人の砂漠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 695
レビュー : 58
  • Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101235011

作品紹介・あらすじ

一体のミイラと英語まじりの奇妙なノートを残して、ひとりの老女が餓死した-老女の隠された過去を追って、人の生き方を見つめた「おばあさんが死んだ」、元売春婦たちの養護施設に取材した「棄てられた女たちのユートピア」をはじめ、ルポルタージュ全8編。陽の当たらない場所で人知れず生きる人々や人生の敗残者たちを、ニュージャーナリズムの若き担い手が暖かく描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 陽の当たらない生活を強いられた人々を描いた沢木耕太郎のノンフィクション集。昭和40年代後半という時代の出来事であり、私の生まれる数年前~直前にこのような世界が日本にあったという事実に驚かされる。いや今も存在していて、自分が目を背けているだけなのかもしれない。近づいて肌身で感じたい世界だとは決して思わない。それでも引き込まれてしまうのは、各短編に出てくる人々の生き様が強烈すぎるからだろうか。

  • 圧倒的傑作/ 絶対に読んだ方がいい/ 特に意識に残ったのは

    「おばあさんが死んだ」
    まるで映画のような兄妹の最期

    「視えない共和国」
    与那国の雪を見たことのない少女が、クリスマス前に色紙を細かく切っているシーン/ 自給自足でき資源が豊富な独立したシマも、国家に属した途端に最果ての辺境になってしまうという角度のあて方/ そして国家の中央に向いて人が流出していく――本当は独立したシマなのに、国境に最果てにされてしまう

    「不敬列伝」
    天皇に対してアクションを起こした、不敬罪廃止後の不敬罪を追う/ 「ゆきゆきて、神軍」の奥崎謙三が映画の前であるのに登場して驚く/ ヤマザキ、天皇をピストルで撃て!の叫びに胸を打たれる/ 付き合いのある編集者が独立する際に100万円をポンとくれてやって商売のアドバイスをするくだりには人間の二面性が垣間見えて、泣きそうになる/ 

    こういうノンフィクションをもっと読みたい。

  • 書き手の思いが伝わる実地に基づく熱い素晴らしい作品(ルポルタージュ)。

  • あとがきにもあったけど、事実は小説よりも奇なりを表した一冊。屑と婆さんの話が良かった

  • 昭和52年に出された、著者渾身のルポルタージュ8篇。

    「おばあさんが死んだ」は偏屈な老女の死と兄のミイラ化された死体を巡るルポ、「棄てられた女たちのユートピア」はもと売春婦の養護施設の暮らし体験、「視えない共和国」は台湾と隣接する最果ての地与那国島の暮らしの変遷、「ロシアを望む岬」は北方領土を望む根室の人々の複雑な事情、「屑の世界」は廃品回収リサイクルの現場の人々(仕切場や曳子)の生きざま、「鼠たちの祭り」は相場氏達の壮絶な博奕人生、「不敬列伝」は戦後皇室に対して事件を起こした人々のその後、「鏡の調書」は老女が起こした大胆な詐欺事件のルポ。

    今から40年以上前に描かれているため、時代を感じるが、それぞれに描かれている人物は生き生きとして色褪せていない。

    事件や市井の人々を描く著者の筆致には、自分を見つめ続けた「深夜特急」とはまた違った味があって面白かった。

  • 断片的に読んだため読後の印象が散漫だが
    ・「おばあさんが死んだ」・・・元歯科医の老女
    ・「鏡の調書」・・・銀座の煙草屋と称した詐欺師の老女
    の話が特に面白かったように思う。

  • いろいろな生き方をしている人間にスポットをあてた短編集。「鼠たちの祭」では穀物相場を張る相場師たちの生き方を紹介している。桑名の板崎氏の激しい浮沈のストーリーには感銘を受ける。

