文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
- 草思社 (2012年2月2日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794218780
作品紹介・あらすじ
アメリカ大陸の先住民はなぜ、旧大陸の住民に征服されたのか。なぜ、その逆は起こらなかったのか。現在の世界に広がる富とパワーの「地域格差」を生み出したものとは。1万3000年にわたる人類史のダイナミズムに隠された壮大な謎を、進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学など、広範な最新知見を縦横に駆使して解き明かす。ピュリッツァー賞、国際コスモス賞、朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第1位を受賞した名著、待望の文庫化。
感想・レビュー・書評
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タイトル通りの「銃・病原菌・鉄」にまつわる先史からの歴史。上巻は食物の伝播と病原菌の摩訶不思議な拡大に焦点が当てられていて面白かった。
特に病原菌の話は納得が行き、ヨーロッパから見た「大航海時代」はアメリカ、アフリカなどの先住民から見れば「悪魔の降臨」でしかなかった。結果、植民地になったり、アメリカ大陸はヨーロッパ人に奪い取られたわけだ。解せない世界が今展開されている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あまりにも有名な本書
ようやく読むことができた
大昔に一度挫折したので身構えていたが、実に読みやすく拍子抜けであった
ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリア…
それぞれの地で多様な社会が作り上げられた
なぜ人類社会は数千年にわたって異なった発展の道筋をたどったか
また世界の地域間の格差を生み出した正体は何か
というテーマなのだが、あまりに膨大な情報量と多岐にわたった内容のため、興味深かったものだけにフォーカスをあてることにする
わかりやすい例として、スペイン人とインカ帝国の激突がある
1532年スペインの征服者ピサロとインカ帝国アタワルパがペルーのカハマルカで出会った際、たった168人のスペイン軍が1人の犠牲者も出さずに何千人と言う敵を殺し自分たちの500倍もの数のインディを壊滅状態に追い込んでいる
スペイン軍が鉄製の剣や短剣などを持っており、ほとんど武装していなかったインディオたちをそれらの武器で惨殺できたからだ
騎馬隊を持っていたことがスペイン側を有利に
さらにはインカ帝国では天然痘の大流行にもよる
他にもスペイン人の集権的な政治機構や文字による情報の伝達が勝因
一方の情報不足で騙されたインカ帝国側
そう、「銃・病原菌・鉄」ヨーロッパ人が新世界を植民地化できた直接の要因がまさにこれ
このように人類史をたどりつつ、分子生物学や進化生物学、生物地理学、考古学、文化人類学などの研究成果をもとに解き明かす
ちょっとピンポイントだが個人的に興味深かったのが動物の家畜化だ
家畜化の候補となりうる大型草食動物は148種類にも関わらず、実際家畜化されたのはこのうちの14種類だけだ
どういった理由からか…
大型肉食獣は餌の問題から難しい
コアラのように餌が偏りすぎるのもダメ
また成長速度が15年もかかるようなゾウやゴリラも無理である
繁殖の問題としては、複雑な求愛行動をとるものも無理である
例えばチーターのように何頭かの雄が一頭の雌を何日間か追い回すような壮大で荒っぽい求愛行動により、ようやく排卵し発情する(女王様気質なのかしらん?)
これは檻や柵の中で繁殖させるのは無理だろう
そして気性の問題がある
気象が荒くては我々人間が殺されてしまう
そして意外にもアフリカに生息するシマウマがこれに該当する
シマウマは歳をとるにつれ、かなり気性が荒くなり危険になる(人間でもいますね)
さらにいったん人に噛み付いたら絶対に離さないというやっかいな習性があり、カウボーイでさえ、投げ縄で捕まえるのは不可能だという(ちょっと意外じゃないですか?)
