82年生まれ、キム・ジヨン (ちくま文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 韓国で大ヒットとなり映画化もされ、日本でも話題になった小説。書店でも個性的な表紙が印象に残っていて、今さらながら読了しました。
    前に韓国SFを読んだ際、解説がやたらとマイノリティーにフォーカスしてるな…と気になっていたのですが、時期的に韓国で本著が話題になったちょっと後。出版界が全体的に本著の影響を受けていたのかもしれません。
    https://booklog.jp/users/skylark0311/archives/1/4152099860

    小説のスタイルで社会問題にフォーカスし、大きく話題になったという点では、『なんとなく、クリスタル』が(最近読んだばかりというのもあり)頭をよぎります。
    『なんとなく、クリスタル』で、いささか唐突につきつけられた統計データは、本著ではストーリーの端々に差し込まれる形。簡潔で読みやすい文体も含め、より暗澹たる気持ちにさせられます。
    その読みやすさにも寄与しているのが、文章表現の巧みさではないかと。例えば、
    「美化委員は女子、体育委員は男子がやっていた。先生が任命する場合も、自分で希望する場合も、そうだった」
    という文章。社会の根っこまで「男の子はこれ、女の子はこれ」が根付いてしまっている様が描かれ、ランドセルの色じゃないですが、意識せず当たり前になっているだけに軌道修正の難しさを感じさせます。
    私自身も、いち男性の本の読み手として、周囲の女性との接し方をあらためて検証しないといけない…と感じました。ただ、本著の解説にある「女性嫌悪」のような、男女対立に繋がってしまうようでは全く意味が無く、互いを尊重する気持ちを高めながら良い関係性を築くにはどうすべきか、学ぶ・修正することを心掛けていければと思っています。

    個人的に印象に残った本著のフレーズを最後に。
    「真っ暗な空から公平な贈り物のように、規則正しくちらちらと雪は降ってくる。」

  • 怖かった。あまりに怖くて読むのを止められなくなった。
    普段はあまり意識することのなかった「女性として生きることの息苦しさ」、もしかして無意識に、意図的に、気づかないようにしていたのか。家庭で「女の子だから」と言われて育った覚えもないし小さな頃からその辺の男の子より大抵のことは上手にこなせると思って実際そうしてきた、この私でも。
    就活で嫌な思いをしたこともあるし会社で男性社員たちのつくる社会に馴染めず苦労したこともある。結婚で名前を変えることにすごく抵抗があったし今でも嫌だと思っている。でもそれは私個人の性格の問題で、考え方を変えて努力してどうにでもなることだと思ってきた。必死にがんばってきた仕事を休職してすべての時間を育児に使うことをあまりに負担に思うことも、私自身の責任なのだと。
    あぁでも、同じようにどんなに息苦しくてもすべて自分のせいにしてがんばってきた女性がたくさんいるのだ。日本にも、韓国にも、たぶん世界中に。それはもう個人のせいにしなくていい。社会のせいなのだと声をあげていい。

    どこを読んでも息苦しく腹がたってぞっとするけれど、いちばん怖いのは最後の精神科医の独白。社会は変わらないという絶望。

  • 日本もほほ同じような状況のことも多く、どこも女性やお母さん達頑張ってるなと少し励まされたりもした。男性の無自覚、無理解てやっぱりまだまだ多くて読んでいて苦しくなるところ沢山。今読めてよかった。

  • 韓国の社会で「女性」であることに耐えかね、壊れてしまう主人公、キム・ジヨン。

    話題となった本書は韓国で女性がどのような社会的立場に立たされ、その状況を甘受してきたのか、または甘受しているのかをフィクションとノンフィクションの境目で告発した小説といえると思います。女性で生まれたというだけのことでどんなに不利益な状態で生きていかねばならないのかが決定づけられる、というのは、アメリカにおける非白人の社会的立場と通ずるものがあって、この構造はあらゆる被差別と同じなんだろうな、と考えさせられます。
    さて、82年といえば日本ではどうだったのでしょう。共働きで二人の子供がいる典型的な中流だった我が家では、すべての家事を仕事から帰ってきた母が担っていました。父はパチンコに行ってテレビを見てタバコを吸ってぼーっとしていて子育てにはめったに手を出しませんでした。母はほぼワンオペで子育てを仕切ったわけです。父を非難するわけではなく、それが「普通」だったのです。つまり、日本も韓国もそれほど変わらない時代だったのかもしれません。日本の中ではこの傾向は地域差があるようで、僕のパートナー(東海出身)は「女に学問など必要ない」と言われて育ったといいます。さすがに僕が育った地域ではそういう時代がかったセリフは聞きませんでしたし、そんなことを言われる友人もおらず、性別を問わず大学進学が当たり前でした(逆にそのことに疑問も抱かなかったのですが、それはパートナーとて同じだったことでしょう)。
    ともあれ、これは韓国の話だ、韓国は女性の地位が不当に低くてひどい国だ、という印象をうけるかもしれませんが、自分たちの国ではどうだったんだろう・今、どうなんだろう、と我が身を振り返るために重要な問題提起をされたように思いました。現代において女性の地位向上は先進国への必須条件ですが、フェミニズムへの風当たりは決して弱くない我が国、この本を読んで「あの頃のいびつさ」に気づかなければいけないように感じました。そしてワンオペで育て上げてくれた母には改めて感謝です。仕事から帰って手を抜かずに家事をすることがどんなに大変か、今になってよくわかります。