  • 沢木さんは私の知らない世界に案内してくれる。
    フィクションなのに小説の様に面白い。
    この本は、8つの世界について書いてある。
    孤独死、婦人保護施設、与那国、根室半島、屑の仕切場、相場師、天皇不敬罪、詐欺師。
    どれもうわっつらを拾っただけの文章ではなく、沢木さんが足で拾い集めたり体験した中での文章なのですごく伝わってくる。
    このような世界があるなんて、私はまだまだ世間知らずなんだなぁ。

  • 沢木耕太郎独自の視点が濃密な人間模様を織り成す。収録された8篇いずれのルポも素晴らしい。個人的なお気に入りは沢木氏の人への暖かい視点を感じる「屑の世界」だが、天皇への(旧)不敬罪を犯した者たちを追った「不敬列伝」が作品として光る。社会的タブーを敢えて取り上げ、事件当時の新聞記事を冒頭に置き、意外にも普通の等身大であった者たちの姿は興味深い。

    「深夜特急」「バーボン・ストリート」で見せる軽やかで都会的な文章とは一味違う、深くて濃い空気感を味わうことができる一冊である。

  • ルポの大傑作。
    8作ある中で、一つも重なるものがない。こんなにも違った見方が出来るのか、と感激する。
    餓死した老夫婦の悲壮さを描いたと思ったら、南の島で太陽と褐色の肌を描く。そして、一つ一つに人が印象深く描かれている。
    僕もこういうルポを書きたい。

  • 2013.7.28読了。

    ジャンルとしてはルポルタージュ、ノンフィクションであるが 、その衝撃や感動、熱量といったものは小説をはるかに凌駕する。

  • 日本で生きる、
    様々な人たちの
    知られざる生活。

  • 再読なので評価無し

  •  このノンフィクション短編集に登場する人たちは、決して英雄じゃない。世間から弾かれた人たち、世間から目を向けられない人たちだ。
     「おばあさんが死んだ」は、孤独死した老人の話。著者の丹念な取材と見事な文章によって、一人の人間の人生の悲哀がこちら側にひしひしと伝わってくる。
     著者は老人を取材対象ではなく、ひとりの人間として見ている。その誠実なまなざしが物語に力を与えているのだと思う。決して社会的な問題を提起するわけではない。ただひたすらその人の人生を深掘りし、真実を汲み取ろうとする。それが沢木耕太郎というライターのいちばんの魅力だと思う。

  • 初めて沢木さんの本を読んだ。この当時が人間の砂漠だったのだから、今はもうその脅威は大方すべての土地に舞い降りているのだろう。
    人が目に付けないところに焦点を当て、それを足を使って調べあげて文章にする。そんな生き方もおもろいな。

  • 単行本は1977年の刊行。ルポライターとして活躍していた沢木さんが、昭和40年代を中心に取材してルポした8編がおさめられています。一体のミイラと英語まじりのノートを残して餓死した老女の過去を追った「おばあさんが死んだ」、屑の仕切り屋の日常を描いた「屑の世界」など、生きることや人生について、改めて考えさせられてしまうものばかり。登場人物がまた個性的な人ばかりで、どんどん引き込まれてしまいます。30年以上も昔の話なので社会状況はかなり変化していますが、今の世情と比較しながら読むのも一興。与那国島の海の向こうに見える巨大な島影が台湾だと聞いて“外国”を意識したという「視えない共和国」。深夜特急を読んだ人は思わず「これか」とつぶやくでしょう。

  • 枕元において一ヶ月ほど読み続けた。現在の沢木さんの文体とかなり異なる印象。読むのに苦労したというのが正直な感想。

  • 普段あまり読まないノンフィクション。とても引き込まれた。
    20代でこんなものを書いた沢木耕太郎という人物に興味が湧いた。なんだかかっこいいなぁ。

  • この本には、8編のルポタージュが収められている。俺は、その中の「不敬列伝」という、戦後、昭和天皇に対して、不敬をした人々の人生を追ったルポタージュに興味がありこの本を読んでみたのだが、「不敬列伝」以外のルポタージュも全て興味深く読めた。興味深かった幾つかを以下に書いていく。