他にもパニックを起こす神経質な動物も無理であるし、群れを作らず単独行動する動物も家畜化は難しい
こうしてふるいかけて残った…じゃなく選抜された家畜はたった14種類なのである
ここまでの道のりは考えただけで気が遠くなる
こんな感じのエピソードがぎっしり詰まった本書
だが、この上巻をまとめると
栽培できる植物や飼育できる家畜を手に入れることができたことが、ユーラシア大陸の帝国の出現だという
ちなみに植物栽培と家畜飼育の開始が征服戦争に直接貢献した最大の例は、ユーラシア大陸で飼い始められた馬(先程のスペインの征服でも重複する)
馬と同様に重要だったのは家畜から人間にうつった病原菌の果たした役割だ(役割とは皮肉なものだが)
天然痘、はしか、インフルエンザなど
これらの伝染病は動物に感染した病原菌の突然変異種だ
家畜を持った人々は最初の犠牲になったものの、やがて抵抗力を身に付ける
こうして免疫力を有した人々が、それらの病原菌に全くさらされなかった人々と接触した時、疫病が大流行し、多くの人が亡くなった
先住民を征服する上で決定的な役割を果たした
他にも食料生産も相当な影響を与えたことがわかった
当たり前に感じている現代の世界の力関係
よく考えたら一体いつからどのような経過を経て現代に至るのか
ひとつひとつ丁寧に分析されており、改めて納得することがたくさんある
でも…知れば知るほど理不尽で暴力的な世界にうんざりしてしまうのだが…
とにもかくにも下巻へ-
ハイジさん、おはようございます♪
この本、いつかはいつかはと読みたいと思いながらも伸ばし伸ばしになってました。
なんだか難しそうで……
...ハイジさん、おはようございます♪
この本、いつかはいつかはと読みたいと思いながらも伸ばし伸ばしになってました。
なんだか難しそうで……
でもハイジさんのレビューって、私でも読めるかなと思ってしまうほど、いつも興味深くまとめておられるんですよね。今回もウズウズ♪
あと「サピエンス全史」と「ホモ・デウス」も読みたい。
「サピエンス全史」もハイジさんのレビューを読ませていただいてから、ずっと思ってるんですけどねf(^_^)2022/08/15 -
地球っこさん こんにちは!
コメントありがとうございます!
わかります
なんだか難しそうですよね…
でも本当に読みやすくてビックリされると...地球っこさん こんにちは!
コメントありがとうございます!
わかります
なんだか難しそうですよね…
でも本当に読みやすくてビックリされると思います
「サピエンス全史」も然り
昨今のお偉い皆さんはとてもご親切です(笑)
ただ、私の場合、あまり興味を持てない内容は時々寝落ちしてしまいました…^^;
私もホモデウスも読んでみたいです
読みたいものだらけで全く追いつけませんが…(涙)2022/08/15
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『山月記』で有名な中島敦の作品群に私の好きな『文字禍』という短編がある。紀元前660年ころのアッシリア大帝国の王は、夜な夜な図書館に出没するという奇怪な幽霊について調査するよう高名な老博士に命じた。同僚たちと調査をはじめる博士。
「歴史とは、昔、あった事柄をいうのであろうか? それとも粘土板の文字をいうのであろうか?」
「歴史とは粘土板のことじゃ!」
と鼻で笑い、豪語する博士だったが……。
おおっと、冒頭からこんなことを思い出してぐるぐる遊んでいるようでは、はたして最後までこの本を読めるのかしらん? と思いきや……意外に読みやすくて楽しい! 今までこの本を積読していたのが、なんだかもったいなく思えてきた。
