パチンコ 下

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163912264

感想・レビュー・書評

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  • 真実を知って葛藤するノアのつらさも分かるけど、懸命に生きてきたソンジャが侮辱されるのとてもつらい…
    乃利子のくだりは胸糞悪くなった。常識ないとはいえあまりに気の毒。やっぱハンスやくざなんだなと思わされた

  • 戦前から戦後にかけて、在日コリアン家族4世代にわたる波乱万丈の壮大な物語。
    著者は構想から30年かけて、少しずつ手直ししながらこの物語を完成させたとのこと。
    恥ずかしながら、今まで在日コリアンの方たちの境遇に思いを馳せたことはあまりなかった。自分の親世代から、差別的な発言が聞こえてくることはあったが、その発言について深くは考えてこなかった。
    言葉では言い表せないほどの凄まじい思いをしながら、次の世代へと命を繋げてきたのであろう彼らに敬意を表したい。

    著者はこの小説の中で日本人をあからさまに糾弾しているわけではないが、ページを進めながら、日本人として身につまされる思いを感じ場面が多々ある。どんな仕打ちを受けても、家族が一丸となり困難を幾多も乗り越えていく主人公一家の様子を追いながら、今、日本の社会から失われつつある日本人としての誇りや道徳観念等々、考え込んでしまった。

  • 偏りがちになりそうな題材だけど、すごく慎重にフェアに書かれていると思った。主人公一家が幸せになって欲しい一心でページをめくる手が止められなかった。

  • 『人生はパチンコのようである』

    氏素性で人を決めつけず、一人の人間としてどうか?
    で判断しようと改めて決意した作品です。

  •  米国在住コリアンの作家が描く在日コリアンの物語。4世代に渡って第二次大戦前からバブル期までの日本を舞台にした壮大な大河ドラマで、かなり読み応えがありオモシロかった。上巻で登場人物をはじめとした物語の骨格が作られ、じっくりと世界観を頭の中で構築/堪能。下巻でそれが爆発していくという印象で特に下巻のページターナーっぷりはかなりのものだった。
     そもそも「在日コリアン」と呼ばれる人々がどのような立場にいる人のことを示すのか?曖昧にしていた自分の認識が整理された上でかなり特殊な立場であることを改めて知る。敵国に祖国を支配されて日本にきたはいいものの今度は帰るところがなくなってしまった、この悲しみはユダヤ人が置かれた立場を想像させられた。アイデンティティを失ってしまう二世/三世の物語は移民大国アメリカの十八番であり数多くの作家の物語を読んできたが、日本でも同様の境遇が発生していることをなかなか想像しにくい。それは日本が移民を限りなく制限していて「単一民族国家」という幻想を追い求めるからだろうけど今後の人口減少/高齢化社会においてはいつまでも呑気なことを言ってられない訳で本著のような物語がさらに普遍性を持つ社会が目の前に迫っているとも言える。そのときに何が重要かといえば人は人種で判断できないということだ。しかし物語の中では在日コリアンであることに起因した残酷な出来事がいくつか起こってしまう。また血は変えられないという話が繰り返し登場して、そこで何度も苦悩する登場人物たちがいて、彼らのその苦悩する過程を教訓にして我々は同じ過ちを繰り返さないようにしなければならない。小説内で安易に解決させずに自分で考えることを促す、これは解を提示するような啓発書では得られない、小説だからこその魅力だ。
     本著のタイトルにある「パチンコ」と人生を重ね合わせるメタファーが非常に秀逸だった。これに限らずとくに下巻はパンチラインのつるべ打ちだった。一部引用。

    モーザスは、人生はパチンコに似ていると思っている。ハンドルを調節することはできても、自分ではコントロールできない不確定な要素があり、そのことも心得ておかなくてはならない。何もかもあらかじめ定められているように見えて、その実、運まかせの要素や期待が入りこむ余地が残されたこのゲームに客が夢中になる理由はモーザスにも理解できた。

    許すことを学ばなくてはならないよと諭したかった。何が大事なのかを見きわめなくてはならないと。過ちを許さずに生きていくことは、息をして動きながらも死んでいるに等しいと。

    なあ、人生ってやつには振り回されるばっかりやけど、それでもゲームからは降りられへんのや

    ゲームに勝つのはほんの一握りだけで、ほかの全員が負ける。それでも人はやはりゲームを続ける。自分こそ幸運な一握りかもしれないと期待する。自ら望んでゲームに参加する者たちに腹を立てる筋合いはないではないか。悦子はこの重大な側面で失敗を犯した。子供たちに希望を抱くことを教えなかった。自分は勝てるかもしれないという、およそ不合理な可能性を信じることを教えなかった。パチンコはたわいもないゲームだが、人生は違う。  

    「ぐはぁ」と思わず声に出してしまう出来事とそれに対する各自の立場。それはどこで生まれて何を見て育ったかによって異なり人間は環境にたぶんに左右されてることも痛いほど伝わってきた。人生はパチンコ。Apple TVでドラマ化される際には多くの日本人俳優がフィーチャーされることを切に祈る。

  • 困難の中、生きる人たちの物語。
    "困難な状況"の価値観は人ぞれぞれ違うと思うけれど、
    きっと大多数の人にとって、これは困難に値するはず。

    それは、時代がそうだったとも言える。
    日本が韓国を統治しようとしていた時から、
    1989年まで続く物語は、植民地時代の韓国、
    戦後の日本、経済の急成長する日本や世界
    という時の流れが大きく変わっていく瞬間を捉えている。