    「棄てられた女たちのユートピア」、これは、千葉県の館山にある「かにた婦人の村」という、元売春婦達の養護施設、そこの入所者達と創設者で施設長の深津文雄のルポタージュである。入所者のほとんどが知的障害者であり、売春婦という仕事も関係してか、人間関係がズタズタになり絶望してやってくる。入所してもすぐ脱走して売春婦に戻ったり、会話も一晩に何人の客をとったとか、やっているとき膣痙攣をして困ったといった内容であったり、男性職員と二人きりの部屋で気絶したふりして、抱かせようと誘惑したり、と苦労は絶えない。施設長の深津は、「愛にはファーザーの愛というものもありうるんだということ」を彼女達に教えるべく悪戦苦闘する。苦労の連続であるが、一方で彼女達の微笑ましい一面や人間として不思議な力が魅力的だ。さっちゃんという入所者は、保護された時には自分の名前も生年月日もしらなかったという。語彙は少なく、どんな作業にも向いていなかったが、粘土を与えると立派な陶工になり、それと同時に、少しずつ知能の進歩が見られたという
    。かにた村には、製陶工場があり、彼女達はそこで縄文土器を作る。作者の沢木耕太郎も彼女達と縄文土器作りに挑戦したが上手くいかなかった。要因は、すぐに作り上げようとして壊れたり、急いで失敗と時間に耐えられなかったためだ。縄文土器は土ひもを少しずつ積み上げてつくっていく。あまり急ぐと上の重みでつぶれてしまう。彼女達は縄文人がしたであろう作り方をそのまま踏むことができる。時間に追われ、能率を求められるシャバの人間には、縄文土器は作れない。

    彼女達の元売春婦、知的障害者、棄てられた同然でのかにた村での入所、彼女達に翻弄される職員や施設長深津、とヘビーな要素に、子供のような彼女達の一面や不思議な能力を持っていたりするというほのぼの要素が奇妙に混じった不思議な読後感を覚えるルポタージュだった。

    「視えない共和国」は、北緯24度27分 東経124度0分那覇まで520キロ、台湾まで170キロという日本の最西端に位置する与那国島のルポタージュ。与那国島は、今でこそ人口は千人ちょっとと少ないが、戦後僅かの間人口が一万数千人に膨れ上がった事があった。台湾ー沖縄ー本土の闇物資の中継点として栄えたのだった。闇取引は、アメリカが目を光らせた事により、下降したが、依然、与那国の島民は台湾という日本と国交がない国に親しみを持っている。もちろん再び台湾と取引して一儲けしたいという気持ちもあるが、それに加えて沖縄より近い「島」として(「国」ではなく)親しみを持っているのだろう。また台湾は戦時中は日本の植民地だったため、与那国から豚・魚などの農水産物、台湾から日用雑貨品という具合に両島の交流は活発で、戦前に台湾へ出稼ぎに行く人も多かったという。島民の言葉がおもしろい。
    「沖縄は知らなくても、台湾は知ってますよ、この島の人は」
    その台湾への親しみ故に船の上で物々交換したり(禁止されている)、日本の警備艇が台湾漁船が領海侵犯しているのを取り締まりに行くという情報を隠密裏に伝えたりという事も行っているという。「遠くの身内より近くの他人」という言葉を思い出した。
    「与那国島の人たちの台湾に対する「親密な感情」は、戦後両島が異国としての国境線が画定されたのちも残っていた。それゆえに、政治上の国境線はひかれても意識の中の国境線はまだひかれなかったのだ」という沢木耕太郎のズバリな文章に納得。

    「ロシアを望む岬」は、北方領土に面する根室や歯舞の漁師達のルポタージュ。ニュースでは度々北方領土の事は取り上げられるが、ここに登場する漁師達は、望んでいない。
    歯舞の昆布漁の漁師は、北方領土が返還されるとその周辺は昆布の宝庫なので、昆布が採れすぎ、供給過剰となり、価格が下がっていくのを怖れている。
    根室の漁師は拿捕されるのを覚悟で特攻出漁している。大企業の大型船は、船を没収されたり、ロシアとのトラブルを怖れて入ってこない。もし返還されたら、「腕と度胸」で行っていた密漁が、大企業に全てかっさらわれる事を危惧していた。ニュースでは声高に北方領土返還が叫ばれるが、一筋縄ではいかない人間模様が面白く感じたのと同時に、人間のしぶとさを感じた。

