形は燃えないごみで、人間は燃えるごみ、ただ、その違いでしかないから、彼女はその恋した相手を、燃えるごみとして捨てようとする。心があるようで、心がなくて、心がないようで心があるのが彼女だから、彼女は何かしらずれていて、けれど、そのずれはいつだって後から、やってしまってから気づくようなものもでもあって、彼女は自らのことをたびたび、「性処理の代用品」と、切りつける。その言葉が、その言葉が平板に発されるさまが生々しくて痛々しくて、けれど、リアリティを感じさせる。彼女は、どこにいっても、「代用品」になってしまう。それが、人形の定めだとしても、それは酷く悲しいものだ。現実感を損なうような、展開がいくつかあって(彼女が普通にアルバイトとして雇われていたりする点など)、そのあたりに、あれ?とは思うものの、最終的に物語りはそうした瑣末なことなど、些事だと思わせてくれるような展開をたどることとなる。原作が未読なために、最初は、「恋愛?」なのかと思っていたりすると、痛い目を見ることになる。エロティックな描写が多いけれど、それはエロティックにしたいというよりは、むしろ、生々しさを出したいという、意図のためだと思われる。何もかもが生々しくて、だから、「恋するはずの男=人間」の腹から空気をいれようとする彼女が、たまらなしく恐ろしくも、美しい。

    • 美希さん
      借りられたのですね。
      なんとなく設定と雰囲気だけで面白そうだなと思って借りてみたんですが意外にも心理描写とか言葉のやりとりで見所がたくさん...
      借りられたのですね。
      なんとなく設定と雰囲気だけで面白そうだなと思って借りてみたんですが意外にも心理描写とか言葉のやりとりで見所がたくさんあって、途中から感情移入してしまって切なかったです。お誕生日祝いみたいなシーンでちょっと泣きそうになりました。巧みだなと思わせるような部分もあったし、また気が向いたら観ようと思っています。
      2012/02/01
    • kazuhaさん
      コメントどーもです。
      そう、設定と雰囲気が、こう、少しマニアックながらも、いいところついているというか、独特な空気の純文学作品を掘り当てたと...
      コメントどーもです。
      そう、設定と雰囲気が、こう、少しマニアックながらも、いいところついているというか、独特な空気の純文学作品を掘り当てたときのような、気持ちというか。感情移入。僕は、店長に犯され出したあたりから、もはや混沌とした渦に絡めとられたような気持ちになって、店員の腹に空気いれようとして、殺しちゃって、ゴミ袋にいれちゃったあたりで、距離感がどんどん広がっていってしまいましたね(もう、とめてやれないや、みたいな)。視覚はちょっとエフェクトが強すぎるというか。お誕生日みたいなシーンは、なんだろう。店長とか、なんでいるの?お前?とか思っちゃったりしてました。
      2012/02/01
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著者プロフィール

著者)是枝裕和 Hirokazu KORE-EDA
映画監督。1962 年東京生まれ。87 年早稲田大学第一文学部卒業後、テレビマンユニオン に参加し、主にドキュメンタリー番組を演出。14 年に独立し、制作者集団「分福」を立ち 上げる。主な監督作品に、『誰も知らない』(04/カンヌ国際映画祭最優秀男優賞)、『そ して父になる』(13/カンヌ国際映画祭審査員賞)、『万引き家族』(18/カンヌ国際映画 祭パルムドール、第 91 回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)、『真実』(19/ヴェネ チア国際映画祭オープニング作品)。次回作では、主演にソン・ガンホ、カン・ドンウォ ン、ぺ・ドゥナを迎えて韓国映画『ブローカー(仮)』を 21 年撮影予定。

「2020年 『真実 La Vérité シナリオ対訳 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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