    その頃のことは、
    どんなに話を聞いても、小説を読んでも、
    信じられないことの方が多いし、
    どちらかというと、その実感のないまま
    育ったから、自分はどこかのほほんと生きているのかな
    と思うことさえある。

    主人公のソンジャやその家族は、
    大波に揺らされているような時代の中を、
    日本で生きる。韓国人として。

    16歳で未婚のまま身ごもってしまった、
    貧しい少女は、奇跡的に良い夫を持ち、
    日本で新しい家族を築いていくわけだけれども、
    彼女の人生からは、遊ぶ、暇をえる、眠る
    というような言葉が、全てないようにも感じた。

    贅沢は罪で、女は男のために家を守る。
    やはりその言葉は、今を生きる私にとっては、
    違和感でしかない。
    そして、それを受け入れ、
    息子たちが私の生甲斐、と言うソンジャの気持ちも
    わかる部分とそうでない部分も。

    ノアとの再会の場面については、
    コ・ハンスと同じく「会わない方が良かったのに」と
    思うし、中年の男に「家族のところに戻ってきなさい」
    も、なかなか理解はできないかな、と
    それぞれに共感しながら読んでいただけに、
    余計にノアの気持ちになってしまった。

    歴史事実を基にしながら物語られる
    4世代のお話は、当時の匂いや
    情景が浮かびそうなほど細かな描写と、
    次々と展開してゆくストーリーに
    グイグイと引き込まれた。

    渡辺由佳里さんの解説の中での
    著者への取材で「現代の日本人には、
    日本の過去についての責任はない。
    私たちにできるのは、過去を知り、
    現在を誠実に生きることだけだ」と語っていた
    と書いてあった。

    私は、現代人には責任はなくとも
    事実として知っていることは必要だと思う。
    歴史について無知でいることは
    自分の生まれ生きているこの時代にも
    しっかり色を付けてるのだから、
    なぜ、どうして、の興味を持って
    これからもこう言う本をたくさん読んでいきたい。

  • 読み終わって深くため息を吐いた。様々な人達が、それぞれの人生を必死に生きている。決して楽しいことばかりではないし、思い通りにならないことも多い。それが自分ではどうすることもできない理由によるものだとしたら……。上巻で予想した展開は半分当たったが、いい意味で外れたのでよかった。本書は最後まで格調高い文学作品だった。

  • 数年会っていなかったけれど、同じ戦いを生き抜いてきたことだけは確かに知っている友人と飲み交わす、木製の器に注ぐマッコリ。

    乳酸菌の口当たりのまろやかさ、下に微細に響く炭酸のこそばゆさ、若干喉に残る独特のねばりの感覚、飲み干した後の満足感。

    そして気づいたら1リットルくらいはゆうに飲めてしまっている

    壮大な大河ドラマ、そして朝ドラ。
    「死の棘」以来の衝撃。人生の妙。

    一見そんなドラマ的なものに見えて、
    だけど奥には深い深いふかい社会と歴史のからくりが潜んでいる。

    でも、登場人物たちには、そんなの知ったこっちゃないのである。人生とは、たいがいそんなものかもしれない。

    ボレロのように、寄せては返す波のように、
    淡々と繰り返すように見えつつも、
    しかし確実に変化し前に進んでいて

    知らないところで指揮者の指示のままに進んでいる

    そんな音楽みたいな物語。

    まさかのラスト。何てことないのに、どすんと落とされる。

    前半までに感じていたマッコリのような
    どこか粘っこい甘さのある、
    だけど飲み口さわやかな感じはそのままで、

    しかし同時にああ、ダシと唐辛子の効いた
    実に手のこんだ、少し味濃い煮物みたいなものを
    自らの酔いに気づかぬままに
    箸を運び続けていただんだなと

    最後になって気づく感じ。

    ベネディクト・アンダーソンを引く小説だよ。

    移民体験、異「民族」、被支配、同化政策、ナショナリズム、全ての節に、章に明記されている時代、
    明確に言及されない何か

    その全てに触れるのはあまりにも刺激が強すぎるけど、
    透けて見えざるを得ない所は、まさにマッコリのかすかな微炭酸のよう。

    その緩やかな、しかし確かな鼓動とともに紡がれる物語に、
    抽象的な表現とともに思いをはせよう。

    https://youtu.be/n7FfCXW-LuM

  • 戦争から復興してゆく日本社会で、パチンコ玉のように運命に翻弄される在日コリアン一族。

  • 朝鮮民族の方たちの"情"の深さ、家族との距離の近さ、強い結びつきを改めて感じる作品。
    私の父の代はまだまだコリアンの人々に偏見を持ってる世代で、昔からパチンコなんて北朝鮮に金が入るだけやとか辛いもの食べすぎて激情しやすいとかそういう差別発言を度々耳にして、私も知らず知らずのうちに偏った偏見を刷り込まれていたと思う。現代の日本人でも韓国ポップカルチャーは好きだけど、日韓の歴史?慰安婦?なにそれ関係ないし興味ないなんで怒ってんの?って人多すぎてなかなかしんどい。
    日本の植民地時代からの絶望的な貧困から現在の急発展社会を築いたのはきっと彼らの芯の強さや忍耐力、結束力、母国に対する想いなんだろうと思った。
    色んな人に読んで欲しいと感じた作品。私の父にも。

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