    で、俺が最も楽しみにしていた「不敬列伝」。
    天皇陛下に不敬を働いてしまった人物を追うルポタージュ。皇太子ご成婚パレード(現在の天皇皇后両陛下の結婚式)の際に石を投げつけた中山建設、実家は村の名家であったが建設が起こした事件が基になり、建設の姉の縁談が破談、小学校の教師をしていた兄は責任を感じて辞職。その事件から何年経っても建設の下には、正月になったら刑事が現れ、職が変わったらまた刑事が現れ、英国女王エリザベス来日の日には警察から「どうしてる?」と電話がかかってきて、警察から執拗にマークされてしまう様になったのだ。若気の至りをエラいお方にぶつけてしまったばっかりにしゃれにならん代償がついて回ったという、なんとも哀れな話だ。この話はちょっと可哀想な話だが、他の人の話は結構笑える。
    例えば、京大天皇事件の首謀者は20数年経ってからの沢木耕太郎のインタビューでこんな事を言っている。「仕事の関係から農村地帯で、土地改良をやろうとすることがあるんです。すると、実にやりにくいんです。(中略)地主勢力がいなくなってリーダーシップをとる中心的な担い手が村に存在しなくなったためと思えるんです。名家層というか、篤農家という家々が、実は、水利とかの土地利用計画に大きな影響力があったのです。必ずしもすべての部分が否定されるべき存在ではない。集落の中には、外から見て非合理とみえてもそれなりぬ有効な民主主義があったわけですよ。そんな例にぶつかると、一概に天皇の存在を否定できないような気がするんです。(中略)タブーの必要性のようなものを感じてならないんですよ・・・」。 うーむ、生活の中から悟った天皇陛下の意義。この遠回りな感じと、大人になりました感がちょっと滑稽だ。

    皇居での一般参賀で天皇陛下がベランダに立った時に、「おい山崎!天皇をピストルで撃て!」と叫びながら、四発のパチンコ玉を天皇陛下めがけて撃った奥崎謙三。彼はそれ以前にも、仕事の取引先の相手が不正をやった事に腹を立て、殺害している。そんな彼が、知り合いが企業する際に送ったアドバイス
    「あんたは、商売というものがよくわかっていないのではないかと思うが、頭を下げるときにはしっかり下げなくては駄目ですよ」
    人を殺めた人間に、頭を下げるといった忍耐を要する行為について、とやかく言える資格があるのか、とツッコミたいのは、俺だけだろうか?

    皇居での一般参賀で天皇が登場した際に発煙筒に火をつけた当時齢63の大島英三郎は、アナキズム関係の出版の事業を行っている。その資金は、彼の家が営む農業で賄われている。そんな彼に対し、彼の長男の嫁は、こう語る。
    「じいちゃん(大島英三郎)に、家の者はいい感じ持っちゃいない。自分は少しも働かないで、家長だからといってそのあがりだけ持っていって使っちまう。これだけの田んぼがあれば、よそじゃもっといい暮らしをしてるさ。じいちゃんは好きなことしてるからいいだろうけど。ばあちゃんといつも喧嘩してる」

    うーむ。アナキズム=過激とか破壊というイメージなのに、なんとのどかな事か。国家を打倒する為にアナキズムの出版をしているのに、そんな高い目的とは似つかない牧歌的な空気。酒やバクチに走る困ったじいさんを健気に支える家族となんら変わらない構図。しかも、家族が額に汗した結晶を不当に搾取するじっちゃんこと、大島に天皇陛下を批判する資格があるのか、とまたしてもツッコミたい。

    長文すいません。ともかく面白いルポタージュ集だった。初版が昭和52年とだいぶ前なので、上記した状況とかなり変化していると思う。で、このルポタージュ集は、歴史的な資料というより、今も昔も変わらない、型にはまらない人間の営みを感じさせてくれた。(と、なんか型にハマった締めですいません)。

