好きなもの(食)が似ていて、楽しく同じ時間を共有することができる、二人の大人の話。
他人の尊重の仕方や自分の尊厳の守り方は確立されておらず明示されておらず教育も行き届いていないのだ、と気づく一方で、でも少しずつ体系化され言語化され、強い者の特権ではなくただ人のありようを捉えるための方向に進んでいるのだ、と思う。
私にも狡さや弱さや怒りや偏見があって(ない人なんてほぼいない)それを度外視して自分の生き方をこの本が正当化してくれるとか、そういうことでは勿論ないけれど、その人なりの幸福を大切にしている姿に胸が温かくなる、そういう自分がいるのだと思うと、安心する。

2024年3月30日

読書状況 読み終わった [2024年3月30日]
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私は初読の古典作品を俗っぽい読み方で受け取ることが多い。
吃音や醜さをフックに疎外感を感じていた少年が「理解されない」、「受け入れられない」経験を通じて逆説的にそれらをアイデンティティ化する。寺でも罪や過ちを看過されるが、住職の態度は決して許しではなく無視であり、彼は認知──受容──のために他罰を引き出そうと更に身を持ち崩していく。悪を犯して罰を求める屈折を自覚することができず、「金閣寺を燃やす」理由を御託として述べている。
その心の道行は三島の流麗な筆で永遠性を与えられるものの、こし取られた実像は自己中心的で視野狭窄で陰鬱で哀れな青年である、その二つが同時に描かれる。

2024年1月7日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2024年1月7日]

Good girls go to heaven, bad girls go everywhere.

私が、私たちが、この物語の終盤に起きることを涙なしで読める日が来るだろうか。怒りや屈辱を、団結の奇跡を、我が物ではないフィクションとして遠く薄く感じられる日が。

2023年12月2日

読書状況 読み終わった [2023年12月2日]

理解し難さや嫌悪感とともに時が遡る。私は最終章でくらってしまった。
理由なく奪われた愛の回復を求めた先に、全てが詰め込まれた血の人形がある。残されたものはそれしかない。だから愛する。
「家族がいないのに生きていたって仕方ない」世界で、血のために、自分だけを好きでいてくれる人が見つかる。その人しかいない。だから愛する。
灰白色の空の下の青黒い海で、しがみつく人が互いしかいなければ溺れるように求めるだろう。最後まで読んでそう思った。歪で、間違っていて、不道徳であることを筆致が凌駕する瞬間がある。良い読書だった。

2023年11月4日

読書状況 読み終わった [2023年11月4日]

いつもは面白い文章や物語が読みたくて本を手に取るが、これは剣持刀也が何を書くのかを知りたくて買った。Vtuberは半ナマみたいな存在で、在り方は演出でもその人らしさと切り離して見ることは難しい面もあり、剣持刀也をより面白がりたいという、こちらのエンタメとの向き合い方が、剣持刀也を知りたい、という気持ちを伴いやすいと感じる。嘘かもしれない。ただのオタクです。

「「めんどくさい」って「面白い」だから。」というコメントが一番刺さった。剣持さんの活動を好きになって、そのスタンスを見習うことで、楽しむとか味わうとか、経験値や走馬灯とか、そういう生活との向き合い方に幅が出ている身なので。
こうしてあらためて考えると、アイドル(偶像)と教祖って近しいんだな。

エッセイはエッセイとして、場を場で完結させていく姿勢が、剣持さんぽいなと思う。
あと、句点が少なくない?

2023年9月23日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年9月23日]
カテゴリ 小説以外

ありえない夢想が真実であってほしい。その想いが切実なほど、ファンタジーは強固に、唯一無二となる。
ファンタジーとは何か、その一面を極度に突きつける作品。

2023年9月17日

読書状況 観終わった [2023年9月17日]
カテゴリ 小説以外

生きているということを、理科的な軸に絡みつき融合し繁茂する倫理と情動で描く。ページの海原の向こうに世界の広さや深さを感じさせる。そして、船の上には個の脆さがある。得難く読みがいのある漫画作品。

2023年9月17日

読書状況 読み終わった [2023年9月16日]
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ネタバレあり。
読了前に見るのは絶対的非推奨です。













この世界観なら、謎を解き明かすことで更なる死を呼んだ探偵が図らずも地獄に落ちる、みたいな展開かと思ったが……

2023年9月18日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年9月18日]
カテゴリ ミステリ

キム・ジヨン氏の独白は冷静で真っ当で、その正しさが認められず受け止められず流されていく様が、これが現実だと肌身で分かることが哀しい。様々な違和感や苛立ちには理由があり、本書が出ることで、その拒否感に名前がついた。存在の輪郭が浮かび上がった。

