銃・病原菌・鉄 上

  • 草思社 (2000年10月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784794210050

作品紹介・あらすじ

なぜ人類は五つの大陸で異なる発展をとげたのか。
分子生物学から言語学に至るまでの最新の知見を編み上げて人類史の壮大な謎に挑む。
ピュリッツァー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 本のタイトルに試行錯誤する現代において、銃・病原菌・鉄という殺風景なタイトルにまず惹かれた。上巻では、狩猟採集民族から食料生産民族への移り変わり、食料生産民族がどこで生まれてどのように発展していったのか、なぜヨーロッパ人が南北アメリカを植民地化したのか、なぜ南北アメリカがヨーロッパを植民地化しなかったのか。など、深掘っていく。そこには病原菌によるものが大きい。病原菌は主に家畜からヒトへ伝染していったが、ヨーロッパの方が家畜の種類が多く、すなわち多くの病原菌に対する免疫が強かったことが要因のひとつである。下巻では、さらに銃や鉄に関する考察も学んでいきたい。

  • 初版の出版が1997年、日本版は2000年になる。日本版の刊行後すぐに読んだので、約20年ぶりに読み返したことになる。最初に読んだときの新鮮さは薄れ、こんなに単線的な本だったのかというのが二度目の読後の印象である。それは、この本に影響されて、さまざまないわゆるグローバルヒストリーの本が世の中で出版され、それらの話が耳から入っていたからかもしれない。そういった意味で、新しい分野を切り拓いた先駆的な本でもあったのだと思う。

    著者は、プロローグの最初においてフィールドワークの対象地域であったパプア・ニューギニアの状況について言及をした後、次のように語る。

    「こうした歴史的な不均衡は、現代の世界にも長い影を投げかけている。それは、金属器と文字を持つ社会が、金属器を持たない社会を征服し、あるいは絶滅させてしまったためである。こうした地域間の格差は人類史を形作る根本的な事実であるが、なぜそのような差異が生まれたのかという理由については、いまだに明らかになっておらず、議論が続けられている」

    この問いに対する著者なりの答えを示したのがこの本である。

    本書を著者の言葉を引用してまとめるとすると次のようになる。
    「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとがおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」

    上下巻の二冊に渡る非常に長い本だが、著者が言わんとしていることとロジックが明確であるため、非常に読みやすい。そのロジックとは、上巻の最初の方で、すでに著者が図象化しており、ほとんどそれが全てである。簡略化すると、それは次のようなものである。

    東西に伸びる大陸

    適性ある野生種の存在、種の分散の容易性

    多くの栽培植物と家畜の存在

    余剰食糧、食糧貯蔵

    人口が稠密で、定住している人びとの、階層化された大規模社会

    馬、銃・銃剣、外洋船、政治機構、文字、疫病

    つまり、人種的な優劣や文化の差異ではなく、地理的な偶然によって、文明化と呼ばれる環境の差異が生まれたというのが、著者の主張である。「文明」に属する技術は、天才的な発明の才のある個人によって生まれるのではなく、自然の気づきよって促され、累積的に蓄積されるものである。また、その発明が伝播される範囲においては相互に拡大するという効果が生まれるのである。

    その累積的な積み重ねの結果が地域間の差異として現れた代表的な例が、スペインによるインカ帝国の収奪である。ピサロによるインカ帝国の侵略における鉄製の武器と甲冑および騎馬の圧倒的な威力に対して、インカ帝国の人びとはあまりにも無防備であった。無防備という点ではさらにヨーロッパ人が運んできた病原菌に対しても彼らは無防備であった。天然痘などの病原菌は、南北アメリカ大陸の住民の95%を死に至らしめたという。

    「ピサロを成功に導いた直接の原因は、鉄器・鉄製の武器、そして騎馬などに基づく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、そして文字を持っていたことである。本書のタイトル『銃・病原菌・鉄』はヨーロッパ人が他の大陸を征服できた直接の要因を凝縮して表現したものである。しかし、銃や鉄がヨーロッパで作られる以前においても、あとの章で見るように、西ヨーロッパ系の民族が同じ要因を背景に自分たちの勢力範囲を拡大していた」

