旅する練習

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 1830
感想 : 185
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  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065221631

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいて、なんか気持ちがザワザワしてました。読み進めていく内に、ページをめくるたびに、何か不安めいた気持ちに襲われて、最後、時間が止まりました。
    アビが良い子すぎる。川鵜の準備を見て、それをサッカーに置き換えてスパイクを磨くこと、ゴールパフォーマンスで表現すること、アビの優しさ、おじさんの人柄、みどりさん、美しく穏やかな風景描写。
    全てに鷲掴みにされ、読後、置き去りにされました。

  • 結構好きかもしれない。
    登場人物たちが葛藤や悩むことがありながらも自分と向き合って前に進もうとしている姿がよかった。特に、今まで上手く意思表示が出来なくて自分がしたいと思うことも特に出来ていなかったみどりが、亜美と出会うことによって刺激されて覚醒する姿が良い。

    終盤で亜美もみどりも主人公も頑張るぞという気持ちになって前向きに終わるかと思いきや、最後の1ページでどんでん返しがあり、「コロナ禍で会えないうちに亜美がひどい交通事故に遭って死に、鹿島に引っ越して就活すると言っていたみどりからは連絡が来ない」という現実に引き戻される。それが、コロナ禍でやりたい事も出来なくなってしまったままならなさと、今まで当たり前だった日常の尊さを表現しているのかなと思うと少し切ない。
    ままならない現実……。

  • コロナ禍小説でした。コロナ禍だから、3月の学校行事が制限され、時間が増えたため乗り物利用より歩く旅を思いついた。コロナ禍だから、旅先で図書館に立ち寄ったら臨時閉館だった。コロナ禍だから、3月なのに新卒採用者に入社辞退を促す連絡があった。コロナ禍のせいにして思考停止するより、与えられた条件でこれまでにないほど良く考えてみようというポジティブな思考が見受けられたのも歩いたせいでしょうか。歩きながら同志が増えるのはお遍路さんのようでしたし、叔父さんと姪の亜美の関係は、寅さんと甥の満男を思わせました。

  • 時折、時系列が狂った表現があって、理解できずに読み進めたが、最後にその理由が判明。

    このフォーマットが功を奏しているのか否か。「情景描写」という「練習」をどう読むか。「練習する旅」が「旅する練習」に変換されている巧妙さはあって唸る部分はあるものの、個人的には先に挙げた二点が消化し切れないところがあるというのが正直なところ。

  • ちょっと難しかったかなと思うのが読後の正直な感想です。
    聞いたことのない難しい言葉が所々出てくるので、意外と読むのに時間がかかってしまいました。
    どんな旅も2度と同じ旅は出来ないし、終わりから始まる。そんな気がします。

  • 一文に装飾が多いからか
    文章がすっと入ってこなくて、
    情景を思い浮かべるのに時間がかかった。
    でもそうやってよく吟味することで見える景色は
    とても生き生きとしていて、
    時間をかけて一緒に歩いているような気持ちになる。 
    どういう構成の文章なのかわかってくるにつれ、
    フラグが立ちはじめ…。
    取り戻せない時間、
    そこにいた人にしか残らない記憶。 
    淡々と描写した文章であっても、
    過ぎた情景は美しく輝いていて、
    感傷をもって胸に迫る。

    サッカーを人生の中心に据えた亜美の、
    健気でひたむきで、
    まっすぐな明るさがすごくよかった。
    作中でも問いかけられていたけど、
    亜美にとってのサッカーのように、
    人生の礎になるものって、
    誰にでもあるものだろうか。
    今になってようやく知ったけど、
    私はそれが本なのかなぁ。
    なんだかじっと自分を見つめてみたくなる
    いい本だった。

  • 旅の終わりが始まりでもある。
    亜美のゴールパフォーマンスはカワウが羽を乾かすみたいに、次への準備を思い出す。
    一緒に行った旅は、2人が書き残したものは、決して無くならない。
    いつ消えて無くなるかわからない不安定さがあるけど、その事実は消えない。
    自分に合わせて生きる本当に大切なものを、そんな不思議なものを見つけたい。


  • どこにでもある日常のようで、
    どこか独特で、
    めちゃくちゃ面白いわけじゃないんだけど、
    なんか心に残る、そんなお話。

    我孫子から鹿島まで歩く、
    歩く、サッカー、鳥、コロナ、いろいろぜんぶ繋がってて、亜美ちゃんの成長も見えて、
    やっぱり人は移動しながら考えていく生き物だなぁと思った。
    旅する練習。
    コロナ禍が続く中でも、こういう練習を続けていきたいなと思った。



    亜美ちゃんの考え方にみどりさんが感動してたのは、その純真さ、真っ直ぐさ、信念。

    本当に大切なことを見つけて、それに自分を合わせて生きるのって、すごく楽しい。
    本当に好きなこと、大切なことが見つかれば、すべてがそれに関係してくる、関係してるように見えてくるんだよねぇ

    羽を乾かすカワウ。次への準備。

  •  前作の「最高の任務」が好きだったので読んでみた。読んでいる途中は牧歌的だな、いやなんなら少し退屈だなと思ってたけど、最後まで読み終わると信じられないくらい心に残る作品になっていた。しばらく「なんでなんだ…?」という気持ちになり、この小説のことをしばらく考えてしまうくらいに。あとタランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」思い出した。
     叔父とサッカーを愛する少女がコロナ禍において茨城県を旅するロードムービーならぬロード小説。物語の緩急の付け方がオモシロくて鳥の観察日記や風景描写のところは時間が異常に停滞する一方で会話のテンポはとても軽やか。この対比が小説にリズムを産み、自分が妻や友人と旅に出ていた頃を思い出す。コロナでなかなか行けなくなったけど、人とどこか見知らぬ場所に行くのは豊かな体験だったのだなと思い出させてくれた。また会話の中で「食べよーよ」とか「いーよね」とか「ー」が生むまったり感が好きだった。「食べようよ」「いいよね」だとは伝わらない、駄弁っているニュアンスが出ていて、人が駄弁っているのを聞くのが好きなので良かった。
     親子物語ではないので過剰にウェットにならないところも設定として良い。また第三者である大学生が登場してから物語は大きく展開していくのだけど、そこも主体的に人生を生きるというテーマがあり、何か自分で目標を用意して生きないとなと襟を正すような気持ちになった。
     全体に冗長というか、旅行の記録としては振りかぶった文章が目につくなと思ったら、それらは最後に全て回収されて「うわー」と思わず声が出てしまった。自分が当事者にならないと何気ない日常の尊さは気づけない。コロナ禍で亡くなった人への鎮魂歌として捉えることもできるかもしれない。練習ではなく皆が好きなだけ旅に出れる日が戻ってきて欲しい。

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著者プロフィール

1986年北海道生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科卒業。2015年『十七八より』で「群像新人賞」を受賞し、デビュー。18年『本物の読書家』で「野間文芸新人賞」を受賞する。23年『それは誠』が「芥川賞」候補作となる。その他著書に、『十七八より』『本物の読書家』『最高の任務』『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』等がある。

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