- Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
- / ISBN・EAN: 9784894345911
作品紹介・あらすじ
敗戦から一九五二年にいたるこの未曾有の時期に、文学にたずさわるものたちは何を描き、何を見ていたか。何をとらえ、何をとらえそこねたのだろうか。小説はその時代に生きたひとびとの言葉と緊密な関係を結んでいる。きびしい制約のなかで書かれた短篇小説を通して戦後占領期をあらためて検証し、いまの私たちを問い返すため、ここに「戦後占領期短篇小説コレクション」全七巻をお送りする。
感想・レビュー・書評
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戦後占領期をテーマに集めた短編集。
一年区切りで一冊ずつ。
一巻だけは45年と46年発表のものから。
田舎の日常が見える平林・永井・井伏、文学な石川・川端・豊島、破れかぶれな豪放の小田・坂口、兵士の田村・八木。
いかにもその時なもの、猥雑な空気が感じられるもの、格調高く文学に昇華しているもの、いろいろだけどなんとなく時代の空気がある。
まがりなりにも戦後に発表されたものだから占領下で検閲されたりしつつも開放的な雰囲気がある。
そういうくくりで集められたものをそういう目で読んでいるからってのが大きいんだろうけど。
読んだことのない人のものが結構あってたのしい。
平林たい子の「けっ」って感じがいい。
こういう人でも戦時を生き抜けたんだと思うと勇気づけられる。
永井の空襲時の大騒ぎ描写だとか、坂口のスリルに依存する具合だとか、ああいうのは当事者じゃなきゃ書けない(書いちゃいけない)ものだなあと思う。
いわば年寄りの寿命ネタみたいなもんで。
この時に大人だった経験者がこの時に書いたものだから、大変なことを笑い飛ばすものになる。
同じものを今の人が書いたら礼賛だのドリームだのになってしまう。
戦地から帰ってきたら妻子が死んでいた八木の自伝的な短編は不愉快だった。
このDV思考はナチュラルに出てきたものなのか優れた観察眼による完璧なトレースなのか。
作者の来歴と重なるだけに判断がつかない。
いずれにせよ不快だから最後に置かれた作品がこれで残念だ。
不快なだけじゃなくて兵士を語る観察眼が鋭くて一心に読んでしまえるのが悔しい。
嫌なだけなら切り捨てられるのに。
解説でちょっと浄化されたけど後味が悪い。
解説は紅野謙介による作品紹介と、小沢信男によるもうちょっと中身に踏み込んだもの。
小沢の語り口がちょっと嫌だったんだけど、そこをこらえて読んでみたらすごく面白い。
この人についても知りたくなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示