風に立つ (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.85
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本棚登録 : 2000
感想 : 119
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120057281

感想・レビュー・書評

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  • 家庭裁判所に送られてきた少年を預かる補導委託の引受を決めた南部鉄器職人の小原孝雄。親方でもある父の考えが分からず、突然のことに戸惑う息子の悟。工房で共に働き、自宅で同居することとなった春斗少年が、孝雄や父を尊敬する工房の職人の健司、不定期アルバイトの八重樫、妹の由美などの周り人々と関わりあいながら、心の苦しみを乗り越えて行く様に、父に対して壁を作っていた悟の心にも少しずつ変化が訪れる。

    まったりと読み進み、まあいろいろ良かったね!めでたしめでたし..という結論に達する読了感。

  • 人の生き方に関わるいろいろな役割があることを知りました。
    すべてがうまくいくわけではないと思いますが、他者を思いやる気持ちは人の心を動かすのだと感じました。

  • 久しぶりに柚月裕子作品の真骨頂を堪能。ストーリが美し過ぎるところはあるが、柚月氏の流麗な文章にとても合致していてあまり気にならない。もう少しミステリー要素も欲しいところだが、新聞連載なのでこのあたりが適当か。

  • 後半から涙が止まらず、一気読みした。
    孝雄と悟、春斗と達也・緑、それぞれの親子の葛藤や愛情など、不器用ながらも大切な人を大切に想うがゆえにすれ違う気持ちの描写が手に取るようにわかり、情景も浮かびやすかった。
    自分と両親との関係や、自分の祖父母と両親との関係と重ね合わせて読む部分も多く、涙なしでは読めない一冊だった。
    登場人物が皆とても心温かいので、読了後はあたたかい気持ちになれた。

    虐待や毒親、親ガチャといったワードをよく目にするようになった現代に合ったストーリー。
    子育てとは何か、親が子どもに幸せになってほしいと思う気持ち、でもその幸せとは何か、子どもの目にうつる親の姿、様々なことを考えさせられた。
    幸せとはなんだろう、自分はこれからどう人生を歩んでいきたいんだろう、そんなことを考えたときや、これから子育てをする人、子育て中の人、親との関係に悩んでいる人、どんな人にでも心に響く何かがある一冊だと思う。

    そして、身近な人だからこそ、自分の気持ちはしっかり伝えないと伝わらない、そう改めて気付かされたので、家族や大切な人には感謝や愛情を日々伝えていきたいと感じた。

  • 南部鉄器工場「清嘉」は父・孝雄と息子・悟、従業員の健司で営む小さな工場だ。優れた職人であり師匠でもある孝雄に悟は父親としての情を抱きあぐねている。
    突然『補導委託』で少年を預かると決めた孝雄に反発した悟はやってきた少年・春斗とは距離を置くはずだった。
    学力も高く感情表現が不得手な春斗が激昂する姿に驚いたりしたが、春斗の願いでの外出により忘れていた親子の思い出が甦ったりと少しずつ関係性に変化が訪れる。

    鉄器を作る鋳型は作り方によって1度で壊れるもの、何度も使えるものと差が生まれる。心も1度で壊れてしまう時もある。幾度の困難や哀しみから強さを備えていった心もあるだろう。『鉄は熱いうちに打て』と言う。感情が揺さぶられた瞬間に心の鋳型も形作られているのかも知れない。

    二人の父親の生き方も感慨深い。共に幼少期の体験から家族を守るために尽力してきた彼等には彼等なりの愛情であり、責任がそこにはある。
    南部鉄器は丈夫で熱を逃がしにくい特質がある。父親という分厚い壁で取り囲まれる閉塞感ではなく、手厚く見守られれ安心感に二人の息子が気付けたならいいなと思った。

  • 不器用で無愛想な南部鉄器の職人の父・孝雄を持つ悟。そんな中、孝雄が少年犯罪の補導委託をやると知り、困惑する…

    不器用な父と幼少期からのわだかまりを持ったまま大人になった悟と、保護観察の春斗。家族とは?って言う大きなテーマが考えさせられました。

    春斗は何不自由ない暮らしだったけど、親の圧力に耐えられず万引きを繰り返してしまう。
    春斗の父も苦労した人だったから、子供にそんな思いをさせたくない気持ちも解るけど、とても高圧的で息苦しい春斗の気持ちもまた解ります。