    【食料生産】
    文明の発展の序章として、それまでの狩猟生活から農業による食糧生産および定住生活への移行が非常に重要であった。本書では食料生産に関わる謎、なぜある地域では早く農業が始まり、ある地域ではそうではなかったのか、を紐解いていく。

    簡単に言うと、農業の開始は、栽培植物と家畜化可能な野生祖先種の存在に依存し、その伝播には似た気候がつながる東西に広がった大陸が有利に働いた。食糧の伝播によるコミュニケーションのつながりは、その後の他の技術の伝播、文字を含む、にも有利に働いたという。
    特に肥沃三角地帯の植物は地中海性気候に応じた一年草で、高さではなくそのエネルギーを大きな種子をたくさんつけることに費やすことができた。このことは、高さを得るための茎や樹脂の繊維(人間の食用には向かない)に費やすところが少ないということであり、栽培に有利な植物種を多く得ることにつながったのである。

    意外に思うかもしれないが、栽培に向いた植物というのはそれほどありふれたものではなく、家畜化可能な大型動物はさらに稀である。実際に家畜化された哺乳動物は14種類しか存在せず、そのうちの多くが西南アジアに集中しており、アメリカ大陸やアフリカ大陸にはほとんどいなかったのだと説明する。この指摘が、この本の特色であり、著者の主張を支える重要なポイントである。

    「ユーラシア大陸の人びとは、たまたま他の大陸の人びとよりも家畜化可能な大型の草食性哺乳動物を数多く受け継いできた。このことは、やがてユーラシア大陸の人びとを人類史上いろいろ面で有利な立場に立たせることになるが、この大陸に家畜化可能な大型の草食性哺乳動物が多数生息していたのは、哺乳類の世界的分布、進化、そして生態系という三つの基本的要素がそろって存在していた結果である」

     【文字の利用】
    文字を持っているかどうかは、その社会の発展に与える影響が大きいとされる。文字の有無は、情報量の差につながるのである。インカやアステカの皇帝は、征服者であるスペインに対する正確な情報を持つことがなかったがために、誤った対処を取ることとなったのである。

    それでは、文字を生み出すことができなかったインカやアステカの人びとは劣っていたがゆえに文字を生み出すことができなかったのか。著者の答えはそうではない、である。文字が利用されるためには、当初は表現力の観点で限定的であった文字の必要性とそれを使う余剰人員が必要であった。その必要条件は食料生産とそこから生まれた人工稠密な社会であった。また、文字の発明という比較的稀な出来事が広まるためには、それまでに食料交換などを通して東西のコミュニケーションが確立しているユーラシア大陸が有利に働いたのだ。

    「このように、文字が誕生するには、数千年にわたる食料生産の歴史が必要だった。ちょうど集団感染症の病原菌が登場するのに食料を生産する社会が必要であったように。最初の文字が、肥沃三日月地帯、メキシコ、中国で登場したのは、それらの地域が食料生産の起源とされる地域だったからである」

    これだけ便利なのだから、言語あるところに文字というものは自然に生まれてきたのではないかと誤認されるが、実際にはそれほど何度も文字は発明されなかった。実際に、文字のない社会というものは珍しいものではない。しかし、一度そのメリットが認識されると、それは多くの場所で受け入れられる。著者は、「アイデアの模倣」により新しい文字が生まれている例をいくつも示し、その伝播性の重要性について述べる。すなわち、食料だけではなく、文字の伝播に関しても大陸の形状に影響されるのである。

    著者はまた、技術の進歩の差が生まれる理由として、天才の存在、ひいては人種間の才能の差を否定する。
    「われわれの考察の結論は、つぎの二つである。技術は、非凡な天才がいたおかげで突如出現するものではなく、累積的に進歩し完成するものである。また、技術は、必要に応じて発明されるのではなく、発明されたあとに用途が見いだされることが多い」

    「発明は必要の母」であった、と著者は結論づける。

    本書内では、他にもパプア・ニューギニアやオーストラリアで何が起きたのか、それらの差はなぜ生じたのかを考察する。また、ヨーロッパよりもある観点では進んでもおかしくはなかった同じユーラシア大陸に存在する中国や東アジア、人類発祥の地であり、したがってっとも長い人類の歴史をもち、またもっとも多様な遺伝子的要素を擁するアフリカ大陸が欧州の文明によって植民地化されたのかについても分析をしている。