  • 母にすすめられて、初めて読んだ沢木さんの本。深夜特急を別とすれば、この本から入るというのは悪くないと思う。

  • 久しぶりに出会った時間を忘れるほど熱中した本。
    どの話も実際にあった話であるためかぐいぐい引き込まれてゆく。
    いくつか真相がはっきりしない点があり、その部分が気になるがノンフィクションであることを考えると仕方がないのだろう(「お婆さんが死んだ」など)。
    また相場の仕組みをある程度把握していないとわかりにくい話もある。

    今回は図書館から借りて読んだが、手元に置いて何度も読み返したい本であるかも

  • ★格好良すぎるだろう★1977年の書籍だけに取り上げたトピックは時代を感じさせ、「ゆきゆきて、神軍」の奥崎謙三の取材があるのには歴史的な本とすら思った。だが、文章の書きぶりには古さを全く感じない。やたらと自分が出てくるノンフィクションは「格好つけ」に思えてあまり好きではないが、目の付けどころと違和感は今でも新鮮だ。たとえば不敬者の言動から反射させる天皇制の見えなさ、相場から逃げられない男に抱く(無責任な)共感。やはりうまい。

  • 窮乏者、元売春婦、辺境の孤島に住む人々、鉄くずの仕切り屋、革命家、詐欺師…。この本に出てくる人たちはいわゆる「日のあたらない場所」にいることが多いのですが、彼らを見つめる作者のまなざしが優しいです。

    つい最近知ったことですが、この本に書かれていることが映画になったんですってね。だからここで取り上げるわけではありませんが、この本には非常に思い入れの深いものがあります。窮乏者、元売春婦、辺境の孤島に住む人々、鉄くずの仕切り屋、革命家、詐欺師…。この本に出てくるのはそういうなんというのか…。いわゆるあんまり日の当らない世界に生きている人たちである。

    確か、僕がこの本をはじめて読んだのは大学時代のことだったと思うが、後に僕がなし崩しに社会人になってから身をおいていた社会のひとつが、この本の中に描かれている、日本橋蛎殻町の商品相場を舞台にした世界とそこに棲んでいる相場師を書いた『鼠たちの祭り』と作者が実際に廃品回収業者で仕事をしながらそこに出入りする「曳子」と呼ばれる人たちを見つめた『屑の世界』が僕のお気に入りです。

    僕はこの二つの世界を実際に目の当たりにしたのでずいぶんと思い入れがありまして。もう何十年も前に書かれたにもかかわらず。こうして僕が読んでも新鮮さを感じるのは、その世界に流れている時間がある時期からとまっているからでしょうか?そんなことを感じさせました。

  • それは、ワカモノが身一つで旅をする、現地の人や風土に飛び込んで騙されたり熱を出したり気にかけてもらったりしながら何かを(時には自分自身とやらを?)発見していく、「深夜特急」で有名になるずっと前。
    大学を出たばかりの、まだほとんど何者でもない沢木耕太郎が見つめていたのは、”普通の”人々だった。

    かなり初期の作品集。「おばあさんが死んだ」ほか全8本収録。
    当時はまだノンフィクションという言い方よりも、ルポ、ルポルタージュという言い方のほうがメジャーであり、それを書く人はルポライターと呼ばれるのが一般的だった。
    本多勝一さんらが牽引していたかと思うが、その多くは新聞記者やその出身者で、記事を書く取材方法や恐らく人脈や手法で書かれた、記事よりもっと深く突っ込んだ長いもの、という認識だった。政治やスポーツ、世界各地の風土や情勢、有名人など、どちらかというと変わったもの、ダイナミックなものに題材を求めているものが多かったように思う。

    それらに比べると、”普通の”人々のいかにも小粒な人生は、それまで、あまり光が当てられることがなかったのではないか。
    名もなき人々の、普通の毎日の中の小さなざわめきは、少なくとも、初めてこれを読んだ私には新鮮だった。

