それから [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 当たり前だけども、表現の幅がとにかく広い。

    世間を自分の家の様に心得ている
    お世辞を置き去りにして出て行った

    …など、自分なら考えも及ばぬ様な言い回し。

    それゆえに、情景と心の動きとがパッと思い浮かんで、お話の中にどっぷりと入り込んで行けるのかと。

    ストーリーは、一言で語ると「友達の奥様と恋に落ちるニートの紆余曲折」になるのだけど、ストーリーそのもののみで語るのは文学作品の楽しみ方の一部でしかないなと感じます。

    代助さんは自分の哲学を拗らせたような男性であるし、こんな人とは付き合うのはどうかな…とは思うけれども、白百合の告白での情熱的な一面にはグッと来てしまった…

  • 出張に持って行ったキンドルである本を読み始めたのだけれど、どうも気分的に乗れず、キンドル内に積ん読していた『それから』に手を伸ばした。

    芸術や文化を追求し、労働はそれを妨げるものにすぎないとして、親のすねをかじりながら生活している代助が、友人・平岡の妻に惚れてしまう。親から勘当され、友人も失いながら恋愛に進むことを選んだ代助だが、生活の糧を得る術を全く持たない自分に気づく。そして、代助の『それから』は破滅に向かうのでは、と思わせて物語は終わる。
    初めは、代助をモラトリアム、あるいは現代でいうニートに近い人物としてとらえて軽い気持ちで読んでいたが、この小説が書かれた時代をふと思い出し、実はテーマは重いのでは、と考えを改めた。『それから』が書かれた1909年は、日清戦争、日露戦争に勝利し、西欧列強に肩を並べようとしていた時代。そう考えると、西欧から始まった芸術や文化を追求した代助は、当時の日本の姿そのものに重なってくる。そして、その代助は破滅を予感させて終わる。漱石は、西欧を意識しすぎることへの警笛を鳴らしたかったのか。そう考えると、俄然この小説の重量が増した。

  • 漱石の前期三部作の第二作。

    長井代助は三十にもなって定職を持たず、父からの援助で毎日をぶらぶらと暮らしている。
    実生活に根を持たない思索家の代助は、かつて愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく…。
    破局を予想しながらもそれに向かわなければならない愛を通して明治知識人の悲劇を描く、『三四郎』に続く三部作の第二作。

    前作の主人公・三四郎が好青年だっただけに、働きもせず理屈ばかりこねくり回す本作の主人公・代助には絶句。正直、虫酸が走って仕方がないですね。口ばかり達者で行動が伴わない「頭でっかち」ですから。あるいは、読者がそう思うよう敢えてそのような人物像に?ともあれ、漱石が初めて不倫を描いたとされる本作。しかも相手は代助が3年前に結婚を周旋した平岡夫妻で、当時からすでに代助は三千代さんに好意を抱いていたというわけですから。
    誰もが「なぜ今さら!」と言って非難囂々。熱にうなされたように職探しに、というより茫然と彷徨する代助の行く末が気になるラストではありましたが。

  • とくに

  • [十七の]
     読了。行き着いた先。灼けるように熱い。

    --

    [十六の]
     本当に、なんだか……

    --

    [三の-十五の]
     三十にしてこれ…… いつの時代にもこういうニンゲンはいたのだなぁ。というか、漱石だからこういう主人公なのか! 主人公にはいろいろともの申したいです。(笑)

    --

    [二の]

     代助と平岡のすれ違い。

    --

    [一の]

     読んだ記憶はあるなぁ。でもやっぱりさっぱり思い出せないので、ゆるゆる読んでいくことにする。門野くんのどうしようもなさに憧れてしまうあたり、自分がどうしようもない。


  • 彼は此取り留めのない花やかな色調の反照として、三千代の事を思ひ出さざるを得なかつた。
    さうして其所にわが安住の地を見出した様な気がした。けれども其安住の地は、明らかには、彼の眼に映じて出なかつた。ただ、かれの心の調子全体で、それを認めた丈であつた。従つて彼は三千代の顔や、容子や、言葉や、夫婦の関係や、病気や、身分を一纏にしたものを、わが情調にしつくり合ふ対象として、発見したに過ぎなかつた。


