パチンコ 下

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163912264

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に比べて、作品のテーマにガンガン迫る展開だったので、あっという間に読み終わってしまった。

    下巻は、徹頭徹尾「在日コリアンの苦悩」。もちろん、その背景にあるのは、差別。
    今までたくさん本を読んできたけれど、「差別」をテーマにした物語で、ここまで完成度が高い(普遍的で、多角的な視点から差別をとらえている)ものは初めて読んだ。

    コ・ハンスの計らいにより、戦争を乗り越えたソンジャとその家族のその後。ノアは早稲田大学に進学し、モーザスは後藤の下でパチンコ店経営者として手腕をふるう。
    日本の社会の中では、勉強をしていても、恋をしても、仕事をしても、子育てをしていても、「ガイジン」であることから逃れることはできないし、それを忘れられる時間はとても短い。
    ノアはそれを「学問」で乗り越えようとして、モーザスは「仕事」で乗り越えようとした。

    努力をすれば、生活は豊かになる。住むところや食べるもので困窮することはなくなるけれど、どんなに頑張っても「平凡」にはなれず、他者から蔑まれることが続き、いたるところで自分の尊厳を傷つけられる。

    ノアは、努力をしても乗り越えられない自分の「血」を許すことができなかった。
    それに対してモーザスの息子であるソロモンは、自分を形作っている要素は「血」ではないと考え、「血」ばかりで判断されることに辟易した。

    ソンジャの世代から、在日コリアンの差別は、形を変えて存在し続けている。ソロモンの世代になると、コリアンだというだけで石を投げつけられるようなことはないけれど、それでもやっぱり差別は続いている。


    そして、在日コリアンの差別が存在している国では、犯罪者や障がい者、家族を捨てた人間などへの差別も当然存在している。

    なんだか日本ってどうしようもない国なような気がしてきて、日本人として読むのがつらいところもあったけれど、自分の国を外側から客観的に考える視点をみつけた感じがする。


    ちょっとわからなかったのが、フィービー。
    フィービーはアメリカで育ち、アメリカは「差別のない」いい国だと言う。ソロモンと東京で結婚することよりも、一人でアメリカに帰ることを選択する。
    でも、そのフィービーは、「日本人」はいやな人間!と決めてかかり、差別する。
    個人的には、自分をまげようとしない頑ななフィービーこそ、一番の差別主義者では?というふうに感じた。

    差別は、無知から生まれる。また、頑なな心からも生まれる。
    100年前の人たちが、戦争のない世界を平和と呼んだのと同じように、これからの私たちは、差別のない世界を平和な世界と考えるのかもしれない。

  • もう面白すぎて。久しぶりにもう一度読み返したい本に出会った。J.アーチャーのカインとアベルを思い出した。解説にページターナー、と表現されてたけどまさにその通り。

  • 学生時代に住んでいた80年代の大阪の街中には、在日やいわゆる同和といった人権問題に関する露出が結構あったような記憶がある。ミナミにもよく遊びに行ったし、日本橋の電気店街で売り子したりもしていたのだが、鶴橋には多分、バイトで1、2回降り立っただけで「韓国料理、食べに行こう!」みたいな機会すらほとんどなかった。もっとも、人権問題そのものにさほど興味がもてなかったことも事実なので、そういった露出を目にしても「そういう問題があるんだなあ~」くらいにしか見ていなかったのだと思う。

    2020年代のイマの東京においてはどうだろう? 在日の問題は、コリアンタウンの美味しい焼肉屋さんの陰に隠れてほとんど見えなくなってしまっているのだろうか? ベトナムや中国など”半島”ではないアジアの他の国々から来日した人々をめぐる社会問題の方に目が行きがちなことも影響しているのだろうか?

    ギャンブラーな今は亡き師匠がパチンコ好きで、パチンコを打つことを、お金をあっという間に”増殖”することに例えて「もんじゅ行く、もんじゅ行く」(高速増殖炉:もんじゅ)って、嬉しそうに言ってた。僕も連れて行ってもらって、勝ったのは一度だけだったなあ。勝っても負けても、その後、「焼き肉、行こう!、焼肉!」って言って、美味しい韓国焼肉屋さんに連れて行ってもくれました。

    この本は、同じくその故人を師と仰ぐ韓国人の友人が薦めてくれました。面白かった〜!。在日コリアンや在米移民が読んだら全然違う面白さ、受け止め方があるのかもしれませんが、物語としては”読ませる”レベル度が高くて、惹き込まれました。ありがとうございました。


  • 兄嫁とともに戦中の大阪を生き抜き、二人の息子を育てあげたソンジャ。

    そんな時、ハンスが姿をあらわした。裏社会で仕事をするハンスは、いまもソンジャへのことが忘れられず、こっそりソンジャ一家を助けていた。
    苦労して早稲田大学の学生になったソンジャの長男ノアが、自分の実の父親がハンスだったと知ったとき、ノアはソンジャとは違う気持ちに揺れ動く。

    ノアは生活そのものの貧困に苦しみ、子どもの世代のノア、モーザスは日本で育った在日という、どこにも属せないアイデンティティで苦労する。

    ノアの学生時代の恋人の晶子は

    あなたがコリアンである事、私は全く恥ずかしいと思ってない。無知な人や私の両親のような人種差別者は嫌がるかもしれない。けど私はあなたがコリアンだからこそ好きなの。頭がよく勤勉で美形だから


    と言う。これはかなりきつい。
    それがノアの出自を隠し結婚し子どもをもうけ、やはり在日が多いとされるパチンコ業界で経理の仕事につくことに繋がる。学業優秀で真面目だったノアは、ハンスが見つけたことで、母ソンジャが目の前に現れたことで、自分が築いてきた韓国人と関係のない世界が崩れると自死してしまう。