    出版より20年をして、すでに古典の風格もあるジャレド・ダイアモンドを今の地位に押し上げた著作。広く読まれるべきだし、また読まれたら広く受け入れられる著作でもある。

    そして、さらなる考察については、下巻のレビューにて。

    ---
    『銃・病原菌・鉄 (下) ― 1万3000年にわたる人類史の謎』(ジャレド・ダイアモンド)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/479421006X

  • サピエンス全史、ホモ・デウスを読んですっかりこの系統にハマりました。同じように、過去の人類の歴史を紐解く内容です。

    上巻では、なぜ地域によって進化発展に差が生まれたのか。その地域に住む人たちが他の地域の人たちより何か劣っていたのか。(もちろん、そんなことは無いのですが)を追求してます。

    人は住んでいた地域によって環境が異なっていた。メソポタミア文明が栄えた地域ではもともと人が育てるのに適した植物が多くあったことや、ユーラシア大陸には家畜に適した動物が多くいたことなど。これらの環境の違いによって、もともとは狩猟生活をしていた人類が異なるタイミングで農耕生活に変わっていった。

    農耕生活になると、多くの人口を養うことができる。これは、サピエンス全史やホモ・デウスで書かれてたことと同じ。というか、こっちが先なのでサピエンス全史がこれをなぞったんですね。

    人口が多くなると農業に従事しなくても生活できる人がでてきたり、序列ができたりして大きな集団が出来上がります。狩猟生活をしている集団との争いがあったとしても、農耕生活の集団は数に勝るし、闘いを職業にするような人もいたりで、勝ち残ります。それで、農耕生活する人たちが残ってくんですね。

    作物や家畜が豊富でなかった地域がそこに住む人のせいでそうなったわけでは無いことが説明されていきます。

    家畜が増えたことで出てきたのが、感染症です。生き残るためには、この感染症に免疫があるか無いかも重要なことです。

    これも、サピエンス全史やホモ・デウスにあったと思いますが、スペインのコルテス、ピサロによるアステカ、インカ帝国の滅亡について、感染症による甚大な影響があったことも書かれてます。なぜ、ヨーロッパの感染症はアメリカ大陸の人を大量に死亡させたのに、その逆は起こらなかったのか。そもそも、アメリカ大陸には家畜となる動物が少なかったことをあげてます。

    この辺から下巻に続きます。

  • 文庫 銃・病原菌・鉄 (上)、(下)
    1万3000年にわたる人類史の謎

    ピュリッツァー賞受賞作。識者が選ぶ朝日新聞“ゼロ年代の50冊”(2000年から2009年の10年間に出版された本)堂々の第1位。
    総ページ800頁以上の大作ですが、面白くてすんなりと読み切ってしまいました。
    ニューギニアの青年の”何故、欧米人たちは多くの物を作り出して、ニューギニアにもってきたのに、ニューギニアでは何も作り出すことができなかったのか?”という質問に答えることができなかったことから、この本が書かれることになりました。人類一万三千年の歴史をたどりながら、何故西欧人がアジアやアフリカを植民地化出来て、その逆ではなかったのか?何がその差異をもたらしたのか?ということを科学的な知見を元に解き明かしていきます。今までされてきた、人種や民族の優劣という説明では無く、以下の観点から青年の問いに答えていきます。
    *栽培化や家畜化の候補となりうる動植物の分布が各大陸や地域で異なっていた
    *このことが食料生産効率の違いや食料備蓄の違いをもたらした
    *食料生産能力の向上により、余剰食糧が生まれ、政治や職人など職業の専門化が可能となり、各職業の生産性が飛躍的に向上した
    *また、余剰食糧により大規模集団化が可能となり、軍事力、政治力、技術力の格差が集団間に生まれた
    *食料生産能力の向上は同じ気候であれば、広がり易いため、東西に長いユーラシア大陸では広がり易く、南北に長いアメリカ大陸やアフリカ大陸では広がりにくかった
    *疫病に対しての免疫を大規模集団化した人々は獲得することが可能だったが、そうでない人々は疫病に対しての免疫が無く、外からもたらされた疫病によって大きな打撃を受けた
    *多くの人口を抱えた集団は、より多くの発明を行うことが出来、技術的な優位性を持つことが出来た
    *人口が多い地域では集団間の競合も激しく、技術的な発達が早い
    最新の炭素年代測定法を元に書き直された人類の年譜を使って丁寧に上記の仮説が説明、解説されていきます。著者は各分野の専門性が限られていることによる正確性の問題を指摘しつつも、膨大な参考文献を元に人類の発達史をスリリングに解き明かして行きます。
    この本で最も重要だと思われることは、しばしば他民族の排斥や虐殺の理由とされる人種や民族の優位性は無く、たまたまその人種や民族が暮らしている地域の特性に今の世界が由来しているという点です。著者もエピローグで言っているように、各専門分野の研究により定量的な分析がなされ、この本の仮説が検証・強化されることが期待されます。

