刑罰

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010904

作品紹介・あらすじ

ダイバースーツを着て浴室で死んでいた男。裁判で証人の抱える孤独に同情してしまった参審員。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護する新人弁護士。高級ホテルの部屋で麻薬常習者になったエリート男性。――実際の事件に材を得て、法律で裁けない罪をめぐる犯罪者や弁護士たちの素顔を、切なくも鮮やかに描きだす。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』、第二作『罪悪』を凌駕する珠玉の短篇集。短篇の名手が真骨頂を発揮した最高傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 初の短編集でデビュー作の「犯罪」(2009)から9年。12作を収録。「犯罪」よりはいくらか柔らかい雰囲気もただようが、やはり硬質でぎっしり詰まっていて、読んでるとつぶされそう。

    「参審員」
    アメリカや最近の日本での陪審員になった若い女性。その女性の生真面目な成育歴と、参審することになった裁判が描かれる。この裁判は、夫がことのほか細かく、ポストイットに、「すすいでおけ」「これはクリーニングする」など家庭内の事すべてに指図する。妻に暴力をふるい過去に4回有罪判決を受けている。・・陪審員の女性は妻に孤独な自分を投影し、泣いてしまう。被告の夫は拘留を解かれるが・・・ ああ、もう何たる・・ 「犯罪」に載っていた「フェーナー氏」とちょっと似ているが、こちらの方が結末は奈落。

    「逆さ」
    後ろから銃で撃たれた男。その事件の被疑者の国選弁護人になった弁護士の目線で進む。ある証拠が「逆さ」だ、と過去に弁護したゴロツキのヤセルから言われる。これは普通のトリックミステリーみたいだ。・・しかし最後に、どうしてわかったんだ? と聞かれた時の「ヤボなこと言うな」というヤセルの言葉の意味は?

    「友人」
    子供のころの友人リヒャルト。リヒャルトの人生の出来ごとが語られるが、静かだが、ゆったりと気持ちが沈殿するようだ。私は刑事弁護士になって20年、とあるので自身の回想もはいっているのか。


    2018発表
    2019.6.14初版 図書館

  • 初読

    最近改めて「地の文で登場人物の心情の説明や
    著者の主張を雄弁に語るものが幼稚でダサくて許せない」
    の思いを強くしてたのだけど
    あ、究極の削ぎ落としはここだったな、と思い出すなど。

    タダジュンさんの装画、酒寄進一先生の訳で
    シーラッハの短編を夜に少しずつ読み進めるこの喜びよ

    冒頭カタリーナの「参審員」はなかなかピンと来ないな、
    と思ってたら妻への傷害の罪の被告人の、その妻の証言。
    まだ若く結婚して半年の時に買った空色のビートルのカブリオレ。
    洗車し、磨き、輝く車に見惚れ、夫を幸せにしたいと思った。
    素敵な人生を過ごし、ずっと連れ添いたい、と。
    にいきなりやられてしまった。
    そうだった、これがシーラッハだ。

    無罪にした男が子供を殺してしまったのをきっかけに、
    堕落した弁護士がかつての依頼人の協力で無罪を勝ち取る「逆さ」

    夫の罪を被り出所するも復讐を果たす「青く晴れた日」

    印象的なハッピーエンド、人形性愛の「リュディア」

    優雅さと突然のコントラストが強い「隣人」

    子男の伝記のコレクションが興味深い、
    結果ラッキーな「子男」

    私が彼女だったら、まぁ、同じ事するかもな…な「ダイバー」

    こういうことってあるよな…盲人と少年の一瞬のやりとり。
    「臭い魚」

    資産があってもあかんのか「湖畔邸」

    あまりにも重くて、あまりにも苦い「奉仕活動」

    テニス、階段に置いた真珠、ウサギを飼う男「テニス」

    恵まれた人生と結婚のよくある終わりと滅多にない不幸、
    犯してない罪への受けるしかない罰「友人」

    今回も、まったくお見事。

  • 不条理にからめとられた人の虚無感や孤独、消しようもない苦しさが重い。やるせなくてしんどい。でも読んでよかった。簡潔で淡々とした文体がとても好みだった。他の作品も読みたい。最新作はエッセイ集で "Kaffee und Zigaretten" なんてもうタイトルだけで読みたい。