サブタイトルどおり1万3000年にわたる人類史の謎を解き明かす旅になるのだが、全てを網羅することは私にはとても無理なので、印象に残ったものをいくつかあげてみる。その中のひとつが人類起源と伝播のカギになる南北の問題だ。
ニュースなどで耳にする現代の南北問題は、先進国と開発途上国間の経済格差の問題で、地球規模の不平等や貧富の格差を表している。必ずしも地理的南北のことではない。だがこの本でいう南北の問題(あわせて東西の問題)は、人類起源からあらゆるものが伝播していく過程や地理的要素を意味しているようで、大変興味深い。
たとえばユーラシア大陸は東西に長い。そのために季節は類似しているため、人々の移動、物流、農耕が盛んになると、それに伴って家畜の拡大やウイルス(疫病)もともに伝播していく。さらに文字や冶金術、鉱物、食物、貨幣、様々な技術もともに広がっていく。ギリシャ、地中海沿岸から、アナトリア地方(現在のトルコ)はあらゆるものの通り道となり、バビロン、ヒッタイト、アッシリア、ペルシャといった強大な帝国の盛衰は、歴史上わくわくするダイナミックなもの。さらにインド、中国を経て朝鮮半島、そして日本にも技術や文字や様々なものが伝播していくことを思うと、たしかにほぼ東西の移動だ。
かたや、南北アメリカ大陸、アフリカ大陸は南北に長い。当然ながら季節は大きく異なってくる。人々の移動、物流、農耕・家畜といった交流はさほど栄えず、地形などの要因も重なって、ときには孤立化し、文字や技術も伝播しにくい状況にあったようだ。
あわせて著者は、家畜可能な哺乳類とその家畜化率を調べている。
ユーラシア大陸には72種あり、うち13を家畜化した(家畜化率18%)。他方、南北アメリカ大陸には24種いたが、家畜化したのはわずか1(家畜化率4%)、サハラ砂漠以南のアフリカ大陸には51種いたものの、家畜化したのは0(家畜化率0%)。
この数字の意味するものに思わず息を呑んだ。動物を家畜化できなければ、農耕は発展せず、よって人口は拡大しない、国力は大きくならない。また家畜から派生する病原菌への対策や抗体もできないまま推移することになりそうだ。
1520~30年代、南北アメリカ大陸のアステカ帝国やインカ帝国が、数百人のわずかなスペイン軍に征服されたのは、彼らの軍馬や武器の違いもさることながら、持ち込まれた疫病の蔓延が大きな要因となったようだ。アメリカ大陸の先住民は、天然痘、インフルエンザ、チフス、麻疹などの免疫がないため、歴史のなかでこれらに罹患して大量死してしまった。マラリア、ジフテリア、百日咳、ペスト、結核なども同様だったらしい。
未だに終息しない新型コロナウイルスの世界的流行を思えば、未知の疾病に抗体も薬剤もノウハウも集団免疫もない当時のアステカの人々が、いかに数奇な運命をたどったかは容易に想像できる。
**下巻になってくると、文化面も充実してきてますます楽しい。
ちょっと世界史的になるけれど、メソポタミア地方は紀元前3000年ころ、シュメール人によって「くさび形文字」からバビロニア文字が発生した。そういえば世界最古の物語『ギルガメシュ叙事詩』は、喜怒哀楽の激しいちょっぴりお茶目な男が主人公。
またエジプトでは、紀元前3000年ころにエジプト人による象形文字、その後のアルファベットを生み、さらに紀元前1300年ころには中国で甲骨文字、その後の漢字が誕生する。
著者も紹介している人類学者クロード・レヴィ=ストロースによれば、古代の文字は「他の人間を隷属化させるため」に使われていたらしく、例えば税の取り立て、家畜数の記録、王の布告など、階層的な文化・社会が構築されているもよう。
ところがギリシャ時代あたりになると、詩やユーモアも登場し、ホメロスの叙事詩『イーリアス』をはじめとする悲劇・喜劇詩人たちが活躍するようになる。その一方で農耕民ではない狩猟採集民には、文字の必要性が低く、その借用もなかったらしい。