    未読の方は強くお奨めです。

    竹蔵

  • 随分前に、ベストセラーになったはず。
    サピエンス全史、ホモデウスと同じ系統の本だよなぁと想像していたけれど、やっぱりそうだった。例えば、なぜ、ヨーロッパ人によって、先住民が滅亡させられてしまうのかーそれは人種の優劣などというものではなく、植物の植生が定住するのに適していたか、家畜化できた動物、あるいは、大陸が東西、南北どちらに長いかなど、地形的な条件によって、狩猟採集民から、農耕定住に切替が早く進んだにすぎない。
    論理的に根拠を検証しながら進むので、とてもわかりやすく、納得して読める。
    下巻が楽しみだ。

  • 民族のかかわり合いの成果である人類社会を形成したのは、征服と疫病と殺戮の歴史である。p21

    10万年前から5万年前=「大躍進の時代」p55

    ピサロが皇帝アタワルパを捕虜にできた要因こそ、まさにヨーロッパ人が新世界を植民地化できた直接の要因である。
    ピサロを成功に導いた直接の要因は、銃器・鉄製の武器、そして騎馬などにもとづく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、そして文字を持っていたことである。p120

    植物栽培と家畜飼育の開始は、より多くの食料が手に入ることをいみした。そしてそれは、人口が稠密化することを意味した。植物栽培と家畜飼育の結果として生まれる余剰食料の存在、また地域によってはそれを運べる動物の存在が、定住者的で、集権的であり、社会的に階層化された複雑な経済的構造を有する技術革新的な社会の誕生の前提条件だったのである。したがって、栽培できる植物や飼育できる家畜を手に入れることができたことが、帝国という政治形態がユーラシア大陸で最初に出現したことの根本的な要因である。また、読み書きの能力や鉄器の製造技術がユーラシア大陸で最初に発達したことの根本的な要因である。p132

    【一歩の差がおおきな差へ】
    食料生産を独自に始めた地域は世界にほんの数カ所しかない。それらの地域においても、同じ時代に食料生産がはじまったわけではない。
    食料生産は、それを独自にに開始した地域を中核として、そこから近隣の狩猟採集民のあいだに広まっていった。その過程で、中核となる地域からやってきた農耕民に近隣の狩猟採集民が侵略され、一掃されてしまうこともあった。この過程もまた多くの時代にわたって起こったことである。最期に、環境には非常に適しているのに、先史時代に農耕を発展させたり実践したりすることがなかった地域が世界には複数存在する。そうした地域の人々は、他の地域の人たちより一歩先に銃器や鉄鋼製造の技術を発達させ、各種疫病に対する免疫を発達させる過程へと歩み出したのであり、この一歩の差が、持てるものと持たざるものを誕生させ、そのあとの歴史における両者間の絶えざる衝突につながっているのである。p148

    人為的な淘汰によって新しい品種が生み出される原理は、われわれが種の起源と自然淘汰の関係を理解しようとするうえで、もっともわかりやすいひとつのモデルを提供している。p191

    肥沃三日月地帯で食料生産が早期にはじまるのに好都合だったもう一つの点は、「狩猟採集生活」対「農耕生活」という生活様式の競合が、地中海西西部や他の地域に比べて少なかったことであろう。p209