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    "「おれは物乞いじゃない。ウサギ小屋を持っていてね。四匹飼っている。毛並みがふわふわなんだよ。毎日、野菜を与えている。金なんていらない。なにもかも静かに話せる相手がほしいんだ。自分ではもうなにも理解できない」"(p.196)

  • 刑事事件専門の弁護士だった著者が実際の事件を題材にして書いたようだが、タイトルから受ける印象が最後に揺るがされるような、ブラックユーモア?というか皮肉?的な話に、「事実は小説より奇なり」と思わされてしまった。

    どこまでが事実かということよりも、法律では裁けない、偶然の積み重なりを数多く見てきたから、こういう風にリアリティを持ったものが書けるのかな…とても興味深く読めました。

    教えていただいた、Riverside Reading Clubさんに感謝!
    https://book.asahi.com/series/11030854

  • いつの間にかシーラッハを読まずにはいられない人になってしまった……。

    オビの「罰を与えられれば、赦されたかもしれないのに。」という一文を、読み終えてそっとなぞる。

    裁くというのは、言わずもがな客観的な行為だ。
    状況があり、理由があり、そして人が当事者であることで、罪は決まり、裁きが下る。
    けれど、理由がなくても、状況は生じる場合がある。
    理由があって、自身が関わらない所で状況が生じる場合もある。
    さらには、人ではない場合も……。

    以下、ネタバレ含むので注意。



    「参審員」
    冒頭の話だが、最も印象に残った。
    国によって参審員に選ばれたカタリーナ。
    彼女自身の心身がようやく快復してきた時のことで、断ろうとするものの、特別な事情がなければ辞退は出来ないと言われる。
    そんな彼女の前に、酷いDVを受けた妻が現れる。
    夫の在り様を話し、それでも夫への想いを滲ませる妻に、カタリーナは共感し涙を流す。
    しかし、それは「参審員」としてはあるまじき主観的な行為で、カタリーナは始末書を書かされる。
    そして、妻は釈放された夫に殺されてしまう。

    ニュースを見ていると、特別肩入れをしてしまうような事件がある。
    私にとって、琴線に触れる何か。
    時には、その事件から目を背けたくなることもある。
    そうした心は、システムで縛ることは出来ない。
    なのに、人間はシステムを使って心さえ操ろうとする。無理なことに、無理と気付かない時がある。

    ひとつひとつの話を読んで、自分の中に生じる複雑な思いを味わうのが、この作品の醍醐味だと思う。
    本当に上手い。

  • 悪くはないのだが、それぞれの短編を読み終わったあとに、もう一段の余情というか「ため息」のひとつが欲しくなる。
    この中では「奉仕活動」という比較的長いものが満足感が高い。まだ西ベルリンと呼ばれていた頃に、車の中から初めて見たイスラムの家族連れを思い出した。

  • 破壊力がすごい

  • 一気に読み終わった。無駄のない文体で、遡らなくても内容がすっと入ってくる。

    思わず感情移入してしまうような事情や心のひだと、法の動かなさのコントラストが見事。法では裁ききれない罪を通して、人生の滑稽さや哀愁が浮かび上がってくるのが、すばらしかった。

    とくに好きだったのは、「青く晴れた日」「隣人」「湖畔邸」「友人」。

  • 面白かった。
    さすがシーラッハ。ドイツ屈指の現役弁護士の底力。
    ミステリとも文学とも分類不能で、必ずしも法廷が舞台でもなく。「シーラッハ」一人で1つのジャンルみたいだ。

    どの話も、シリアスな状況であまり楽しくない事件があって幸せとは言い難い結末がつくのに、淡々と語り進められて、重いのに読み易い。翻訳にも恵まれているのかな。
    ただ読後感は、我が身に引き寄せて考えさせられるという感じではなく、世の不条理さを突きつけられて諦観を強いられるといった感じ。どっちがいいとかじゃなくね。
    その中でも「奉仕活動」の一遍は、現実を突きつけられて出鼻を挫かれそうな新米弁護士の話で、多少はセンチメントを感じられるかな。

  • 復讐を果たして罪に問われず、スッキリするケースあり。法に則ったがために罪ある者が釈放されて、歯噛みするケースもあり。法は万能ではない。
    プリンスがそんなに小柄とは知らなかったな。

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