刑罰 (創元推理文庫 Mシ 15-5)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488186067

作品紹介・あらすじ

黒いダイバースーツに身を包み、浴室で首をくくっていた男。赤ん坊を死なせた夫の罪を肩代わりし、三年後に出所の日を迎えた母親。静寂のなかで余生を暮らし、夏の終わりに小銃に弾を込めた湖畔の住人――唐突に訪れる犯罪の瞬間には、彼ら彼女らの人生が異様な迫力をもって溢れだす。本屋大賞翻訳小説部門第1位『犯罪』で読書界を揺るがした短編の名手が現実の事件に材を得て、罪と罰の在り方を鮮烈に問う12編。著者最高傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 久し振りの積読本消化シリーズ。
    積読期間が長すぎたせいで、先日図書館に普通に置いてあったのを発見して落胆。
    いや、買わなくても読めたんか~い;つД`)

    「コリーニ事件」以来2冊目となるフォン・シーラッハさん。

    12の犯罪短編集。

    この人は「書かない」書き方がうまい。
    登場人物の心情は明らかにされない。喜怒哀楽の表現もない。セリフも実に淡々としている。
    あるのは行動のみ。それのみによって読者は登場人物の思いや感情を推察させられてしまう。
    悲しい、哀しい、と声高に叫ばれるより、その方がよほど胸に来る。
    そして余韻がいい。ベンチに座っている。ただそれだけで「ああ……」と、思わされてしまう。

    裁判に関する物語が多いが、「逆さ」だけはいただけない。
    落ちぶれて酒浸りになった弁護士がやくざな男の力を借りて裁判で鮮やかに逆転勝利を収める物語。
    まるでリーガルもののステレオタイプのような話で、逆に敢えてこの話を書くことでなにかの皮肉にしたのではないかと思えるほどの安直さ。

    「リュディア」は江戸川乱歩の「人でなしの恋」を彷彿させる。

    「奉仕活動」は胸くそ悪くなることこのうえない。

    暗い印象の話が多いのでハッピーエンドを好まれる人にはお薦めできません。
    描かれているのは無情、不条理です。
    裁判では人は裁けませんよ、と言われている気になります。

    著者自身が刑事事件の弁護士なのでネタは豊富にあるのだろう。

    知らなかったがデビュー作の「犯罪」が2012年の本屋大賞翻訳小説部門の一位だったらしい。

    訳者あとがきによると、著者はデビュー作の「犯罪」、次作の「罪悪」そしてこの「刑罰」という3作の短編集は、最初から3部作として構想していたらしく、順に読んで欲しい、とのこと。

    いやいや、そんなのあとがきで言われても困るがな。
    もう最後から読んでしまった後やん(ノД`)シクシク
    読む順番間違えのプロであるおびのり女史の癖がうつったかな~。

    • みんみんさん
      おび氏言われてまっせ〜笑
      おび氏言われてまっせ〜笑
      2023/06/16
    • おびのりさん
      脳内で入れ替えれば、OK。
      脳内で入れ替えれば、OK。
      2023/06/16
  • 刑事事件弁護士として活躍する著者が、罪と罰の在り方を問う12編。


    デビュー作『犯罪』、第二短編集『罪悪』に続く短編集3作目。翻訳者さんによるあとがきによると、作者さんは当初から三部作を構想していたそうです。

    作中でどんな犯罪を描こうとも、書き方は常に淡々としていて心情描写も薄い。それなのに、何故か心がざらつく読後感。
    犯罪と、罪と向かい合う仕事についている筆者さんにしか書けないものがある気がします。

    解説でも似たようなことが書かれていますが、釣り合わない罪と罰、理想をもってなったはずの弁護士という仕事の理想と現実、現実のような虚構と虚構のような現実。そんなすべてをひっくるめた現実のやるせなさや心の傷を、文学として昇華し再構成しているような、そんな印象を受けます。

