可燃物 (文春e-book) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  •  冷徹。
     それが最も相応しいのではないだろうか。
     主人公、群馬県警本部刑事部捜査第一課の葛(かつら)警部。彼を表すための言葉だ。
     沈着冷静、透徹した眼差しで事件の真相に迫る。
     けっして人としての情がないわけではないのだろう。ただ、刑事として職務に真摯であろうとするあまり、それ以外を無駄なものとして削ぎ落としてしまっているように見える。

     「葛警部」とだけ記されており下の名前は分からない。私生活を感じさせるエピソードも何ひとつ無い。感情を表に出すことも無く、部下との間に気安く雑談をするような関係もない。部下を現場で徹夜させておいても自分は睡眠をとる。判断能力を低下させないためだ。
     徹底して合理的な考え方であり、「優先順位に従って」必要な情報交換を行う。その立ち居振る舞いは周囲からも好ましく思われていないが、彼の捜査手腕には誰もが一目を置いている。
     事件の筋を読み、捜査方針を主導し、部下や所轄の刑事たちを使って捜査を進めてゆく。自ら現場に赴き、取り調べを行うこともあるが、基本的には部下に指示を出し動かす立場だ。
     そうやって集めた情報の中に潜むわずかな違和感を見逃さず、徹底的に調べ上げることで事件の核心にたどり着く。
     その意味では、まるで安楽椅子探偵のようにすら思える。
     「どこまでもスタンダードに情報を集めながら、最後の一歩を一人で飛び越える」と評される彼の能力は、余人に真似のできないものであり、“葛班はワンマンチーム”、“部下が育たない”と上司からも懸念を持たれている。
     しかし、集めさせたデータを元に沈思黙考し、あたかもパズルに欠けたピースを再創造するかのように隠された真実にたどりつく。
     それは、間違いなく主人公たりうる資質なのだろう。

     余談ではあるが、わずかに人間らしさを感じたのが、捜査本部に詰めている際に菓子パンとカフェオレで食事をとっていることだ。
     たまに不足する栄養素をビタミン剤で補ってはいるが、毎回判で押したように「菓子パンとカフェオレ」の組合せで食事をしていることに、小さなおかしみを感じてしまう。
     これは、著者のささやかなジョークなのだろうか?
     一般的な刑事ドラマだと菓子パンと缶コーヒーくらいだろうと思うのだが、なぜか葛はいつも「カフェオレ」。
     わざわざ「缶カフェオレ」を選んで買っているのか。
     まさかとは思うが、葛が捜査本部の冷蔵庫に牛乳を常備して、毎回インスタントコーヒーと合わせてカフェオレを作っているところを想像し、いやいやそれはないだろうと自分で笑ってしまった。

  • 序盤はあれ?何の変哲もない刑事モノか?と思っていたが、読み進めるごとに滲み出てくる米澤先生味にページを捲る手が止まらなかった。特に好きだったのは3本目の「命の恩」。私は米澤先生の書く、狂気的な信念というか、ある種の盲信を貫き続けてしまった結果、本人も気づかぬ内に引き返せないところまで来てしまった黒幕が大好きなのだが、この話はまさに!という感じだった。続編希望です。続々編も待ってます。

  • まあ、普通に面白いミステリー短編集でした。

  • 私は米澤穂信ファンではあるけど、ミステリファンでは無いしなれないのだなと感じられる一冊。

    葛の人物像が何も語られないこと(菓子パンとコーヒー以外)に必要性を感じない説得力のある描写が見事。

    ネタバレトークイベントも理解が深まったので未視聴の人は是非。(今月中でアーカイブ終了するので)

  • ミステリの中でも叙述トリック系の話ということにはなるんだろうけど、主人公側のドラマが一切なく純粋に捜査を指示して推理するだけの人というのが徹底されてることのほうが特徴的という気はする。にしても死体バラバラ事件の真相、よくあんなネタ思いついたな…

  • 導入の心理描写や日常がなく、いきなり事件発生から入るため、短気な身としては非常にサクサク読める短編集で非常に良かった。最初の事件は、雪山で円錐状で消える凶器、と明らかに氷柱だろ、、と思わせながら全く異なる展開であり、没入できた。ただ、タイトルになっている『可燃物』は別にそんなに、、という感想。

  • このミス2024
    短編集とはつゆ知らず。警察ものでありながら本格ミステリの要素があって、推理を楽しめる本でした。「本物か」がお気に入り。

  • 状況、確認、検証、為すべき事を全て為した上で、怜悧な程の熟考を重ねる…
    そしてまさしくそれと呼ぶに相応しい『閃き』が舞い降りる。

    リンカーンライムシリーズ(キャサリンだったか?)でも時々披露される
    これが『ブレイクスルー』と云うことか。

    仮に刑事ではなくても、彼なら常に結果を出し続けるのだろう…出世は別として(笑)。

    彼の様な有能な人に長く治安を維持して欲しいので、私ごときから一つだけ…

    ぜひ食生活の改善を!

  • 淡々と事件を調べ解決へ。派手さはないが、犯人や取り巻く人間模様が心に残る警察小説でした。面白かった3.6

  • Audible聴了。
    群馬県警捜査一課カツラ警部を主人公にした事件の短編集。ミステリー三冠を取ったというのでかなり期待したが、自分にとってはそうでもなかった。折れた骨で首を刺すとか、大きな火事が起こらないように可燃物(生ゴミ中心)に火を点けるとか、ちょっと無理やり感がなくはない。最後のファミレス立てこもり事件はちょっと意外で面白かった。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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