【2020年・第18回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 (『このミス』大賞シリーズ)
- 宝島社 (2020年1月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
- / ISBN・EAN: 9784299001405
感想・レビュー・書評
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自分の知らない職種だったり、趣味だったりの内容だったが、とても面白く最後まで読めた。
紙鑑定の謎解きがもっと多いとよかったかな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
図書館で借りた本。
紙鑑定士の渡部の元に持ち込まれた、妹失踪の謎。妹の部屋に残されていたのは、ある家のディオラマだった。模型のことは専門外の渡部は、伝手をたどって知り合った土生井の力を借りて、この謎を解き明かすうちに、殺人を示唆していることに気づく。 -
「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」
第18回「このミステリーがすごい! 大賞」。
このミスシリーズは、個人的にはまらないことが多いが、本作はハマり作品であった。本大賞創設の意図は、面白い作品・新しい才能を発掘・育成する新しいシステムを構築することにある、とのことだ。その意図を満たしたミステリーだからこそ大賞を取った訳だが、確かに納得である。
一言で言えば、マニアックな領域の薀蓄を巧みにミステリーに落とし込んだ作品。と、まあ、このミスHPに書いてあるのだけど、まさにその通りである。マニアな領域に留まらず(読者置いてけぼり状態にならない)、ちゃんとミステリーになっていて、しかも謎の肝にマニアックさが活かされている点が秀逸だなと思う。また、キャラクターの良さと終盤に向けての終わり方もキャッチーで良い。
まず、マニアックさであるが、二つある。一つは紙(製紙)であり、一つはプラモデル。メイン主人公である渡部が紙鑑定士であり、相棒・土生井がモデラーだ。
よりマイノリティは紙鑑定士であり、紙を触っただけでどこのもので、材質までを把握する。一方で、モデラーも負けていない。伝説のプラモデル造形師として登場する土生井であるが、テリトリーは幅広く、ディオラマやミニチュアハウスをカバーする。実に知識と洞察眼を備えたユーモラスなキャラクターだ。実質サブ扱いだが、完全に前半は探偵、後半は安楽椅子探偵であり、最後は良いオチまでGETする等、完全に主役である。
二点目のキャラクターと展開だが、渡部は土生井に推理力こそ劣るが、なんだろう、やってやれ感や元彼女とのやりとり(大抵こういう場合の女性はハイスペック)を含めて、応援したくなる人物である。また、終盤に関しては、ミステリーの佳境具合に加えた渡部と土生井それぞれの役得ラブリーな展開も含めて、綺麗に終わっている。
最後に一点目に戻るが、ミステリーへの落とし具合。これが一番のストロングポイント。マニアックな要素をよく落とし込んだなと感心してしまった。 -
紙の専門的なトリビアが確かに面白い。こんな切り口でミステリーにできるのすごい。動機とか推理の流れが少し雑だと感じるところもあったけど、十分楽しめた。
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面白かった。紙の知識が推理に生きるもんだと思っていたのでその点は肩透かしだったけど
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紙鑑定士(という職業が実在するのかわからないけど)の主人公が、間違えて入ってきた女性から依頼を受けるところから始まるミステリー。残された模型から情報を読み解いていく伝説のモデラーと組んで事件を解決に導く流れが面白かった。
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第18回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
あらゆる紙を判別する紙鑑定士が、探偵事務所と間違えられたことから依頼を受ける羽目になり、自身の特技や人間関係を活かして、浮気調査や行方不明者の捜索を行う、長編ミステリ小説。
調査の過程で知遇を得たプラモデル作りの達人とタッグを組み、殺人事件や殺人未遂事件を突き止めることになるが、表題に反して、謎解きの鍵となるのは、紙よりもジオラマの知識や発想力の方が決め手だったりする。
その意味で、紙に関する蘊蓄が必ずしも推理に直結するわけではないが、相棒役のモデラーのキャラクターが際立っており、バディ物として見るには十二分に読ませる。
真犯人を追い詰めてゆく終盤は、若干、粗も目立つが、文章と展開に勢いがあり、終息まで一気に引っ張っていく。
作劇が洗練されてくれば、良質のミステリが後続しそうな気配もある。
余談になるが、八王子駅前の店の描写など、土地勘に詳しそうな印象を受けて親近感を抱いていたら、どうやら著者の地元だったらしい。
思わぬ余波で、地元民ならではの細部の作り込みを楽しめた。 -
タイトルから受けた期待値をどうしても上回れない――書店で単行本が売られているのを初めて見たとき、そのタイトルと遊び紙等に感じられるこだわりから、この小説はきっと面白いのだろうなとワクワクさせられたことを、今でもしっかりと覚えている。だからこそ言う。期待以上には決してならない作品である。
そもそも紙鑑定士の事件ファイルという表題にもかかわらず、謎解きのメインパートは主にジオラマであり、探偵役となる人物も伝説のモデラーで、てっきり紙鑑定士という珍しい職業・その知識と経験を用いて謎を解くのかと思っていたので、正直肩透かしもいいところ。もちろんその要素が全くゼロとは言わないが、だったらモデラーがホームズ役と分かりやすい表題にした方が「え?紙鑑定士は?」とならなかったと思う。これは著者の力量というよりは、タイトルを改題した者の責任だろう(このミスのHPに掲載されている原題は「模型の家、紙の城」だった)。個人的には櫻田智也の「サーチライトと誘蛾灯」や「蟬かえる」(東京創元社刊)のような謎解きを期待していたので残念。
また、これは私が女性だから……なのかもしれないが、とにかく「おじさんが書いたもの」という主張が激しすぎたことも、続編を手に取る気にならなかった理由のひとつだ。なんというか女性作家女流作家という、そもそも作家の性別や年齢を意識した読み方はあまりしたくないので、そういった思考を持たないように気を付けているのだけれど(実際女性作家が男性名を使ったりしているのは賢明だと思うが、この先入観って何なんでしょうね)、主人公が30代でしかもわりと現代の話であるにもかかわらず、50代のおじさんみたいに見える。これで著者がおじさんじゃなかったら驚くぐらい、最後のカーチェイスなどのドラマチックさが昭和だし、というか真理子さんの存在ややりとりが昭和のトレンディすぎて、現代設定にそぐわず違和感しか覚えなかった。LINEやメールにおじさん構文というものがあるが、この小説もかなりおじさん構文。おじさんが書いていても気にならないものはたくさんある、というか作家がおじさんなのはよくある話なのだけれど、おじさんが思うカッコイイ男、みたいな主張が激しいのかなぁ…。ハードボイルドがお好きな方にはハマるのかも。
ただ、いささか古臭いものの、終盤のドラマチックさやジオラマをメインに据えた謎解きはむしろ、映像で見るとより華やかで面白いように思う。映像化したものを見てみたい。