    個人的に好きだった話は、『リュディア』。

  • 孤独|ミステリー中毒|エッセイ・コラム|COLORFUL
    https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1921

    「刑罰」書評 裏目に出る裁判の不条理ドラマ|好書好日
    https://book.asahi.com/article/12651520

    Web東京創元社マガジン : 短篇の名手が紡ぐ、異様な罪と罰のかたち――フェルディナント・フォン・シーラッハ著 酒寄進一訳 『刑罰』文庫版刊行
    http://www.webmysteries.jp/archives/30564670.html

    刑罰 - フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488186067

  • フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』創元推理文庫。

    読者に媚びを売らず、時に読者を突き放すような乾いた文体で、極めて淡々と描かれる物語は長岡弘樹の一連の短編と似ている。人生の機微と不思議な魅力を感じる捻りの効いた犯罪ミステリー短編12編を収録。

    『参審員』。世の中には時折、皮肉な出来事が起きる。それは必然であり、偶然ではないという人生の機微。冒頭から一人の女性カタリーナの孤独な人生が綴られる。幸せなひと時から、人生に起きる様々な波乱。幾つもの波乱を乗り越え、新たな職を得ても自ら孤独な人生を選ぶカタリーナは参審員に選ばれる。裁判を通じて夫からDVを受けていた証人に自分の人生を重ね合わせ、痛く同情したカタリーナに裁判所の下した判断は。★★★★★

    『逆さ』。この短編集の中では一番のミステリーであろう。やるせない結果となった事件を弁護したことが切っ掛けで、ギャンブルと酒に溺れた弁護士のシュレジンガー。妻とも離婚し、他愛のない弁護依頼を引き受けながら、自堕落な日々を過ごすうちに殺人容疑者の弁護を引き受けるとになる。全く勝ち目の無さそうな事件だったが、過去に弁護した男から謎に満ちたヒントをもらう。★★★★★

    『青く晴れた日』。自らの過ちに気付くことの大切だが、気付いてからでは遅いこともある。何とも言えぬ含蓄を含んだ短い話。赤ん坊を死なせた夫の罪を肩代わりし、3年後に出所の日を迎えた母親が取った行動は。★★★★★

    『リュディア』。人間以外への愛をどう受け取るのか。人には様々な考え方があり、様々な生き方はある。妻に裏切られ、妻と離婚したマイヤーベックはひっそりと孤独に生きていた。ある日、テレビのルポルタージュでラブドールの存在を知った彼はお気に入りのラブドールを購入し、リュディアと名付けた。★★★★

    『隣人』。24年間、一緒に過ごした最愛の妻エミリーを失ったブリンクマン。ある日、無為な日々を過ごす彼の家の隣に夫婦が越して来る。夫の姿はたまに見掛けるだけで、ブリンクマンは妻のアントーニアと少しずつ距離を縮めていく。★★★★

    『小男』。運が良かったのか、悪かったのか、何とも皮肉な結末。43歳で未婚のシュトーレッツは小柄な男で、リビングに小男の伝記をコレクションしていた。ふとしたことで大量の麻薬を手に入れた彼は密売を決意するが、飲酒の揚げ句に交通事故を起こし、麻薬所持の容疑で逮捕される。拘置所では小男と馬鹿にされることはなく、大物犯罪者として一目置かれた彼だったが。★★★★★

    『ダイバー』。異常な性癖の果てに招いた悲劇。事実は小説よりも奇なり。妻の出産に立ち会ったのを切っ掛けに異常なまでの潔癖症になった夫。ある日、妻は浴室で黒いダイバースーツに身を包み、首をくくって亡くなっていた夫を発見する。しかし、妻は殺人容疑で逮捕される。★★★★

