単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062578301

感想・レビュー・書評

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  • 少しボリュームあるが、全て面白い。名作。

  • 本書の終わりに、著者は、アウトリーチ活動について述べていた。アウトリーチ活動とは、研究者が、専門家ではない一般の人たちとの対話の場を持ったり、一般書を著したり、易しい講演を行ったりと、その労力をいわゆる社会活動についやすことである。

    本書は、著者の出身高校の現役学生に対し、全校講演を行った内容と、その内容に特に興味を示した9名に対し、その後行われた3日間に渡る特別講義の内容を収めたものである。すなわち、後輩学生たちへのアウトリーチ活動の記録である。

    アウトリーチ活動については、賛否あり、「一般向けにかみ砕く行為は真実の歪曲」などという否定意見もあるそうだが、本書を読む限り、科学的なテーマについて、実際に検証を行いながら真実を確認するやり方で行う講演であり歪曲に値するとは感じなかったし、さらに未来の科学者に対し、科学的課題究明のプロセスを体験してもらえるという教育的側面でもとても有効な取り組みであると感じた。

    「ロウソクの科学」でファラデー氏が、子どもたち相手に実験を交えながら講演した光景とダブルものがあった。

    本講義は、脳科学に関する講演であると思う。第一章では、「脳は本当はバカなのだ」というような話が、実例とともにたくさん紹介されていた。「ゲシュタルト群化原理」という脳の早とちりの話、能動的に視線を動かせば好きでないものも好きになるという「錯誤帰属」の話、長く接することで好きになってしまうという「単純接触現象」の話、というように専門的な内容を卑近な事例で紹介してくれる。

    本書の中では、脳の不思議を体験できるような実験がふんだんに盛り込まれている。サブリミナル効果が無意識に働きかけているという事実が、データから証明される。まるで手品でも見ているかのように不思議でかつ、興味深い。

    手首を動かす実験では、「手首を動かそう」と意識する前に、すでに脳が準備しているということが分かった。脳が「動かせ」という指令を発する前に、すでに実際に「動いている」という実験データであった。意識する前から脳が準備しているとはどういうことか?脳が指令を出す前にすでにアクションが起きているということはどういうことか?意識は、何者かに支配されているのか?

    この実験結果は、受講した高校生にも非常に印象が強かった。自分としては、意識の前に無意識が脳をスタンバイさせたり、意識の司令前に無意識の指令があったのではと考えてみたくなった。

    そのほか、講義の内容は多岐にわたり、初めて知ったことが満載である。例えば次のようなこと。

    ・「遺伝多型」というものが個性を生み出している事実(血液型の違いや、赤色を感じる受容体の違い、うまみを感じる受容体の違い、嗅覚の違いなど)

    ・生物進化の過程には、機能の「使い回し」があるという事実(今まで別の機能として役立っていたものを、全く異なる方向に転用し、新しい使い方を発見して、能力を開発していくこと)

    ・脳の働きには「ゆらぎ」があること。ゴルフクラブを握る握力は、脳のゆらぎによって異なり、それによってショットの成否が決まる。この「ゆらぎ」の仕組みの把握により、コントロールできる可能性があるということ。

    ・脳の可塑性について。これがあるから、遺伝子で決定されたデフォルトの状態から、さらに変化できる。学習や訓練によって能力を固めていけるのは、脳にこの可塑性というものがあるからだそうだ。

    ・脳のゆらぎ(ノイズともいわれる)には、3つの役割(①最適解への接近、②確率共振、③創発のためのエネルギー源)があるということ

    ・その③創発とは、数少ない単純なルールに従って、同じプロセスを何度も繰り返すことで、本来は想定していなかったような新しい性質を獲得すること。

    本書のタイトル通り、脳はシナプスとニューロンの単純な働きによって機能している。ニューロンがやっていることは、シナプスを経由の入力を足し算し、その結果を次のニューロンへ出力するという単純なものだそうである。しかし、そのシナプス入力に「ゆらぎ」が発生し、創発が起こる。

    最後にリカージョン(入れ子構造)ということについての講義があった。これが我々が心の不思議を感じる要素のようである。「複雑な私」とは、ここから来ているようだ。

    脳の構造や働きについて、高校生と共に学んだが、まだまだなんとなく消化不良感がある。高校生たちの事後の感想にもまだ完全に理解しきれていない様子は感じられたものの、彼らの視点は鋭く、著者にドキッとさせる質問が飛び交い、科学の世界へののめり込みかたは、将来への頼もしさが感じられた。。

    それと同時に、自らが脳の保有者であり、使い手でありながら、その機能について知らないこと(知らなかったこと)が多いということ、またその機能の不思議さに対する驚きがあったということも事実である。

  • 池谷さんは、知識がない人に対しての説明が抜群にうまい。面白い。もしも営業職をしたら良い結果を残すと思った。

  • 心や自由意志について脳科学の観点か見つめ直すことができる。ページをめくるたび新たな発見がありおもしろかった。

    特に印象に残ったのは無意識のほうが意識より正確、(意識的な)記憶は歪められる、意識が無意識にあとから理由をつける、好き嫌いの理由は案外単純な理由かも、など。

  • 武田さんからのおすすめ本でのメモ/
    アガサクリスティの小説
    生涯に長編小説は何冊でしょう?