    栄養面でみると、サンプウィードはタンパク質分32%、油分45%と特に優れていて、栄養学者の夢ともいえる作物である。
    しかし、サンプウィードは、花粉症の原因として悪名高いブタクサの親戚で、ブタクサと同じように群生状態で花粉を撒き散らし、花粉症の原因ともなりうる風媒花である。人によっては、悪臭ともとれる強烈な臭いもあり、触れると肌がかぶれる場合もある。
    p224

    より生産性の高い植物、より有用な植物を栽培化し、より多様な作物を作り出すことで、肥沃三日月地帯は集約的な食料生産システムを発展させ、地域の人口密度をより早期に増加させている。その結果、肥沃三日月地帯の人々は、ニューギニアや合衆国東部の人々に比べて、歴史上より早い時期に、より発展した科学技術、より複雑な社会構造、そして、他民族に感染しやすい伝染病に対する免疫力を発達させたのである。p226

    「由緒ある14種」のうち、世界各地に広がり、地球規模で重要になった家畜は牛、羊、山羊、豚、馬の「メジャーな5種」である。p236

    【大型草食動物が家畜化されなかった6つの理由】
    ①餌の問題
    ②成長速度の問題
    ③繁殖上の問題
    ④気性の問題
    ⑤パニックになりやすい性格の問題
    ⑥序列性のある集団を形成しない問題
    ※家畜化されるためにはこれらの条件すべてをクリアする必要がある p251~

    プリエンプティブ・ドメスティケーション(栽培化・家畜化の先取り):野生の動植物の家畜化・栽培化によって得られる利益よりも、すでに家畜化・栽培化されている動植物を利用したほうが利益が大きいことが理解され、家畜化や栽培化が独自に進行しない現象
    p267

    アメリカ大陸やアフリカ大陸が南北に長い陸地であるのに対し、ユーラシア大陸が東西に長い大陸であることの差異が文字、冶金術、科学技術、帝国といったものの発展速度と大いに関係している。
    そして人類の歴史の運命は、このちがいを軸に展開していったのである。p286

    究極的には、農作物や食料生産技術の伝播速度が大陸によって異なっていたことが、なぜ民族によって手にした権力と富の程度が異なるのかという問いかけの答えになる。
    しかし、そうなってしまった直接の要因は、農作物や食料生産技術の伝播速度のちがいではない。農耕民が何一つ有利なものを持たずに、丸腰で狩猟採集民に対して一対一の戦いを挑んでも、勝てるわけがないからである。
    農耕民を狩猟採集民より有利な立場にたたせた条件のひとつは、食料を生産することによって、狩猟採集民よりも人口の稠密な集団を形成できたからである。
    さらに農耕民は、狩猟採集民よりも優れた武器や防具を持っていた。より進歩した技術を持っていた。様々な病原菌に対する免疫を持っていた。集権的な集団を形成し、文字を読み書きできるエリートたちが征服戦争を指揮することもできた。p288-289

    戦史は、偉大な将軍を褒め称えているが、過去の戦争で勝利したのは、かならずしももっとも優れた将軍や武器を持った側ではなかった。過去の戦争において勝利できたのは、たちの悪い病原菌に対して免疫を持っていて、免疫のない相手側にその病気を移すことができた側である。p291

    1346年から52年にかけて流行した黒死病(腺ペスト)では、当時のヨーロッパの全人口の4分の1が失われ、死亡率70%という都市もあった。p298-299

    エイズは1959年に最初の患者が確認されている。p302

    ユーラシア大陸から運ばれてきた病原菌で命を落としたアメリカ先住民は、ヨーロッパ人の銃や剣の犠牲者となって戦場で命を失った者よりはるかに多かった。p310

    ユーラシア大陸を起源とする病原菌は、世界各地で、先住民の人口を大幅に減少させた。太平洋諸島の先住民、オーストラリアのアボリジニ、南アフリカのコイサン族など。p316

    【ミニ結論】
    非ヨーロッパ人を征服したヨーロッパ人が、より優れた武器を持っていたことは事実である。より進歩した技術や、より発達した政治機構を持っていたことも間違いない。しかし、このことだけでは、少数のヨーロッパ人が、圧倒的な数の先住民が暮らしていた南北アメリカ大陸やその他の地域に進出していき、彼らにとってかわった事実は説明できない。そのような結果になったのは、ヨーロッパ人が、家畜との長い親交から免疫を持つようになった病原菌を、とんでもない贈り物として、進出地域の先住民に渡したからだったのである。p317