肥沃三日月地帯(チグリス・ユーフラテス川からシリア、イスラエル、エジプト地帯)は、紀元前4000年ころから、バビロン、ヒッタイト、アッシリア、ペルシャといった強大な帝国の栄枯盛衰がみられる。
その潮目がかわったのは、どうやらマケドニア(ギリシャ)の風雲児アレクサンドロス3世(アレキサンダー大王)の世界征服。紀元前330~20年ころ、彼はギリシャからインドまでの広大なアジアを征服し、覇権は西へ移った。その後、紀元前2世紀にはローマ帝国によるギリシャ制服で、さらに覇権は西へ移動し、そのローマ帝国も滅亡すると、覇権は欧州の西や北へと移動していったという。
歴史の壮大な流れにほぇ~と恍惚状態になりながら、それでも著者が折をみて何度も強調していたくだりは、すこぶる明快だ。
「歴史は、民族によって異なる経路をたどったが、それは居住環境の差異によるものであって、民族間の生物学的な差異によるものではない」
さきのレヴィ=ストロースは、アマゾンに暮らしている狩猟民族のもつ動植物や草木学の造詣の深さに感銘をうけ、婚姻の巧妙で複雑な仕組みや彼らの生活に必要なものすべてが整然と整理・伝承されていることを明らかにした。一方で、未開社会には習俗しかなく歴史はない、と見下した当時の欧州至上主義、合理主義や差別的な植民地思考の蔓延。それを隠そうともしない寵児・哲学者サルトルにくさびを打ち込んだレヴィ=ストロースのフィールドワークと執念のすさまじさに息を呑む。
「人間についての真実は、これらいろいろな存在様式の間の差異と共通性とで構成されている体系の中に存在するのである」(『野生の思考』レヴィ=ストロース)
考えてみると、著者が示した歴史、とりわけアステカやインカ、オーストラリアのアボリジニーにしても、アメリカインディオやアイヌにしても、人種や民族への迫害の歴史は決して過去のことではないと思った。また列強によって書かれた、さながら「粘土板」だけが歴史ではないはず。いまだ根強い人種差別やロヒンギャ(ミャンマー)、クルド人(トルコ)、ウイグル(中国)といった少数民族への抑圧は現在進行形だということをこの本は思い起こさせる。
また著者が示した人類起源の歴史における南北問題は、現代の南北問題にも絡んでいるのではないかと思えてくる。地球的南北問題や地球環境問題は、決してぶつ切りの、その専門家だけが考える特殊な事柄ではなく、地球という全体のなかで生き、同時的共時的に生じている自分たちの問題だということを考えさせてくれると、なんだか胸が熱くなってきて、これはつたないながらも学び続ける必要があることを痛感した。
この本は大部だけれど、とても易しくて優しい。分断だらけで殺伐としてしまったこのような時勢だからこそ、興味のある方にお薦めしたい♪(2023.2.12)。
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「人類の多様性を研究しようとするなら、身近なところをみつめなければならない。しかし、人間の一般性を研究するにあたっては遠くをながめることを知らなければならない。固有性を発見するためには、まず差異の観察から始めなければならない」――ジャン=ジャック・ルソー-
地球っこさん、お久しぶりです!
コメントいただきありがとうございます(^^♪
たしか中島敦お好きでしたよね。大好きな声優さんの「山月...地球っこさん、お久しぶりです!
コメントいただきありがとうございます(^^♪
たしか中島敦お好きでしたよね。大好きな声優さんの「山月記」と「名人伝」の朗読CD! なんと~なんと~カッコいい! 声優さんが合うとぞくぞくしちゃいますね(笑)。
>あと、あと、「ヒッタイト」が登場するのですね!