    ソンジャの母は、ハンスに連れられ日本に来たが、亡くなる直前にソンジャに

    ノアのことで頭がいっぱい、その前はハンスだった。あんな男に惚れた報いだ。女はそんな間違いをしてはいけない。
    そのせいで子どもは代わりに恥を背負うとこになった。苦労の元凶はあんた自身だった。ノアは悪い種子から生まれた。イサクが結婚してくれてよかった。だからモーザスの血統の方がいい、だから仕事で成功した。

    そんなことを言われる。



    モーザスは自分の過去から、息子には世界で通用する学力と見識を深め、上流層に入れるよう心を砕くが、息子のソロモンは、恋人であるコリア系アメリカ人のフィービーと対立する。

    日本人の上司に騙されたソロモンに同情して日本人は全て悪と決めつけるフィービーにかえって冷めた感情を抱くようになり別れることになる。

    どれも辛く悲しいエピソードだ。でも綺麗事ばかり並べてあるわけではないので、私の内面に刺さった。
    ここまで在日を深く書いた本は、確かに今までになかったと思う。
    上下巻でかなり長い話だったが、読んでよかった。

  • 在日コリアンの四世代にわたる家族の物語り。正直、在日コリアンに対する日本人による差別の記述は、やはり居心地が悪いものでしたが、本書を読みながら、父親の世代が発していた朝鮮人への見下した言動を思い出しました。巻末で本書の訳者がアメリカでの同様の差別の歴史に触れていましたが、日本の慰安婦問題やトランプ元大統領の差別発言に端をなす東洋人ヘイト事件など色々なことを考えさせられました。困難な環境の中でも誠実に生きようとする人達に希望を感じつつも、人種、国籍問題、自分と異なる人達を遠ざけ、排斥する問題に解はないのかと暗澹となります。それでもこの様な事実を知り、理解し、それを積み重ねることで人の心に差別に対するブレーキが出来ていくと信じます。

  • いやー、すごい物を読んだ。おそらく膨大で丁寧な取材によるだろう。在日コリアンの歴史や家族や心情を、じっくりと積み、あみあげる。時代の波に翻弄されながらも、つらいことも山とありながらも、生き抜いてきた重さ。そして何より、なに人であろうといい人もいればわるい人もいる、ということが救いであり、なに人は…とくくってはいけない、忘れてはいけないと改めて思う。

  • 続きが気になり一気読みしたので、たったの2日で読み終わってしまった。上巻ではなぜタイトルが「パチンコ」なのかわからなかったが、下巻でソンジャの次男モーザスがパチンコ屋に就職するところでその理由がわかった気がした。人生はパチンコのように、少しの違いで成功したり失敗したりするものというたとえなのだろうか。
    下巻の中では、特にノアとソロモンが経験する在日コリアン二世、三世だからこその葛藤と周囲との人間関係が痛ましい。
    また、ソンジャと母ヤンジン、義姉のキョンヒを取り巻く「女は苦労して当たり前」という概念は、現在では明言されることはないものの、女性が苦労する現実は実際にまだあるのではないかと思う。
    そして、物語の中でひときわ異彩を放つのがコ・ハンスの存在である。ソンジャのハンスに対する気持ちが最後まで複雑ではっきりと読み取れなかったが、人の気持ちはそんなに簡単に理解できるものではないのかもしれない。

  • (上下巻で同じ感想を投稿しています)

    何年間に一回レベルの深い読後感。
    4代にわたる在日朝鮮(韓国)人のクロニクル。

    国単位の外交関係として見れば、日本人にしてみればかなり頭にくることもある存在ではある。
    しかし、そこから心ならずも移住してきた人々に対して、我々(協調性が高く、言い換えれば同質性が強い、そして和を重んじ、言い換えれば異物を排除したがる日本人)はどのようなまなざしを向けてきたのか。
    そうした中で、貧しい人々はどのように苦しみ、耐えてきたのか。

    イサク、そしてその「息子」(でなくてなんなのだ!)ノアの人格の気高さ。
    ソンジャのあふれだす人間味。モーザスの生きる力。ソロモンの絶望。
    割とストレートなセックス描写も、まっとうな生への渇望として美しくさえ見えてくる。

    ここで描かれているのは、ある意味ではマイノリティに生きる人たちに普遍的なテーマなのかもしれない。だからこそ移民国家の米国であれほどまでに話題になったのだろう。だが、「だから日本もしょうがない」では絶対済ませてはいけないこともある。

    ラストシーン、カズオ・イシグロを彷彿とさせる。なんだったかな、「私たちが孤児だったころ」だったか、「日の名残り」だったか。あるいはそれが混ざり合っているのか。年老いた老婆と慰めの言葉をかける初老の男性。静かな結末。
    「苦生(=苦労)」に一生をささげたソンジャが夫の墓で行う行為に、読後しばし沈黙。

  • 各世代、時代における在日コリアンの苦悩が詰め込まれた作品。それほどの苦悩なのかと結末に愕然としてしまう展開も…
    あまり得意なテーマではないにも関わらずスルスルと読ませる展開で一気読みでした。

  • 日本ではなかなか知ることのできない
    在日コリアンの方々のたどってきた道の一部
    を知ることができた。

    それもこの作品の一つの良さではあるけども
    それよりも、読む手を止めることのできない
    ほどの、家族のストーリーが
    胸に刺さる。
    人種とか国とか関係なく。

    まさに、小説の醍醐味。
    今年のベストワン。

    コンユ主演で映画化してほしい。

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