  • めちゃくちゃ大掴みにこの本をまとめると、以下のQ&Aのような形になる。
    Q. なぜ、アフリカ人やネイティブアメリカンではなく、ヨーロッパ人が世界を支配するに至ったのか?
    A. 銃・病原菌・鉄という武器を持っていたから。
    Q. では、なぜヨーロッパ人のみがそれらの武器を手にできたのか?
    A. ヨーロッパ人が住む環境がたまたま良かったから。

    この上巻は、食料生産の地域差がメイン。
    「農業のほうが狩猟採集よりも多くの人口を養える→人口が多いから戦いに強い」というロジックで、ヨーロッパ人の世界支配の話に繋がる。

    「なぜ農業を早くに始めた地域とそうでない地域があるのか?」という部分の説明に、多くの紙幅が割かれている。ここが、前述のQ&Aにある「環境がたまたま良かった」に相当する。

    個人的には、「集住と家畜との共生の結果、農耕民は感染症の免疫を持ち、狩猟採集民はそうではなかった。その結果、農耕民がもたらした病原体は武器よりも多く狩猟採集民を殺戮した」という視点は自分になく、興味深かった。

  • ジャンル的に直近に読んだ「サピエンス全史」との比較をしながら読んでしまう…
    上巻は主に植物と家畜から見た人類史って事かな。

  • 『感想』
    〇なるほど、今まで手を付けてこなかった分野の話だったため、新しい知識がたくさん得られた。

    〇上巻は主に食糧問題の側面から書かれていたが、まずは食の安定が発展の基礎かという感想をもった。以下内容を自分なりにまとめる。

    〇白人支配という近代の勢力図となったのは、その人種が優れていたのではなく、地理的な条件に恵まれたのだということだった。

    〇具体的には狩猟生活から農耕生活へ変えるだけの原生種があったため、それを育てることで食糧問題が解決し、安定した生活ができるようになったことで人口が増えた。

    〇ユーラシア大陸は緯度が同じ東西の長い大陸であったため、他で育てられた食料や文化の伝播も、距離はあっても環境条件としては違いが少なかいことが幸いして早かった。

    〇食糧生産者以外の集団を作れるようになったことが、武器を作ることや文字を発明することにつながった。人口密度の高い集団となったことで病原菌にも襲われることとなったが、早くかかった分克服することも早く、ヨーロッパ人が南北アメリカやオセアニアに進出するころには、その病原菌に出会っていない現地人に大きな被害がもたらされた。それが侵略を優位なものとした。

    〇他方ユーラシア以外の民族からみれば、武器も弱い、食料も不安定、病原菌は未知の敵、文字がないため情報が正確に長い時を超えて伝わらないといった、不利な条件が多かった。

    〇これ以外にも詳しい説明があったが、納得するしかない話ばかりだった。

  • 内容が重いので、なかなか、読むのに飽きてしまって挫折。積読へ。

  • 今日の世界情勢を形作る要因となった人類の歴史を紐解き、なぜユーラシア大陸における農業や工業が早期に発展し、他の大陸ではそれが起きなかったのかを解明した一冊。(上下2冊)

    著者の分析では、人類発展の歴史が狩猟採集民族から始まった点は全ての大陸で共通している一方、ユーラシア大陸の肥沃三日月地帯に栽培可能な植物と家畜化可能な動物が数多く存在していたことにより、人類の定住化がいち早く可能になり、さらにはユーラシア大陸が東西に長い形状だったことにより、それらの農作物や家畜が同様の気候を持つ他の地域に容易に伝播したことが、同大陸における人口密度の拡大とそれに伴う文字や技術の発達、伝染病に対する集団免疫の獲得に繋がり、結果として他の大陸を侵略するための競争優位に繋がったという。

    今日の欧米諸国の政治や経済、文化が支配的な世界においては、ともすればヨーロッパ人種の生物学的優位性といった概念が人々の間で無意識に浸透し、それが差別的言動に繋がる場合もあるが、著者の主張は人種間に能力や資質の違いはなく、今日の地域間の発展の不平等は、単に地理的偶然性がもたらした結果に過ぎないことを明確に示してくれる。