これは読まなくっちゃ、です。
そうなんですよ。でもダイアモンド氏の本ではヒッタイトのことはさほど詳しく書いてはいません。なにせアナトリア地方は大帝国だらけで(汗)、わたしは地球っこさんの書かれていたヒッタイトを舞台にしたムキムキではないおのこが登場する漫画が気になって仕方がないので、探したいと思っているのです。
おぉ~“一途な愛”のキュン♡世界にはまってらっしゃるのですね。羨ましいです。夢中になれる世界をたくさんもたれている地球っこさん、キャパの大きさ、尊敬します(^^♪2023/02/12 -
アテナイエさん おはようございます♪
そうそう、中島敦好きなんです。女学校の先生をしていてモテモテだった…みたいなことが印象に残ってます(...アテナイエさん おはようございます♪
そうそう、中島敦好きなんです。女学校の先生をしていてモテモテだった…みたいなことが印象に残ってます(作品に関係ないことばかり残ります 笑)。
「山月記」は好きで(そうだ、アテナイエさんとお話したことありましたね)、あと「李陵」、南洋からの奥さんや子どもさんへの手紙、その辺りをさらっと読んだくらいなのですが、なんだか好きなんですよね~
うーむ、今年は中島敦いってみようかな。
『天は赤い河のほとり』はオススメです!
機会があればぜひ。
レヴィ=ストロースも読んでみたいと思いながら、ずるずるきてます(^^;
年々、読む本の数は減っていってるのですが、そのぶん本当に興味のある本、大好きな本をじっくりと読んでいきたいと思います。レヴィ=ストロースも読むぞ~2023/02/13 -
地球っこさん、こんにちは!
そうですよね、たしか以前に『山月記』をきっかけに中島敦で盛り上がりましたので、覚えておりますよ、はい。
...地球っこさん、こんにちは!
そうですよね、たしか以前に『山月記』をきっかけに中島敦で盛り上がりましたので、覚えておりますよ、はい。
写真ではちょっと陰のありそうな彼が好きな地球っこさんでした(笑)。
『天は赤い河のほとり』は機会をみて探してみます。
ありがとうございます。
そうでした、以前にレヴィ=ストロースの日本文化論『月の裏側』で話で盛り上がった気がしますね。わたしは彼の本命『野生の思考』が好きなのですが、片思いでいまだきちんと理解できていません。なのでときどき眺めてみたりしています。たぶん一生の友でしょう。そういう人や本があるのは幸せなことかもしれません。な~んて、強がり??
地球っこさんは『源氏物語』にお詳しいので、それにふれている『月の裏側』で盛り上がったことを、書きながら思い出してきました。
本は本棚で猫のように寝て待っていますゆえ、いつでも好きなときに♪
そうそう、わたしの『山月記』の虎は、ちと寝すぎていくぶん黄ばんでいますが、元気ですよ、なにせ虎も猫も一緒ですから。
2023/02/13
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とてつもない力作でした。
この本を書くには、非常に膨大かつ網羅的な知識が必要で、著者の野心とバイタリティには大変感服しました。
この本の内容を一行で要約するならば、
「人は人種による生物学的な優劣はない」ということです。それを証明するために、上下巻で膨大なページを割いて説明しています。
取り扱う内容が広範囲に及び、またそこそこ古い本でもあるため、細かい指摘はあげればキリがないと思います。
しかし、人類のはじまりから現在に至るまで壮大なスケールで人類史を紐解いていく様は、一度読んでおいて損はないです。
以下、私が個人的に知れてよかったことを箇条書きでまとめておきます。
○アメリカ大陸先住民は、コロンブスの発見以降ヨーロッパ人が意図せず持ち込んだ伝染病により95%が死んだ。
伝染病は、銃や騎兵等の武力よりアメリカ大陸支配の直接的要因となった。
○パプアニューギニアの一部民族による食人文化は、
生物相や環境要因によるタンパク質不足にあったのではないか(という推測)。