    タイムリーですが、ここはぜひ「逃げ恥」2021年お正月スペシャルと一緒にお楽しみください。これらの問題点の描き方としてはもちろん手かげんされていますが(もちろん娯楽なので)、可燃性のこの話題に果敢にも正面から取り上げるのは、最近のヘタレメディアにはなかなかできないことなので褒めてあげます(何様)。

  • 考えるきっかけを与えてくれる作品だと思う。小さな子どもを育てている頃、夫は出世して社会に認められ、妻は初めての子育てに毎日疲弊している現実を悲しく思ったことがある。キム・ジヨン氏の気持ちに共感できる所が多々ある。結婚、子育て、母、妻として、こうあるべきだと上の世代から押し付けられて苦しむ気持ちもよくわかる。日本にも共通すること多いと思う。

  • 共感できることがたくさんあった。
    女性だからという理由で、 社会的に下に見られてるのが当
    たり前の世界が描かれている。
    男性にも同じことが言えて男性だから背が高くないとおか しい、 稼ぎが良くないと、 など女性だから~とか、男性だ から~という決めつけはほんとに良くないと思う。
    また読みたい。

  • 女性が進むであろう人生を、キム・ジョンの生き方を通して描いているドキュメントのような小説。学生時代、結婚・出産と女性であるがための差別を受けたり自由や尊厳を奪われ、いったい女性である自分はどういう人生観を持って生きてゆけば幸せになれるのか……を強く考えさせられる内容になっていると思う。ただ私個人としては、淡々として意外性も無く、感動的なストーリー展開では無かったのが期待外れでした。出産をすると女性が仕事復帰するタイミングも難しいのは日本も同じで、この本が特別衝撃的な内容だったとは思えなかった。

  • 話題になっていて気になっていた作品。やっと読めた。
    「女性の生きづらさ」に焦点が当てられた作品であることはふんわりと知っていたが、予想以上に内容に心をえぐられたせいで少しずつしか読み進められなかった。
    どこを切り取っても、「SNSで時々見かける大炎上男尊女卑エピ」のような感覚であり、ある意味これに共感できないことは幸せなのかもしれないと思う。
    ただそれは自分がたまたま恵まれた環境に居るだけであり、国を問わず今もキム・ジヨンや彼女と似た境遇の女性はいるはずで、ぜったいにそれを忘れてはいけないのだと思わされた。

    なんとかそういうポジティブな気持ちで読了しようとしたのに、最後の最後で絶望した。
    あまりにも展開が旨すぎて、それゆえにショックも大きかった。

  • 読んでいて辛くなった。女性がその性別を理由に受ける苦しみや理不尽は韓国でも日本でも大差ない。フェミニズム入門書という感じ。

  • ただひたすらに読み進めるのがつらい本だった。私がこの本で語られるキム・ジヨンと同じ女であり、作中の彼女の年代と近しいこともあってか、彼女の生きる世界を読むのがとにかくつらくてきつい。何がきついって、悲しいことに「ああそうだよな、女ってこんなことばかりだよな」とフラッシュバックに近い共感を毎ページ読むたび嫌でも経験するはめになることだ。せめて彼女が友人たちと手を取り合って何かしら報われるとか、未来に光が見えるような終わりだったなら救いがあってよかったかもしれないけれど、それもないのが悲しい。

    自分にあったこと、周りの女性たちにあったこと、親や祖父母にあったこと。出口を求めて真面目に一生懸命やっていたはずなのに、出口なんてはじめからなかったんだと気づくときの絶望感。それは差別だ、不公平だと叫べどまるで言語が通じないかのように分かり合えない怒り。ライフステージを進めるごとに、古い世代の人たちの残した悪しき文化や無意識の差別に触れる機会も増えてくる。そのたび感じるやるせなさを凝縮したような本だった。

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著者プロフィール

チョ・ナムジュ:1978年ソウル生まれ、梨花女子大学社会学科を卒業。放送作家を経て、長編小説「耳をすませば」で文学トンネ小説賞に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』でファンサンボル青年文学賞受賞。『82年生まれ、キム・ジヨン』で第41回今日の作家賞を受賞(2017年8月)。大ベストセラーとなる。2018年『彼女の名前は』、2019年『サハマンション』、2020年『ミカンの味』、2021年『私たちが記したもの』、2022年『ソヨンドン物語』刊行。邦訳は、『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳、ちくま文庫)、『彼女の名前は』『私たちが記したもの』(小山内園子、すんみ訳)、『サハマンション』(斎藤真理子訳)いずれも筑摩書房刊。『ミカンの味』(矢島暁子訳、朝日新聞出版)。『ソヨンドン物語』(古川綾子訳、筑摩書房)が近刊予定。



「2024年 『耳をすませば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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