  • ゼロ年代の最重要歴史書。

    西洋人がニューギニア人を征服し、ピサロがインカを征服したのに、なぜその逆は起こらなかったのか、について地理的な要因から考察した本。この本の新しさは、人間の技術的な進展の背景にある条件について語られているところにあると思う。作者が語る要因は、そのどれもが非常に納得できるもので、「世界史」という構築が難しくなった分野を新しく生まれ変わらせることにも繋がった。

    小説を書いている身としては、ファンタジー小説の世界観を作る場合、この本を読んでいるときと読んでいないときとでは、天と地ほどの開きが出てくると思う。普段何気なく生きている世界にも条件があって、その条件下で栄枯盛衰があるのだと気付く。面白いエピソードも満載だし、単純に読み物としても面白い。

  • ユーラシア大陸が植物の面でも、動物の面でも、地形の面でもかなり恵まれた土地であることがわかる。人類はアフリカに何百万年といたため、そこに住む動物は人類に対して、警戒心を持つようになっていったが、その他南北アメリカやニューギニアなどでは、動物が警戒心を持つための十分な時間がなく、狩尽くされてしまったという話はとても興味深い。それがそのような地域で家畜化できる動物の獲得に至らなかった要因の一つなっていく。
    この本が2000年に出されていることに驚かされた。学校で習う際は狩猟採集生活から農耕生活へと、あたかも当然の流れかのように述べられていたが、そんな単純なものではなかった。狩猟採集と農耕が競合し、メリットがよりある方を選んでいるのだと知ることができた。農耕生活だと食糧生産が増えて、人口が増えやすく、さまざまな職業が生まれて、狩猟採集生活をする人々を追い出したりした。
    農耕生活でなおかつ定住生活を送る場合、感染症を獲得しやすいことも納得できた。
    人間は何千年も前から、遺伝子の知識がなくても、植物や動物を選んできた。
    病原菌も生き残るために、症状をやわらげ、より菌を拡大させていくために進化することもあることに驚いた。

  • # 家畜・食物・病原菌と人間の歴史考察

    ## 面白かったところ

    * 動物や食物が自然界には数多に存在しているが、人間が食べられたり家畜として獲得できたものは少ないという事実を、歴史的考察を踏まえながら論じている点
    * 病原菌が人類史に齎した影響を知れること

    ## 微妙だったところ

    * 特になし

    ## 感想

    サピエンス全史ばりに読みたかったシリーズ。ようやく前巻を読み終えた。

    コロナ発生した理由は兎も角、病原菌と人類に歴史や向き合い方を知りたかった目的はざっくり果たされた。

    その歴史には、狩猟時代や農耕時代の対比は欠かせないし、家畜や食物の話も切っては切れない。

  •  本書では、世界のさまざまな民族がそれぞれに異なる歴史の経路をたどったのはなぜなのか、つまり国や民族間において現在のような一種の不均衡が生じてしまったのはなぜなのかを考察している。
     結論から言うと、その原因は人びとの置かれた地理的条件を含めた「環境の差異」によるものであり、人びとの「生物的な差異」によるものではない、というものだ。
     たまたま「恵まれた場所」にいた人びとが、食料生産や文化、病原菌に対する免疫を早期に味方につけることができ、そのスタートダッシュの違いが、のちの大きな差につながっているだけだという。

     著者は、麦類など栽培に適していた植物と、牛や豚など飼育に適していた大型動物が、ユーラシア大陸にたまたま多く存在していたことを調査結果から明らかにしている。そしてユーラシア大陸が巨大であっただけでなく、東西に広く同緯度帯で同じ気候帯であり、栽培植物や飼育動物が伝播しやすかったことが、他の大陸に比べて大きなアドバンテージになったと推察している。
     結果として、狩猟をしなくても食料生産が可能となって定住人口が増え、文字を扱ったり知的作業を行う余剰人員を抱えることができたことが、メソポタミアやエジプトなどで文明が栄える源になったという。
     さらに、食料生産社会が続いて、人びとと飼育動物が長いあいだ密集して暮らすことにより、のちに征服者となるヨーロッパ人たちが病原菌(特に動物から感染する病原菌)に対する集団免疫を身につけてきたことが、他の大陸の民族を疫病で滅亡に追いやることができた原因であると上巻では語られている。