    彼は彼の頭の中に、彼自身に正当な道を歩んだといふ自信があつた。彼は夫で満足であつた。その満足を理解して呉れるものは三千代丈であつた。三千代以外には、父も兄も社会も人間も悉く敵であつた。彼等は赫々たる炎火の裡に、二人を包んで焼き殺さうとしてゐる。代助は無言の儘、三千代と抱き合つて、此焰の風に早く己れを焼き尽すのを、此上もない本望とした。彼は兄には何の答もしなかつた。重い頭を支へて石の様に動かなかつた。


    さうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと焰の息を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼き尽きる迄電車に乗つて行かうと決心した。



  • 精神的世界に生きるか
    物質的世界に生きるか

    「自由に」生きるってどういうことか

    家族・社会に従う生き方とそうでない生き方
    そういった対比でならわかるけど

    美しいと思うことが一緒とか
    そういう価値を分かち合う相手と共に生きることを選ぶ

    でもそういう相手との生活をするために
    労働をしなければならなくなった時
    その相手は変わらず理解できる相手でいてくれるのか
    それとも肉に生きるようになった時点で大切な相手ではなくなってしまうのか

    「それから」というタイトルの通り

    家が絶対的な力を持っていた時代から個人が浮かび上がってきた時の悩みをヒリヒリ感じさせる

  • 最後の急展開に驚かされた。赤の描写まで引き込まれて行く感じがたまらなかった。ただこれを味わうにはやはり前半の進むようで進まなかったりたまに少し進んだりする場面が確かに必要だと思った。

  •  『三四郎』『それから』『門』と続く夏目漱石前期三部作の二作目。主人公の代助は30歳過ぎて就職も結婚もせず、難しい本を読んで高尚な理屈ばかり並べている“高等遊民”。実家を離れて親の金で暮らしているのに何故か家に使用人がいる。親から何度も見合いを紹介されながら断り続けている。そして実は友人の妻に横恋慕している。要するに、気位ばかり高いニートだ。

     「働いたら負け」という有名なニートの言葉があるが、就職に対する代助の態度もそんな感じだ。初版発行は1909年なので、100年前からそんな人物がいたのかと思うと、日本のニートの歴史は長さに驚かされる。もちろん代助は架空の人物だが、そういう人が全然ありえなかったわけではないのだろう。

     いつまでも結婚せずにいて家族から心配されている点は自分と共通だが、その理由は全然違うし、彼の生き方には共感も羨望も感じない。ただ、かと言って軽蔑する気にもなれないのが不思議なところだ。こういう人が友人にいたら、それなりに面白く付き合えるかもしれない。

  • 主人公・代助が友人の妻を奪う話です。
     
    これだけを書くと社会的な側面だけに着目してしまい、不実な奴で終わってしまいますが、実は様々な側面があり、奥行きが深く清々しい作品だったりします。代助の心の変化が絶妙に描かれていて、読み手まで心臓がバクバクします。退屈な『吾輩は猫である』とは違い、本作は非日常で地に足が着かない心持ちへ誘(いざな)ってくれます。
     
    そして日露戦争が終わってしばらく経った明治末の東京、その雰囲気が良く伝わって来ます。『坂の上の雲』では、明治を「高揚感」と表していますが、本作はあまり明るく描いてません。それにしても、このような現代でも通用するストーリーを目の当たりにすると、やはり人間の本質はそうそう変わらないものだと実感してしまいます。
     
    最後に主人公・長井代助、どこか他人とは思えない程、自分にも共通する部分があります。それとも誰もが少なからず持っている資質なのでしょうか?ともあれ代助に好感を持ってしまったのは確かで、それを非難されても構いません。明治末、彼らはどんな気持ちで大正を迎え、昭和へ進んで行くのでしょうか?昭和に入る頃、代助は今の私と同じくらいの歳になります。同じように新年号を迎える平成末、代助と自分を無理くりダブらせながら楽しみ尽くした一冊でした!

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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