    岩手の南部鉄器の職人一家の元で少しだけ息が出来るようになった春斗と、親のやり取りは苦しかったです。

    孝雄も不器用で、悟との距離も複雑だったけど、ラストは泣きそうになりました。一生懸命生きてるって感じが愛おしかったです。

  • 補導委託って制度、知らなかったなぁ。

    全部さらけ出して話し合えば何でも解決するってわけではないけど…お互いを思うあまりのすれ違いほど悲しいものはないよねぇ。

    歩み寄るためにも、思いを言葉にして伝えることは、とても大切なことだと思うな。

    いちいち言葉にしなくても気持ちが伝わる愛情や信頼関係は素敵だと思うし、報われなくても寡黙でいる美しさもわからんではないけど、己の美意識は横においてでも、相手のために、思いを込めた言葉を発する努力はするべきだと思うのよね。

    小説を読むことは、そんな言葉にならなかったいろいろに思いを馳せさせてくれる…と思う。

    このところずっと、人は何の為に生きるのか…的なことを考えているんだけど、そんなことを考えてる余裕があるのは幸せってことなんだろうなと思ったり…。

  • 「補導委託」という制度を初めて知った。
    家裁に送られてきた問題行動のある少年を一定期間預かる、という制度。保護司という一般人のボランティアが出てくる小説はいくつもあるけれど、この補導委託というのは珍しい気がする。
    普通の家庭で問題のある少年を預かる、というのはいろんな意味でものすごくハードルの高いことだと思う。
    どんな問題行動があるのか、危険はないのか、ちゃんと生活させられるのか。
    そんな役目を家族に相談もなく引き受けた南部鉄器職人の父子の物語。
    ただでさえ父親と息子ってのは一筋縄ではいかない面倒くささがあるというのに、そこにある日突然入り込んできた他人、しかも問題あり、ってそりゃ戸惑うし反対もするでしょう。
    自分自身にや母親に対する父親の愛情の無さと、引き受けた少年への父の愛情深さとのギャップに苛立つ主人公悟の、その心の揺れがわかりやすい。
    その父と息子の間の溝をいい感じで埋めてくれる二人の職人。この二人のキャラがいいんだ、とても。
    長く働いている職人と、風来坊助っ人職人と。彼らと父息子と接することで、自分と自分の家族の持つ歪みにあらがう力をつけていく少年。本当はこんな風にうまく行くばかりじゃないとは思う。受け入れる側も受け入れられる側も納得いかないことの方が多いだろう。
    それでも、他人と身近に接することでしか手に入れられないものがある、そして他人を挟んで初めて見つけられる家族の問題もある。
    家族だから、家族なのに、そんなしがらみを越える力を見せてくれる。

  • 南部鉄器職人の父と葛藤のある悟は、自分の子供にも愛情のない父親が問題少年の補導委託を引き受けた事に納得いかなかった。
    やがて受け入れる事になった少年春斗の親子関係を通し、自分と親との関係を見つめ直していく。
    近すぎてよく見えない、老眼のような親子関係。
    言い得て妙です。
    子供への愛情は時によって親の価値観で歪められてしまう事がある。親子の間だけでは治せないその歪みを、補導委託という仕組みで多くの人が関わる事で、少年とその家族を救っていく事が出来るのであろう。

  • 柚月氏の作品は期待を裏切らない!それぞれの登場人物の性格や話し方も素晴らしい。本作品の設定や物語の進行は微笑ましく建設的で心和む!そして安心して読み進められる。誰にでも読むことを進めていきたい一冊だった。

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著者プロフィール

1968年岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。同作は白石和彌監督により、18年に役所広司主演で映画化された。18年『盤上の向日葵』で〈2018年本屋大賞〉2位となる。他の著作に『検事の信義』『月下のサクラ』『ミカエルの鼓動』『チョウセンアサガオ咲く夏』など。近著は『教誨』。

「2023年 『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柚月裕子の作品

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