○技術は少数の天才によって突然つくられるものではなく、幾つもの発明が積み重なって完成するもの。また、技術は必要に応じて発明されるのではなく、発見したあとに用途が見出されることが多い。
○ルソーの社会契約説では、人々が理性的に人民の相違として単純な社会を放棄するとき、国家が形成させると説いた。しかし、歴史上の記録をみる限りそのような事例はなく、主権の放棄は征服または外圧によってのみ起こっている。
○中国では地理的結びつきが強かったことが逆に作用し、技術的にヨーロッパに遅れをとった。地理的結びつきにより政治的統一がはやい段階で達成できていたため、支配者の一存で技術の進歩が妨げられることが多々あった。 -
第9章まで読み進めて3年程そのまま放置していましたが、第11章は感染症の話題なので新型コロナとの付き合い方を考えるのに良いかと読み進めました。
これまで人類は幾度となく様々な感染症と戦ってきたが、今回の新型コロナのように突然大流行する感染症に共通する特徴が記されている。
・まず感染が非常に効率的で速いため、短期間のうちに集団全体が病原菌にさらされてしまう。
・これらの感染症は「進行が急性」である。感染者は短期間のうちに死亡してしまうか、完全に回復してしまうかのどちらかである。
・一度感染し回復した者はその病原菌に対して抗体を持つようになり、それ以降おそらく死ぬまで同じ病気にかからなくなる。
・感染したままいつまでも生きつづけることはない。
・感染者の数の減少とともに、人間の生体中でしか生きられない病原菌もそのうち死滅し、それとともに大流行も収束する。
・つぎの大流行は抗体を持たない新生児がかかりやすい年齢に達し、集団外部から新たな感染者が訪れるまで起こらない。
今新型コロナで不幸にも多数の死者が出てしまっている国は、抗体を持った人も多数いるはず。
逆に少数の死者に抑え込んだ国は、大流行に至る前に収束しているので抗体を持っていない人が多いはず。
今収束に向かっている中国、韓国、台湾は国外からの感染者に十分注意しないと第2波にさらされる。
この新型コロナウイルスが地球上から無くなることも、地球人全員が抗体を得ることもないでしょう。
ピンポイントでウイルスをやっつける薬も作れそうにありません。
進行を抑える薬、抗体を作るワクチン、抗体の有無を調べる検査キットが出そろうまで要注意ですね。
本書の本質的なレビューでなくてスミマセン。 -
2019/06/29
土地やその土地がもたらした環境が、人類を支配する側と支配される側に分けたという考察。そこに至る過程が様々な文献、事象を基にとても詳しく分かりやすく述べられている。これを読むとあのいわゆる世界史の教科書がいかに勝者の歴史であり文字を持った者たちの歴史であるかということが思い知らされる。それにしても紀元前何千年の人類の営みや生息していた動植物なんかのことがここまで明らかになっているのかと驚かされた。人間ってすごいな。その執念。
すごくおもしろいけど一旦小説でも読んで休憩して下巻読もう。濃いわ。 -
前から放置してた。
数ある人類史をテーマにした本の中ではかなり有名です。中途半端な知識欲だけではなかなか読めません。
好奇心が必要なのです。
内容は多岐に渡る。文明の発達において、どこの地域で何が起こり、人々の営みが何に依存していたのか。これまで無かった視点で綴られたノンフィクション。
ノンフィクションとはいえ、思考は別だ。事実を考察した結果、導かれる答えは一つではないことに留意しなければならない。
正直、難しい話だし、興味を持って読まなければ楽しめない。
単純な思考を持って解説される部分もあるにはあるが、人類史をいくつも読まれている方には、より楽しめる内容なのではないでしょうか。
下巻へ。 -
文庫本の裏表紙に書かれている本書の紹介を、下記にそのまま引用する。
【引用】
アメリカ大陸の先住民はなぜ、旧大陸の住民に征服されたのか。なぜ、その逆は起こらなかったのか。現在の世界に広がる富とパワーの「地域格差」を生み出したものとは。