    『臭い魚』。少年は時に残酷であり、何をするか分からない。様々な悪い噂が付きまとう臭い魚と呼ばれる男に少年たちの取った行動は。★★★

    『湖畔邸』。大きな痣という肉体的な十字架を背負った男が平穏な暮らしを壊されたことに怒る。世の中は常に移ろいゆくもので、それに抗うことは時に愚かさとなる。仕事を辞めて、まるで引きこもるかのように祖父との思い出のある湖畔邸で平穏に暮らすアッシャー。しかし、平穏な暮らしも長くは続かなかった。★★★★

    『奉仕活動』。人生の勝利は時として思わぬ形でもたらされる。僅かな望みも捨ててはいけないのだ。トルコ人の厳格な父親に育てられたセイマは大学に進み、弁護士になる。初めて弁護を担当した人身売買事件の被告はどこから見ても容疑は明らかだった。勝ち目のない裁判。★★★★

    『テニス』。人生はいつどこで、どちらに傾くか解らない。テニスの腕が無いと夫に忠告される妻。夫の浮気相手の真珠のネックレスを見付けた妻は、これ見よがしにネックレスを家の階段に置いて、出張へと旅立つ。★★★★

    『友人』。財産があり、美しい妻が居ても満たされないのが、人生。かつての友人も今も変わらぬ姿でいるとは限らない。ドラッグに溺れ、変わり果てた姿になった友人。そうなったのには、ある理由があった。★★★★★

    本体価格720円
    ★★★★★

  • 重いです、とにかく重い。でもそれがいい。

    淡々とした描き口で最初から最後まで進んでいくのですが、だからこそ著者から読者に対して「(第三者の)あなたならどう考える?」と問いかけられている感じ。

    善悪の区別はとても難しいし、善はAという選択肢だということが明らかであっても、どうしてもBという悪を選択せざるを得ないこともある。
    たとえ刑事罰的な罰を逃れたとしても、本人には違う形でなんらかの罰が加えられる。

    一つ一つの話が短いこともすごく象徴的だなと思いました。その人の中ではすごく大きな理不尽であり不幸であっても、世の中は理不尽な事で溢れかえっていて、その人の不幸は本当にたくさんたくさんある中の不幸の一つでしかない。周りの人は同情こそしてくれるかもしれないけど、他人の理不尽に深く取り合うことはない。

    読了後も、ふとした時に思い出して色々考えさせらる本でした。
    個人的には、「参審員」と「奉仕活動」がよかったです!

  • 文庫落ちにて再度。やっぱ良いもんは良いな。

  • 久しぶりのシーラッハ。

    いつも通り、感情の起伏がない、淡々とした空気感。なのに、内容はやはり衝撃的でした。
    でも今回は、なぜかとても文学的な雰囲気を感じて、ちょっと感動してしまった。
    私のなかでは、ミステリーではなく、文学だな。

  • 初のフェルディナン・フォン・シーラッハ。
    短編集。巻末の解説から、実は「犯罪」「罪悪」との三部作で完結作とのこと。失敗しました。

    作品全体にだが、余計な文章が全くない。
    登場人物の感情がほとんど描かれておらず、その辺りは読み手が推察することになる。
    ここまで徹底するのは凄い。

    犯した罪と、その罰のバランスが取れているのか、ということが主題だったと思う。
    おすすめは、参審員、逆さ、小男、友人。

  • 短編の切れ味が悪い。これは褒め言葉。澱のようにとどまり、ぞっとする。遅効性の毒のようにじわじわと心が歪に変形する感じ。

  • 止むに止まれぬ心情から繰り出された犯罪の瞬間を描いた傑作短編集。
    短い文章で、ことの顛末を描き出す見事な描写に毎回唸るしかない。その犯罪に対して、司法がどのように対峙したのかも描かれる。ドイツの司法制度ではあるが、法の解釈、考え方を学ぶ場にもなっている。
    夢中になって一気に読み切った。今のところ翻訳されているシーラッハ作品は全て読んでいる。どの作品も好きだ。
    次回作も首を長くして待つことにする。

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