    小さなざわめき、小さな切れ端から、その人の人生の全体を掬い取ることにかけて、沢木耕太郎はほかに類を見ない巧さだったし、先駆者だったとも思う。
    どの切れ端を選ぶか、が、彼の嗅覚の特異さであり、それを元にどうアプローチし何を浮き彫りにしていくのかが、彼ならではの独特の手腕だった。

    そうやって彼に掬い取られた時、なんでもない普通の人生は、鮮やかな光と影を得て、物語として立ち上がってくるのだ。

  •  おばあさんネタ、2作が面白かったです。

  • 与那国島をみてみたくなった。

  • 期待の方が先に立ち、それほどでもという感想。しみったれている。

  • 記録。

    与那国島の話が結構後からじわじわくるな。

  • 84019

    事実から劇的要素をえぐり出す嗅覚の鋭さ。

  • 上品な老女の皮をかぶった天才詐欺師のあざやかな手口をあかす「鏡の調書」や、ゴミ屋敷に住む老婆がのこした奇妙な日記からその波瀾万丈な半生を紐解く「おばあさんが死んだ」ゴミをひろって生きる屑屋とホームレスの友情、かれらと行政との闘争「屑の世界」など、浮き世の荒波を浮遊する、すこし風変わりな人々をえがく傑作ルポルタージュ8編。とくに印象的だったのは社会復帰の望めない、元売春婦たちを収容する房総半島の養護施設「かにた婦人の村」を取材した「棄てられた女たちのユートピア」この村はいまも千葉県館山の切り拓かれた海沿いの丘にあり、創設者は亡くなってしまったが、奉仕女として施設で働いていた現理事長により、変わらぬ理念の元、運営されている。昭和40年の春に「かにた」がつくられてから現在まで、村は棄てられた女たちのために静かに営みをつづけているのだ。弱者が人間として存在できるような社会。「かにた」の創設者はそれを理想とした。そして、弱者の楽園を創ろうとした。だが、著者はそうしてあゆみはじめた「かにた」に対し「しかし」というおもいをいだく。その正体を確かめるために、かれはテレビクルーとして「かにた」へ赴く。そして、外部の人間の脆弱な「いいかがり」にすぎないと自覚しながら、創設者の深津に問う。彼女たちはほんとうに幸福なのだろうか_____。深津はいう「幸福であることと、幸福だとおもううことはちがう」のだと。「食べるものもなく、寝る家もなく、ただよいあるいていた時代より、女たちはあきらかに幸福だ。彼女たちがどうかんじようと幸福であることにちがいはない」確かにそうだ。しかし。結局、そのおもいをいだきつづけたまま著者は施設をあとにする。精神病 27名、精神病質66名、精神薄弱120名、身体障害25名、その他の病弱8名、精神病院入院27名、梅毒6名。これは本が書かれた当時(1977年)の「かにた」の入所者データだそうだ。施設では、入所したほとんどの者が一生をそこで過ごす。なぜなら「かにた」をはなれても、彼女らにいく場所などありはしない。でも、それをしって尚、脱走をくりかえす者がいる。逃げた女はふたび売春婦になるという。弱者の楽園なんて、所詮はうたかたの夢なのだろうか。確かなのは「かにた」は入所者にとって唯一の光であり、同時に闇だということだ。

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著者プロフィール

沢木 耕太郎(さわき こうたろう)
1947年東京生まれのノンフィクション作家、小説家。横浜国立大学経済学部卒業。大学卒業後、ルポライターとして活動、注目を集める。
浅沼稲次郎暗殺事件で刺殺された浅沼と、その犯人である少年を描いた『テロルの決算』で第10回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。以後、バックパッカーのバイブル『深夜特急』をはじめ、スポーツや旅などを題材にした多数のノンフィクション作品、小説などを発表。2000年に初めての書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し話題となる。
2003年これまでの作家活動で第51回菊池寛賞、2006年 『凍』で第28回講談社ノンフィクション賞、2013年 『キャパの十字架』で第17回司馬遼太郎賞をそれぞれ受賞。

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