2023年6月17日

読書状況 読み終わった [2023年6月17日]

患者に薬を飲ませるシーンで泣き、「もっと救えた」と自責に駆られるシーンで号泣した。

主にモノクロ調だが30年程前の映画。有名な黒澤監督オマージュの少女が彷徨うシーンは知っていたが、再登場のシーンは驚いた。彼女が──リストに載らなかった人々が、映画の表紙として観終わった我々に訴えるものは何か。

ただ傑作。

2023年5月21日

ネタバレ
読書状況 観終わった [2023年5月21日]

傷をアイデンティティとし、苦しみの只中にいることで社会における自己の輪郭を保つ者。空想に溺れて孤立を深める者。誰かを傷つけなければ傷つかないと信じ、他人と距離を置いてきた者。ただ愚かで弱く卑怯な者。

奴隷制度とワンドロップルール、白人至上主義が横行する南部での正義と苦難が、多くの登場人物の来た道の語りによって描かれる。クリスマスは憤怒や絶望、阻害から抜け出ることができない。リーナとバイロンの危うい離脱だけが、ささやかな、先の見えない希望であり、読了とともに苦しみを通り越すようで、忘れてはいけない記憶を抱えながらも、澄んだ気持ちで本を閉じる。

2023年7月16日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年7月15日]
カテゴリ ヒューマン
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本当に面白かった。無駄のない的確な言葉遣いで人々の独りよがりな思考が浮き彫りにされて、私はその人を見下したり嫌悪したり、同情したり親しみを感じたりする。見方は場面によって変わる。誰かに好意を抱き続けたり、厭い続けることはない(オヴロンスキーのキャラクターは割と終始一貫していると思う)。

人の本心だけは望むようには得られないのだということが腑に落ちる。作為で手に入れた権利や環境は愛ではないと思う一方、アンナが欲する純粋な愛とは理念であり、決して手に入らないものなのだとも思う。地上の愛は堕落や妥協、臆病さや諦観と溶け合っている。
愛の減退に直面してからアンナの最期に到達するまで焦燥や絶望は加速する。この盛り上がり方(とその後の静けさ)!音楽を聴いているみたいだし、バレエに似合いそうと思った。

「アンナ・カレーニナ」という題で、確かに作品中屈指の苛烈な生命力と魅力で読者を惹きつける、その引力の中心にアンナはいるが、であればこそ彼女の退場シーンで終わってもおかしくないのに、生活は終わらず、生きることへの讃歌と希望で締め括られるのも興味深い。

アンナは感情、リョーヴィンは生死あるいは真理の面である種の到達を見て、そのどちらも普遍性があることが、この物語の凄みだと思う。
凄すぎて言うことが思いつかない。ただ名作。

印象的だったシーンは以下の通り。
・列車でのアンナとヴロンスキーの出逢いと再会
・カレーニンの許し
・リョーヴィンの草刈り
・キティの出産
・アンナの最期

2023年2月5日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2023年2月4日]
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語弊がある書き方だろうけれど、この作品は普通の感性を描いている、と思っていて。繊細な機微やナイーブさではなく、これが「普通」なのだ。
他者との関わり方は人によりけりという事実が、こういう読みやすい作品によって、多くの人の納得にリーチするということは、この漫画の面白さにプラスワンされる美点だと思う。

2022年11月28日

読書状況 読み終わった [2022年11月28日]
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胸がいっぱいになる、真っ直ぐで素敵なファンタジー。
4巻(5冊)は長いが、その長さと時間が必要な物語なので、最後まで読み通してほしい。
リーヴは純朴で心優しく、大切な人を深く慈しむ。彼女をはじめ、登場人物は一途な人間性とともに一日一日を生き抜いていく。
「ユリディケ」を未読なので、読むのが楽しみなような怖いような気がする。

2022年11月22日

読書状況 読み終わった [2022年11月22日]
カテゴリ ファンタジィ

原作を読んだ上で観ないとあんまりかもしれない。原作を知っていれば、ストーリーの省略を自分で補完できるため、映像良し俳優良しで楽しめるだろう。ベネ・ゲセリットである母と当主の父の間の緊張と葛藤や、ユエ、ハワト、リエトといった人物の立ち位置など、個々の登場人物の掘り下げを省いて壮大な伝記を追うことが軸になっており、よくまとまっているが、原作の面白さを知っている人向けの映画になっていると思う。