     読む前は妙な組み合わせのタイトルから、結論ありきではないかと思ったが、著者の膨大かつ広範囲な生物学、歴史、民俗学などの知識を駆使して展開される説は、教科書の知識のはざまを埋めるものとして非常に説得力の高いものだった。
     欧米だけでなく、著者がフィールドワークで訪れた東アジアおよび太平洋域についてかなりのボリュームを割いているのが特徴で、ニューギニア人の素朴な問いかけから人類史を俯瞰的に遡る壮大な考察は、知的好奇心をおおいに刺激してくれた。

    ”本書のタイトルの『銃・病原菌・鉄』は、ヨーロッパ人が他の大陸を征服できた直接の原因を凝縮して表現したものである。”(P.120)
     なかでも1532年11月16日に少数の部隊を率いたスペインの征服者ピサロがインカ帝国の皇帝アタワルパを捕らえることができたのは、インカ帝国の内戦をもたらした天然痘の流行と、銃と鉄製の武器で武装したおかげであったという。ではなぜ、ヨーロッパ人とそれ以外の人びとにそのような違いが生まれたのかを、著者は上下巻を通じて考察している。

  • 第1章のタイトル回収部分を読んだ時は、とても楽しくなりました。面白い内容で、下巻も楽しみです。

  • GUNS, GERMS, AND STEEL:
    The Fates of Human Societies
    http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_1005.html

  •  著者の読書量というか,研究分野というか,これがとんでもなく広い。ここまで広範囲に学問を学び,それを縦横無尽に利用して新しい理論を展開しているというのが,なんともわたしの知的好奇心を刺激するではないか。
     地球上の人類の進歩のしかたが多様なのは,決して,遺伝や人種などのせいではなく,その人々が置かれていた地理的,気候的条件などが大きな原因であることを指摘している。なるほどである。
     ほんと,なかなかおもしろい本だった。

  • 現在の社会が成り立つ過程で、大陸の地形が大きく影響した事は大変興味深かった。特に肥沃な三日月地帯をルーツとする家畜や作物、病原菌の拡がりなど、徹底した論拠を元に説明が進められ大変説得力があって面白く感じた。

  • 「銃・病原菌・鉄(上)」ジャレド・ダイアモンド著・倉骨彰訳、草思社、2000.10.02
    317p ¥1,995 C0022 (2018.09.25読了)(2017.05.24購入)(2009.05.28/14刷)
    副題「一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎」

    【目次】
    日本語版への序文 東アジア・太平洋域から見た人類史
    プロローグ ニューギニア人ヤリの問いかけるもの
    第1部 勝者と敗者をめぐる謎
    第1章 一万三〇〇〇年前のスタートライン
    第2章 平和の民と戦う民との分かれ道
    第3章 スペイン人とインカ帝国の激突
    第2部 食料生産にまつわる謎
    第4章 食料生産と征服戦争
    第5章 持てるものと持たざるものの歴史
    第6章 農耕を始めた人と始めなかった人
    第7章 毒のないアーモンドのつくり方
    第8章 リンゴのせいか、インディアンのせいか
    第9章 なぜシマウマは家畜にならなかったのか
    第10章 大地の広がる方向と住民の運命
    第3部 銃・病原菌・鉄の謎
    第11章 家畜がくれた死の贈り物

    ☆関連図書(既読)
    「ネアンデルタール人類のなぞ」奈良貴史著、岩波ジュニア新書、2003.10.21
    「ハワイ・南太平洋の謎」秋道智彌著、光文社文庫、1989.07.20
    「インディアスの破壊についての簡潔な報告」ラス・カサス著・染田秀藤訳、岩波文庫、1976.06.25
    「インカ帝国探検記」増田義郎著、中公文庫、1975.09.10

    (「MARC」データベースより)amazon
    なぜ人間は五つの大陸で異なる発展をとげたのか? この壮大な謎を、1万3000年前からの人類史をたどりつつ、分子生物学や進化生物学、考古学などの最新研究結果をもとに解明。ピュリッツァー賞、コスモス国際賞受賞作。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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