    正解は..

    脳は思いでを都合の良いように記憶を置き換えてしまう。

    脳の不思議。幽体離脱を脳科学で説明。
    例えば、
    一流のサッカー選手は俯瞰で自分を見下ろす能力がある。

    脳死は人間の死ではない/

    脳(認知)と身体の行動はズレている。

  • 前著『進化しすぎた脳』に続いて読了。みんなにおすすめしたい数少ない本。

    自由意志→アイデアにつながる話に驚愕しながらもぴんときた。

    手を動かそうと意図したときには、脳はすでに動かす準備を始めている。場合によっては7秒前に。脳を見ると本人より先に本人の行動がわかってしまう。

    では、自由意志は存在しないのか。少なくとも「自由否定」は存在すると著者は言う。
    手を動かすとき脳活動と認知のレベルは次の順番で起こる。

    準備(脳)→動かそう(意図)→動いた(知覚)→指令(脳)

    準備から行動までは1秒以上かかる。行動したくなるより行動することの方が必ず遅い。その行動をしないことにすることが可能な「執行猶予」の時間だ。
    行動しない自由が人間にある。

    日常でも自由否定の考えは重要だ。
    アイデアは絞るものではなく、自然に湧いてくるもの,(cf〈「ひらめきは寝て待て」は本当〉p80)。「僕らにできるのは、自動的に脳から発生してきたアイデアを自由否定するかどうか、つまり、採用するか不採用にするかだけだ。そこにしか僕らの選択の余地はない」p310

    この話が最近個人的にすすめている「考えずに考える」取り組みにつながった。最近は浮かんできたアイデアをToDoアプリに入れて自分にリマインドするようにしている。そうすると無意識にそのことを考えていて、新たなアイデアが生まれる。しかるべきときに採用することもできる。脳科学的に正しかったのかな、ほえーとなった。

  • 受講を希望した高校生の中から抽選で選ばれた男子9名が春休み中の3日間で特別授業として受けた講義録に加筆修正したのが本書。10代の学生相手だが、話は相当にディープな部分まで入り込んでいくので大人も存分に楽しめる内容だ。色々と衝撃的な事柄が登場するが、自分が特に印象に残ったのは、ピンクの斑点、逆さメガネの世界にもやがて順応してしまって僕らが知覚している正しい世界って何なのかという話、指令よりも先に行動している話の3つだ。特に一番最後は衝撃で、何度も繰り返し読んだが未だに信じられない。おったまげである。まだまだ未知なことも多い分野だが、同時に相当に解明が進んでいる分野でもある。あとがきに著者のアウトリーチ活動に関する思いの吐露もあり、色々な意見や考えもある中、このような企画が実現し書籍化されて自分が読めたことは本当に幸運だと有り難く思う。背表紙にある竹内薫さんの紹介文「脳に関する本はあまたあるが、これだけ勉強になり、かつ遊べる本も珍しい」に自分も激しく同意する。

  • 途中少し飽きが来たけれども、最後の数十ページは震えるほど素晴らしかった!
    脳科学から広がる、哲学、社会学、生物学、数学、心理学の世界、そして、リカージョンを起こす私たちの脳。
    脳はどんな仕組みかしらと考えたときに、私たちは道具として、対象の脳を使っていること。驚きだったのは、こう動こうと言う前に実は脳の中にはその準備が既に始まった後ということ。

    こうすると、私が考えて体を動かす自由とは、自由意志とはなんだ?と思えてきて、とても不思議な世界へと引き込まれた。

    この答えのない事象を持てるツールで探求していくことが、科学と研究の素晴らしさであって、著者の方は一部世の中から研究外活動を批判されていても、この研究について伝えてくれて、なんてありがたいことなんだろう!と、読者としては思いました。

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB1333184X

  • 脳の構造が生み出す揺らぎ、その揺らぎによって形成される心、脳科学のリカージョン 性が生む終わりのないプロセスと無限のプロセスを味わえる脳科学の喜び。一般人も脳科学の魅力を体感できる開かれたサイエンス著作です。

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著者プロフィール

監修:池谷裕二
脳研究者。東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻医療薬学講座教授。薬学博士。一般向け書籍の累計発売部数100万部超え。

「2023年 『3ステップ ジグソー知育パズル どうぶつ だいずかん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池谷裕二の作品

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