2022年10月24日

読書状況 観終わった [2022年10月24日]
カテゴリ SF

ファンタジーの骨格に、非常に現代的な、というか現実的な問題を被せてくるシリーズだなと思う。魔法にわくわくしたり、初めて見る世界や情景に浸ったり、ストーリーが深刻でも幻想世界はどこか浮世離れしながら没入するものだと思っているが、この作品は問われるもの、あるいはその問い方が卑近で、半分現実を見ているような気分で読み進めている。それが最初は居心地が悪くもあるのだが、中盤あたりから一気に読み進めてしまう。私にとってはちょっと不思議な感覚の作品。

2022年10月26日

読書状況 読み終わった [2022年10月26日]
カテゴリ ファンタジィ

SFと原始的文化や生活という取り合わせはあまり触れたことがない。船の中、ジャングル、狭いコミュニティ等のモチーフが畳み掛ける逼塞感が抑圧された心理と絡み、息詰まるストーリーである。

2022年11月22日

読書状況 読み終わった [2022年10月27日]
カテゴリ SF

定期的に観たくなる傑作。名シーンが多い。私はPart Iが一番好きです。

2022年9月25日

読書状況 観終わった [2022年9月24日]

こだわりが強く、社会に溶け込む振りができない人の内面の精緻さや奥深さが描かれる。そこもまたひとつの世界であり、私たちは内と外を行き来しながら自分を生きていく。
その世界は、ある作家の文章を愛する女のように、外側との齟齬がどれだけ鮮明になろうと、悲喜劇的なほどに強固だ。あるいは吃音の少年のように、失ったとしても、在った事実が残っている。
そして最後に表題作が収録されていることで救われる。私たちは小母さんで、この体はきっと、広く静かな森の一部なのだ。
そう信じれば潤うほど、その森は美しい。

2022年9月17日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2022年9月17日]

凄い(惨い)映画だった。物理的にも精神的にも凄惨で、なぜこれを深夜に観たのか……。
「備えよ常に」と教え込まれ、家族を守護する強い父親というステロタイプが、地下室に物々しい備品を備え、自分の身は自分で守るとして武器を持つ白人像に繋がる。不穏。
作中での事件を契機に起きることは嫌悪感を誘い、容認しようがないのだが、ではこの蛮行が行われなかった場合に同じ結末に至っていたかというと、ならなかったかもしれない。ラストシーンは素晴らしく、罪を犯した者が悔い改めることで救い出される可能性を示唆している。
先を読ませない脚本に男優達の怪演が光る、観て損のない映画(キツいけど)。そして、耐えに耐えながら追い込まれていくジェイク・ジレンホールのセクシーさにも圧倒された。髪型とタトゥーが最高…

2022年9月11日

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読書状況 観終わった [2022年9月11日]
カテゴリ サスペンス

面白かったー。1500頁とは思えない。続編もぜひ読みたい。

2022年9月19日

読書状況 読み終わった [2022年9月19日]

主演のチャスティンの演技がすごくて引き込まれる(主人公だけが明確に浮き出ている作りなので、主演が目立つのは当然ともいえる)。主人公の動機付けに感情的な背景がないことで、その信念が際立つところが良い。一方で、なぜそのようなスタンスなのか、という背景は想像できる余地が残されている。彼女のスタンスとぶつかる役割との対比も良い。脚本が素晴らしい。
ただ、盗聴のギミックや、報酬的に諸々の経費はどこから?(まあこれは寄附からなのかな)みたいなディテールの現実感のなさが気になりはする。
とはいえ、展開はかなり面白い。もう一度観たい

2022年8月14日

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読書状況 観終わった [2022年8月13日]

入り組んだ話。面白かったー。終わり方も、音楽が最高。

2022年7月23日

読書状況 観終わった [2022年7月23日]
カテゴリ サスペンス

著者が詩人、と聞くとなるほど…となる、霊感に満ちた作品。何の話をしているんだっけ?となりがちだが、話の筋は分かるので初読はあまり気にしないほうがいいかもしれない。
何でこの邦題なんだろうな。手に取る人が想像する内容とはギャップがあると思う。

生という名の物語を紐解くことで、永遠に去った者を愛することになる青年の話。死者は既に終わっている故に語られることで成就するが、生きている彼が抱く愛に結末はなく、逍遙と語りは続いていく。

2022年11月6日

読書状況 読み終わった [2022年11月5日]
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