【引用終わり】
本書が明らかにしようとしているものは上記に尽きる。
北中米・南米の先住民は、ヨーロッパから航海し上陸してきた住民に征服されたが、それは何故だったのか、という疑問がテーマである。
本書は上下巻に分かれていて、まだ上巻を読んだばかりなので、その全体像は説明されてはいないが、上巻を読んで理解したところを箇条書きで書くと以下の通りになるのだろうか。
■アメリカ大陸に上陸したヨーロッパ住民は、先住民よりも優れた武器を保有していたし、また、馬を使って有利に戦闘を進める術を知っていた。
■優れた武器を保有したりするには、社会的・文化的な仕組みが整っている必要があるし、文字があった方がそういうことが起こりやすい。
■社会的・文化的な仕組みは、余剰の食料、余剰の生産物があり、食料生産に携わらない人たちを社会全体で養っていけるだけの食料生産がなければならない。
■食料とは、一つは植物(麦・米・豆類など)であり、一つは家畜である。
■食料になる植物は自然種を人間が栽培化したものである。それらは、地球上にまんべんなく分布していた訳ではない。例えば文明の起源とされるメソポタミア地方を含む、西アジアに多く分布していた。これらの地方でまずは定着的な農業が起こり、人口が増え、更には上記のように、社会全体として食料生産に携わらない人達を養う余裕が出来た。
■役に立つ家畜とは、牛・鶏・豚・馬等であり、哺乳類の中でも種類としてはそんなに多くなく、分布も意外と偏っていた。家畜を飼うことが出来た地域の人たちの食料生産性は、その家畜を食べることが出来ることを通じて、また、家畜を農作業に使うことを通じて、そういうことが出来ていない地域の人たちよりも格段に高かった。
■食料栽培化は、上記のように、例えばメソポタミアで起き、それが他の地方に広がっていったが、伝播のスピードは東西に早く、南北に遅い。それは、同じ緯度であれば、気候が似ており、ある特定の品種が育つ条件が整っているからである。南北に移動すると、気温や降水量が東西に移動するよりも大きく異なる可能性が高く、食料栽培化が難しくなる。
■ウィルスは家畜から人間に感染する。ある種のウィルスは人間に時に致死性の病気を引き起こす。長い年月をかけて、ヨーロッパの人たちの間に免疫が出来ていたウィルス性の病気に対する免疫をアメリカ大陸の人たちは持ち合わせていなかった。このために、闘いで死んだ数以上にアメリカ大陸の人たちはウィルス性の病気で死んでいった。
ある地域の人たちの技術や仕組みが他の地域の人たちのものよりも、歴史的に早く発達した理由の一端を上記は説明しているのだと思う。それが上巻の内容と理解した。
文章がやや冗長でくどい感じがして、私にとっては読みやすい本ではない。ただ、内容はかなり面白く、下巻も楽しみ。 -
人類の歴史が非常に分かりやすく解説され、質の高い世界史の講義を受けているような感じ。
上巻では、各地域で発展した人類の発展の差がどのように生まれたかが解説されていた。
人類が文明を進化させる為には、まず食料の確保が重要であり、食料が十分に確保されれば、人口が増え、余剰食糧を確保することにより、官僚(王や特権階級)や常備軍などを養うことができる。そのためにはやはり、狩猟民族よりも農耕民族が有利となってくる。
さらに、家畜や疫病との関係により人類はより進化していく。
人類全体の進化を説明した『サピエンス全史』よりも、本書は人類の地域ごとの発展や文明の進化の違いに特化されており、その点はより理解がしやすかった。 -
個人的に「サピエンス全史」に続く衝撃の良書。本書は、「サピエンス全史」で考察されていた一部分を、別の角度から深く掘り下げたような内容だ。始まりからワクワクしっぱなしで、知的好奇心が満たされていく。翻訳が簡潔で読みやすい。この手の本は再読時に自分の変化を感じることが出来るため、是非手元に残しておきたい。上巻を読み終えたばかりだが、数年後の再読がもう楽しみで仕方がない。
著者プロフィール
ジャレド・ダイアモンドの作品





